ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

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第7章  勝算が足んない

勝算が足んない 5

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「この屋敷にはコイツらを含めて、現在二十一名のメイドがいる」

 ミルクティーを飲み干した咲柚さんは、宇宙服姿の三人に目をやった。

「なかなか貴重な人材でな。私にしてみればコイツらは宝同然だ。リップアーマーのエッセンシャル・オイルともなると、誰のニオイでもいいというワケではない。……その辺りはオマエにもよくわかってるだろう?」

 僕は頷く。
 彼女達――人を愛せない処女のニオイはハーフ・インキュバスである僕にとって、目の前の鮒寿司に匹敵するくらいイヤなニオイだ。種類としては全然別モノだけど。

「最初にその作業に就いた者は今年で三十路になるかな。今も優秀なメイド頭として我が家に仕えてくれている。一番年下がそこにいる猫助と熊パンダ人間だな。拓海、オマエと同じだ」

 そりゃ、望海ちゃんは僕と同じクラスだったもんね。
 ……猫助、オマエもか。

「二十一名いるメイドのうち、現在リップアーマーを作れる者はそこの三人だけだ。理由はわかるか?」
「ニオイを発せなくなったって聞いたけど……その……ノーマルに……」

 僕はゴニョゴニョと言葉を濁す。
 一昨日、その先を花子さんに訊いたら、ものすごく不快な顔をされてしまったんだ。

「そこまで知ってるのか。つまり、そういうことだ」
「あ、ごめん。そういうことじゃわかんないんだけど?」
「詳細は……ああ、さすがに花子もそこまでは話せんか。じゃあ、私が教えてやろう。早い話、私の大事な十八人のメイド達はレイプ同然に処女を奪われたんだ。ハーフ・インキュバスというゴミにな」


 ゴミだ。
 
 ハーフ・インキュバスは……。

 そしてこの僕もまたハーフ・インキュバスだ。


 でも、おかしい。

「咲柚さん、ちょっと腑に落ちないんだけど?」
「言ってみろ」
「僕は花子さん達のニオイが苦手だ。それに実際、あの世界に住んでるヘンリーさんというハーフ・インキュバスも、かなりの女好きなのに花子さんには近寄れなかった。そのハーフ・インキュバスがどうやってニオイを放つ女の人にそういうことができるの?」
「そんなの簡単だろうが。”人を愛せない処女”を”人を愛せる処女”にすればいい。そうすればニオイはなくなる」
「どうやってさ?」

 咲柚さんは呆れて言う。

「オマエは恋をしたことがないのか?」
「ないよ」

 僕の即答に、

「……ない?」

 咲柚さんは目を丸くして「マジで? 一度も?」と訊いてきた。

「ないよ。あるワケないじゃん。ずっとぼっちだったし、中学は男子校だし」
「驚いたな。それでいてよくオナニーばかりできるもんだな」
「それとこれとは別だよ!」
「ネタは何だ? やっぱり鮮度が命なのか?」
「寿司みたいに言わないでよ! いいだろ、そんなことどうでも!」
「いや、本気で心配してるんだ。まさか、自分の息子が今まで一度も恋をしたことがないとは思わなかった」
 
 全くないってワケでもないけどさ……。

 小学一年生の時、望海ちゃんをこっそり盗み見してた。
 あれは初恋って呼べるのかな。

 僕の中ではそれすらカウントされてないけど。

 僕に恋の経験がないと知った咲柚さんは、相当ショックを受けていた。

「……オマエ、ピュアラブ以前の問題だぞ。オマエこそ人を愛せない童貞じゃないか」
「僕にはいつでもその気があるよ。ただ、そういう環境にいなかっただけだ。現に目の前のメイドさんもおかしな服で完全武装させてるじゃん。声だってヘンな機械でオッサンに変換してるし」
「そうか……私が悪いんだな。拓海を真のティッシュマスターとして育てたいあまり、レイプ防止のためメイドにああいう格好をさせたんだが……思わぬ形で裏目に出てしまったな」

 ガックリ項垂れてる。
 こんな元気のない咲柚さんを見たのは生まれて初めてだ。
 まるで僕がダメな子みたいで、こっちまで元気がなくなってくる。

「もういいよ。悩みだらけの僕だけど、その分野では少しも悩んでないんだから。それより、咲柚さんが殺したっていうハーフ・インキュバスの話をしてよ」
「……ああ、そうだったな」

 魔力が弱ってるせいか、少し老けて見える。
 ほつれ毛とかこれまでの咲柚さんにはあり得ないんだけど。

「要するにハーフ・インキュバスの毒牙にかかって、私のメイドはニオイを発さなくなった。だが、それは仕方ない。恋愛は自由だ。二次元のキャラクターを愛するのも、ゴミ同然のハーフ・インキュバスを愛するのも、その者の持つ当然至極の権利だ。私がとやかく言うものではない」
「じゃあ、どうして殺したのさ?」
「決まってる。そのゴミはガードの固い人間の女と寝てみたかったのさ。それだけだ」

 さすがだ。
 それでこそ半悪魔……最低だ。

「私が問い詰めたら結婚する気など更々ないと抜かしやがった。返答次第じゃ祝福してやったものを……これまで十八人、どいつもこいつも同じ答えしか返さない。私は宝を失った。のみならず、哀しむメイド達を慰めることもできない。だから殺した。そして、私はヤツらの情婦どもに恨まれてる。……以上だ」
「その人達――ハーフ・サキュバスで結成されたのがレイチェフ暗殺隊?」
「いや、単純にリップアーマー作ってるってだけで私を恨んでるヤツもいるだろ。その中にはオス……つまり、ハーフ・インキュバスもいたし。民芸品の店主とかな」
「その民芸品の店主は結局、誰が殺したのかな?」
「そこまでは知らない。ただ、私を恐れてそこの熊パンダ人間を犯人に仕立てたのは、ヤツらもちょっとだけ進歩したようだ。私のようなチートを敵に回したところで、いたずらに亡骸が増えるだけだからな」

 目の前の鮒寿司がツーンと臭う。
 一度包みを開けてしまったら、それがここからなくならない以上はいつまでも臭う。


 どうかな……?


 仮に僕が首尾よく統治の王冠クラウンを手に入れたところで、元を断たなければ低級魔界には何の解決もやってこない。

 その元って……咲柚さん?


 いや、違う。


 もっと根本的な問題がある。
 咲柚さんもそれを知ってるからこそ、人間界と低級魔界の統一を自分でやらずに僕に任せようとしてるんだ。


 咲柚さんがパンと手を打つ。

「種の話をしよう」

 ほら、やっぱり。
 
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