踊り子の夜

佐倉 蘭

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Fondu

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   部屋の前にはすでに黒服がいて、ガラスの扉を開けてわたしの到着を待っていた。

   ここの扉はすべて中が奥まで透けて見えるガラス張りである。
   お店側は「防犯および衛生面上」とうたってはいるが。

   「二階席」に位置する上階の部屋は、下階のダンスフロア(吹き抜けになっているから見下ろせるのだ)に面した壁一面もまた巨大なガラス張りの窓になっていた。
    そして、その透け透けの窓に沿って見物席ソファがずらりと外へ向けて並べられている。

   そのソファの中央には、こちらもシャワーを浴びたあとなのか、バスローブを着た男性がいた。わたしを指名した「お相手」であろう。

   週末の夜、しかもこんなところであっても仕事をしているのか、膝の上に乗せたMacB◯◯k Proラップトップを忙しなく操作していた。

「……お待たせしました」

   わたしがガラスの扉から部屋の中へ入っていくと、後ろで黒服が静かに扉を閉める音がした。


   その部屋は、まるで高級ホテルのジュニアスイートのような造りだった。

   ソファが連なる窓際のリビングスペースにはバーカウンターが併設され、奥のベッドスペースには天蓋付きのキングサイズのベッドが一台置かれていた。
   さらに奥にあるドアの向こうには、バスルームがあるのだろう。

   「プラチナ」のお客様をおもてなしするための超VIP仕様であるのが一目で見てとれる。間違いなく、このお店の中で一番広くて豪華な部屋だ。

   下階のダンスフロアの周りにも、踊り疲れた赤や青の男女が欲望のままにしけ込む「プレイルーム」が並んでいるが、町のカラオケボックスのような狭いスペースにコの字型のソファとテーブルがあるだけだ。
   もちろん扉がガラス張りなのは言うまでもない。


   ラップトップをパタンと閉じて脇に置いた男性が、顔を上げてわたしを見た。

「ようこそ」

——えっ、う、ウソっ‼︎ 最上位の「プラチナ」のお客様なのに、こんなに若いのっ⁉︎


   目の前の「お相手」は、二十八歳であるわたしよりは歳上だとは思うけれども、それでも三〇代前半だろう。

   このお店のメンバーシップの入会費および年会費は最下位の赤でもかなりの高額だ。
   そもそも入会資格の時点で入念に身辺調査されるため、メンバーになること自体かなりハードルが高いというのに。

   あくまてもウワサではあるが、このお店のセキュリティがうるさい理由の一つに、政財界の「ヒミツの接待」や「ハニートラップハニトラ」などに利用されているから、というものがある。

   この若さで、この人はいったいどれほどの規模の組織の幹部なんだろう?
   考えると怖ろしくなるばかりだから、思考はストップだ。

   それにしても「計算」がすっかり狂ってしまった。どうしよう……

——しかも、イケメンだし。

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