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それからの日々
③
しおりを挟む『……智史くん、食べ盛りやねんから、晩ごはんをコンビニのおにぎりやパンなんかで済ませたらあかんねんよ?』
食べ終わったあと、みどりがやさしく諭すと、彼は目を伏せた。
『なぁ……おかあさん』
娘が母親を見上げて言った。
『さとくんに、うちで晩ごはん食べてもらったらええんとちゃうんかなぁ?』
『あかん、ややちゃんっ。そんなん、できへんっ』
彼があわてて制する。
『さとくん、遠慮せんでええよ?……うちかって、おとうさんが仕事が忙しくて帰りが遅いから、晩ごはんはいっつもおかあさんと二人っきりで食べとうねん』
みどりは、それを聞いて虚ろに微笑んだ。
娘には「仕事」だと言っているが、実際には違った。
彼女の父親は「恋人」の家に入り浸っていて「忙しい」のだ。
折に触れて何度もかかる無言電話が、そのことを告げていた。結婚して以来、相手は変われど断続的に続いてきたことだ。
『智史くん、おばちゃんのつくる料理でよかったら……食べにおいで』
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「——智史くん、今になってなんで……」
洋史も、息子とは別れて以来、会ってなかったはずだ。
「さぁ……なんでやろな。あいつも仕事の合間にかけてきたみたいで、詳しいことは会ったときにって言うて、とりあえず予定だけ合わせたら、さっさと切りよったから」
そう言って、マグカップのカフェオレを一口含む。
「……いつの間にか、えらい低い声になっててな」
洋史が目尻のシワを深くさせて、苦笑する。
「もう、三十五になるねんから、あたりまえやねんけど……結婚して、子どももおるかもしれへんな」
その歳の頃には、みとりも洋史にも、すでにそれぞれの子どもが生まれていた。
あれから、ずいぶん年月が流れた。今会っても、子どもの頃の面影はほとんどないに違いない。
なのに、みどりは思うのだ。
——智史くん、ちゃんと晩ごはん、食べてんのかなぁ……
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