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Chapter 10

心機 ④

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「あの『鉄仮面』青山リーダーが、美しくてスタイルのよい新妻にベタ惚れですよぉっ!小学生の頃に出会って、最近『運命の再会』を果たして結婚に至ったそうですっ!」

   その日の昼休憩のひととき、社員食堂社食にいた人たちの目が、一斉に、小林に集まる。

結婚指輪マリッジリングは、小林がググったところによると、ティ◯ァニーのハーモニーでしたっ!すっごくかわいいリングなんですけど、男性にはすこぶる似合わないデザインですっ!男性がこれを選ぶのはすっごく『勇気』が要りますっ!……でも、青山さんにはすっごく似合ってましたけどっ!今まで我が(株)ステーショナリーネット愛妻家ランキング(但し、殿堂入りした社長を除く)で、第一位をほしいままにしていた魚住課長、大ピンチですっ!!」

   一気にまくし立てたあと、小林はすぅーっと息を継いだ。

   静寂が訪れた。

   小林はわざと声を潜めて、おごそかに告げる。

「それから……なんと、あの青山さんが、うちでは奥さんに『デレる』そうですよ」

   次の瞬間、「うおおぉーーっ」という地響きのような歓声があがった。

「この小林、本日入社された奥さまから、しかと聞きましたっ!!」

   小林は胸を張った。このときばかりは、Aカップなのはラララ星の彼方だ。
   大向こうから「でかした、小林っ!よっ、人事のかがみっ!」と声が飛ぶ。

   小林はその日の昼、社食で光り輝く大スターとなった。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「あ……あのう……もしかして……『あそう やや』さん?」

   心なしか、震える声で尋ねられる。山口だった。

——あれ? この人、なんであたしの名前を知ってるの?

   不可解に思いながらも「新入社員」なので、丁寧にお辞儀する。

「はい、本日から嘱託社員として働くことになった麻生 稍と申します。よろしくお願いします」

「う……運命、じゃん……向こうから来てくれるなんて……」

   山口は感激のあまり、今度は確実に震えていた。

「あ、麻生さん……いや、稍さん」

   そう言って、いきなり山口は稍の手を取った。

——こ、これって、セクハラじゃないの?

   そんなことを稍に思われてるとはつゆ知らず、山口はその手を引き寄せた。

「あのっ、おれ、山口 悠斗っていいます。MD課の青山チームで営業を担当してる者です」

——知ってるし。この人、あたしが「八木 こずえ」だったこと、まったく気づいてないなぁ。

「稍さん、今夜、あなたの歓迎会をしたいんだけど……もちろん、二人っきりで。きみにおれのことを、しっかりと知ってもらいたいんだ」

——はぁっ⁉︎ こっ、この人、初対面の人にこんなことするのっ⁉︎


   するとそのとき、MD課の奥にあるミーティングルームのドアが開いて、青山が出てきた。

「……おい、山口」

   北極と南極を掛け算したかのような極寒な目で、青山は山口をぐっ、と睨んだ。


「おれの嫁に、なにをしている?」

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