つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい

文字の大きさ
18 / 28

龍たちの会合

しおりを挟む
 自分の角がルイの影響を受けた父ユンロンからさらに伝わったものかもしれないと思うと、フェイはなんだかよりルイとのつながりを強く感じるような気がした。事実としてフェイは父ユンロンとその妻の子であるが、それではまるでユンロンとルイの子みたいだと思ったが、それは言わなかった。

 いちばんに哀れなのはやはりフェイの母だった。自分がつのつきの子を産んでしまったことで、つよく負い目を感じて自分を呪ったこともあっただろう。そもそも母に落ち度など何一つない話なのだが、きっかけが己の知らぬところで結ばれた夫と龍の絆であったならば、それは母にはどうしようもなく関係のないことだ。母はそれで心を病み、心の病は体をも蝕んでいった。

 フェイは母のことを思えば、いまだ胸がずきずきと痛む。愛してくれなかった母であっても、フェイは愛していた。うまくフェイロンのことを愛することができなかった彼女が、それでも愛そうともがいていたことも知っている。


「龍のことを知ったついでに、フェイも明日の会合に行ってみるかい」
「龍が集まるという西の向こうですか?」
「ああ。ちょうど明日に予定されている。私が飛べばすぐだよ」
「私は歓迎されるでしょうか」
「されるとも。むしろはやく嫁を連れてこいとせっつかれている」
「ふふ。会いたがってくださっているのですね」
「そうだ。それに何かあれば私が守るから大丈夫だよ。私もあの場ではそろそろ古株だ、私のものに手を出す者は居ない」
「信頼しています」


 そうしてふたりは連れ立って、龍の会合に出向くことになった。

 翌日昼前に、会合へと向かった。ルイの背にフェイを乗せ、西の山をふたつ超えた先の広い丘に出る。そこには既に何頭かの龍が集まっていた。
 ルイ以外の龍を見たのは初めてだった。龍の会合など言葉で聞いただけでは信じ難かったが、こうして目の前にすると壮観だなとフェイは思った。

「おやおや、その子がルイの嫁さんか」
「なに、よく見せろ。なんだ、ずいぶん細っこいな」
「なんと、かわいらしい娘っ子じゃないか。ルイを夫にするなんてどんな物好きかと思えば」

 龍に囲まれたフェイはついおろおろとしてしまう。そこで先に人の姿をとっていたルイが袖でフェイの目を隠す。

「おい、フェイが怖がるだろう。そうわらわらと囲むんじゃあないよ。我らはただでさえ図体がでかくておそろしいのだから、さっさと人の姿におなりなさい」
「それもそうだな」
「むう、人に化けるのは苦手だが、こわがらせるのはよくないな」

 ルイがそう言うと、口々にそれに従う声がする。龍の姿だとどうしても少し強面のように見えてしまうけれど、確かにルイの言っていた通り皆人間に興味津々で、素直にルイの言葉を受け入れる様子はなんだかかわいらしいとフェイは思った。

「すまないねフェイ、驚いただろう。ほら、もう目を開けてもいいよ」
「ありがとうございます、ルイ」

 目を開くとそこに居た全員が人の姿をとっていた。変化には得意不得意があると聞いていたけれど、まだほとんど龍の姿を残したままに人型をとっている者や、もうすっかり人にしか見えないような者も居た。

「ルイの妻、フェイと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 フェイがしずしずと頭を下げ挨拶をすると、龍たちはほうほうとその姿を観察している。

「礼儀正しい子だ。よく見りゃ男じゃないか」
「龍と婚姻するのに、性別などどちらでもよかろう」
「そりゃそうだ。それにそこらの女よりもしとやかで美しい」
「ああ、人の子と話すのなんてずいぶん久しぶりだ。緊張するなあ」

 性格も様々なようだけれど、誰も彼もおしゃべりだった。皆どこか神々しく近寄りがたい雰囲気があるのに、各々が好きなようにぺちゃくちゃとおしゃべりする様はかわいらしい妖精たちとあまり変わりがなく、フェイはそれがおかしくてくすくすと笑った。

「いくら美しくてかわいらしくて羨ましくても私の妻だ。手を出したら承知しないよ」
「誰が出すか。ルイを怒らせたらうちの山ごとなくなっちまうよ」
「本当に溺愛しているのだなあ。会うたびに妻の自慢をしてのろけるのだから、いったいどんな子かと気になっていたんだ」
「の、のろけ?」
「そうだよフェイ。あんたの夫ときたら、このところずっとあんたの話ばかりする。よっぽどあんたのことがかわいいんだね」
「そうとも。うちの妻は世界で一番かわいいのだ」
「はいはい、それはもう何度も聞いたよ」
「しかしそう言いたくなるのもわかる気がするよ。ルイにはもったいないくらいの愛らしい子だ」

 ルイはフェイのいないところで龍たちにいつもフェイの話をしていた。そんなことは露とも知らなかったフェイは恥ずかしくなりほんのりと頬を染める。

「あの、先日は私が体調を崩した際に皆さまが食べるものをわけてくださったり知恵をいただいたとお聞きしました。その節は本当にありがとうございました。おかげで回復いたしました」
「ああ、そんなこともあったねえ。元気になったならなによりだ」
「我々の趣味が役に立つことなどあるものだな。いやあのときのルイの慌てようといったらなかった」
「ほんとうに!あれは見ものだったな」
「おい笑うのじゃないよ。こんなにも小さくてか細い命が弱っていたら、誰であれ心配になるだろう」

 あの時のルイは冷静そうに見えてかなり慌てていたらしい。龍たちのおしゃべりで、フェイの普段知らないルイの姿がどんどんと暴かれていく。

「あのときのお礼に、国から贈られてきた豆を炊いたものをお持ちしました。みなさまがこういうものがお好きだとルイが」

 フェイがそう言って包みをひらくと、屋敷を出る前に用意していた炊き立ての豆がまだほかほかと湯気を立てていた。
 弟のジンユェが来てから、谷の祠にはこれまでよりも高い頻度で献上物が供えられていた。この豆は弟から贈られたものだ。たくさんの量があったし、フェイがあまり食べずともよくなった事情からも、普段ルイがお世話になっている方々に差し入れましょうということになったのだった。

「おお、いいかおりだ。食ってもいいのか?」
「ええ、もちろん。あたたかいうちに」
「おいしそうだね。立派な豆だ」
「酒だ、酒も用意しようじゃないか。誰か持ってきたか?」
「この前うちの村から贈られた酒があるよ。味見したがなかなかだった」
「いいぞ、いいぞ。今日も皆で楽しくやろう」

 龍たちはにこにこと嬉しそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

処理中です...