浮気した彼の行方

たたた、たん。

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浮気された彼の行く末-1-

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「……ずっと好きだった。諦めたいから振って欲しい」

 彰にこう告白された時、僕はやっと彼が僕を見ると苦しそうにしていた理由が分かった。
 彰は僕が通っていた中学からこの高校に合格した数少ない同郷であり、たまに話をするような知人でしかない。穏やかで明るい彰は友人も沢山いて、学校生活を順風満帆に送っている……はずなのに、時々僕が見る彰の姿はいつだって苦しそうだった。不思議だとは思っても、究明する程の興味はない。僕はなんとなく違和感を感じながらも、いつも通り過ごすだけだった。

 彰と偶然でなく目が合うと分かった時はいつだったか。

「もしかして、中学生の時から僕のこと好きだったの?」

「……うん。中ニから」

 あたりをつけて聞けば彰はあっけなく白状して、それは目が合うと自覚した少し前だから本当なのだろう。
 彰の顔はそこそこ整っているし、背も低くない。言動もあからさまにゲイのイメージはなかった。寧ろ、女の子と付き合っていた記憶もあるし、にかっと笑う少年ぽさは女子に受けていたはずだ。目の前で哀れに震える彰にいつもの面影はない。

「ふーん。じゃあ、付き合ってみようよ」



 僕にとって人と付き合うことは暇つぶしでしかない。生まれてこの方、僕はなんの苦労もしたことがない。整った容姿に優れた頭脳を持ち、両親は不仲だったが裕福で子供が欲しそうなものはなんでも与えられた。欲しくもない玩具を貰って退屈を消費するだけの日々。相手に好印象を与える態度を貼り付けて、僕は誰が見ても凄く良い子だ。
 別にいつ死んだって構わないと本気で思い、でも痛いことは嫌だなぁと死ななかった。つまらなくて、暇で、何かを欲しいと思ったことさえ一度もない。
 僕は人間の中で自分が異質な自覚があったし、きっと自分から死なない限り一生つまらない生活を送るんだろうと漠然と思っていた。

 そんな僕に、ひとつ欲しいものが出来たことがある。
 あの時の感動と言ったら、言葉に表現出来るようなものではない。欲しくて欲しくて堪らない。地団駄を踏んで、泣き喚きたくなるような。ああ、これが欲望。

 でも、そんなことをしても手に入れられないことは知っていた。だから僕はそれを手に入れられるように、仮面を貼り付けたんだ。

「はるにい!」

 初めて里穂と出会った時のことを覚えている。愛を渇望した、強い欲望の光る瞳。愛というどうでもいいものに死ぬほど飢る姿は滑稽で惨めだったけど、愛を求める人間の本能を美しく感じた。僕にはない孤独と欲望が混ざった複雑で、でも真っ直ぐで純粋な本能。僕が初めて欲しいと思った、その本能を映す瞳。

 愛に飢えたこの瞳が欲しい。
 そして、この宝石の先に僕がいて欲しい。
 里穂はそのための道具だ。

 僕を愛させる。そのために何をすればいいのか。それを考え、速やかに事細かに実行した。誰にも愛されない孤独な少女はすぐに僕の虜になって、その瞳に僕を映す。
 これだ。これが欲しかった。この濁ったレンズを僕は欲しかった。僕は里穂の全てを肯定し、赦した。そうすれば、ずっとこれが僕のものになると思ったから。でも、いつしかその瞳は俗世的な平凡なもの石ころに変わっていた。

 僕の中の熱が下がっていくのを感じる。里穂の価値がその他大勢と同じになって、ただ日々をやり過ごすだけのどうでもいい存在に成り下がった時、僕はなんの感情も覚えなかった。残念とも、悔しいとも、悲しいとも思わず、ただ退屈な日々に戻った。それだけ。僕を熱狂させたものは最初からいなかったかのように消え去った。

 何かまた僕を激らせてくれるものはないか。
 いや、ないか。そんなものそう易々と転がっているはずがない。現代に里穂と同じように可哀想な子はあまりいない。

 退屈な日々を凌ぐために付き合った彰は今までの相手と違い、僕に何も求めなかった。遠くから僕を見ることはあっても、近付くと決まって申し訳なさそうに顔を背ける。そのくせ、離れると少したじろいで、彰は男同士の恋愛を後ろめたいと思っているようだった。それなら、告白なんてしなきゃいいのに。まあ、その内自然消滅するかと放置しても、朝と夜のメールの挨拶は欠かさず寄越すのだ。

「妹に呼ばれたから」

 結局彰は週に一度、一緒に帰るだけの関係に収まった。それも、僕がこう言って断ればすんなり受け入れる。本当は里穂なんかに呼ばれていない。セフレの女の子と寝るために、ラブホに向かうのだ。
 後ろから彰の視線を感じていたけど、別にどうだっていい。気にして欲しいなら、態度で示せ。あの瞳のように訴えることはできないだろうけど、身体で言葉で訴えることくらい出来るだろうに。


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