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アルスフォード編

第五十五話 ポルカと覚悟

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ガディとエルルが出ていった後、ポルカは残されたその場の者に口を開いた。

「……お前さん達は、どこまで知っておるのかい? あの子のことを」
「あの子……?」
「ティファンじゃよ」
「!」

アレクが大きく目を見開く。
ティファン。アレクの前に立ちはだかる、かつての兄の魂を持った彼。

「ちょっと会ったくらいで、全然知らないです」
「どんな印象だった?」
「……凄く、悲しそうで、嬉しそうだった」

ティファンがこちらを見つめる瞳は、あまりにも慈愛に満ちていた。
ガディとエルル、己の兄と姉がこの場にいれば絶対に言えないことを、アレクは口にする。

「本当に……お兄ちゃんみたいだなって、思いました。僕のことが大切だって、言ってくれている気がする」

その結論に、アレクは喜びと不安を抱く。
そんな感情を向けてくれる彼に、アレクは逆らおうとしているのだから。
そんなアレクを見て、ポルカは笑った。

「あの子は優しい子じゃ。うぅんと前から知っておる」
「え?」

ここで、話を聞いていたラフテルがアレクに言う。

「ポルカはな、俺の持つ名剣『ネヌファ』を、俺の先祖であるガーベラ、それとエルミアで協力して作った張本人なんだ」
「……ええーっ!?」

驚くアレクの横で、アリスがポツリと一言呟く。

「ドワーフの寿命は五百年……この世界に存在する一族の中でも、凄い長生きなんだよ」
「し、知らなかった……」
「ほっほっ。人間の子供なぞ、アチキにとってはいつまでも若造。マア……お前さん達天族は別だがの」

ポルカはラフテルから名剣『ネヌファ』を受け取り、我が子の頭を撫でるような手つきで触れた。

「お前さんの魂の母は偉大な娘であった。同時に、折れてしまう弱さを持ちながら、運命に振り回された可哀想な娘でもあった」
「……全部、知ってるんですか」
「知ってるとも。ドワーフ一族は、噂好きの妖精と仲が良い」

名剣『ネヌファ』をラフテルに返すと、ポルカはその剣について語り出す。

「『ネヌファ』はの、もともとラフテルの兄であるレオが使っていたものなんじゃ。レオが亡くなってから、ラフテルが継承した。『ネヌファ』は、風を操る科学と魔法の力を込めた一振り。あの二人がいない以上、これ以上の傑作は作れなんだと思っていたのじゃが……お前さんが現れた」

ポルカはアレクを通して、かつてのエルミアを思い出しているようであった。

「アレク。お前さんには、エルミア以上の才能がある。エルミアが持っておった屈折を、お前さんがモノにしたならば……確実に成長できるじゃろう。そこの悪魔の娘と共に、ティファンをなんとかしたいのじゃろう?」
「……はい! どうしても、止めたいです! 世界云々もあるけど、やっぱり、エルミア様が施した封印を解きたくない」
「それはひとえに、母を想う愛からか?」
「違います。僕の母は、マリーヌ母様です。僕はあの世界に生まれてこれなかった。でも……『視た』んです。全部。あれを体験して、僕は見て見ぬ振りはできない!」

アレクの言い分に、ポルカは深く頷く。

「わかった。だが…‥少しいいかの」

ポルカはライアンとユリーカ、シオンを一瞥した。

「三人は、アレクの友達かい」
「おっ、おうっ!」
「はい」
「そうです……」
「うむ、納得じゃの。心優しいし、元気のある若木達じゃ……じゃがの。ついていくには、ほとほと実力不足じゃけ」
「「「!」」」

ポルカに実力を指摘され、三人は押し黙る。
ポルカの目は穏やかなままだった。

「これから先、アレクは大いなる運命に呑まれることになる。この子が望んでいなくとも。アチキはそれに、できる限りの手助けをしたいと願っているが……お前さん達、死ぬぞ?」
「あっ、あのっ!」

シオンが椅子から立ち上がり、前のめりになって言う。

「私、どうしてもアレク君の力になりたいんです……! 置いていかれたくない。アレク君のそばにいたい!」
「美しき心じゃ。しかし、理想ばかりを唱えていられるほど、現実は甘くないのぅ」

ポルカはシオンの横に立つと、彼女の手を取った。

「補助の力は十分伝わってくる……しかしの。自分の身を守れるレベルの力がない。その頼りなさで、どこをほっつき歩いてしまうのか」
「うっ……」
「アレク。アチキはこのままの三人を連れて行くのに反対だ」

ポルカは振り返ると、はっきりと濁すことなくそう言い切った。
アレクの背に緊張が走る。

「……お前さん、名は」
「シ、シオンです」
「そうか、シオン……お前さんは、アレクのそばにおりたいと考えるのじゃな?」
「は、はいっ」

必死になって頷く姿に、ポルカは深く息を吐き出す。

「わかった……そう言うなら、アチキにも考えがある。どうにかしてやろう。だがな、問題はそこの二人」

ポルカはライアンとユリーカを見つめた。
何もかもを見透かすような瞳であった。

「お前さん達に、そこまでの熱心さは感じない。お前さん達は何を思って、アレクについていくことを選んだ?」
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