162 / 227
アルスフォード編
第五十六話 キラキラした夢
しおりを挟む
生まれた時から、俺は強かった。
『この歳でここまでの剣術……! ライアン様は天才です!』
『流石、騎士団長の息子です!』
俺を褒められた父さんも満更でもなさそうで、俺、嬉しかったんだ。
このまま次期騎士団長として成長して、国を守る男になるんだって、ずっと思ってた。
俺がみんなを守るんだって。
『アレク君、凄い!』
『こんな子いるんだ。やっぱり天才は違うね』
俺なんかより、よっぽど凄い天才を見つけた。
俺バカだからさ、あんまり物事知らないんだ。
そん時はちょっと悔しかったけど、張り合える相手ができて、ワクワクしたんだ。
そいつは俺の友達になったから、助けてやりたいって思う。
「お前さん達は何を思って、アレクについていくことを選んだ?」
そういえば、俺ってなんでここにいるんだろ。
◆ ◆ ◆
「何をって……」
「このシオンという娘には、覚悟を感じる。しかし、アチキはお前さん達に強い意志を感じないのぅ」
ライアンはポルカにそう言及された時、少しばかり納得してしまった。
確かにアレクの力になりたいとは思う。
しかし今ここにいるのは、シオンが両親に商談相手が欲しいと言われたからだ。
シオンの両親が愚痴程度で溢したそれをシオンが受け取り、役に立ちたいと願ったから、ライアンはついてきただけ。
寧ろこの場でここまで重要なことについて問われるとは、思ってもいなかった。
「俺……俺は……すみません。ちょっと時間くださいっス」
一旦答えを保留にし、ライアンは考えてみる。
ライアンは愚直なまでに真っ直ぐな少年であった。
嘘はつけないし、取り繕うことも苦手。
しかし彼なりに、考えを巡らせることはできた。
(なんで俺がアレクを助けたいか、考えてみよう)
ーー答え1。友達だから。
ライアンにできた、特に仲の良い友達。
シオンやユリーカとは今までよく絡んでいたし、周りのクラスメイトとも上手くやってきた。
しかし同性で初めてここまで仲良くなれたのがアレクだった。
それはなぜ?
ーー答え2。ライアンと張り合えるどころか、飛び越えてくるような人間だったから。
ライアンはクラスで一番の剣術使い。
それは今でも変わらないが、総合的に見て一番凄いのはアレクだ。
アレクにだけは、剣術は負けたくないと望むほど。
そこまでライアンが熱心になれた相手など、今までいなかったのだから。
そこから少し進もう。
アレクの抱える問題のため、己の命を投げ出すことはできるか。
ーー答え3。できない。
自分には家族もいる。死にたくなどないし、死ねない理由もある。
今の自分じゃまだまだ力不足。このままアレクについていけば死ぬ。
じゃあどうする。この一件から、ポルカの言う通り手を引くか。
ーー答え4。それも嫌。
ライアンは、代々騎士団長を生み出してきたオルフェーヴ家の長男だ。
いずれ自身も騎士となり、国に仕える運命にある。
己の騎士道というものを、ライアンは少なからず持っていた。
友達の危機に尻尾を巻いて逃げるなど、騎士としての生涯の恥。
じゃあどうする。
「ーーわかったっス! 俺もっ、シオンと一緒に強くなる!」
「ほう……」
「今までちょっとぼんやりしすぎてたっス! やっぱり俺、アレクについていきたいし、アレクに張り合えるくらいの人間になりたい……! そうすれば、俺は騎士団長になれる気がする!」
「己の野望のため、か。その意気や良し」
ライアンの提示した答えに、ポルカは満足げに頷いた。
続いて、ポルカはユリーカに向き直る。
「そこのお嬢さんは、どうするつもりじゃ?」
「………」
ユリーカはシオンやライアンと違い、明確な意識を抱けなかった。
アレクに惚れているわけでもない。
強くなり、騎士団長になりたいわけでもない。
そもそも自分は、かなり流されがちに生きてきた気がする。
「……無理そうじゃな」
「!」
ポルカが見切りをつけたのを見て、ユリーカは慌てて口を開いた。
「私もっ、強くなりたいです! 私だけ蚊帳の外なんて嫌……!」
「お嬢さん。お前さん、本心はなんじゃい?」
「!」
「お嬢さんは今まで、才能でその場を乗り切ってきたじゃろう。特に大きな挫折もなく、悠々とした人生を送ってきたはずじゃけ。だからこそ、意志の弱さを感じる」
「………」
「やはりアチキは、お嬢さんは参加するべきではないと思うがの」
「っ、絶対……絶対ここから逃げたくない! 私だって、アレク君の助けになりたいんです!」
これは本心のはずだ。
ユリーカが叫びに近いような形で言えば、ポルカはしばらく黙った後眉を下げた。
「普通ならここまでせんのだがのぅ……よかろ。シオンにライアン。二人は悪魔の娘に協力してもらうがよい。アチキは……お前さんの相手をしよう」
ポルカは挑発的にユリーカに笑いかけた。
『この歳でここまでの剣術……! ライアン様は天才です!』
『流石、騎士団長の息子です!』
俺を褒められた父さんも満更でもなさそうで、俺、嬉しかったんだ。
このまま次期騎士団長として成長して、国を守る男になるんだって、ずっと思ってた。
俺がみんなを守るんだって。
『アレク君、凄い!』
『こんな子いるんだ。やっぱり天才は違うね』
俺なんかより、よっぽど凄い天才を見つけた。
俺バカだからさ、あんまり物事知らないんだ。
そん時はちょっと悔しかったけど、張り合える相手ができて、ワクワクしたんだ。
そいつは俺の友達になったから、助けてやりたいって思う。
「お前さん達は何を思って、アレクについていくことを選んだ?」
そういえば、俺ってなんでここにいるんだろ。
◆ ◆ ◆
「何をって……」
「このシオンという娘には、覚悟を感じる。しかし、アチキはお前さん達に強い意志を感じないのぅ」
ライアンはポルカにそう言及された時、少しばかり納得してしまった。
確かにアレクの力になりたいとは思う。
しかし今ここにいるのは、シオンが両親に商談相手が欲しいと言われたからだ。
シオンの両親が愚痴程度で溢したそれをシオンが受け取り、役に立ちたいと願ったから、ライアンはついてきただけ。
寧ろこの場でここまで重要なことについて問われるとは、思ってもいなかった。
「俺……俺は……すみません。ちょっと時間くださいっス」
一旦答えを保留にし、ライアンは考えてみる。
ライアンは愚直なまでに真っ直ぐな少年であった。
嘘はつけないし、取り繕うことも苦手。
しかし彼なりに、考えを巡らせることはできた。
(なんで俺がアレクを助けたいか、考えてみよう)
ーー答え1。友達だから。
ライアンにできた、特に仲の良い友達。
シオンやユリーカとは今までよく絡んでいたし、周りのクラスメイトとも上手くやってきた。
しかし同性で初めてここまで仲良くなれたのがアレクだった。
それはなぜ?
ーー答え2。ライアンと張り合えるどころか、飛び越えてくるような人間だったから。
ライアンはクラスで一番の剣術使い。
それは今でも変わらないが、総合的に見て一番凄いのはアレクだ。
アレクにだけは、剣術は負けたくないと望むほど。
そこまでライアンが熱心になれた相手など、今までいなかったのだから。
そこから少し進もう。
アレクの抱える問題のため、己の命を投げ出すことはできるか。
ーー答え3。できない。
自分には家族もいる。死にたくなどないし、死ねない理由もある。
今の自分じゃまだまだ力不足。このままアレクについていけば死ぬ。
じゃあどうする。この一件から、ポルカの言う通り手を引くか。
ーー答え4。それも嫌。
ライアンは、代々騎士団長を生み出してきたオルフェーヴ家の長男だ。
いずれ自身も騎士となり、国に仕える運命にある。
己の騎士道というものを、ライアンは少なからず持っていた。
友達の危機に尻尾を巻いて逃げるなど、騎士としての生涯の恥。
じゃあどうする。
「ーーわかったっス! 俺もっ、シオンと一緒に強くなる!」
「ほう……」
「今までちょっとぼんやりしすぎてたっス! やっぱり俺、アレクについていきたいし、アレクに張り合えるくらいの人間になりたい……! そうすれば、俺は騎士団長になれる気がする!」
「己の野望のため、か。その意気や良し」
ライアンの提示した答えに、ポルカは満足げに頷いた。
続いて、ポルカはユリーカに向き直る。
「そこのお嬢さんは、どうするつもりじゃ?」
「………」
ユリーカはシオンやライアンと違い、明確な意識を抱けなかった。
アレクに惚れているわけでもない。
強くなり、騎士団長になりたいわけでもない。
そもそも自分は、かなり流されがちに生きてきた気がする。
「……無理そうじゃな」
「!」
ポルカが見切りをつけたのを見て、ユリーカは慌てて口を開いた。
「私もっ、強くなりたいです! 私だけ蚊帳の外なんて嫌……!」
「お嬢さん。お前さん、本心はなんじゃい?」
「!」
「お嬢さんは今まで、才能でその場を乗り切ってきたじゃろう。特に大きな挫折もなく、悠々とした人生を送ってきたはずじゃけ。だからこそ、意志の弱さを感じる」
「………」
「やはりアチキは、お嬢さんは参加するべきではないと思うがの」
「っ、絶対……絶対ここから逃げたくない! 私だって、アレク君の助けになりたいんです!」
これは本心のはずだ。
ユリーカが叫びに近いような形で言えば、ポルカはしばらく黙った後眉を下げた。
「普通ならここまでせんのだがのぅ……よかろ。シオンにライアン。二人は悪魔の娘に協力してもらうがよい。アチキは……お前さんの相手をしよう」
ポルカは挑発的にユリーカに笑いかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10,453
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。