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アルスフォード編

第四十一話 彼のマリオネット

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委員会でのやり取りがあった一ヶ月後、久々にガディとエルルの休みが取れた。
激務である生徒会の仕事をこなし、ようやく作り出した休みだ。
アレク達は休みの二日間で、アルスフォードへ短剣を作りに行くことにした。

「……あなた達も行くの?」
「ついていかせてくださいっス!」

そこで、ライアン達もアルスフォードに行きたいと言い出した。
シオンが少し言いづらそうに、エルルに事情を説明する。

「アルスフォードで、機械についてちょっと調べたくて……ママ……商会との取引先に、どこかいいところないかなって」
「あなたのお家、確か商会で働いてたわね。立派じゃない。別についていくくらいならいいわよ」
「ありがとうございます……!」

エルルからすれば、もはやいつものメンバーだ。
アレクの友達であるこの三人が増えたところで、どうというわけでもない。

「アリス、リュック持った?」
「持ったよ」
「忘れ物ない?」
「うん」
「………」

エルルにとって問題なのは、アリスだ。
アレクが拾って、世話をすると言い出した悪魔の少女。
エルルはガディと共にこのアリスを疑っており、アレクにいつ害を及ぼす存在になるかと危惧している。
しかし、それ以上にーー

「ほらアリス。しっかり背負わなきゃ」
「うん」

アレクに世話を焼かれるアリスが気に食わない。
冗談ではない。
大事に大事に育ててきた、エルルにとっては目に入れても痛くないどころか喜ぶ始末の弟が、よくわからない悪魔とやらに入れ込んでいる。
それがエルルにとって、堪らなく悔しかった。

「うわあ……」

エルルが嫉妬を募らせていることに気づいたユリーカが、わかりやすく引いた。
エルルのブラコンっぷりはもうわかっているつもりだったが、まさかこんな小さな子にまで焼くとは思わない。
触らぬ神に祟りなし、とばかりに、ユリーカはエルルから離れた。
アレクはアリスの身支度を終えた後、ガディへと話しかける。

「兄様、ラフテルはどう?」
「もう時期つくと思うんだが……」

その時、屋敷の上に大きな影が降ってくる。
トリティカーナでは滅多に見かけないは、大層目立ちながら屋敷の庭へ着陸した。
ユリーカはそれを見て、大きく目を見開く。

「これが、噂に聞く風魔……」
「風魔ってなんだ?」

ライアンの質問に、ユリーカは記憶を掘り起こしながら答えた。

「魔石を積んで動く、空飛ぶ船よ。アルスフォードで、一部の富裕層しか使われてないらしいけど……」

そこで、風魔から一人の少女が降りてきた。
茶色の髪を腰ほどまで伸ばし、赤色の大きな瞳を持つ、メイド服を着た少女だ。
アレクはその少女の見た目に驚いた。

「ラフテルそっくり……」
「………」

少女はアレクの前まで歩いて行くと、そのまま勢いよくアレクに抱きついた。

「アレク様ーっ! 久しぶりですーっ!」
「えっ!?」
「元気だったですか? ご主人様はあなたに会うことを、ずっと楽しみにしてらっしゃったんですよ!」
「あの……」
「にしても凛々しくなられて! 可愛らしいのは相変わらずですが、大きく成長なさいましたね!」
「誰ですか」

アレクの一言にポカンと口を開けた彼女は、そのまま大粒の涙を流し始めた。
ギョッとするアレクを前に、しくしくと彼女は啜り泣いた。

「アレク様ぁ……ナオのこと、忘れちゃったんですかぁ」
「えと、その」
「あんなに優しくしてくれたのにぃ」
「おい」

そこでラフテルのストップが入った。
少女の頭をポカリと叩き、呆れ顔である。

「あれだけ説明しただろう。アレクは忘れてしまっている」
「うう……わかっでまずよ」
「すまないな、アレク。混乱させてしまって」
「ううん、大丈夫。この人は?」

すると、少女はスカートを摘み、綺麗にお辞儀してみせた。

「アレク様。ご主人様のお守り人形マリオネットのナオと申します」
お守り人形マリオネット……?」
「ナオ!」

恥ずかしげに、責めるようにラフテルが叫べば、ナオは自慢げに続ける。

「はい! ナオはご主人様のお守り人形マリオネットです!」
「馬鹿っ、ナオ! メイドと言えとあれほど」
「人形なの!?」

あまりの驚愕にアレクが声を上げると、ナオは長袖をまくって、腕の繋ぎ目を見せた。

「ほら、繋ぎ目がありますよね? ナオはアルスフォード家の人形なのです」
「凄い! 人形が動いてるところなんて、初めて見た!」
「ナオ!」

再びラフテルがナオの名前を叫ぶ。
ナオは渋々といった様子で、ラフテルの後ろへ下がった。

「……失礼した。風魔に乗ってくれ。アルスフォードへと連れていこう」


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