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超大規模依頼編

第二十六話 似ているようで、似ていない

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アレクと離れた後、ガディはすぐさま大悪魔を探しに走った。
ここで騒ぎが遠くのほうで起こったらしく、町民達が散らばるように逃げているのをガディは見つけた。
放っておくわけにはいくまい。

「ロックプリズン」

魔法を唱え、巨大な岩の囲いを作り出す。
そこに人が入れるよう穴を開け、ガディは町民達に呼びかけた。

「ここに入れ! 多少の衝撃は防げる!」

ガディの言葉を聞いた町民達が、我先にと囲いへ逃げ込む。
問題がないことを確認し、ガディはその場を離れた。

「あそこかーー」

空中に何か、黒い人影が見える。
あれが恐らく大悪魔なのだろう。
ガディは地面を大きく踏み、駆け出そうと力を込める。

「「!」」

そこで、男と遭遇した。
ただの男ではない。ガディ達を襲った、あの得体の知れない男だ。
互いに躊躇うことなく攻撃を仕掛け、衝撃波がその場に生まれる。

「お前っ……」
「また会ったな、青年」

ニヤリと男が愉快げに笑った。
ガディは反対に顔を歪ませる。

「できればもう拝みたくないツラだったな」
「そうか。私は青年と会えて嬉しいぞ。前回は取り逃したが、今回は確実に仕留める」
「テメェらが逃げたんだろ」
「仕方あるまい。天族の命令だったからな」

男の発言に、ガディの緊張感が一気に高まる。

(コイツ、知ってやがる)

アレクの正体を。天族という呼び名を。

「逃せない理由がもう一つできたな。アレクに害を与えるつもりなら……俺が斬る」

短剣を持ち出したガディに、男は緩やかに首を横に振った。

「いいや。私は天族の首は狙わない。興味があるのは、君達の首」
「……俺とエルルか」
「よくわかったな」

鋭く息を吸い、ガディが短剣を振りかぶる。
途端男の筋肉が大きく盛り上がり、体の堆積が増大した。
ガディが振った短剣は受け止められ、男の手刀によって叩き割られる。

「……!」

微かな動揺を匂わせたのも束の間、即座に水魔法を発動し、短剣の代わりとしてそれを男に振るった。
男の腕に、作り出した剣が刺さる。

「ふんっーー」
「!?」

男が力んだ瞬間、凄まじい力で剣が押し戻されるのをガディは感じる。
負けまいと力を込め、しばらくの均衡状態。
それを制したのは男であり、剣を抜いたかと思うと、ガディの腹に拳を叩き込んだ。

「がはっ……」

耐えられず唾を吐く。
そのまま体が吹き飛ばされ、民家に激突した。

「っ、てぇな」

まだ意識の及ぶ範疇だ。
治癒魔法を発動し、背と腹に負った傷を治す。

「青年。君は疑問に思うことはあるか。大切な者を、本当に幸せにできているかどうか」

男は静かにガディに語りかけながら、こちらに向かって歩いてくる。

「天族の少年を、傷つけているとは思わないか。自分の身勝手さで、彼を拒絶してはいないか。真に彼のことを考えているか」

ガディの脳裏に、今にも泣き出しそうなアレクの顔が映る。
自分達を捨て置けと言った時のアレクの顔が、どうにも忘れられそうにない。

「君は、果たして正しい道を歩んでいるのかね」
「んなの知らねえよ」

ガディは立ち上がり、男を睨みつける。
もうもうと起こる砂埃の中に、銀の瞳が光っている。

「俺はアレクを守れればそれでいい。例えアレクの意に反しようが、それは俺の勝手だ」
「……傲慢だな、青年」

男が地面に拳をぶつけた。
その瞬間地割れが起き、ガディの体が宙に吹き飛ばされる。
ガディは衝撃を利用し、猫のように体をしならせ男に向かって魔法を発動する。
水が洪水のようにうねり、男に向かって襲い掛かった。
男は腕を顔の前でクロスし、全身を襲う絶え間ない水の威力に耐える。
自分が地面に着地する時に魔法を解除し、ガディは男に向かって拳を振るった。
しかし拳は男によって防がれ、男の蹴りが凶悪な威力を持って来る。

「!」

ガディはそれをすり抜けた。
再び魔法を発動し剣を作り、男の頭に向かって振り抜いた。
剣は男の顔面にめり込み、男をよろめかせる。
男から鼻血がボタボタと垂れた。

「……君の動き、まるで猫のようだな」
「猫が師匠なもんで」

『基本避けたもん勝ちでしょ~』

ふざけた顔をして笑っている師匠クーヴェルが、常にしていた動き方だ。
避けることに関してガディの動きは一級品。
短剣がない今、機会を狙うしか勝ち目はない。

「青年、名を名乗れ」
「ーーガディだ」
「そうか。私はミヤ。冥土の土産に覚えておきたまえ」
「そっちこそな」
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