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4章 花ひらく
51話 2人の関係
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「えっ!?ハルヒ、リンタロウとデートしたことないの!?」
いつものリビングでソファに座りオレンジジュースを啜る晴柊の横には、驚いた様子のウィリアムが座っていた。あのパーティーから数日が経った頃、ウィリアムが晴柊にもう一度会いたがったようで琳太郎が「この部屋の中なら」と許可してくれたのだった。琳太郎も、晴柊がウィリアムと話せたことを嬉しそうにしていたことを知っているが故の対応だった。
晴柊とウィリアムの雰囲気はまるで「ガールズトーク」をする女子会さながらだった。当番の篠ケ谷は少し離れたところで仕事をしているのだが、彼もまた中世的な顔立ちのせいでその女子会雰囲気に否応が無しに加担していた。
ウィリアムは晴柊のことを気に入っていた。最初は晴柊の容姿からの興味関心であったが、少し話してすぐに晴柊の温かさに触れあっという間に晴柊の虜になっていた。もっとゆっくり話したいと愛園に頼み、琳太郎から返事が来たときはベッドで跳ねて喜んでいた。
昼過ぎにウィリアムは有名店のアップルパイを片手にボディーガードの送迎で晴柊のいるマンションを訪れた。前回はお互いおめかししていたものの、今日はラフな格好であり、またいつもと違う晴柊にウィリアムは違う一面をみれたことに嬉しそうな表情を浮かべた。早速アップルパイを切り分け紅茶を飲みながら話し込む。話題はもっぱらお互いのパートナーのことだった。
ウィリアムも前から愛園を通じて琳太郎とは面識があったため、その性格やスタンスは重々承知していた。だからパーティーに晴柊を連れてきたことは心底驚いているのだった。晴柊はあの琳太郎とどのような付き合い方をしているのか、晴柊の前で琳太郎はどんな感じなのか、と気になることがたくさんあったウィリアムは、「ハルヒはリンタロウデートとかはするの?」と聞いたのだった。
そして冒頭に至る。更に続いて発せられた晴柊の発言に、空気が凍り付く。
「デート……ないなぁ。外もそんなに出れるわけじゃないし。そもそも、付き合ってないもん。」
「………え?」
パソコンで作業していた篠ケ谷の手までもが留まる。ウィリアムは拍子抜けしたような声を漏らした。晴柊だけが、「どうしたの?」という顔を浮かべている。いやいや、どうしたのはこっちのセリフ、というようにウィリアムが焦ったように聞き始めた。
「つ、付き合ってないの……?いや、でも、エッチだってしてるでしょ?」
「まぁ、俺たちの関係はそれから始まったっていうか………」
「でも、告白とかされたでしょ?ほら、好きとかアイシテルとか!」
ウィリアムが何やら必死になっている。晴柊はなぜウィリアムが焦っているのかを理解していないようだった。篠ケ谷も話に割って入ってこないものの「まじかよ」という顔を向けてくる。
「お互い好きだとは言ったけど、告白はされてないよ。…琳太郎にとって俺は……うーん…「一番気に入ってる愛人」ってのが一番近いんじゃないかな?」
晴柊は、意外にもあっけらかんと答えた。そして、固まるウィリアムをよそにアップルパイを頬張っていた。ちなみに2個目である。
童貞恋愛経験ゼロの晴柊には、大人の恋愛などましてや知らず、「付き合ってください」「付き合いましょう」の言葉がないとそもそも恋人には成りえないだろうと思っているのだった。晴柊の琳太郎が「好き」という気持ちに勿論嘘は無いし、琳太郎もそうでいてくれているのは理解しているが、それが「恋人関係」を構築しているものだとは思っていないのだった。むしろ、考えもしなかったというほど晴柊は琳太郎と自分が「付き合う」という世界線を想像していなかった。
琳太郎はヤクザの組長である。晴柊が琳太郎の傍にいると決めたときに言われた、あらゆる場面で窮屈に感じることもあるだろうということを、晴柊は自分と琳太郎の関係性にも当てはめていたのだった。琳太郎にとって恋人なんて存在は邪魔なはずである、と、その回路を無意識に封鎖していた。
以前からの琳太郎を知っている人ならば、琳太郎が晴柊に抱いている気持ちや行動がまさか「1人の愛人」に対して向けるようなものではないことくらい、誰もがわかっていた。いや、琳太郎の晴柊に対する態度は、琳太郎を知らない人がみてもわかるほどの「クソデカ恋愛感情」以外の何物でもない。
しかし、相手が悪かったとしか言いようがない。今まであまりにも恋愛経験とかけ離れて生活してきた晴柊は、持ち前の鈍感さも相まって当事者であるにも関わらず琳太郎の自分に対する感情の真意に気付いていないのだった。
「ハルヒ…それ、リンタロウに言っちゃダメだよ…!」
「う、うん…?」
ウィリアムが必死な形相で晴柊の肩を掴み、訴えてくる。晴柊は勢いに押されるように返事をした。ウィリアムはこの2人が思った以上に拗れた関係であることを理解したのだった。晴柊はよくわかっていないながらも、ウィリアムとお喋りできることが何よりも楽しく、2人でひと時のティーパーティーを楽しんでいるのだった。
あっという間に夕方になると、マンションの部屋に琳太郎が顔を見せた。2人はゲームをしているようだった。楽しそうな2人に水を差すように後ろから声を掛けた。
「ウィル。愛園が迎えに来てるぞ。」
「わぁ、もうこんな時間かぁ。ハルヒ、また会いに来てもいい?」
「うん、勿論。俺も会いたい。」
「ハ、ハルヒ~~~!今度はお外でデートしよう!」
ウィリアムが晴柊の言葉に歓喜しがばっと抱き着く。ハルヒよりも小さなウィリアムに、晴柊は照れながらも嬉しそうに頭を撫でていた。琳太郎はウィリアム相手にはあまり嫉妬をしないようだった。それもまぁ時間の問題だろうと傍で見ていた篠ケ谷は思うのだった。
「じゃぁ、またね!………リンタロウ、ファイト!」
去り際、晴柊に大きく手を振った後、ウィリアムは意味深な言葉を琳太郎に投げかけ去ってしまった。ウィリアムにとって、「晴柊はまるで琳太郎と付き合ってるとは思ってないよ、頑張れ!」という意味を含んだ言葉だったのだが、とうに恋人同士だと思っている琳太郎もそれに気付いていない晴柊も、その言葉の真髄を理解はできなかったのである。理解していたのは、篠ケ谷だけだった。
「琳太郎、帰ってくるの早かったな。」
「ああ、ちょっと顔を見に来た。今日はまたこれから仕事に戻る。」
「そっかぁ。」
忙しい人だ、と思いながら晴柊は琳太郎を見た。そりゃぁ裏社会とは言えど組織のボスなのである。多忙なのは当たり前である。晴柊はそれを受け入れ理解しているつもりだった。それはあの自分は琳太郎の愛人発言に通ずるものがあったのだった。
「えっ!?ハルヒ、リンタロウとデートしたことないの!?」
いつものリビングでソファに座りオレンジジュースを啜る晴柊の横には、驚いた様子のウィリアムが座っていた。あのパーティーから数日が経った頃、ウィリアムが晴柊にもう一度会いたがったようで琳太郎が「この部屋の中なら」と許可してくれたのだった。琳太郎も、晴柊がウィリアムと話せたことを嬉しそうにしていたことを知っているが故の対応だった。
晴柊とウィリアムの雰囲気はまるで「ガールズトーク」をする女子会さながらだった。当番の篠ケ谷は少し離れたところで仕事をしているのだが、彼もまた中世的な顔立ちのせいでその女子会雰囲気に否応が無しに加担していた。
ウィリアムは晴柊のことを気に入っていた。最初は晴柊の容姿からの興味関心であったが、少し話してすぐに晴柊の温かさに触れあっという間に晴柊の虜になっていた。もっとゆっくり話したいと愛園に頼み、琳太郎から返事が来たときはベッドで跳ねて喜んでいた。
昼過ぎにウィリアムは有名店のアップルパイを片手にボディーガードの送迎で晴柊のいるマンションを訪れた。前回はお互いおめかししていたものの、今日はラフな格好であり、またいつもと違う晴柊にウィリアムは違う一面をみれたことに嬉しそうな表情を浮かべた。早速アップルパイを切り分け紅茶を飲みながら話し込む。話題はもっぱらお互いのパートナーのことだった。
ウィリアムも前から愛園を通じて琳太郎とは面識があったため、その性格やスタンスは重々承知していた。だからパーティーに晴柊を連れてきたことは心底驚いているのだった。晴柊はあの琳太郎とどのような付き合い方をしているのか、晴柊の前で琳太郎はどんな感じなのか、と気になることがたくさんあったウィリアムは、「ハルヒはリンタロウデートとかはするの?」と聞いたのだった。
そして冒頭に至る。更に続いて発せられた晴柊の発言に、空気が凍り付く。
「デート……ないなぁ。外もそんなに出れるわけじゃないし。そもそも、付き合ってないもん。」
「………え?」
パソコンで作業していた篠ケ谷の手までもが留まる。ウィリアムは拍子抜けしたような声を漏らした。晴柊だけが、「どうしたの?」という顔を浮かべている。いやいや、どうしたのはこっちのセリフ、というようにウィリアムが焦ったように聞き始めた。
「つ、付き合ってないの……?いや、でも、エッチだってしてるでしょ?」
「まぁ、俺たちの関係はそれから始まったっていうか………」
「でも、告白とかされたでしょ?ほら、好きとかアイシテルとか!」
ウィリアムが何やら必死になっている。晴柊はなぜウィリアムが焦っているのかを理解していないようだった。篠ケ谷も話に割って入ってこないものの「まじかよ」という顔を向けてくる。
「お互い好きだとは言ったけど、告白はされてないよ。…琳太郎にとって俺は……うーん…「一番気に入ってる愛人」ってのが一番近いんじゃないかな?」
晴柊は、意外にもあっけらかんと答えた。そして、固まるウィリアムをよそにアップルパイを頬張っていた。ちなみに2個目である。
童貞恋愛経験ゼロの晴柊には、大人の恋愛などましてや知らず、「付き合ってください」「付き合いましょう」の言葉がないとそもそも恋人には成りえないだろうと思っているのだった。晴柊の琳太郎が「好き」という気持ちに勿論嘘は無いし、琳太郎もそうでいてくれているのは理解しているが、それが「恋人関係」を構築しているものだとは思っていないのだった。むしろ、考えもしなかったというほど晴柊は琳太郎と自分が「付き合う」という世界線を想像していなかった。
琳太郎はヤクザの組長である。晴柊が琳太郎の傍にいると決めたときに言われた、あらゆる場面で窮屈に感じることもあるだろうということを、晴柊は自分と琳太郎の関係性にも当てはめていたのだった。琳太郎にとって恋人なんて存在は邪魔なはずである、と、その回路を無意識に封鎖していた。
以前からの琳太郎を知っている人ならば、琳太郎が晴柊に抱いている気持ちや行動がまさか「1人の愛人」に対して向けるようなものではないことくらい、誰もがわかっていた。いや、琳太郎の晴柊に対する態度は、琳太郎を知らない人がみてもわかるほどの「クソデカ恋愛感情」以外の何物でもない。
しかし、相手が悪かったとしか言いようがない。今まであまりにも恋愛経験とかけ離れて生活してきた晴柊は、持ち前の鈍感さも相まって当事者であるにも関わらず琳太郎の自分に対する感情の真意に気付いていないのだった。
「ハルヒ…それ、リンタロウに言っちゃダメだよ…!」
「う、うん…?」
ウィリアムが必死な形相で晴柊の肩を掴み、訴えてくる。晴柊は勢いに押されるように返事をした。ウィリアムはこの2人が思った以上に拗れた関係であることを理解したのだった。晴柊はよくわかっていないながらも、ウィリアムとお喋りできることが何よりも楽しく、2人でひと時のティーパーティーを楽しんでいるのだった。
あっという間に夕方になると、マンションの部屋に琳太郎が顔を見せた。2人はゲームをしているようだった。楽しそうな2人に水を差すように後ろから声を掛けた。
「ウィル。愛園が迎えに来てるぞ。」
「わぁ、もうこんな時間かぁ。ハルヒ、また会いに来てもいい?」
「うん、勿論。俺も会いたい。」
「ハ、ハルヒ~~~!今度はお外でデートしよう!」
ウィリアムが晴柊の言葉に歓喜しがばっと抱き着く。ハルヒよりも小さなウィリアムに、晴柊は照れながらも嬉しそうに頭を撫でていた。琳太郎はウィリアム相手にはあまり嫉妬をしないようだった。それもまぁ時間の問題だろうと傍で見ていた篠ケ谷は思うのだった。
「じゃぁ、またね!………リンタロウ、ファイト!」
去り際、晴柊に大きく手を振った後、ウィリアムは意味深な言葉を琳太郎に投げかけ去ってしまった。ウィリアムにとって、「晴柊はまるで琳太郎と付き合ってるとは思ってないよ、頑張れ!」という意味を含んだ言葉だったのだが、とうに恋人同士だと思っている琳太郎もそれに気付いていない晴柊も、その言葉の真髄を理解はできなかったのである。理解していたのは、篠ケ谷だけだった。
「琳太郎、帰ってくるの早かったな。」
「ああ、ちょっと顔を見に来た。今日はまたこれから仕事に戻る。」
「そっかぁ。」
忙しい人だ、と思いながら晴柊は琳太郎を見た。そりゃぁ裏社会とは言えど組織のボスなのである。多忙なのは当たり前である。晴柊はそれを受け入れ理解しているつもりだった。それはあの自分は琳太郎の愛人発言に通ずるものがあったのだった。
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