Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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門出

2

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「そんな物差しだからわざわざ言いに来てやったんだろ。
 幹斎、ここは一度火が着くぞ。それだけだよ」
「なるほど、」

 より、わからない。じゃぁ、なんだと言うんだ。

「まだまだ裏が読めていない。それでは修行しに来た意味もないんだよ」
「ただの坊主が見送る者ってか?ご立派なことで。でもまぁ嫌いじゃねぇよ、その心意気は。じゃぁ踏ん張ってくれ」
「…やめろ却って恐ろしいわ」
「俺はどこまでも嫌われてんな、ははっ、よかったよ元気そうで」

 そうやって、案外あっさり逃げもする。
 藤嶋ふじしま宮治みやじはそういう男だ。

「………翡翠ひすいはどうだ?」
「ん?」
朱鷺貴ときたかとは連絡を取ってるんだがな」
「…さぁ?まぁ大事ないだろうよ」
「まぁ、そうだな…」
「俺だって、全て読めるわけじゃないさ、事実腹をひっくり返されてはいる。
 全てはお得意、神のみぞ知る、なんだよ」

 伏せれば藤嶋は飄々と「じゃあな、じいさん」と、ふらふら手を振り降りて行く。

 確かに、事柄の全てに於いて「再生」の前には破壊がある。それが自然なら、お前だって本当は抗っている訳でもないはずなのに。何故そちらに行くのか。
 藤嶋は何を再生したいのだろうかと、幹斎は見送ることしか出来ないでいる。

 年明け間もなく嫌なことを聞いた。ただ、それだけに留めるしか出来ぬ修行。

 やれやれと幹斎が踵を返し鳥居が目に付く。
 藤嶋が鳥居のすぐ側で…どうやら誰かと鉢合わせたのが見えた。
 人物には、宛がいる。

「お久しゅうなぁ藤嶋はん」
「……景気はどうだい、五代目」

 流石、直々に来ようとは。
 総代、藤宮ふじみやたかだ。
 
「お陰さんで。
 あんさんは宜しくないん?今日はお勤めやないんでっか?」
「生憎と用事が出来てな。
 俺じゃなくてこっちに用事があったんじゃないのか」
「まぁなぁ」
「いつ戻ったんだ?暫くは土佐にいると聞いたが」

 鷹はにやっと笑い「あんさんと一緒で仲間外れや」とほざいた。

「まあ確かに。けど、商売はやり易いんじゃないのか?」
「お陰さんで」
「じゃ、」
「あんさん、けし掛けましたな」

 ふいに鷹が声低く言うので「何が?」と藤嶋は冷淡に返す。

「水臭いやないですかあんさん、前天皇の奥さん家の生まれやったんやなんてなぁ。俺はてっきり、あん高尚な尼寺の貰い子かと思てましたわ」

 …なるほど。
 ここ数ヵ月の、少しの解れの原因がわかった。
 虫だ。

「……どちらも正しい見解だけど、それがどうした?」
「そない酔狂な話がありまっか、藤嶋はん。そう思て様子を見てりゃぁ、こんな所で会うなんて。上手く運ばせたもんやね、また」
「さぁ。俺は見ての通り」
「つまらん冗談ですな。今や天下統一も手前やないでっか」

 物言いがどうにも不穏当で挑発的だ。

「お陰でお宅らもよう飯の心配はなくなりましたか?ははっ、しかしそのわりにゃ逆境に見えますがねぇ、藤嶋はん」

 藤嶋が特に何も言わずにいれば「ありゃ?聞きたないですか?」と鷹は煽ってくる。

「そりゃぁ椅子が空きそうやいう話なんやけど」
「はい続けてどーぞ」
「あんさん、誤算とちゃいますの?」

 …何か聞き出したいようだが、「あっそう」としか実際には思わない。

「…あんたも土佐であの下級武士と武器売り始めたんだよな、安泰だねぇ。
 ここまでの流れが綺麗なことに心底驚きだけど」
「はぁ、謙遜なさらず。あんさんその調子だと知りまへんかね?今日方あの繋ぎ役、中川宮なかがわみやはんが辞職を申し出たとか、いないとか」

 ……なるほど。
 そうまで来たか、三条実美。どうやらハッキリと倒幕の意思を見せつけたな。

「へぇ…」
「こりゃあくまで俺の主観やけど、あんさんは親父の代から世話になってますからなぁ。復讐としか思えへんな」
「…一介の茶屋店主にはそんな大層な理由もない。まして、」
「確かに。昔と同じ手を使ういうんも味がありまへんなぁ」

 …嫌味なのか探りなのか。

「弾は、焦点定めた方がええん違いますの?」

 ドスの利いた低い声だった。
 父親より頭が良いのは確からしいが。

「…何を言っているかはわからないが流れを読めば簡単じゃないか五代目。勢力は本当のところ一つしかない。金が動くのは武力のあるところのみだ。親父さんを見ていただろ?」
「試しに見解を聞きやしょうか、気持ちの悪い」
「会津方が佐幕なら幕府はしゃしゃり出ている薩摩や長州も抱え込みたいだろうが長州は金がないし薩摩は遊んでいる。簡単だ、幕府の方が金を持っているんだよ」
「会津は形式上朝廷お抱えやけど、それが公武合体ということかいな。表立っては兵隊など持てへんと」
「流石は良い勘をお持ちだな。幕府に武力、勢力を持って貰わなければというのは昔から変わらねぇよ、五代目」

 しかし腹が読めぬのは事実だ。

「…ホンマに復讐やないんか、藤嶋はん。
 しかしそれは共倒れ言いまへんかね。コケにされ続けたのを巻き返したところで…まるで自傷やな、犬畜生の根性や」
「そう捉えるか。なるほどな。
 あんたは平和というものを知らない。まぁ、職業柄ピンとこないか」
「あんさんに言われちゃお終いですが、いま生きてるんが証拠やとでも?」

 やはり特に答えることはない。

「確かに中川宮氏が辞めたらその構図は完璧に崩れる。から、ならないんだよ。例え誰かがそうしようとしても。そして勢力は3つも必要がない。
 ところでお前さん、三条家嫡男を御存知か」
「…はぁ?」
「伝奏の男だ。知らないなら結構」
「…ふうん」

 なるほど。
 まさしくその男が手を引いているというところまでは理解したが、鷹は敢えて黙ることにする。

 邪魔だなぁ。

 気紛れならば質が悪い。が、利益があればという自分とも大して変わらない。

「取り敢えず俺は的を絞れましたんで、あんたには感謝やな」
「そうかいよかったな」
「俺はあんたがお綺麗やないと知っとりますけどね」

 嫌味ったらしく言う鷹に藤嶋は「ははっ、」と笑ってやれた。

 何かが不服だ。首根を掴んでいると思っているのはどうやら互い様らしい。

「互いに生き残りましょうや、店主」
「どうやらお前は親切なんだな、五代目」

 言葉ではどう交わそうとどうやら戦争をしている。昔から変わらない。互いに利害は一致しても、心底好きにはなれないのだ。

 最後の一手を打つのはどちらかという掛け合いでしかなかった。
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