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北の荒地 道行きと、朋友
痛定思痛
しおりを挟む皆に大事な事をお話している間、私の思考は、時間は少し遡る。
―――― 『宣誓』を、皆に話す前の事。
「北伐城塞」にたどり着く前に、第四〇〇特務隊の皆さんとは落ち合えた時辺りから……
^^^^^
特務隊の面々には、本当に頑張って貰って、私はとても嬉しく、誇らしく思っているのよ。 感謝と共に皆との再会を喜んだわ。 落ち合ったのは、国境より少し南側のもう誰も住んでいない村の、崩れかけた集会所。 ええ、全てはシルフィーの手配ね。 感謝しかないわ。
その集会所で、もう既に ” 懐かしい ” って思いがこみ上げてくる人々を見回す。 この場所に来れなかった特務隊の方々は、四人。 私が託した大切なお願いを聞いてくれた二人の人達。 鼠人族の”エスト”さん と、兎人族の”ウーカル”さん。
ウーカルさんの姉妹が、安心して出産できるように、お願いして、今はナゴシ村に居て貰っているわ。 ハト便で連絡を取り合っているのだけれど、経過は良好のようね。 頼もしい二人だから、心配はしていないけれど、普通の妊婦さんとは、どうも、様子が違うようで…… 薬師、治癒師としての ” 私 ” には、とても気になるところなの。
クレアさん、スフェラさんの二人は、あれから、また彼女達の拠点に戻って、色々なファンダリア国内…… 特に北部領域と、ファンダリア本領…… つまりは、王都ファンダルの情報を集めてくれているの。 でも…… 無理はしないように、強くお願いしたわ。
それに、私が北の荒野に向かった後は…… 彼女達の任務は解くつもりでもいる。 ハト便で、その旨はこれから伝えるわ。 十分に…… 本当に、十分に軍属の事務官として、仕えて下さったのだもの。 ティカ様に、後の事は『お願い』する。 ええ、彼女達にとって、最善の道を見つけ出してくれる…… そう、信じているんですもの。
集会所で私と一緒に出迎えた、シルフィーとラムソンさんの前に、皆が揃ったの。 とても、とても、誇らしげな顔をしていたわ。 そう、” 精霊様の御意志を遂行出来た ” って、獣人族の皆さんは、揃ってそんな表情を浮かべるんですものね。
穴熊族の プーイさん パーレさん ピールさん ペンタンさん ポンさん
兎人族の アーギルさん イグリスさん エンゼオさん オニールさん
森狼族の ツェナーさん テトさん トナールさん タンゴさん チヌールさん
狐人族の ナジールさん ニライさん カナイさん ヌエルバさん ルベルさん
森猫族の ローヌさん ラジールさん リンナイさん ネンテンさん レーベさん
集合を掛け、再会を祝い、そして、馬車に分乗して「北伐城塞」に向かう事になったの。
道行きは、楽しいピクニックの様な物。 それを実現させてくれたのは、シルフィー達の情報収集のおかげ。 クレアさんとスフェラさんの、周辺状況報告は、それはそれは、大切な情報だった。
おかげで、北部領域に派遣されている聖堂の神官様方や、聖堂騎士の人達はおろか、北部領域の神官様方にすら出会うことなく、ちょっと遠回りしたけど、目的の城塞に到達することが出来たんだもの。
^^^^^
……何時の頃からか、城門のあるこの「北伐城塞」からでは無く、国境街道をもう少し西側に向かった場所から、聖堂教会の神官達が北の荒地に出入りする様になったわ。 そして、聖堂都市が二つ建設された。 獅子王陛下の勅命に反する事なのに、いつの間にか、既成事実の様に扱われていた。
あの人達が何を成しに、北の荒野へ向かったのかは判らない。
人族の過ちを償う為…… と、当初はそう云う理念が有ったのかもしれない。 でも、獅子王陛下が在位されている当時の王宮上層部は、それすら認めていなかった。 今もまだ……の、筈なんだけどな。 だから、未だ、この門を通って、ジュバリアンに入国することは叶わない。
つまり、正式に、その二聖堂都市は、ファンダリア王国には認められていないってことに成るのよ。 よって、彼らは、抜け道を作り、北の荒野の二つの聖堂都市への道を作ったらしいの。 『何か』を成すためにね。
勿論そっちには、この城門のような強固な結界は施されていないから、「異界の魔力」の流れは、そちらから漏れてきているの。 それも、盛大にね。
プーイさんもそれを現地で見て、” ヤバい ” と感じたのよ。 だから、その抜け道の近くには、重点的に三つも聖壇を設置して、重複して浄化の術式が掛るように、してくれていたみたい。 おかげで、「異界の魔力」の漏れは、確実に収まってもいるわ。
とても、誇らしげにしていた プーイさん。 私は素直に称賛したの。 ” よく見つけましたね ” って。 彼女の嗅覚が無ければ、そして、” 正しい ” 処置を成さなかったら、きっと…… 異界の魔力の猛威は、未だ北部辺境域に強くその影響を与えていた事になるんだもの。
「リーナから、褒められたよ! やったね!」
プーイさんは、第四〇〇特務隊の面々…… 「魔力線網」の敷設に携わってくれていた、他の獣人族の人達と、慶びをわけあっていたわ。 勿論、その方々にも感謝を。 そして、彼女、彼等の献身を見守って下さった精霊様に「感謝の祈り」を、捧げたわ。
北伐軍道の城門に行く前に、やらねばならない事が出来たって事。 プーイさんの見つけてくれた、その問題の場所への先導をお願いしたの。 遠くから、周辺に散開して色々と調査中であろう、聖堂教会の聖職者さん達に気取られない様に、そちらの方を見てみたんだけど、聖壇から盛大に光の粒を噴き上げていたわ。
でも、あちらの関係者さんの調査は際立った成果を上げていないんですって。 シルフィーがニヤリと笑んで、言葉を紡いで報告してくれたのよ。
「あ奴らでは、とうてい近寄れません。 ええ、近寄れませんとも。 その道の精鋭が施した、【欺瞞】の術式は、大規模な軍勢ですら引っ掛かるんです。 アレっぽっちに何が出来る」
「これは…… 凄いモノね」
「ええ、特化した連中です。 普段は何を考えているか判ったものでは無いのですが、ちょっと脅…… いえ、説得した結果、アイツ等なりに楽しみを見つけたようで……」
「…………無茶しないでね?」
「仰せのままに」
混ぜっ返すラムソンさんの声が、細く私の耳に届くの。 ” 此奴らの『大丈夫』やら、『心配ない』ってのは、言葉の意味が違うのか? 俺には、どう考えても、そうとは思えん ” だって……
つまりね、シルフィーの関係者さん達の手によって、とても深く 【欺瞞】の魔方陣が施されていてね、眼には見えるんだけど、その場所に直接行けないって事に成っていたの。
ニヤリって、頬に笑みが浮かぶわ。
アレをこの地に居る、中央から派遣された、聖堂教会の神官様方や、この北部辺境域の聖堂教会の方々や関係者さん達の……
――― 思う様に ―――
されてなるもんですかッ!
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