その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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引き寄せるのは、未来。 振り払うは、魔の手。

王都 朝日の誓い

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 仕事の速い第四軍の事、第四〇〇〇護衛隊が王都に遣って来たのは、アノ激動の日から二日後の事だったの。




 プーイさんが率いる、実働実戦部隊。 穴熊族、森狼族、森猫族の十五人。 そして、ナジールさんが率いるのは、後方支援部隊。 狐人族、兎人族の十人。 合計二十五人の皆さん。

 かつて、彼らは奴隷兵として、王城外苑に囚われていた。 そして、解放され、自らの意思で、義勇兵としてファンダリア王国軍に参加されている。 そういう風に誘導したのは、私なんだけれどもね。 だってねぇ…… 奴隷兵なんて、認められないもの。

 皆は一度はこの王都で軍務に付いていたわ。 奴隷兵としてね。 義勇兵として、きちんとその身の権利を保障されたのは、エスコー=トリント練兵場からだったわよ。 そして、また、王都に帰還した。

 周囲の目がどれほどのものか、あまり考えたくないけれど、第四軍での色々なことを成したから、それなりには、敬意を払ってもらえるかもしれない…… なんて、甘い考えも抱いていたの。

 でね…… アノ人達もその事はなんとなく感じていたのか、王都に戻ってきたとき、アノ人達…… ファンダリア王国の軍装を纏っていたのよ。 練兵場では、あんまり着てくれなかった、王国の軍装。 内心とっても、蟠りがある筈なんだけれど…… いいのかしら?

 第十五号棟の前に整列した二十五人の獣人族の義勇兵の皆さん。 大きい身体、中くらいの身体、そして、小さい人も…… 皆等しく、王国軍装を身に纏い、胸に右手を水平に上げて軍令則に則った見事な敬礼を私に捧げてくれていたの。




「穴熊族プーイ以下、薬師リーナ様の護衛の任を拝し、王都ファンダルに着任いたしました」

「着任、確認に致しました。 ようこそ、王都ファンダルに。 第四〇〇〇護衛隊の皆さんが無事に着任したことを嬉しく思います。 宿舎として、王宮薬師院、外局、第十五号棟を割り当てられました。 設備も整っています。 ココを拠点とし、護衛隊の任を全うしてください。 糧秣は王都冒険者ギルドより、搬入されます。 申し訳ないのですが、炊飯は持ち回りと云う事で願いたいのですが、宜しいでしょうか?」

「了解しました。 ……リーナ、色々とすまないね。 大変だっただろ?」

「プーイさん。 みんなを纏めてくれて有難う。 大変なことは無いわ。 だって、貴方達が私を信じてくれているんでしょ? なら、その信に応えるのは、私の心のあり方だもの。 安らげる様に、頑張って作ったから…… なにか問題でも有れば、直ぐに言ってね。 直すから」

「ははは、リーナらしいわ。 そうだろ、ナジール」

「誠、その様ですな。 ラムソン殿、シルフィー殿もご健在か?」

「ええ、貴方達が来ることを、首を長くして待っていたわ。 特に、ラムソンさん。 身体がなまって仕方ないって、そう笑っていたから」

「ほう、鍛錬場もあるのか?」

「ええ、第十三号棟に有ります。 第十五号棟と通路で繋げましたから、何時でも使ってください。 瞑想は…… 第十五号棟の方が宜しいでしょうが?」

「ハハハッ! お気遣い、誠に!!」

「では、ご案内しますわ。 皆さん、こちらです。 あぁ、そうそう、皆さん以外に、第十五号棟に入室できるのは、第四〇〇特務隊の私たちだけですから、ご安心を!」




 皆を第十五号棟に案内するの。 設備は…… エスコー=トリント練兵場のものよりも上質にしたからね。 中に案内すると、皆さん目を丸くしていたわ。 清潔なお部屋、暖かくしてあるもの。 中央の炉も赤々と火が炊かれている。 炊飯設備と併設だけどね。

 糧秣はすでに王都冒険者ギルドから搬入されているわ。 それは、練兵場と同じ。 行く先が変わっただけだものね。 近くなって、ギルドの人も喜んでいたわ。 まぁ、ざっくりとだけど、護衛任務の輪番ローテーションも、決めておいたの。 各種族の方から、一名づつ、五班に分けて、任務、待機、訓練、休息って感じでね。

 四日ごとに輪番するようにしたの。 訓練だけ、前半、後半の二回。 あとは、一回づつ。 待機中の班は、即応出来るように、準備しておくこと。 訓練は、第十三号棟での訓練と、王城外苑での訓練。 休息は…… 休息よ。 何したっていいもの。 街に出るのも、その辺をブラブラするのも、お買い物に行くのも。 

 義勇兵だから、ファンダリア王国からお給料は出ないけれど、それじゃ、個人的なものを購入することが出来ないでしょ? だから、部隊運営費から、捻出したわ。 お小遣いみたいな感じで。 名目は福利厚生。 各人が必要と思われるものを購入し、後から受け取りと一緒に報告してくれたらいいって感じでね。

 その辺の便宜は、フルーリー様が整えてくれたの。 彼らが行っても、変な目で見られないようなお店を表にして渡してくれたんだもの。 ……殆んどが、フルーリー様の息のかかったお店なんだけれど、それは、伝えないわ。 気持ちよく、お買い物して欲しいもの。

 そうそう、フルーリー様と再会したのは、つい先日。 

 王都ファンダルへ、異動になった事とか、イグバール様に魔法草を定期的に送ってもらう事とか、なにより、また、お世話になりますって、ご挨拶をしに向かったのよ。




「リーナ…… お帰りなさい」

「フルーリー様、ただいま帰りました。 色々と、お心遣いして頂いて誠に……」

「あのね、そんな言葉遣いいらないの。 私の方がすべき言葉使いよ、それ。 リーナ。 いい? 私たちは友達でしょ?」

「えっ、ええ…… そうね、フルーリー様。 ……元気にしていた?」

「うん! 学院の授業もきつくなってきたけど、それよりもお父様のご指導、ご鞭撻がね…… 最大利益と、信用を得るための方策や策謀…… いいえ、陰謀ともいえる、モノの考え方。 ほんと、商人って言うのは、腹黒くならないと、やっていけない物なのよ…… 嫌になっちゃうわ」

「でも、フルーリー様は、とても楽しそう。 商いの事は、少ししか判らないけれど、きっと…… 奥が深いものなのでしょうね」

「「百花繚乱」の薬師様のように、慈善事業は出来ないもの。 従業員の生活もあるんだもの~」



 ニヤリって感じで、微笑まれるのよ、彼女。 えっと、慈善事業? あぁ、対価の事ね。 彼の地では、お金なんて、持っている人はごく少数。 だから、お金の換わりに、精霊様への感謝を頂いていたわ。 それは、とても良い対価なのよ。 だって、幸薄い辺境の地で、精霊様への祈りを捧げる人は少ないんだもの。 

 精霊様への祈りは、ご加護になって帰ってくる。 でも、それはとても薄いモノ。 とても、実感できるものではないわ。 でも、だからといって、祈りを捧げなければ、その薄い加護さえ頂けない。 ならば、対価を精霊様への祈りと成すのは、辺境への加護を増すことに繋がるの。 だから、私は願うのよ……


” 対価は、精霊様への祈りを捧げる事でお支払いください ”


 ってね。 小さな祈りが集まって、精霊様の息吹を呼び込み、大いなるご加護を与えていただけるように、そして、辺境の安寧が護られるように…… そんな、想いからなのだけれどもね…… さすがに商人さんには、理解し得無いかな……




「ええ、そうでしょうね。 そうだと、思いますわ」

「だから、これからも仲良くしてね。 第四軍とのお取引は、商売に箔をつけるし、信用も一杯して貰えるもの。 イグバール商会とのお取引で繋がった、あちらの男爵家の人達も、第四軍とお取引をして貰っていると云う事で、かなり信用してもらっているみたいだし」

「えっ、グランクラブ商会の信用ではないのですか?」

「お父様からね、私が差配する商売に関しては、グランクラブの名を使うことを制限されているの。 表立っては、フルーリー総合商会って事になっているわ」

「では、フルーリー様が商会長様なの?」

「ええ、そう。 私が商会長なのよ。 弱小の吹けば飛ぶような商会だけど、だんだんと信用もいただける様になったわ。 王都での信用状取引も出来るようになったし」

「それは、凄い」

「お父様の七光りよ。 信用状取引の帳簿のつけ方なんて、知らなかったんだもの。 一生懸命、勉強中よ」

「男爵閣下も有望な後継者を得られた…… と云うわけですね」

「まだまだよ、私なんか。 でも、そう期待されるように、努力は惜しまないつもり。 だって、そうなれば、もっとリーナの役に立てそうなんだもの」

「フルーリー様…… そんな……」




 真剣な眼差しで、私を見詰めるフルーリー様。 その瞳の中にある光の強い事ったら…… 言葉を紡ぐ彼女には、確固たる何かが存在しているようで…… すこし、身構えたわ。




「いいえ、そうよ。 リーナが居なかったら、私は死んでいた。 そう、死んでいたんですもの。 お父様からお話は聞いているわ。 お金や、信用は失っても、取り戻せる。 真摯に取り組み、耐え、忍び、そして得る。 けれども、命はそうは行かない。 一度失ってしまえば、二度と取り戻すことは出来ないわ。 だから、リーナ。 貴女には返せないほどの恩が有るの。 フルーリーとしてだけでなく、グランクラブ男爵家としてもね。 そこには、お父様も含まれるの。 だから、お父様は私を鍛え上げてくれているの。 ちゃんとした商人として、身を立てられるようにね。 わたしも、それに応えたいし、その根底に有るのは、貴女への感謝なのよ」

「フルーリー様……」

「リーナ。 私はね、政商の父を持ち、蝶よ花よと育てられた。 でも、生まれてきたのは、そんなモノのためじゃ無いと思うのよ。 精霊様が私をこの世に送り出してくれたその理由。 そして、命を奪われそうに成った時に、来てくれたリーナ。 全ては、精霊様の御意思だと、そう思うの。 だから、精霊様の御意思がリーナを助ける事にあるくらい、理解している。 貴女を助けること。 役に立つことは、貴女の精霊誓約を補佐することに違いないわ。 だからね、コレは私の精霊誓約。 違える事など出来はしない」

「御覚悟がお有りに成るというのですね」

「ええ、貴女と同じくらいには…… ちょっと、オコガマシイかな?」

「いいえ、精霊様がお喜びに成られると…… そう思います。 ” 貴女の道に光があらんことを ”」

「言祝ぎ、有難う。 これからも…… 宜しく」




 物凄く強い光を瞳に宿しながら…… はにかんだ笑顔のフルーリー様。 とても、可愛くて…… 崇高で…… 眩しかった。 お友達といってくれている、彼女をがっかりさせないように、私も精進しよう。 軍務に、民の平安に。 

 傷つき苦しむ者に、治癒を。 病に倒れし者に、安寧を。 精霊様とのお約束。 護って見せるわ!!

 グランクラブ商会…… いいえ、フルーリー総合商会を後にして、第十三号棟に戻って、第四〇〇〇護衛隊の皆さんの受け入れ準備の続きをしてたわ。 なんにも考えず、彼らの生活が豊かになるようにね。

 そして、週末を過ぎ……

 お仕事はじめの日になったわ。


 今年も後一月。 なにが出来るかわからないけれど…… 出来ることを確実にする為に……






 …………私は、前に向いて進むことを、” 朝日に誓った ” の。







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