その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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従軍薬師リーナの軌跡

幻視の未来…… 再び

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 明日は、安息日……



 そう、安息日なの。 今日はホントに疲れたわ。 結局、第十三号棟に帰って来たのは、もう真夜中を過ぎ、大きな月が中天に懸かる頃。 

 皆と買い物に行く「お約束」は、果たせそう。 でも、昼からね。 お願い、少し眠らせて…… あんな、高位の人達と遣り合ったんだもの…… 精神的に疲れ果てたわ。

 倒れ込む様に、ベッドに入る私。 ベッドの上で、ピクリとも出来ない。 シルフィーにも、昼までは、起こさないで欲しいと、お願いしていたしね。 微睡が、私の意識を刈り取ろうとするわ。 もう、無理。 本当に無理。

 僅かな時間の間に、色々な事が有り過ぎたわ。

 すでに、物事は動き出している。 高位の方々の「 視察 」の為に集められた、第四軍の各師団長様方も、すでに任地に向け出発された。 無理に無理を重ね、集合されたのだものね……

 私のエスコー=トリント練兵場への異動も、皆さんが全力をもって、実現される。 きっとね。 そう、決められたんだもの。 何時、命令が下るか、それは判らない。 でも、近日中に発令されるのは確か。

 王都ファンダルでの暮らしも、もう……後、僅かになるわ。

 皆さんに…… 良くしてもらった…… 皆さんに…… 

 ちゃんと…… お礼を、しなくちゃね…… 

 私の事を、大切にして下さったんだもの……

 こんな私の事をね……

 ありがとう…… 

 ありが…… とう……




 ^^^^^




 夢……?

 でも、とても現実感を感じるの…… それは…… まるで…… ラムソンさんと、初めて「お仕事」を一緒にした日の午後、明るい陽射しが降り注ぐ街路を歩き、そして、突然目の前に現れた、【未来幻視フトレヴィジオン】の様に…… 




 明るい、日の光の中を歩く、私。

 風がゆっくりと、私の体を撫でる様に通り過ぎる。

 纏めていない髪が、風に流され、銀灰色シルバーグレイの流れが視界に入る。

 止めどなく、あふれ出す様に、私の魔力が辺りに満ちて……

 手からも、光の粒のような、魔法の残滓が風に吹き散らされている。

 なんの魔法を使ったのか……

 それは、判らない。

 でも、極大の魔法を使った…… そんな感覚が私の中にはあったの。

 見渡す限りの、平原に青々とした草が生い茂り……

 その中で…… 大きく笑み零れていたの。

 精霊様の祝福が、形になり、澄み渡った天空から、白い羽を降らせていたわ……




 涙が零れ落ちるような、素敵な景色…… 追い求めていた、そんな風景。




 でも、まだ、やる事が有ったわ……

 命に代えても、実行しなくちゃならない、私の 「 使命 」




 大きく息を吸って……

 両の腕を大きく掲げ……

 紡ぎ出す、魔方陣は……




 ” ダメ!!!! その魔法は使ってはダメ!!! エスカリーナ!! 貴女が失われてしまう!!! ”




 大声が、私を止める。 泣き出しそうな…… 良く知っている…… でも、その声の主の事は…… 判らないの。 ただ、とても…… とても、私を心配しているのは、理解できる。




 でも……

   でも……

 お約束したんだもの。




 例え、私の生命力が削れ、失われようとも、” お約束 ” した、事なんですもの。

 止める声に、首を横に振る。

 大きく息を吸い、魔方陣を起動させる。





 大地に、

 見渡す限りの草原に、

 樹々が芽吹き……

 すくすくと、育ち……

 やがて……

 空を覆い尽くす様な……

 大森林に……



 育って行くの……


 会心の笑みを浮かべながら、






 私は……



   虚空に……



      霧散した。




 ^^^^^


 ハッとなって、眼が覚める。 動機が激しく胸を打っている。 なに? 今の夢は…… でも、それは、夢では無い事は…… しっかりと、私の記憶に刻まれているもの。




 〈 また、見てしまったのね、【未来幻視フトレヴィジオン】を 〉
 
「シュトカーナ…… ええ、見ました」

 〈 私にも、感じられたわ…… 優しく慈しみに満ちた感情だった。 前の時みたいな、破壊と滅亡では無く、再生の【未来幻視フトレヴィジオン】だったのでしょ? 〉

「ええ…… とても、満足して…… 虚空に消えました」

 〈 リーナはそれで満足でしょうけれども、残された者は、どう感じるのでしょう…… 貴女の幸せは、そこに有った? 〉

「私の幸せ?」

 〈 生きとし生ける者が、生を精一杯、享受すること。 愛しい者達と、共に歩むそんな時間。 貴女の見た【未来幻視フトレヴィジオン】に、そんな光景が有ったのかしら? 〉

「……」

 〈 不確定な未来を見せる、【未来幻視フトレヴィジオン】。 精霊様が見せる、選択の一つ。 「精霊の愛し児」のみが、見る事の出来る、一つの未来。 でも、思い出して…… 「精霊様」は、その未来を欲していないと。 貴女が満足を得るだけ? その未来に、貴女は居るの? ……よく、考えて。 もっと、素晴らしい世界への、選択が有る筈よ。 でなければ、「精霊様」は、その【未来幻視フトレヴィジオン】を、貴女に身せわしないわ…… よく、よく考えて…… リーナ 〉

「…………」




 ベッドに横になったまま、虚空を見詰めるの。 シュトカーナの言葉が、胸に突き刺さる。 そうね、あの場所は…… とても、清き場所。 そして、成すべきは、森の再生。


 私は……

   私は……



 森を再生できる事に、満足してしまった。

 残されし人々の事を……

 考えていなかった……

 愛してくれている人々の事を……




 精霊様は、何をお求めになっているのだろう……

 満ち足りた、あの情景の他に……

 何を……





 明け方の冷気が身を冷やしているわ。

 でも、指先一つ動かせない。

 深く…… 深く……

 考え始めるの。





 精霊様の御意思が、何処に有るのかを……





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