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学院での日々
学院舞踏会 (2)
しおりを挟むシーモア子爵には、とりあえず小部屋に入ってもらったの。 何か大変な事が起こったのかもしれない。 とりあえずは、良くお話を伺わなくてはいけないわよね。
「シーモア子爵様、如何なさいました」
「王宮からの指示なのよ!」
「王宮から? ――ですか?」
また、厄介な。 何かを押し付けられた事は理解したけれど、それが何かは、まだ判らない。 きっと、ウーノル殿下の事だと思うのだけれど……
「王宮から、殿下の集団に、マクシミリアン殿下を加えろと、御達しがあったの!」
「そ、それは…… ウーノル殿下への警備計画が……」
「そうなのよ! 入れるのは、マクシミリアン殿下と、アンソニー=ルーデル=テイナイト子爵の二人。 ウーノル殿下相当の警備を実施せよ……だって! こんなギリギリに何を言ってくるのかしら、ほんとにもう!!」
ちょっとした嫌がらせみたいな感じかしら…… でも…… そうね、思い当たる節はあるわ。 ドワイアル大公閣下の「影」がもたらした情報と、緊急報。 アレって相当、確度が高くないと出ない報告だって、スコッテス女史が言ってたもの……
つまりは、その報を王姉ミラベル=ヴァン=ファンダリアーナ殿下がお耳にされ、マクシミリアン=デノン=ファンダリアーナ殿下の身の安全を心配されたという事が考えられるの。 王族としては当り前の反応だし、警備を強化するのは…… まぁ、判らないでも無いわ。
でも、こんなギリギリに通達してくるなんてね……
なにか、「影」が何か重要な事でも掴んだのかしら。 ……高位に方々の情報の流れが良く見えないわ。 ウーノル殿下辺りは……それとなく知らされている筈なんだけれど。 でも、その事で何故シーモア子爵が慌てているのかしら?
「女性の数が足りないのよ!! お二人のパートナーが居ないのよ!!」
あぁ! そうだ。 その通りだった!!
ボールルームでの配置予定では、
ウーノル殿下と、アンネテーナ様
を中心に、
ノリステン子爵と、ベラルーシア様
ドワイアル子爵と、ロマンスティカ様
そして、
フルーリー様と、男装の私
が、周囲を固める筈だったものね……
そこに、マクシミリアン殿下と、テイナイト子爵が入るの? 今から組み入れるとなると…… ちょっと…… それに、お二方のパートナーとして選ばれる方が、万が一 ” 色付き ” だったら、こちらの警備計画に大きく穴が開く…… というより、如何したって無理よ。
中心に三組、その周りを三組で取り囲んで…… ダメだ…… 各ペアの間隔が開きすぎる…… 回り込まれたら、どうしようも無い……
「シーモア子爵様…… このままでは、計画が瓦解します」
「判っているわ、貴女の考えていた警備案を考えても、彼らを内側に入れないと、どうにもならないし…… 万が一って事もあるでしょ」
「ええ! 近くに来てもらう…… だけでは、無理なのですか?」
「王姉様よりの強いお達しなのよ。 ウーノル殿下だけを特別扱いしないようにって!」
「むぅぅぅ~~~」
ドワイアル大公閣下の「影」からの報告もある、パートナーチェンジの事もある…… その為にかなりの練習を積んだのに、ここに来て…… 警備計画が台無しになってしまう…… どうしよう!
コンコンコン
ノックの音がした。 誰なのよ、こんな大変な時なのに!
「リーナ様、フルーリーに御座います。 少々宜しいでしょうか?」
「え、ええ…… どうぞ」
扉が開き、フルーリー様が数人の侍女の方を連れて見えられた。 とてもお美しい姿で。 初々しい乙女って感じなの。 何もないお部屋が途端にぱぁぁって明るくなったような気がしたの。 にこやかな微笑みを浮かべならが近寄ってくるフルーリー様。 その笑顔に、ちょっと困惑したの。
「どうかなさって?」
「ええ…… 突然、王宮から、マクシミリアン殿下と、テイナイト子爵様の警備をと、御達しがありましたの」
「…………それは、難しくありませんか?」
「とても……難しくなります」
私の困惑が伝わったのか、フルーリー様も困った顔をされていたの。 シーモア子爵がこっそりした感じで、私達の間に入って来て下さったの。
「あのね、フルーリー…… 困っているのはね、女性の数が足りないって事なの。 マクシミリアン殿下と、テイナイト子爵なら、ウーノル殿下に付いていけるわ。 ちょっと怪しいけれど。 でもね、そのパートナーは如何かしら…… 誰を連れてきても、貴方たちほどには研鑽を積んではいないわ。 きっと、足を引っ張る。 隙が出来る…… そこが問題なのよ」
シーモア子爵の言葉を聞いて、フルーリー様が手を顎に当てて、何かを考えてらっしゃるの。 なんだろう…… 壁に掛かる時計をちらりと見て、連れて来たメイドさんに目を走らせて…… そして、言葉を紡ぎ出されたの。
「女性が二人必要と云う事ですね。 ならば、ここに『 二人 』居りますわ」
「えっ、でも…… リーナにはドレスが……」
「グランクラブ商会の底力をお見せ出来ます。 ブリューレ、直ぐに屋敷に戻りなさい。 そして、お父様にお伝えなさい。 アレが必要になりましたと。 アデレーと、マーグリッドを連れてきて。 あと、わたくしの部屋の宝石棚の…… そうね…… 六番、十八番、それと、十九番、抽斗ごと持ってきて。 さぁ! 早く!」
そう伝えられるが早いか、一人の侍女さんが小部屋を出て行ったの。 にっこりと微笑んだのは、フルーリー様。 なんか、黒く感じるのは、私の感覚がおかしくなったのかしら。
「リーナ様。 この時を待っていたのですよ、わたくし。 リーナ様は、きちんと装われますと…… 楽しみですわ」
「な、なにをお考えでしょうか、フリーリー様」
「男装のリーナ様は、それは凛々しくお側に立てるだけで、とても胸躍る事でした。 でも…… リーナ様は女性なのです。 学院舞踏会は一生に一度。 それも、そこまで格式張っていない、わたくしの様な庶民に近いモノでも参加できる、公式の舞踏会。 ならば、コレをデヴュダントとしても、おかしくはございませんわ。 勿論、十五歳の本物のデヴュダントも、考慮に入れてはい居りますが、その前哨戦と云う事。 女性に生まれて来たのですから…… 精一杯の装いをしなくては!!」
落ち着いた声で、そう静かに口にするフルーリー様。 なぜか、とても、怖いですよ…… ホントに…… シーモア子爵もなぜか頷いていらっしゃるのは…… 私には理解できない共感を、フルーリー様の憶えられたのか、それとも、女性が二人確保できたのが嬉しかったのか……
^^^^^
一刻もしないうちに、先ほど出ていかれた侍女の人と、もう二人の方が帰ってらしたのよ。 大きな荷物を数箱持ってね。
「さぁ、リーナ様! 蛹が蝶になる時ですわ。 シーモア子爵様、誠に申し訳ございませんが、男性の方ですので、お部屋からは……」
「ええ、判っているわ。 でも、リーナのエスコートはしますわよ」
「それは、嬉しいこと。 先生の恥に成らぬように、装いますので、扉の外でお待ちくださいませ」
「そうね。 楽しみにしているわ」
シーモア子爵はそう言って、お部屋を出ていかれたの。
あ~~ ちょっと待ってね。
つまり……
先日採寸したばかりなのに……
ドレスが出来上がっているっていうこと?
最速じゃないの…… 無茶ぶりもいい所よ……
前世で…… 大公家で我儘言った時よりも、早く出来上がるって……
流石……
政商グランクラブ商会の会長様。
怖いわけだ……
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