竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー

文字の大きさ
上 下
15 / 18

15

しおりを挟む
 シーディは大広間でユニシスと二人きりとなった。

「シーディ、先日の組紐のことだが、スンから話は聞いた。私はお前を誤解してしまっていたようだ。改めて謝罪したい。すまなかった」

 そう言ってユニシスが頭を下げるので、シーディは慌てた。

「陛下、頭を上げてください。陛下の立場上疑っても仕方のないことだったと思います」

 シーディがそう答えると、ユニシスは頭を上げてシーディに微笑んだ。

「許してくれるのか? ありがとう」

 そうしてしばらく沈黙が続いた。ユニシスはゆっくりとシーディに近づき、シーディの手を取った。

「私は、シャンディと私のシーディ以外には誰も愛さない、いや、誰も愛せないと思っていた。だが私は今、お前を愛し始めている。だからこそ、お前が裏切っているかもしれないと思った時、とても動揺してしまった。だからあれは完全な八つ当たりだな。本当に悪かった」

 シーディは驚いてユニシスを見上げた。じっと見つめるユニシスの瞳をシーディも見つめ返すと言った。

「本当に、私がいけなかったのです。傷つけるようなことをしてしまいましたから」

「いや、私が悪い」

「いいえ、違います」

「いや、私が悪い」

「いいえ」

 そこで二人無言になると、しばらくして声を出して笑い合った。そこでユニシスが口を開く。

「シーディ」

「はい」

「できればお前には後宮に残って、私のそばにいてほしい」

 シーディはしばらく考えた。後宮に残っても自分はいずれ死んでしまう運命である。責任感の強いユニシスはまた傷つくことになるかもしれない。

 それに、以前と同じように飽きられてしまったら? 

 次は大人しく自分から身を引くことはできないだろう。あの時のあの判断は身を引き裂かれるような気持ちだった。もう二度とあんなにつらい思いはしたくない。

 次にそうなった時、シーディは嫌がるユニシスに追いすがり捨てないでと泣き叫んでしまうかもしれない。

 ならば、そんな深みにはまってしまう前にここを去るべきだろう。

 それに村に帰れば、愛する家族に見守られながら最期を迎えられる。それだけでも十分幸せだった。

 シーディは意を決して答える。

「陛下、申し訳ありません。私には村に残してきた家族がいます。家族との平和な生活が私にはかけがえのないものなのです」

「そうか」

 そう答えるとユニシスは一瞬つらそうな顔をしたが、微笑むとそっとシーディの手を離した。そして、シーディに背を向ける。その背中に向かってシーディは頭を下げた。

「本当に申し訳ありません」

 ユニシスは振り返らずに言った。

「いい、わかった。もう行け」

 シーディはもう一度頭を下げると、その場を後にした。




 翌日、候補たちはスエイン以外それぞれの家に帰されることになった。

 タイレルは今回の悪事に荷担してはいなかったものの、スエインと一緒に行動しシーディを侮辱したと言うことで今後宮廷への立ち入り禁止、父親には選定の候補に入れないという決定が下された。

 選定候補に入らないということは、絶対に位を得られないことを意味している。タイレルは宮廷でシーディを侮辱したことを後々まで後悔するだろう。

 サイは本当にすべてに関心がなかったようで、一度廊下ですれ違った時にシーディに声をかけてきた。

「お互いに巻き込まれて災難だったわね。お疲れ様」

 それだけ言うと、さっさと故郷へ帰っていった。

 シーディも翌日には村に帰ることになり、リンは最後の最後まで泣きじゃくってシーディを抱きしめ離れたくないと言った。

「この三ヶ月本当に楽しかったですぅ。うぐっ! シーディ様が帰ってしまわれるなんてぇ! 嫌でずぅ~」

「リン、いつか私の村に遊びにきて。その時は妹や弟がきっと出迎えてくれるはずよ?」

 その言葉にさらにリンは声を上げて泣き始めた。シーディはしばらくリンを抱きしめ、その背中をさすった。

「なんだ? 今生の別れじゃあるまいし。コジ村なら、私がユニシスに馬車を借りていつでも連れてってやるから泣くな」

 そう言われて、リンは顔を上げてスンの方へ向き直ると言った。

「でもぉ、シーディ様は……」

 リンに病気のことを暴露されそうだと思ったシーディは、慌てて言った。

「スン姉さん! 本当に色々お世話になりました。ありがとうございます」

「そうだな、なかなか私も楽しかった。ところで、ユニシスの奴は来てないのか?」

 シーディは苦笑する。来るはずがないからだ。そんなシーディを見て、スンも苦笑する。

「なんだ、またケンカか? ユニシスのやつもしょうがないな。連れてくるか?」

 シーディは慌てて答える。

「いいんです、陛下もお忙しい方ですし仕方ありません」

「そうか、ならいいが」

 シーディはスンの手を取った。

「本当に色々ありがとうございました。ここでお会いして、お話できて一緒にみんなで過ごせたことを私はずっと忘れません」

「そうか。私も少し寂しくなるな」

 そんな二人の会話を横で聞いていたリンがまた泣き始める。スンはリンの頭を撫でた。

「では行きましょう」

 後ろからリューリに声をかけられ、シーディはスンとリンに手を振り馬車に乗り込んだ。二人はいつまでも手を振ってお見送りしてくれた。





 村に帰ると家族が盛大に出迎えてくれた。そんな家族に病気のことを話すのはつらかったが、最初は両親に話しタオとサーシャには折を見て話すことにした。

 シーディは動けなくなるまではなるべく普通に生活していたいとお願いして、家のことも率先してやった。そんなシーディの意思を尊重し、両親ともいつも通りに接してくれていた。

「シーディ、もう水瓶に水がないみたい」

 ジャコウにそう言われたシーディは、水を汲みに外に出た。

 この日はとても夕焼けが美しく、それを眺めながらゆっくりと歩く。

 沢に着くと背負っていた水瓶を地面に下ろし、鼻唄を歌いながら沢で屈んだところで、横からその手を掴まれる。

 シーディが慌てて見上げると、そこにはユニシスがいた。

 なぜここに?!

 驚きながらも、咄嗟に地面に膝を突くと頭を下げる。

「いらっしゃるとは知りませんでした。申し訳ございません」

 ユニシスはそんなシーディを無理やり立たせて言った。

「シーディか?」

 質問の意図がわからず、ユニシスはどうしてしまったのだろうかと困惑しながら答える。

「はい? あの、そうですが……」

 するとユニシスはシーディの両肩を掴む。

「そうではない、お前は私のシーディか?」

「あの、仰っている意味がわかりません」

 ユニシスはシーディの肩から手を離すと、がっかりした顔をした。

「そうか、わかった。すまない」

 なにをしに来たのだろう? まさか自分を追いかけて来たのだろうか?

 そんなことを考えながらユニシスを見つめていると、ユニシスは力なく微笑んで言った。

「もしかしたらと思ったのだが、何も起こらない。やはり違っていたようだ」

 そんな悲しそうな顔をするユニシスを見て、胸が締め付けられるような気持ちになった。

 今すぐにでも『私は本当は牡丹なのです。貴女のシーディなのです!』と叫んでしまいそうなのをぐっとこらえる。

 ユニシスはじっと見つめるシーディから視線を逸らし、こちらに背を向けた。シーディはユニシスへの気持ちを断ち切るように言った。

「ユン様、もう暗くなりますからお気をつけてお帰りください。さようなら」

 そして、シーディもユニシスに背を向け水瓶を掴んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖なる乙女は竜騎士を選んだ

鈴元 香奈
恋愛
ルシアは八歳の時に聖なる力があるとわかり、辺境の村から王都の神殿に聖乙女として連れて来られた。 それから十六年、ひたすらこの国のために祈り続ける日々を送っていたが、ようやく力も衰えてきてお役御免となった。 長年聖乙女として務めたルシアに、多額の金品とともに、結婚相手を褒賞として与えられることになった。 望む相手を問われたルシアは、何ものにも囚われることなく自由に大空を舞う竜騎士を望んだ。 しかし、この国には十二人の竜騎士しかおらず、その中でも独身は史上最年少で竜騎士となった弱冠二十歳のカイオだけだった。 歴代最長の期間聖乙女を務めた二十四歳の女性と、彼女より四歳年下の誇り高い竜騎士の物語。 三島 至様主催の『聖夜の騎士企画』に参加させていただきます。 本編完結済みです。 小説家になろうさんにも投稿しています。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました

楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。 王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。 アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。 薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。 魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。 ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。 婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。

命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。> 全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...