悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第六十三話 パウエル侯爵の来訪

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 その日からこの奇妙なお茶会義は、しばらく続くこととなった。
 アルメリアは、午前中に自身の領地の見回りをし、その後フィルブライト公爵家への訪問。そして登城し城内の見回り。午後からお茶会議がルーティンとなりつつあった。
 午後のお茶会義には初日に訪れたもの達でメンバーがほぼ固定されていたが、時々そこにルーファスも加わった。先日ダチュラについて問い詰めてしまったし、ムスカリがいることで遠慮してルーファスはもう二度と来ないかもしれない、と思っていたアルメリアは、意外に思った。

 お茶会義では、まつりごとの話をするときもあれば、出席者のここ最近の出来事の話や社交界での噂話、ルーカスの治療経過や、持ち込まれた美術品の鑑賞をしたり、花を愛でたりもした。
 セントローズの日に行う演劇の話しも出て、恐ろしいことにムスカリもアドニスも参加することになった。
 だが、台本を書くことを任されたアルメリアは、ムスカリをどんな役に配置し、どんな芝居にするかわくわくした気持ちでいた。

 ムスカリは最初に言った通り、アルメリアの執務室で言動が礼節を欠いたものでも、一切文句を言わなかった。
 そのお陰か、最初は遠慮しがちだったスパルタカスやルーファスまでも遠慮なしに意見を言うようになっていた。

 そして、お茶会義では重要な話をすることもあり、公でこのお茶会義の話をわだいにすることもあったので、自然とお茶会義のことを隠語のように仲間内ではアブセンティーと呼ぶようになっていた。それは殿下がいない存在なので『いない者』からもじった名前だった。

 アブセンティーが始まってから一ヶ月も過ぎると、各地に兵士の募集がかかった。アルメリアはそれを聞いて、不正を働いていた兵士の処分が終わったのだろうと思った。そして、城内に自分の息のかかった者を入れるべく、自身の領地の兵士要請学校の卒業生を送り込んだ。彼らは兵士に特化した訓練を受けていて、成績も優秀だったため次々に面接に合格した。

 一方でルーカスの治療は順調だった。だが、添え木の固定に限界を感じたアルメリアは、包帯を石膏に浸けてギプスを作るように命じ、何度も試行錯誤して一ヶ月後にはそれを完成させることができた。もちろんギプスカッターの開発も忘れることなく行った。
 松葉杖の製作は、牽引装置の部品の作成依頼をしたときに、同時に家具職人のエリックに依頼して作ってもらっていた。それに追加で、今後ルーカスに後遺症が残らないとも言いきれず、ロフストランド杖の製作も頼んだ。
 だが、そんなアルメリアの心配をよそにルーカスは順調に回復していった。フィルブライト公爵から治療を任されていたアルメリアは、この結果にほっと胸を撫で下ろした。

 一ヶ月もの間しっかり足を牽引し、安静を守っていたお陰で骨がしっかりとくっつき始めたので、牽引装置を取り外し、開発仕立てのギプスを巻き、リハビリを開始しすることにした。そのお陰でルーカスは、なんとか松葉杖を使えば自力で歩けるようになったところだった。

 そんなある日、パウエル侯爵からアルメリアの執務室を訪ねるのに都合の良い日付はいつか? とお伺いがあった。リアムからパウエル侯爵が訪ねてくるかもしれないと聞いてから、すでに二ヶ月ほどたっていた。
 恐らくリアムたち騎士団が予想している以上に、騎士団内部の不正や兵士の補充に時間がかかってしまったのだろう。
 アルメリアはパウエル侯爵に日付はいつでも良いが、時間指定だけさせてもらった。このときのアルメリアは多忙を極めていたため、午前中の城内の見回りを諦めることにして、その時間をパウエル侯爵との時間にあてることにした。

 指定された当日、パウエル侯爵はリアムを伴いほぼ時間通りに、アルメリアの執務室へ訪れた。

「パウエル侯爵、わざわざこちらまでお越しいただいてしまって、申し訳ありません。わたくしがそちらに伺っても宜しかったんですのよ?」

 笑顔でそう言って出迎えるアルメリアに、平身低頭でパウエル侯爵は答える。

「いいえ、アドバイスを求めている方が伺うのが当然ですから。それに、こちらの執務室は特殊な扱いでして私の執務室よりも秘密保持力は高いですから」

 そう言って微笑んだ。確かに、毎日のようにムスカリが通っていているのだから、アルメリアの知らないところで、そういった扱いになっていてもおかしくなかった。
 パウエル侯爵はとても物腰が柔らかく、温和な雰囲気をまとっていた。一見しただけでは、国の参謀を勤めている人物には見えないほど、目立ったところがない。どこへ行ってもすぐにその場に馴染めるような、そんな印象の薄い人物だった。その顔をよくよく見ると、不意に見せる表情はリアムに似ていたが、並んでいても親子とは思えないほど似ていなかったので、リアムは母親に似たのだろうとそんなことを思った。
 パウエル侯爵は促されソファに腰かけると、早速本題に入った。

「殿下から伺っていますが、騎士団の編制について、今一度説明をいただけますかな?」

 アルメリアはムスカリに話した内容を、今度はもっと細かくパウエル侯爵に説明した。そして、説明の最後に付け加える。

「殿下はどう仰ったかわかりませんけれど、あくまで意見であってそうしなければいけない。と、いうことではありませんの。それに、わたくしは騎士団について門外漢ですので、参考程度に聞いてくださればいいと思ってますわ」

 パウエル侯爵は頷く。

「いいえ、騎士団のことを知らないと仰るがこれだけのことを考え付くのは、本当に素晴らしいことです。ではこれから兵士たちの力を見極め、隊を編制せねばなりませんね」

 アルメリアは頷く。

「弓や剣術などに特化した班を作るなら、班分けしてから特訓すればいいですわ。それに城内の兵士たちのことでしたら、わたくし少しは協力できるかもしれません」

 その意見にパウエル侯爵は不思議そうな顔をした。アルメリアはそれに答える。

わたくしはよく城内を散歩して歩いてますの。それで兵士たちとも挨拶をして、言葉を交わしたり訓練を見ているうちに、少しは彼らの特徴がわかるようになりましたの」

 今まで感情を表に一切出さなかったパウエル侯爵が、このとき始めて驚いた目をアルメリアに向けた。アルメリアは苦笑しながら答える。

「恥ずかしいことですけれども、暇だったので毎日城内をふらふらしていましたから。その成果ですわ」

 パウエル侯爵は元の温和な表情をすると、微笑んで頷いた。
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