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第三十六話 共用ドローイング・ルーム

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 すると視界にペルシックが入る。そちらをみると、ペルシックはドアに視線をちらりとやり、軽く頷く。スパルタカスかリアムが来たのだろう。それに答えアルメリアも頷くと、ドアから入ってきたのはリアムだった。

「こんにちはアルメリア。今日もお茶の時間をご一緒させてもらえますか?」

 部屋に入りルーファスに気づくと軽く会釈し、アルメリアを見つめた。

「リアム、こんにちは。今日はルフスと共用のドローイング・ルームへ行く予定なんですの。それでもよろしいかしら?」

「もちろんです。でもなぜ共用のドローイング・ルームに行かれるのですか? もしかして私室に不備でも? でしたら私が対処いたしますから、おっしゃって下さい」

 アルメリアは慌てて首を振り、それを否定する。

「違うんですの、共用のドローイング・ルームで少しは他の方とも交流できたらと考えていましたの」

 それを聞いて、リアムは一瞬驚いた顔をしたが気を取り直したように微笑む。

「アルメリア、私はその必要はないと思います。なにもしなくとも、君のことは周囲の者も噂で聞いて興味津々で見ていますからね。今はスパルタカスや私やアドニスが近くにいるので遠巻きに見ているだけですが、少しでも油断をすればすぐに群がって来るでしょう」

「油断、ですの? 油断もなにもわたくし周囲を警戒したことがありませんわ。でも誰もこの部屋を訪ねてこないのですから、他の方たちが わたくしを気にしているとは思えませんわ」

「いいえ、そういうことではないのです」

 リアムの背後に立っているリカオンが、笑いをこらえている。アルメリアはそれも気になったが、放置してリアムとの会話に集中した。

「わかりましたわ。でも今日は他の方と交流できなくても良いので、行ってみたいですわ」

「もちろんです。私は君がやりたいことに対して、反対するつもりは毛頭ありません。むしろその逆です。できれば君にはいつでも思うように行動して欲しいと思っています。ただ、必ず私たちが側にいるときだけにして欲しいだけなのです」

 やはりどんなに色々なことを成し遂げても、外見は少女である。みんな年下の少女を心配する兄のような気持ちなのだろう。アルメリアはそう思い、それに対して感謝しなければならないと思った。

「わかりました、気を付けますわ。心配してくださって、ありがとうこざいます」

「いいえ、敬愛してやまない女性に対してとる当然の行動ですから、お気になさらず。では、行きましょう」

 リアムは右手を自身の胸にあて、左手を差し出し微笑んだ。

「そう言っていただけるなんて、光栄ですわ」

 にっこりと微笑むと、アルメリアは差し出された手に恭しく自身の指先を添えた。リアムはぎゅっとその指をつかむと、熱のこもった瞳で見つめた。アルメリアは、驚いてリアムの瞳を見つめ返した。

「お嬢様、ドローイング・ルームに行かれるんでしょう? 急ぎましょう」

 突然背後からリカオンに声をかけられ、アルメリアは慌ててリカオンを見た。

「そうですわね、早く行きましょう」

 そう言って、ルーファスの方を見て微笑んだ。

「ルフスも、行きましょう」

 そう言って一行は歩き始めた。アルメリアは先ほどのリアムは一体どうしたのだろう? なにか彼の気に障ることを言ってしまっただろうかと考え、じっとリアムを見つめた。リアムはそんなアルメリアに気づくとこちらを軽く振り返り微笑んだ。その様子ははいつも通りに見えた。気のせいだったのだろうと、気を取り直しドローイング・ルームへ向かう。

 ドローイング・ルームにつくとすでに何人か集まっており、お茶を片手にリラックスして会話を楽しんでいる貴族たちの姿が見えた。
 アルメリアたちがドローイング・ルームに入ると、それに気づいた貴族たちが突然静かになった。

「アルメリア、あの一角が空いているようです。行きましょう」

 そう言ってリアムは空いている窓際のテーブル席にアルメリアをエスコートした。全員が席に着くと共用ドローイング・ルーム専属のメイドがすぐにやってきた。

「そのままお座りになってお待ちください。ただいまお茶の準備をしております」

 しばらく待たされたあとお茶が供された。

「本日はパイロープ産のダージリンをご用意いたしました。ファーストフラッシュですので、そのままなにもいれず茶葉本来の香りと、爽やかで若々しい風味とほどよい渋みをお楽しみください」

 そのメイドが下がると、今度は他のメイドがトレイに数種類のひとくちサイズの焼き菓子を乗せて持ってきた。

「お好きな物をお選び下さい」

 その中から各々がお菓子を数個づつ選ぶと、それを配り一礼して下がっていった。
 アルメリアはまずティーカップを取り、お茶の香りを楽しむ。

「希少な茶葉ですわね。ここで楽しめるなんて思ってもみませんでしたわ」

 ふと隣に座っているルーファスを見ると、昼食を取ったときのように、またも緊張した様子を見せていた。

「ルフスもせっかくなので楽しみましょう」

「はい、お気遣いありがとうこざいます」

 そう言って微笑んだ。

「そういえば、今日はスパルタカスはお茶に来ませんでしたわね。司教たちの話し合いの警護についているのかしら?」

 ルーファスは少し考えてから答える。

「いいえ、教会の行事で騎士団が警護に付くことはありません。今日も警護はありませんでした」

「そうなんですの」

 アルメリアはやけに静かになった反対側を向くと、リアムはなにか考えている様子だった。

「どうされましたの?」

「いえ、私も何度かこちらを利用したことがあるのですが、こんなに希少なお茶をこちらでいただいたことがありませんでしたから、驚いていただけです。アルメリア、私を心配してくれたのですか? だとしたら、嬉しいです」

 アルメリアは微笑み返す。

「もちろんですわ。リアムもいつもわたくしを気にかけてくださるでしょう? それと同じですわ」

「本当に私とアルメリアが同じ気持ちなら、そんなに嬉しいことはないのですが」
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