悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第三十五話 美しいアルメリアの手

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 そう言って立ち上がろうとするのを、アルメリアは引き止める。

「ルフス、お待ちになってくださるかしら? 今日お暇なら、お願いがありますの。わたくしとお茶の時間に共用のドローイング・ルームにご一緒してくださらないかしら? お茶の時間まではこちらでお過ごしになられればよろしいですわ」

 かなり強引な誘い方だったが、ルーファスは嫌な顔一つしなかった。

「よろしいのですか? ご迷惑じゃ」

「いいえ、こちらこそ迷惑ではありませんこと?」

 ルーファスは首を振り

「私も行ってみたいとは思っていたのです。ですがやはり、気が引けてしまって行けずにいたので、ご一緒できれば嬉しいです」

 そう言うと微笑み返した。

 アルメリアは今朝、アドニスから『領内での用事で、本日はお茶をご一緒することができません』と連絡を受けていた。なので、共用のドローイング・ルームへ行くにはちょうど良い機会だと思っていた。
 どういうことかというと、数日前からアドニスには共用のドローイング・ルームに一緒に行ってもらえないか頼んでいたのだが、なんだかんだ言って断られていたからだ。アドニスは恐らく共用のドローイング・ルームが嫌いなのだろう。

 リアムやスパルタカスに頼んでも良かったのだが、優先的にアドニスとお茶をすると約束をしている手前、アドニスを無視してリアムやスパルタカスに付き添いを頼むのは流石に気が引けた。
 ならば無理に一緒に付き添いをお願いして行くよりも、アドニスのいないときに行ってしまった方が良いだろうとアルメリアは考えていた。

 それに今ここでルーファスを誘ったのは、共用のドローイング・ルームへ行ったときに教会の人間と一緒にいれば、信頼感があり他から声がかかりやすくなるのではないかと思ったからだった。

 胸の前で両手を合わせ、アルメリアは満面の笑みを作る。

「良かったですわ。ではお茶まで時間もありますし、それまで話し相手になってくださると嬉しいですわ。わたくしできればもっと教会のことを知りたいんですの」

 先ほど見た、教皇とダチュラが一緒にいたという事実も気になっていたし、それとなく色々探りを入れたかった。

「私が話し相手で良ければいくらでも」

 ルーファスは胸に手をあてて軽く頭を下げた。

「では、それまでの間わたくしのドローイング・ルームでゆっくり過ごしましょう」

 アルメリアたちは、ゆったり話ができるよう場所を移した。専用のドローイング・ルームでソファに腰を下ろすと、アルメリアは早速聞きたかったことを質問した。

「そういえば、教皇がいらせられているのを見かけましたわ。教皇も話し合いに出席なさるの?」

 ルーファスは驚き、少し考えたあと答える。

「いいえ、話し合いに倪下はおいでにならないはずです。私は今日倪下が、こちらへいらせられていることも知りませんでした。普段はロベリア大聖堂でお過ごしのようですから」

「では、今日は特別な用事があったのかもしれませんわね。それに、女性とご一緒だったのもとても印象的でしたわ」

「倪下が女性と? それは私には分かりかねます」

 渋い顔をして、これ以上何も話さないと言わんばかりの雰囲気になったので、アルメリアはすぐに話を変えた。

「そうですわよね。ところで、先日お約束したことを覚えてらっしゃるかしら?」

 しばらく思案したのち、ルーファスは何事か思い出したように、笑顔になった。

「孤児院へお誘いしたのでしたね。アルメリアの都合のよろしい日を教えていただければ、私の方は日程を調整いたします」

「いつでもよろしいんですの?」

「はい、大丈夫ですよ。大したおもてなしもできませんが」

 そう言ってルーファスは苦笑する。

「それで良いんですの。いつもの自然体の子供たちの様子を見たいのです。だからあえて子供たちにも貴族が来るということは伝えないで欲しいんですの。その日一日は貴族のアルメリアではなく、お手伝いのアンジーとして過ごしますわ」

 信じられないとばかりに、アルメリアをしばらく見つめると、ルーファスはやっと口を開いた。

「そこまでされるのですか? でも子供たちがアルメリアに失礼なことをするかもしれませんし……、お手伝いなどさせてしまっては、お怪我をするかもしれませんし」

 ルーファスはとても困った顔をした。アルメリアはくすくすと笑うと

「心配なさらないで、そんなことでわたくし子供たちを罰したりなんてしませんわ。それに、昔からわたくし農園に出てますので、手には細かい傷痕がいくつもありましてよ? だから多少怪我をしても、まったく問題はありませんの」

 この世界では、令嬢の肌は透明感のある傷ひとつない肌が当たり前で、それがもてはやされてもいた。当然令嬢たちは自分の肌を美しく保つことに心血を注ぎ、躍起になっていた。そんな中、アルメリアは結婚する気もなかったので全く気に止めず特別な手入れはしていなかった。
 唯一お手入れとして蜜蝋を塗っていたぐらいである。しかもこれも肌を綺麗に保つために塗っているわけではない。ロベリア国は乾燥が酷い土地で、とにかく肌が乾燥する。そこで塗れるものが蜜蝋しかなかったので、仕方なく塗っているだけだった。
 ただ、日に焼けると水ぶくれになる体質だったので、日焼けだけは十分注意していた。

 ルーファスはアルメリアの手を見つめる。

「いいえ、アルメリア。傷痕など気にならないぐらい白くてとても美しい肌をしています。大変気を使ってらっしゃると思っていたのですが、違ったのですね」

 アルメリアは自分の手の甲を改めてまじまじ見つめる。日焼けしないよう細心の注意を払っているためか、とにかく白い。

「ただ、白いだけですわ。それより、日程ですけれど日付の候補をいくつか上げて、教区へ使者を送りますわね」

「そこまでおっしゃるならわかりました、お待ちしております」
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