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第二十七話 ルーファスの慰問
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ルーファスは笑顔でゆっくり頷く。
「もちろんです。正直、こういったことに興味を持ってくださる方は少ないので、嬉しく思います。では、門衛棟に行きましょう」
そう言うと、門衛棟に歩きだした。アルメリアはルーファスの後ろを、スパルタカスにエスコートされて歩いた。門衛棟の前に着くと、神官たちが手紙の束や紙細工を兵士へ手渡していた。アルメリアがそれを興味深げに見ていると、それに気づいたスパルタカスがアルメリアに向き直り説明する。
「以前、教会の孤児院へ騎士団が慰問に訪れたことがあったのです。勧誘もかねてのことなので、そこまで誇れるものではないのですが。それ以来孤児院の子どもたちが我々に紙細工を作ってくれたり、手紙を書いてくれるようになったのです。こうして交流するうちに、私たちは彼らの感謝の言葉に幾度となく励まされました。毎週この手紙を心待にしている兵士もいます」
するとルーファスも振り返りこの会話に加わる。
「私たちも騎士団には感謝しているのです。この前の祝祭の日には、騎士団の方々が来られて我々のためにお芝居をしてくださったのですよ。騎士団には女の方がいらっしゃらないので、兵士の方が女性の役をしてくださって……」
「いえ、あの芝居は酷かったですね」
スパルタカスが苦笑すると、ルーファスは首を振る。
「子どもたちには大好評でしたよ」
騎士団と孤児院でそんな交流を行っていることを、アルメリアは初めて知った。
「素敵なことをされているのですね、私全く知りませんでした」
すると、スパルタカスとルーファスは顔を見合せて微笑むと、二人ともアルメリアに向き直る。
「閣下が知らなくて当然です。この交流は私とルフスが数年前に始めたばかりなのです」
「えぇ、そうなんですよ。私が慰問で訪れた際にスパルタカスに『何か騎士団にできることはないか』と相談されましてね。そう言うことなら、と始めたことなのです」
「とても素晴らしい取り組みだと思いますわ」
アルメリアが感心してそう答えると、スパルタカスは恥ずかしそうに答える。
「閣下のされていることに比べればこんなこと……。すみません、まだ案内の途中でしたね。どうぞこちらへ」
スパルタカスはアルメリアの手を引いて、門衛棟の入り口へ向かった。
中は兵舎とあって埃っぽく、汗の匂いと混ざった独特の香りがした。入ってすぐに縦長の大きな部屋があり、そこに三段ベッドがところ狭しと並べられている。
「こちらは三階建てになっていて、二階と三階もほぼ同じ作りで、ここには交代で常時400人程詰めております。家のない者もいるので、ここで生活している者も少なくないですね。ここにいれば衣食住に困ることはまずありませんので」
そう言うと苦笑した。
「貴族でない騎士の称号を持つものたちには、居住できる個室が特別に与えられているので、結婚し所帯を持たなければ住むのには最適です。私は統括なので、ご存じの通り別棟に執務室が与えられています。それにしても他の貴族に比べれは小さな部屋ですが、私には十分すぎる広さです」
そう言って微笑んだ。そして、部屋の奥に視線を移した。
「奥には吹き抜けの食堂と厨房があって、この城全体の兵士たちの胃袋を満たしています」
そう言って案内を受けている間も、遠巻きに兵士たちが好奇の目でこちらを伺っている。そんな兵士たち一人一人に神官が声をかけていた。
「先日おっしゃっていた、膝の調子はどうですか?」
「お子さんもう四つになられたんでしたよね?」
など、プライベートなことまでよく知っているような会話をしている。
「神官の方と兵士の方は仲がよろしいんですのね」
アルメリアが驚いて呟く。
「いえ、こんなにも親身になって神官たちが話を聞いてくれるようになったのも、ルフスが来るようになってからなのです。彼は若いが本当に素晴らしい人物ですよ」
「本当に素晴らしい方ですわね。こんどお茶にお誘いして教会のことも色々聞きたいですわ」
「わかりました、ルフスに伝えます。彼も喜ぶでしょう」
そう言うとスパルタカスは複雑そうな顔をした。そして気を取り直したように付け加える。
「その時は私もご一緒させていただいてよろしいですか?」
「もちろんですわ」
アルメリアが笑顔で答えると、スパルタカスはほっとしたような顔をした。
アルメリアがふと周囲を見ると、更に多くの兵士がこちらを伺っているようだった。
「私たちがここにいると、せっかくの慰問ですのに兵士のみなさんがゆっくりできませんわね、慰問の様子は見れましたし、移動しましょうか」
「では、他の場所も案内いたしましょう。次は外壁の回廊を歩いてみますか?」
アルメリアが頷くと、スパルタカスはルーファスに軽く会釈をし、アルメリアの手を引いて歩きだした。
「先ほど説明しなかったのですが、十時から十一時にかけてこの回廊で兵士たちが模擬訓練を行っているため立ち入り禁止になります。有事がなければ見張りが東棟と西棟を行き来するだけの回廊ですので、閣下はほとんど利用することはないと思いますが、今後この回廊を利用することがあるなら、覚えておかれると良いと思います」
その説明を受けて、合点した。
「では、先ほど一度下に降りて東棟へ行ったのは、そのためでしたのね?」
スパルタカスに抱えられたときは、なぜこうしてまで遠回りをするのだろうと思っていたので、アルメリアは納得した。
スパルタカスは苦笑する。
「いや、あれは私がそうしたかったと言いますか。まぁ、そうですね訓練で通れなかったかもしれません」
と、なんとも歯切れの悪い返事をすると
「もうお昼になってしまいますから、早く行きましょう」
そう言って、先を急いだ。
張り出し陣から回廊に出る階段があり、そこを昇る。ここから攻撃をすると聞いた後では、外壁の上部が凹凸になっているのが飾りではないことにすぐ気がついた。
「この隙間から攻撃をしかけ、素早く横に移動して敵の攻撃から身を隠すんですのね?」
「もちろんです。正直、こういったことに興味を持ってくださる方は少ないので、嬉しく思います。では、門衛棟に行きましょう」
そう言うと、門衛棟に歩きだした。アルメリアはルーファスの後ろを、スパルタカスにエスコートされて歩いた。門衛棟の前に着くと、神官たちが手紙の束や紙細工を兵士へ手渡していた。アルメリアがそれを興味深げに見ていると、それに気づいたスパルタカスがアルメリアに向き直り説明する。
「以前、教会の孤児院へ騎士団が慰問に訪れたことがあったのです。勧誘もかねてのことなので、そこまで誇れるものではないのですが。それ以来孤児院の子どもたちが我々に紙細工を作ってくれたり、手紙を書いてくれるようになったのです。こうして交流するうちに、私たちは彼らの感謝の言葉に幾度となく励まされました。毎週この手紙を心待にしている兵士もいます」
するとルーファスも振り返りこの会話に加わる。
「私たちも騎士団には感謝しているのです。この前の祝祭の日には、騎士団の方々が来られて我々のためにお芝居をしてくださったのですよ。騎士団には女の方がいらっしゃらないので、兵士の方が女性の役をしてくださって……」
「いえ、あの芝居は酷かったですね」
スパルタカスが苦笑すると、ルーファスは首を振る。
「子どもたちには大好評でしたよ」
騎士団と孤児院でそんな交流を行っていることを、アルメリアは初めて知った。
「素敵なことをされているのですね、私全く知りませんでした」
すると、スパルタカスとルーファスは顔を見合せて微笑むと、二人ともアルメリアに向き直る。
「閣下が知らなくて当然です。この交流は私とルフスが数年前に始めたばかりなのです」
「えぇ、そうなんですよ。私が慰問で訪れた際にスパルタカスに『何か騎士団にできることはないか』と相談されましてね。そう言うことなら、と始めたことなのです」
「とても素晴らしい取り組みだと思いますわ」
アルメリアが感心してそう答えると、スパルタカスは恥ずかしそうに答える。
「閣下のされていることに比べればこんなこと……。すみません、まだ案内の途中でしたね。どうぞこちらへ」
スパルタカスはアルメリアの手を引いて、門衛棟の入り口へ向かった。
中は兵舎とあって埃っぽく、汗の匂いと混ざった独特の香りがした。入ってすぐに縦長の大きな部屋があり、そこに三段ベッドがところ狭しと並べられている。
「こちらは三階建てになっていて、二階と三階もほぼ同じ作りで、ここには交代で常時400人程詰めております。家のない者もいるので、ここで生活している者も少なくないですね。ここにいれば衣食住に困ることはまずありませんので」
そう言うと苦笑した。
「貴族でない騎士の称号を持つものたちには、居住できる個室が特別に与えられているので、結婚し所帯を持たなければ住むのには最適です。私は統括なので、ご存じの通り別棟に執務室が与えられています。それにしても他の貴族に比べれは小さな部屋ですが、私には十分すぎる広さです」
そう言って微笑んだ。そして、部屋の奥に視線を移した。
「奥には吹き抜けの食堂と厨房があって、この城全体の兵士たちの胃袋を満たしています」
そう言って案内を受けている間も、遠巻きに兵士たちが好奇の目でこちらを伺っている。そんな兵士たち一人一人に神官が声をかけていた。
「先日おっしゃっていた、膝の調子はどうですか?」
「お子さんもう四つになられたんでしたよね?」
など、プライベートなことまでよく知っているような会話をしている。
「神官の方と兵士の方は仲がよろしいんですのね」
アルメリアが驚いて呟く。
「いえ、こんなにも親身になって神官たちが話を聞いてくれるようになったのも、ルフスが来るようになってからなのです。彼は若いが本当に素晴らしい人物ですよ」
「本当に素晴らしい方ですわね。こんどお茶にお誘いして教会のことも色々聞きたいですわ」
「わかりました、ルフスに伝えます。彼も喜ぶでしょう」
そう言うとスパルタカスは複雑そうな顔をした。そして気を取り直したように付け加える。
「その時は私もご一緒させていただいてよろしいですか?」
「もちろんですわ」
アルメリアが笑顔で答えると、スパルタカスはほっとしたような顔をした。
アルメリアがふと周囲を見ると、更に多くの兵士がこちらを伺っているようだった。
「私たちがここにいると、せっかくの慰問ですのに兵士のみなさんがゆっくりできませんわね、慰問の様子は見れましたし、移動しましょうか」
「では、他の場所も案内いたしましょう。次は外壁の回廊を歩いてみますか?」
アルメリアが頷くと、スパルタカスはルーファスに軽く会釈をし、アルメリアの手を引いて歩きだした。
「先ほど説明しなかったのですが、十時から十一時にかけてこの回廊で兵士たちが模擬訓練を行っているため立ち入り禁止になります。有事がなければ見張りが東棟と西棟を行き来するだけの回廊ですので、閣下はほとんど利用することはないと思いますが、今後この回廊を利用することがあるなら、覚えておかれると良いと思います」
その説明を受けて、合点した。
「では、先ほど一度下に降りて東棟へ行ったのは、そのためでしたのね?」
スパルタカスに抱えられたときは、なぜこうしてまで遠回りをするのだろうと思っていたので、アルメリアは納得した。
スパルタカスは苦笑する。
「いや、あれは私がそうしたかったと言いますか。まぁ、そうですね訓練で通れなかったかもしれません」
と、なんとも歯切れの悪い返事をすると
「もうお昼になってしまいますから、早く行きましょう」
そう言って、先を急いだ。
張り出し陣から回廊に出る階段があり、そこを昇る。ここから攻撃をすると聞いた後では、外壁の上部が凹凸になっているのが飾りではないことにすぐ気がついた。
「この隙間から攻撃をしかけ、素早く横に移動して敵の攻撃から身を隠すんですのね?」
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