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第二十六話 ルーファスとの邂逅
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心配させまいと、笑顔を作って答える。
「いいえ、大丈夫ですわ。私たちの平和な生活は、彼らによって支えられているのだと少し考えさせられましたわ。ところで彼らの精神面についてのフォローは、なにか対策を取っていますの?」
スパルタカスは大きく目を見開く。
「着眼点が素晴らしいですね、そうなんです。兵士たちは、死を覚悟する仕事のせいか、信仰心が強いものが多くいます。そのために城壁内に礼拝堂もあるのですが、週に一度兵士たちの慰問で門衛棟に神官が訪れるのです」
懐から懐中時計を取り出すと、スパルタカスは門衛塔の方向を見た。
「ちょうど良かった、今日これから神官が来る予定になっていたはずです。今から門衛棟に行けば慰問の様子を見学できるでしょう。行ってみますか?」
アルメリアは満面の笑みで頷く。
「はい、とても興味がありますわ。是非見学させて下さい」
先程のペルシックからの報告書に、今日慰問が来ることが書いてあったのでこれは想定内のことだった。あのタイミングで強引にペルシックが書類を渡してきたのは、この慰問に合わせるためだったのだろう。
この時間までにスパルタカスが慰問の話にたどり着かなければ、強引にその話に持っていこうと思っていたアルメリアは、自然な形で慰問の話になったので、胸を撫で下ろした。
「また階段を乗り降りしなければいけませんが、大丈夫ですか? やはり私が抱きかかえたほうがよろしいでしょう。閣下の侍従もこう言ってはなんですが、ご高齢です。ここは体力のある私におまかせ願えませんか?」
そう言われても逡巡してしまうアルメリアを、スパルタカスはさっと抱き上げた。
「閣下は羽よりも軽い」
アルメリアは恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆う。
「あの……とても、恥ずかしいです」
恥ずかしがるアルメリアをよそに、スパルタカスは歩き始める。
「貴族令嬢が騎士にを抱きかかえられているのは、別段恥ずかしいことではありません。さぁ動くと危ないので、じっとしていて下さい」
動くなと言われなくとも、アルメリアは恥ずかしさのあまり身動き一つ取れず、スパルタカス身を任せるしかなかった。
スパルタカスはアルメリアを横抱きにしたまま、危なげなく東塔の薄暗い階段を登りきると、屋上にある門衛塔の前に出た。アルメリアは声を絞り出すように言った。
「あの、もう大丈夫ですので、降ろしていただけますか?」
「これは失礼。ここまであっという間でしたね、今降ろします」
やっと地に足が付いてアルメリアはほっとした。
「抱きかかえられるなんて、子供のようで恥ずかしいですわ」
そう言って赤くなった頬を両手でおさえた。
「とんでもない、閣下は立派なレディです。何をなさっても恥ずかしいことはありません」
スパルタカスは申し訳なさそうな顔をした。
「どうやら出すぎたまねをしてしまったようですね、不快な思いをさせてしまい申し訳ない」
アルメリアはすぐにそれを否定する。
「いえ、あの本当に恥ずかしかっただけですの。大丈夫ですわ、ありがとうございました」
そう言って微笑んだ。
「それより、教会の方々はどちらにいらっしゃるのかしら?」
門衛棟の方向を見ると、入り口の前辺りに人だかりができているのが見え、茶色の皮鎧や汚れたシャツを着ている兵士たちに混じって、真っ白なカズラにブルーのストラを着た者たちが見えた。
「兵士に混ざって、カズラを着ている方がいますわね」
スパルタカスもアルメリアの視線の先を凝視する。
「えぇ、神官たちがいるようです。行ってみましょう」
スパルタカスに手を引かれ、門衛棟に近づくと一人の神官がこちらに気づき、一礼して近づいてきた。
「こんにちは、スパルタカス」
その神官は、穏やかな笑みを見せ話しかけてきた。
「ルフス、今日の慰問は君が担当だったのか」
アルメリアは思わずその名前に反応して、スパルタカスを見上げたあと、まじまじとその神官を見つめる。
年齢的にはあのルフスと同じぐらいだが、目の前にいる神官はアルメリアの知っている、あのやんちゃなルフスと違い、穏やかな空気をまとっており雰囲気が全く違っている。
外見的にも大きな違いがあった。ルフスは赤毛の癖っ毛だったが、目の前にいる神官は金髪ストレートで耳下五センチ程のところで綺麗に切り揃えられている。
アルメリアは内心、彼はあのルフスではない。そう思い少しがっかりした。それでも、教会の人間と接触ができたことを喜ぶべきだろうと気を取り直した。
スパルタカスはアルメリアに向き直った。
「閣下、こちらはルーファス助祭です」
そう言うと今度はルーファスに向き直る。
「ルフス、この方はクンシラン公爵令嬢です」
紹介されるとルーファスは驚いた顔をした。
「この方がクンシラン公爵令嬢でいらっしゃるのですね!? 大変聡明でいらっしゃるとお噂はかねがね聞いております。かねてよりお会いしたいと思っておりました。私はルーファスと申します、周囲の者はルフスと呼んでいますので、そう呼んでください。普段はオルブライト領の教会で仕えておりますが、今日はこうして慰問に参りました」
アルメリアは微笑んで返した。
「わかりました、今後はルフスと呼ばせていただきますわね。ではルフスも私のことはアルメリアと呼んで下さい。それにしてもお若いのに、神に仕え慰問にいらっしゃるなんて、本当に立派なことですわ」
この年齢で助祭にまで上り詰めるなんて、とアルメリアは驚く。助祭とは司祭の次の位である。助祭のもう一つ下の位である副助祭になるのにも、かなりの才能や周囲からの推薦がないとなれないはずだ。若いながらも相当の人格者なのだろう。
ルーファスはお辞儀をした。
「お誉めに預かり至極光栄です。ところで、今日はどうしてこちらに?」
その質問にはスパルタカスが答える。
「閣下はイキシア騎士団の相談役に就任された。それで私がこうして案内しているところなのです。できれば、教会が兵士の慰問をしているところをお見せしたいのだが、よろしいか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。私たちの平和な生活は、彼らによって支えられているのだと少し考えさせられましたわ。ところで彼らの精神面についてのフォローは、なにか対策を取っていますの?」
スパルタカスは大きく目を見開く。
「着眼点が素晴らしいですね、そうなんです。兵士たちは、死を覚悟する仕事のせいか、信仰心が強いものが多くいます。そのために城壁内に礼拝堂もあるのですが、週に一度兵士たちの慰問で門衛棟に神官が訪れるのです」
懐から懐中時計を取り出すと、スパルタカスは門衛塔の方向を見た。
「ちょうど良かった、今日これから神官が来る予定になっていたはずです。今から門衛棟に行けば慰問の様子を見学できるでしょう。行ってみますか?」
アルメリアは満面の笑みで頷く。
「はい、とても興味がありますわ。是非見学させて下さい」
先程のペルシックからの報告書に、今日慰問が来ることが書いてあったのでこれは想定内のことだった。あのタイミングで強引にペルシックが書類を渡してきたのは、この慰問に合わせるためだったのだろう。
この時間までにスパルタカスが慰問の話にたどり着かなければ、強引にその話に持っていこうと思っていたアルメリアは、自然な形で慰問の話になったので、胸を撫で下ろした。
「また階段を乗り降りしなければいけませんが、大丈夫ですか? やはり私が抱きかかえたほうがよろしいでしょう。閣下の侍従もこう言ってはなんですが、ご高齢です。ここは体力のある私におまかせ願えませんか?」
そう言われても逡巡してしまうアルメリアを、スパルタカスはさっと抱き上げた。
「閣下は羽よりも軽い」
アルメリアは恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆う。
「あの……とても、恥ずかしいです」
恥ずかしがるアルメリアをよそに、スパルタカスは歩き始める。
「貴族令嬢が騎士にを抱きかかえられているのは、別段恥ずかしいことではありません。さぁ動くと危ないので、じっとしていて下さい」
動くなと言われなくとも、アルメリアは恥ずかしさのあまり身動き一つ取れず、スパルタカス身を任せるしかなかった。
スパルタカスはアルメリアを横抱きにしたまま、危なげなく東塔の薄暗い階段を登りきると、屋上にある門衛塔の前に出た。アルメリアは声を絞り出すように言った。
「あの、もう大丈夫ですので、降ろしていただけますか?」
「これは失礼。ここまであっという間でしたね、今降ろします」
やっと地に足が付いてアルメリアはほっとした。
「抱きかかえられるなんて、子供のようで恥ずかしいですわ」
そう言って赤くなった頬を両手でおさえた。
「とんでもない、閣下は立派なレディです。何をなさっても恥ずかしいことはありません」
スパルタカスは申し訳なさそうな顔をした。
「どうやら出すぎたまねをしてしまったようですね、不快な思いをさせてしまい申し訳ない」
アルメリアはすぐにそれを否定する。
「いえ、あの本当に恥ずかしかっただけですの。大丈夫ですわ、ありがとうございました」
そう言って微笑んだ。
「それより、教会の方々はどちらにいらっしゃるのかしら?」
門衛棟の方向を見ると、入り口の前辺りに人だかりができているのが見え、茶色の皮鎧や汚れたシャツを着ている兵士たちに混じって、真っ白なカズラにブルーのストラを着た者たちが見えた。
「兵士に混ざって、カズラを着ている方がいますわね」
スパルタカスもアルメリアの視線の先を凝視する。
「えぇ、神官たちがいるようです。行ってみましょう」
スパルタカスに手を引かれ、門衛棟に近づくと一人の神官がこちらに気づき、一礼して近づいてきた。
「こんにちは、スパルタカス」
その神官は、穏やかな笑みを見せ話しかけてきた。
「ルフス、今日の慰問は君が担当だったのか」
アルメリアは思わずその名前に反応して、スパルタカスを見上げたあと、まじまじとその神官を見つめる。
年齢的にはあのルフスと同じぐらいだが、目の前にいる神官はアルメリアの知っている、あのやんちゃなルフスと違い、穏やかな空気をまとっており雰囲気が全く違っている。
外見的にも大きな違いがあった。ルフスは赤毛の癖っ毛だったが、目の前にいる神官は金髪ストレートで耳下五センチ程のところで綺麗に切り揃えられている。
アルメリアは内心、彼はあのルフスではない。そう思い少しがっかりした。それでも、教会の人間と接触ができたことを喜ぶべきだろうと気を取り直した。
スパルタカスはアルメリアに向き直った。
「閣下、こちらはルーファス助祭です」
そう言うと今度はルーファスに向き直る。
「ルフス、この方はクンシラン公爵令嬢です」
紹介されるとルーファスは驚いた顔をした。
「この方がクンシラン公爵令嬢でいらっしゃるのですね!? 大変聡明でいらっしゃるとお噂はかねがね聞いております。かねてよりお会いしたいと思っておりました。私はルーファスと申します、周囲の者はルフスと呼んでいますので、そう呼んでください。普段はオルブライト領の教会で仕えておりますが、今日はこうして慰問に参りました」
アルメリアは微笑んで返した。
「わかりました、今後はルフスと呼ばせていただきますわね。ではルフスも私のことはアルメリアと呼んで下さい。それにしてもお若いのに、神に仕え慰問にいらっしゃるなんて、本当に立派なことですわ」
この年齢で助祭にまで上り詰めるなんて、とアルメリアは驚く。助祭とは司祭の次の位である。助祭のもう一つ下の位である副助祭になるのにも、かなりの才能や周囲からの推薦がないとなれないはずだ。若いながらも相当の人格者なのだろう。
ルーファスはお辞儀をした。
「お誉めに預かり至極光栄です。ところで、今日はどうしてこちらに?」
その質問にはスパルタカスが答える。
「閣下はイキシア騎士団の相談役に就任された。それで私がこうして案内しているところなのです。できれば、教会が兵士の慰問をしているところをお見せしたいのだが、よろしいか?」
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