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第一章「レノと坊ちゃん」
18 一件落着!
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「公爵家の人間だからですよ、俺にはその責務がある。それに、この帝国の事を考えれば動かない理由はない。なにより虐げられている人を見過ごせない」
「獣人の為だと言うのか!? やつらは我々人間とは違う! どうしてその事がわからないんだ!」
サウザー伯爵は体面も気にせず、取り乱した様子で叫んだ。俺はその姿を冷静に見た。
「サウザー伯爵、確かに獣人は我々人間とは違います。でもそれがなんだっていうんです? 人間だって同じ人は一人としていない。でも我々は手を取り合って生きていける、簡単な事だ。貴方は、ただ自分と違うから嫌だ、とごねているだけだ」
俺に言われてサウザー伯爵は口を歪めた。
「いずれ獣人にこの国は乗っ取られるぞ!」
捨て台詞のようにサウザー伯爵が言うものだから俺はにこりと笑ってあげた。
「それもいいですね。貴方のような悪人にこの帝国をいいようにされるより、よっぽどいい」
俺が告げると、それ以上サウザー伯爵は反論してこなかった。そして会話の落ち所だと思ったのだろう、レノがサウザー伯爵を拘束している騎士に「連れていけ」と指示を出した。
サウザー伯爵と男は騎士たちに連行され、部屋の中はようやく静かになった。
「ふぅっ、やれやれ!」
「何がやれやれ、ですか。ノエル君まで巻き込んで」
俺が額を拭うような仕草をして言うと、その横でレノが呆れた顔で言った。
「それは~。俺だって予測つかなかったんだよ。まさかサウザーがこんな早く手を打ってくるなんて~。一人で散歩に行こうとしたら、その前にノエルに手を出してんだもん……でも危険な事に巻き込んでごめんな、ノエル」
俺はザックと共にいるノエルに頭を下げて謝った。だがノエルは怒らずに、ただ驚いた様子で可愛いお目目をまん丸くして俺を見つめていた。
「キトリー様、もしかしてこういう事になるかもしれないから俺と父さんに初めて会った時、あんなことを?」
ノエルに言われて、俺はポブラットの屋敷で初めてノエルと父親に会った時に言った台詞を思い出した。
『この屋敷を出入りする以上、二人にはこれから俺の事で迷惑をかけるかもしれない。でも何があっても守るから。それだけは覚えておいて欲しい』
俺はそう二人に告げていた。
「屋敷に出入りしていれば俺の身分上、こういう事に巻き込んでしまう可能性があると思って言っておいたんだ。そして正直これからも二度と同じような事がないとは言い切れない。だから帰ったら親父さんと話し合って、うちに配達するのを今後も続けるか決めて欲しい。例え止めても、咎める気はないから安心して」
俺が伝えるとノエルは頭をぶんぶんっと横に振って、キラキラした目で俺を見つめてきた。
「いえ! 今後ともよろしくお願いします!」
「そ、そう?」
そんなに簡単に返事していいんかいな? 親父さんとも話し合った方がよくね? と思ったが、ザックがノエルの肩にぽんっと手を置いた。
「ノエル、キトリー様は信頼に値する方だ。安心していい、俺が保証する」
「ザック兄さん……!」
ノエルはザックに熱視線を向けた。それはレノにも見せた事のない恋する顔だ。
……およよ? ノエルってレノの事が好きだったのでは?
「ノエル君はザックが好きなんですよ」
不思議に思っていればレノがこっそり俺の耳打ちした。
「うぇ!? だってレノに告白してたじゃん!」
俺が小声で問いかけると、レノも小声で俺に教えてくれた。
「あれはなかなか帰ってこないザックに嫉妬させる為ですよ。彼は随分前からザックの事を慕っていたようですから、私とノエルが付き合ったとなったらすぐに帰ってくるだろうと思ったわけです」
「てことは」
「ノエル君は私の事を好きなわけではありません」
……俺の手助けは一体何だったの。
がっくりと肩を落とすが、ザックとノエルをちらりと横目で見れば二人の姿は様になっている。レノといる時よりも。
……路線変更になったが、年上獣人と可愛い少年のCP。うん、これも悪くはないなッ! にへへっ。
「顔が緩んでますよ」
おっと、いけねぇ! こりゃ、うっかり。
俺は慌てて表情筋に力を入れ、そしてザックにあるものを返した。
「ザック、これ返しておくな」
「ありがとうございます」
俺はこっそり首にかけていた小さな笛をザックに返した。それは犬獣人の間だけに伝わる音の鳴らない秘密の笛。この笛のおかげで俺はこの屋敷の内情を外に潜んでいたザックやレノ達に伝えることができた。
……でもあれってどう考えても前世のところで言う犬笛だよなぁ。
俺は首にかけ直すザックを見ながら思う。だがわざわざ教える必要もないだろう。神秘は神秘のままにしておく方がいい事もあるのだ。
「どうかしましたか?」
レノに問いかけられ、俺は「んにゃ、なんでもない」と答えておいた。そんな俺に疑わしそうな目を向けたが、レノはそれ以上追及はしなかった。
その代わり、一言俺に告げた。
「帰りましょうか、坊ちゃん」
「そうだな! これにて一件落着、ニャーッハッハッハッ!」
こうして、俺の誘拐事件はたった二日であっさりと幕を引いたのであった。
その後、俺は帝都に出向き、誘拐事件の証言と麻薬の証拠を提出。
サウザーは誘拐事件以外にも余罪が次から次へと暴かれ、爵位と財産を剥奪。人が住むには厳しい北の刑務所での労働が罰として与えられた。
勿論、サウザーに加担していた他の貴族も同様。
そしてサウザーが搾取していた獣人達は、一旦王家預かりとなりジェレミーとディエリゴが面倒をみる事に。同じ獣人であるディエリゴが王家にいることにより、助けた獣人達に不信感を抱かれることもないだろう。
これからは幸せに暮らしてほしいものである。うんうん。
「獣人の為だと言うのか!? やつらは我々人間とは違う! どうしてその事がわからないんだ!」
サウザー伯爵は体面も気にせず、取り乱した様子で叫んだ。俺はその姿を冷静に見た。
「サウザー伯爵、確かに獣人は我々人間とは違います。でもそれがなんだっていうんです? 人間だって同じ人は一人としていない。でも我々は手を取り合って生きていける、簡単な事だ。貴方は、ただ自分と違うから嫌だ、とごねているだけだ」
俺に言われてサウザー伯爵は口を歪めた。
「いずれ獣人にこの国は乗っ取られるぞ!」
捨て台詞のようにサウザー伯爵が言うものだから俺はにこりと笑ってあげた。
「それもいいですね。貴方のような悪人にこの帝国をいいようにされるより、よっぽどいい」
俺が告げると、それ以上サウザー伯爵は反論してこなかった。そして会話の落ち所だと思ったのだろう、レノがサウザー伯爵を拘束している騎士に「連れていけ」と指示を出した。
サウザー伯爵と男は騎士たちに連行され、部屋の中はようやく静かになった。
「ふぅっ、やれやれ!」
「何がやれやれ、ですか。ノエル君まで巻き込んで」
俺が額を拭うような仕草をして言うと、その横でレノが呆れた顔で言った。
「それは~。俺だって予測つかなかったんだよ。まさかサウザーがこんな早く手を打ってくるなんて~。一人で散歩に行こうとしたら、その前にノエルに手を出してんだもん……でも危険な事に巻き込んでごめんな、ノエル」
俺はザックと共にいるノエルに頭を下げて謝った。だがノエルは怒らずに、ただ驚いた様子で可愛いお目目をまん丸くして俺を見つめていた。
「キトリー様、もしかしてこういう事になるかもしれないから俺と父さんに初めて会った時、あんなことを?」
ノエルに言われて、俺はポブラットの屋敷で初めてノエルと父親に会った時に言った台詞を思い出した。
『この屋敷を出入りする以上、二人にはこれから俺の事で迷惑をかけるかもしれない。でも何があっても守るから。それだけは覚えておいて欲しい』
俺はそう二人に告げていた。
「屋敷に出入りしていれば俺の身分上、こういう事に巻き込んでしまう可能性があると思って言っておいたんだ。そして正直これからも二度と同じような事がないとは言い切れない。だから帰ったら親父さんと話し合って、うちに配達するのを今後も続けるか決めて欲しい。例え止めても、咎める気はないから安心して」
俺が伝えるとノエルは頭をぶんぶんっと横に振って、キラキラした目で俺を見つめてきた。
「いえ! 今後ともよろしくお願いします!」
「そ、そう?」
そんなに簡単に返事していいんかいな? 親父さんとも話し合った方がよくね? と思ったが、ザックがノエルの肩にぽんっと手を置いた。
「ノエル、キトリー様は信頼に値する方だ。安心していい、俺が保証する」
「ザック兄さん……!」
ノエルはザックに熱視線を向けた。それはレノにも見せた事のない恋する顔だ。
……およよ? ノエルってレノの事が好きだったのでは?
「ノエル君はザックが好きなんですよ」
不思議に思っていればレノがこっそり俺の耳打ちした。
「うぇ!? だってレノに告白してたじゃん!」
俺が小声で問いかけると、レノも小声で俺に教えてくれた。
「あれはなかなか帰ってこないザックに嫉妬させる為ですよ。彼は随分前からザックの事を慕っていたようですから、私とノエルが付き合ったとなったらすぐに帰ってくるだろうと思ったわけです」
「てことは」
「ノエル君は私の事を好きなわけではありません」
……俺の手助けは一体何だったの。
がっくりと肩を落とすが、ザックとノエルをちらりと横目で見れば二人の姿は様になっている。レノといる時よりも。
……路線変更になったが、年上獣人と可愛い少年のCP。うん、これも悪くはないなッ! にへへっ。
「顔が緩んでますよ」
おっと、いけねぇ! こりゃ、うっかり。
俺は慌てて表情筋に力を入れ、そしてザックにあるものを返した。
「ザック、これ返しておくな」
「ありがとうございます」
俺はこっそり首にかけていた小さな笛をザックに返した。それは犬獣人の間だけに伝わる音の鳴らない秘密の笛。この笛のおかげで俺はこの屋敷の内情を外に潜んでいたザックやレノ達に伝えることができた。
……でもあれってどう考えても前世のところで言う犬笛だよなぁ。
俺は首にかけ直すザックを見ながら思う。だがわざわざ教える必要もないだろう。神秘は神秘のままにしておく方がいい事もあるのだ。
「どうかしましたか?」
レノに問いかけられ、俺は「んにゃ、なんでもない」と答えておいた。そんな俺に疑わしそうな目を向けたが、レノはそれ以上追及はしなかった。
その代わり、一言俺に告げた。
「帰りましょうか、坊ちゃん」
「そうだな! これにて一件落着、ニャーッハッハッハッ!」
こうして、俺の誘拐事件はたった二日であっさりと幕を引いたのであった。
その後、俺は帝都に出向き、誘拐事件の証言と麻薬の証拠を提出。
サウザーは誘拐事件以外にも余罪が次から次へと暴かれ、爵位と財産を剥奪。人が住むには厳しい北の刑務所での労働が罰として与えられた。
勿論、サウザーに加担していた他の貴族も同様。
そしてサウザーが搾取していた獣人達は、一旦王家預かりとなりジェレミーとディエリゴが面倒をみる事に。同じ獣人であるディエリゴが王家にいることにより、助けた獣人達に不信感を抱かれることもないだろう。
これからは幸せに暮らしてほしいものである。うんうん。
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