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第一章「レノと坊ちゃん」
22 ふわふわかき氷
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「ふわぁ~……。ん? あれぇ、レノ?」
寝ていた俺は目を覚まし、いつの間にか隣に座っているレノに気がつき、視線を向けた。
「目が覚めましたか」
「うん。もしかして、俺が起きるまで待っててくれたの?」
俺は体を起こしてレノに尋ねた。
「気持ちよく寝ていましたので」
「それは悪い事したな。起こしてくれてもよかったのに」
「いえ、昔の事を思い出してましたので」
「昔の事?」
「私がキトリー様に仕えるようになった頃の事です。悪徳貴族に捕まって、違法労働させられようとしていた時の事ですよ」
レノは自分の事のくせに淡々と答えた。
「あー、あのオッサンね~」
……めっちゃ悪代官っぽいオッサンだったよなぁ。ま、だから俺も正義のヒーロー的な事をしたんですけど。いやー、だって一度はああいうのしてみたいじゃん? 俺、結構身分あるし。
「あの時はキトリー様がいきなり現れて本当に驚きました」
「あー、あれね」
俺はぼんやりと思い出しながら答えた。
……あれって確か。レノを助ける為と屋敷に入り込んで契約書を盗みに入る為。ついでに、あのオッサンに幼児誘拐の容疑も付け加える為に忍び入ったんだよな~。なにせあのオッサン、相当あくどい事してたのに隠蔽工作がうまくて、警備騎士団も目を付けてたのに検挙できなくて手をこまねいていたからな……。でも俺が誘拐されたってことになれば、捜索の為に屋敷内に入ることができて、なおかつ現行犯逮捕が可能。実際あの後、屋敷内を調べたら証拠がわんさか出て、余罪が一杯ついたんだよな。……うんうん、あれも我ながらいい作戦だったな!
俺は思い出しながら、一人頷いた。
「あの頃から、キトリー様は変わらないなと思いまして」
「そーかぁ?」
……俺、大分大人になってると思うんだけど。今や俺の精神年齢は前世も合わせたら五十歳ヨ? 半世紀ヨ? 精神的にはナイスミドルだと思うんだけど?
「ええ。無鉄砲、無防備。およそ貴族らしくないですね」
「ズケズケと失礼だな」
「褒めてるんですよ?」
レノはにっこり笑って言った。しかしどう考えてもけなされている風にしか聞こえん。
「まあ、いいけど。俺とお前の仲だし」
俺が何気なく言うと、レノも何気に俺に言ってきた。
「坊ちゃん、好きですよ」
「ふぁああぁっ!?」
突然の告白に俺は奇声を上げるしかない。しかし、レノは微笑むだけでそれ以上は何も言わなかった。
……くぅー、このイケメンめ。恥ずかしい台詞をサラッと言いよってぇぇ!
俺は思わず赤面してしまう。
「キトリー様、忘れないでくださいね。もうノエル君を差し向けてもダメですよ?」
……うっ、そうなんだよなぁ。結局ノエルはザックといい感じになったみたいだからな。……ん? てことは俺はカップルを一組作ったって事かな? それはそれでグッジョブ俺!
そんなことを思っている内にレノがおもむろに立ち上がった。
「どこに行くんだ?」
「厨房でおやつの用意をして参ります。すぐに来てくださいね」
「……わかった」
俺が答えるとレノは颯爽と屋敷の中に戻って行った。俺はそれを見送り、ふぅっと息を吐く。
……レノへの返事、どうしよう。付き合う気がないって言いたいけど、レノが居なくなるのは嫌だしなぁ。
「うーむ」
一人で腕を組んで唸っていると、どこからともなく「ほっほっほっ」と声が聞こえてきた。驚いて振り返ってみれば、そこにはお爺がいた。
「いやはや、若いですなぁ~」
ほのぼのと言うお爺に俺はジト目を向ける。
「いつからいたの、お爺」
「坊ちゃんがお目を覚さます前からですかね? ほっほっほっ」
それ最初からじゃん。しかしレノにも気取られずに背後を取るとは……。
「ねぇ、前から思ってたけどお爺って何者?」
「私はただのジジイですよ」
お爺はにっこり笑って言ったが、ただ者ではないのは確かだった。
それこそレノを助ける為に屋敷に入った時、実はあの時お爺も一緒だったのだ。さすがに三歳児が屋敷に侵入することは無理だし、契約書が入った金庫を俺が開けられるわけがないからな。
だから俺は計画を立てた後、スーパー執事に相談したのだ。
『ねね、おじぃ。わるいひちょ、ちゅかまえたいの。だかりゃ、ちかりゃをかちてくりぇまちぇんか?』
幼子のいたいけな相談に、お爺は困った顔をしつつも『仕方ありませんね』と快く答えてくれた。
まあ、この時の俺はお爺にいい人材を紹介して貰いたいってだけで相談したんだが、まさかお爺本人が手助けしてくれるとは……。
当時五十代だったとはいえ、お爺は俺を抱えて軽々と侵入し、あざやかな手つきで鍵を開けてくれた。
ちなみに、あの貴族のオッサンが俺をめがけて階段を上がってきた時、花瓶を陰から投げたのもお爺だ。
「……ただのお爺さんとは思えないだけど」
「買い被りですよ、坊ちゃん」
お爺は笑顔のまま、それ以上は答えなかった。
……うーん、本当にお爺って何者なんだろ。でも、これ以上聞いても教えてくれなさそう。今はそっとしておこう、うん。
俺は疑問を胸の奥に仕舞っておくことにした。
「ところで坊ちゃん。つかぬ事、お伺いしますが。レノへの返事はいかがなさるおつもりですかな?」
「うっ、それはぁ」
「どんなお答えを出しても構いませんが、年長者から一つだけアドバイスを」
「なに?」
「あんまり先延ばしにしていると、何もかも失ってしまいますよ」
「うぐっ」
耳に痛い言葉に思わず唸ってしまう。
けれどお爺はそれ以上、その件に関しては俺に何かをいう事はなかった。
「それより坊ちゃん。そろそろ早く厨房へ行った方が良いかと。ヒューゴが今日は坊ちゃんに頼まれたおやつを作ると言っていましたよ? 確か氷で作る冷たいものだと……」
お爺に言われて俺はびょんっと立ち上がった。
「マジ!? それなら早く行かなくちゃ! お爺も一緒に行こ!」
「私はあとで参りますから、お先にどうぞ」
「ホント? 早く来るんだよ!」
俺はそう告げて、駆け足で厨房へと向かった。
だが、駆け足でその場を立ち去った俺は知らなかった。俺の後ろ姿を眺めながら、お爺がぽつりと呟いた言葉なんて。
「ほっほっほっ、若いですなぁ」
◇◇◇◇
それから厨房に駆け込むとレノがいた。
「キトリー様、ようやく来ましたね。ヒューゴさん、お願いします」
「あいよ!」
ヒューゴはそう言うとガリガリガリッと何かを削り始め、俺はレノが用意してくれていた厨房の末席に座り、おやつを今か今かと待つ。
そして五分も経たない内にヒューゴはガラスの器をトレーに乗せて持ってきてくれた。そこにはキラキラと輝く美しき氷の山に、たっぷりとかけられた白い練乳、冷凍の果物が色とりどり飾り付けられていた。
「うわーっ、かき氷だ!」
しかもこれは前世で食べた事のあるかき氷に近い。そう、南国で。
「坊ちゃんのご要望にお応えできましたかね?」
ヒューゴはパチッとウインクして俺に尋ねた。
「俺の要望以上だよぉ! 俺、大好きなんだッ! いっただきまーす!」
俺は添えられていたスプーンを手に一口、ぱくっと食べてみた。甘くて冷たくて、今日みたいなちょっと暑い日にはちょうどいい!
「んんんーっ! うまい!」
ふわふわの氷が美味しくて、俺はついついパクパクッと食べてしまう。
……さっすがヒューゴ、俺の要望通りに作ってくれるなんて。騎士を辞めて、料理人になったのはある意味正解だったかもしれないな!
俺はかき氷を食べながら、俺の様子を伺っているヒューゴを見た。
ヒューゴとフェルナンドは元々騎士だったが、フェルナンドが怪我を負ったことによって騎士を引退。ヒューゴもそれに続くように辞めた。そして二人は庭師と料理人と言う新たな職に就いたのだが、その活躍は前職を凌ぐ勢いだ。
……まあ、騎士の時もかっこよかったけどね~。
しかし、そんな事を思っている内に、かき氷の食べ過ぎで頭がキーンとしてきた。咄嗟に頭を押さえる。
「いててて」
「急いで食べるからですよ」
「だって美味しくて、つい」
急いで食べたら頭キーンってなるのはわかっているのに、なぜか食べてしまう。もうこれはもはや人間の悲しい性なのだ。
……かき氷・冷たさ響く・うまさかな。
心の中で一句詠み、まあまあの出来栄えに俺はにたっと笑う。
「なに、ニヤニヤしてるんですか」
「うんにゃ、なんでもなーい」
俺は頭の痛みが落ち着いてきたところでもう一口、冷たいかき氷をパクリと食べたのだった。
************
あと残り二話!明日、明後日と投稿していきます。
お楽しみに!(*‘ω‘ *)
寝ていた俺は目を覚まし、いつの間にか隣に座っているレノに気がつき、視線を向けた。
「目が覚めましたか」
「うん。もしかして、俺が起きるまで待っててくれたの?」
俺は体を起こしてレノに尋ねた。
「気持ちよく寝ていましたので」
「それは悪い事したな。起こしてくれてもよかったのに」
「いえ、昔の事を思い出してましたので」
「昔の事?」
「私がキトリー様に仕えるようになった頃の事です。悪徳貴族に捕まって、違法労働させられようとしていた時の事ですよ」
レノは自分の事のくせに淡々と答えた。
「あー、あのオッサンね~」
……めっちゃ悪代官っぽいオッサンだったよなぁ。ま、だから俺も正義のヒーロー的な事をしたんですけど。いやー、だって一度はああいうのしてみたいじゃん? 俺、結構身分あるし。
「あの時はキトリー様がいきなり現れて本当に驚きました」
「あー、あれね」
俺はぼんやりと思い出しながら答えた。
……あれって確か。レノを助ける為と屋敷に入り込んで契約書を盗みに入る為。ついでに、あのオッサンに幼児誘拐の容疑も付け加える為に忍び入ったんだよな~。なにせあのオッサン、相当あくどい事してたのに隠蔽工作がうまくて、警備騎士団も目を付けてたのに検挙できなくて手をこまねいていたからな……。でも俺が誘拐されたってことになれば、捜索の為に屋敷内に入ることができて、なおかつ現行犯逮捕が可能。実際あの後、屋敷内を調べたら証拠がわんさか出て、余罪が一杯ついたんだよな。……うんうん、あれも我ながらいい作戦だったな!
俺は思い出しながら、一人頷いた。
「あの頃から、キトリー様は変わらないなと思いまして」
「そーかぁ?」
……俺、大分大人になってると思うんだけど。今や俺の精神年齢は前世も合わせたら五十歳ヨ? 半世紀ヨ? 精神的にはナイスミドルだと思うんだけど?
「ええ。無鉄砲、無防備。およそ貴族らしくないですね」
「ズケズケと失礼だな」
「褒めてるんですよ?」
レノはにっこり笑って言った。しかしどう考えてもけなされている風にしか聞こえん。
「まあ、いいけど。俺とお前の仲だし」
俺が何気なく言うと、レノも何気に俺に言ってきた。
「坊ちゃん、好きですよ」
「ふぁああぁっ!?」
突然の告白に俺は奇声を上げるしかない。しかし、レノは微笑むだけでそれ以上は何も言わなかった。
……くぅー、このイケメンめ。恥ずかしい台詞をサラッと言いよってぇぇ!
俺は思わず赤面してしまう。
「キトリー様、忘れないでくださいね。もうノエル君を差し向けてもダメですよ?」
……うっ、そうなんだよなぁ。結局ノエルはザックといい感じになったみたいだからな。……ん? てことは俺はカップルを一組作ったって事かな? それはそれでグッジョブ俺!
そんなことを思っている内にレノがおもむろに立ち上がった。
「どこに行くんだ?」
「厨房でおやつの用意をして参ります。すぐに来てくださいね」
「……わかった」
俺が答えるとレノは颯爽と屋敷の中に戻って行った。俺はそれを見送り、ふぅっと息を吐く。
……レノへの返事、どうしよう。付き合う気がないって言いたいけど、レノが居なくなるのは嫌だしなぁ。
「うーむ」
一人で腕を組んで唸っていると、どこからともなく「ほっほっほっ」と声が聞こえてきた。驚いて振り返ってみれば、そこにはお爺がいた。
「いやはや、若いですなぁ~」
ほのぼのと言うお爺に俺はジト目を向ける。
「いつからいたの、お爺」
「坊ちゃんがお目を覚さます前からですかね? ほっほっほっ」
それ最初からじゃん。しかしレノにも気取られずに背後を取るとは……。
「ねぇ、前から思ってたけどお爺って何者?」
「私はただのジジイですよ」
お爺はにっこり笑って言ったが、ただ者ではないのは確かだった。
それこそレノを助ける為に屋敷に入った時、実はあの時お爺も一緒だったのだ。さすがに三歳児が屋敷に侵入することは無理だし、契約書が入った金庫を俺が開けられるわけがないからな。
だから俺は計画を立てた後、スーパー執事に相談したのだ。
『ねね、おじぃ。わるいひちょ、ちゅかまえたいの。だかりゃ、ちかりゃをかちてくりぇまちぇんか?』
幼子のいたいけな相談に、お爺は困った顔をしつつも『仕方ありませんね』と快く答えてくれた。
まあ、この時の俺はお爺にいい人材を紹介して貰いたいってだけで相談したんだが、まさかお爺本人が手助けしてくれるとは……。
当時五十代だったとはいえ、お爺は俺を抱えて軽々と侵入し、あざやかな手つきで鍵を開けてくれた。
ちなみに、あの貴族のオッサンが俺をめがけて階段を上がってきた時、花瓶を陰から投げたのもお爺だ。
「……ただのお爺さんとは思えないだけど」
「買い被りですよ、坊ちゃん」
お爺は笑顔のまま、それ以上は答えなかった。
……うーん、本当にお爺って何者なんだろ。でも、これ以上聞いても教えてくれなさそう。今はそっとしておこう、うん。
俺は疑問を胸の奥に仕舞っておくことにした。
「ところで坊ちゃん。つかぬ事、お伺いしますが。レノへの返事はいかがなさるおつもりですかな?」
「うっ、それはぁ」
「どんなお答えを出しても構いませんが、年長者から一つだけアドバイスを」
「なに?」
「あんまり先延ばしにしていると、何もかも失ってしまいますよ」
「うぐっ」
耳に痛い言葉に思わず唸ってしまう。
けれどお爺はそれ以上、その件に関しては俺に何かをいう事はなかった。
「それより坊ちゃん。そろそろ早く厨房へ行った方が良いかと。ヒューゴが今日は坊ちゃんに頼まれたおやつを作ると言っていましたよ? 確か氷で作る冷たいものだと……」
お爺に言われて俺はびょんっと立ち上がった。
「マジ!? それなら早く行かなくちゃ! お爺も一緒に行こ!」
「私はあとで参りますから、お先にどうぞ」
「ホント? 早く来るんだよ!」
俺はそう告げて、駆け足で厨房へと向かった。
だが、駆け足でその場を立ち去った俺は知らなかった。俺の後ろ姿を眺めながら、お爺がぽつりと呟いた言葉なんて。
「ほっほっほっ、若いですなぁ」
◇◇◇◇
それから厨房に駆け込むとレノがいた。
「キトリー様、ようやく来ましたね。ヒューゴさん、お願いします」
「あいよ!」
ヒューゴはそう言うとガリガリガリッと何かを削り始め、俺はレノが用意してくれていた厨房の末席に座り、おやつを今か今かと待つ。
そして五分も経たない内にヒューゴはガラスの器をトレーに乗せて持ってきてくれた。そこにはキラキラと輝く美しき氷の山に、たっぷりとかけられた白い練乳、冷凍の果物が色とりどり飾り付けられていた。
「うわーっ、かき氷だ!」
しかもこれは前世で食べた事のあるかき氷に近い。そう、南国で。
「坊ちゃんのご要望にお応えできましたかね?」
ヒューゴはパチッとウインクして俺に尋ねた。
「俺の要望以上だよぉ! 俺、大好きなんだッ! いっただきまーす!」
俺は添えられていたスプーンを手に一口、ぱくっと食べてみた。甘くて冷たくて、今日みたいなちょっと暑い日にはちょうどいい!
「んんんーっ! うまい!」
ふわふわの氷が美味しくて、俺はついついパクパクッと食べてしまう。
……さっすがヒューゴ、俺の要望通りに作ってくれるなんて。騎士を辞めて、料理人になったのはある意味正解だったかもしれないな!
俺はかき氷を食べながら、俺の様子を伺っているヒューゴを見た。
ヒューゴとフェルナンドは元々騎士だったが、フェルナンドが怪我を負ったことによって騎士を引退。ヒューゴもそれに続くように辞めた。そして二人は庭師と料理人と言う新たな職に就いたのだが、その活躍は前職を凌ぐ勢いだ。
……まあ、騎士の時もかっこよかったけどね~。
しかし、そんな事を思っている内に、かき氷の食べ過ぎで頭がキーンとしてきた。咄嗟に頭を押さえる。
「いててて」
「急いで食べるからですよ」
「だって美味しくて、つい」
急いで食べたら頭キーンってなるのはわかっているのに、なぜか食べてしまう。もうこれはもはや人間の悲しい性なのだ。
……かき氷・冷たさ響く・うまさかな。
心の中で一句詠み、まあまあの出来栄えに俺はにたっと笑う。
「なに、ニヤニヤしてるんですか」
「うんにゃ、なんでもなーい」
俺は頭の痛みが落ち着いてきたところでもう一口、冷たいかき氷をパクリと食べたのだった。
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あと残り二話!明日、明後日と投稿していきます。
お楽しみに!(*‘ω‘ *)
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