キモオタの僕と七人の妹~許嫁はドSで無慈悲な科学のお姫様~

万卜人

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第八章

命令

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 バスが停車し、僕は大急ぎで出入り口から外へ転げ落ちるように降りて、まっすぐ学校への坂道を早歩きで目指した。
 三年生はわざとらしくゆっくりと、大股でバスから降りていく。
 坂道を急ぎ足で登っていくと、真兼高校の生徒たちが列をなしている。
 僕は生徒たちの列から離れたところを歩いていた。なるべく側は歩きたくはない。近づいたら何をされるか、恐怖心が僕の足を急がしていた。
 坂道を見上げると、真兼病院旧館の建物が視界に入ってくる。
 建物の前に一人の少女が立っていた。
 真兼高校女子制服を身に着け、腕組みをしたまま微動だにせず坂道を見下ろしていた。
 髪の毛は燃えるような赤。
 ほっそりとした体つきで、顔にはピンク色の縁をした眼鏡を架けていた。
 朱美だ!
 以前の朱美とはまるで別人だ。百キロを越えていた体重は、今は推定四十キロ以下に減っている。ぶっ太かった手足は嘘のように細くなって、臼のような巨大な顔面はすっきりと卵型。ぱっちりとした大きな瞳の、アニメから抜け出したかのような美少女に変身している。
 登校する生徒たちは、男子も女子も、朱美をガン見して校門へ向かっている。全員の表情に「誰だ、この美少女は?」という疑問がありありと浮かんでいた。
 この少女があの真兼朱美だとは、誰も信じないだろう。僕も未だに信じられないでいる。
 朱美の視線は、ひた、と坂道を登る僕に注がれていた。
 眼光の鋭さは以前と同じで、見違えるほどの美少女に変身した今、さらに強烈になっていた。
「流可男っ!」
 朱美は坂の上から僕に向かって、あらん限りの大音声で叫んできた。
 美少女になっても、声量はほとんど変わらない。痩せたせいか、声が高くなり、朱美の叫び声は僕の耳に突き刺さんばかりだった。
 ビクッと僕は立ち止まった。
 長年の習慣で、朱美の声には僕を金縛りにする威力がある。
「な、何だい? 叫んだりして……」
 朱美は短く命令した。
「こっちへ来い! 用があるんだっ!」
 僕はキョロキョロと周囲を見回した。
 その場にいた生徒たちは、僕と朱美のやり取りに興味津々で、皆立ち止まって観察をしている。
 僕は朱美に宥めるような口調で答えた。
「今じゃないと、駄目なのか? これから登校しなければならないんだけど……」
 朱美はイライラしたように地団太を踏んだ。
「オイラが来い、と命令しているんだ。ゴチャゴチャ言い訳するな!」
 朱美はひと飛びで目の前に近づくと、ぐいっと右腕を上げ、指先で僕の耳たぶを力一杯挟み込んだ。
「イタタタタタタタ!」
 僕は情けない悲鳴を上げた。
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