70 / 103
第八章
命令
しおりを挟む
バスが停車し、僕は大急ぎで出入り口から外へ転げ落ちるように降りて、まっすぐ学校への坂道を早歩きで目指した。
三年生はわざとらしくゆっくりと、大股でバスから降りていく。
坂道を急ぎ足で登っていくと、真兼高校の生徒たちが列をなしている。
僕は生徒たちの列から離れたところを歩いていた。なるべく側は歩きたくはない。近づいたら何をされるか、恐怖心が僕の足を急がしていた。
坂道を見上げると、真兼病院旧館の建物が視界に入ってくる。
建物の前に一人の少女が立っていた。
真兼高校女子制服を身に着け、腕組みをしたまま微動だにせず坂道を見下ろしていた。
髪の毛は燃えるような赤。
ほっそりとした体つきで、顔にはピンク色の縁をした眼鏡を架けていた。
朱美だ!
以前の朱美とはまるで別人だ。百キロを越えていた体重は、今は推定四十キロ以下に減っている。ぶっ太かった手足は嘘のように細くなって、臼のような巨大な顔面はすっきりと卵型。ぱっちりとした大きな瞳の、アニメから抜け出したかのような美少女に変身している。
登校する生徒たちは、男子も女子も、朱美をガン見して校門へ向かっている。全員の表情に「誰だ、この美少女は?」という疑問がありありと浮かんでいた。
この少女があの真兼朱美だとは、誰も信じないだろう。僕も未だに信じられないでいる。
朱美の視線は、ひた、と坂道を登る僕に注がれていた。
眼光の鋭さは以前と同じで、見違えるほどの美少女に変身した今、さらに強烈になっていた。
「流可男っ!」
朱美は坂の上から僕に向かって、あらん限りの大音声で叫んできた。
美少女になっても、声量はほとんど変わらない。痩せたせいか、声が高くなり、朱美の叫び声は僕の耳に突き刺さんばかりだった。
ビクッと僕は立ち止まった。
長年の習慣で、朱美の声には僕を金縛りにする威力がある。
「な、何だい? 叫んだりして……」
朱美は短く命令した。
「こっちへ来い! 用があるんだっ!」
僕はキョロキョロと周囲を見回した。
その場にいた生徒たちは、僕と朱美のやり取りに興味津々で、皆立ち止まって観察をしている。
僕は朱美に宥めるような口調で答えた。
「今じゃないと、駄目なのか? これから登校しなければならないんだけど……」
朱美はイライラしたように地団太を踏んだ。
「オイラが来い、と命令しているんだ。ゴチャゴチャ言い訳するな!」
朱美はひと飛びで目の前に近づくと、ぐいっと右腕を上げ、指先で僕の耳たぶを力一杯挟み込んだ。
「イタタタタタタタ!」
僕は情けない悲鳴を上げた。
三年生はわざとらしくゆっくりと、大股でバスから降りていく。
坂道を急ぎ足で登っていくと、真兼高校の生徒たちが列をなしている。
僕は生徒たちの列から離れたところを歩いていた。なるべく側は歩きたくはない。近づいたら何をされるか、恐怖心が僕の足を急がしていた。
坂道を見上げると、真兼病院旧館の建物が視界に入ってくる。
建物の前に一人の少女が立っていた。
真兼高校女子制服を身に着け、腕組みをしたまま微動だにせず坂道を見下ろしていた。
髪の毛は燃えるような赤。
ほっそりとした体つきで、顔にはピンク色の縁をした眼鏡を架けていた。
朱美だ!
以前の朱美とはまるで別人だ。百キロを越えていた体重は、今は推定四十キロ以下に減っている。ぶっ太かった手足は嘘のように細くなって、臼のような巨大な顔面はすっきりと卵型。ぱっちりとした大きな瞳の、アニメから抜け出したかのような美少女に変身している。
登校する生徒たちは、男子も女子も、朱美をガン見して校門へ向かっている。全員の表情に「誰だ、この美少女は?」という疑問がありありと浮かんでいた。
この少女があの真兼朱美だとは、誰も信じないだろう。僕も未だに信じられないでいる。
朱美の視線は、ひた、と坂道を登る僕に注がれていた。
眼光の鋭さは以前と同じで、見違えるほどの美少女に変身した今、さらに強烈になっていた。
「流可男っ!」
朱美は坂の上から僕に向かって、あらん限りの大音声で叫んできた。
美少女になっても、声量はほとんど変わらない。痩せたせいか、声が高くなり、朱美の叫び声は僕の耳に突き刺さんばかりだった。
ビクッと僕は立ち止まった。
長年の習慣で、朱美の声には僕を金縛りにする威力がある。
「な、何だい? 叫んだりして……」
朱美は短く命令した。
「こっちへ来い! 用があるんだっ!」
僕はキョロキョロと周囲を見回した。
その場にいた生徒たちは、僕と朱美のやり取りに興味津々で、皆立ち止まって観察をしている。
僕は朱美に宥めるような口調で答えた。
「今じゃないと、駄目なのか? これから登校しなければならないんだけど……」
朱美はイライラしたように地団太を踏んだ。
「オイラが来い、と命令しているんだ。ゴチャゴチャ言い訳するな!」
朱美はひと飛びで目の前に近づくと、ぐいっと右腕を上げ、指先で僕の耳たぶを力一杯挟み込んだ。
「イタタタタタタタ!」
僕は情けない悲鳴を上げた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる