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第八章

金髪パンチ三年野郎

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 なぜなら僕がいつも乗る次の時間帯のバスは、真兼高校の三年生男子専用だからだ。
 三年になると、真兼高校男子生徒はわざと遅れて登校するようになる。一年、二年生はその前に登校することが慣習となっている。
 なぜならわざと遅れて登校するのが、格好いいという妙な風潮があるからだ。偉い奴は遅れて登校する、という固定観念が存在するらしい。
 僕にはさっぱり理解できないが。
 バスの後部座席には、真兼高校の制服を身に着けた男子生徒がずらりと並んで座り、乗り込んだ僕を珍しい生き物を見るような目つきで眺めていた。
 ひそひそとお互い耳打ちをして「何だあいつ、二年坊じゃなかっぺ?」と「だっぺ」語で囁き合っている。
 僕は出入り口のステップ近くに立ち、彼らをことさら無視していた。
 無視だ、無視!
 僕にはかかわりのない連中だ!
 と、一人のツッパリ三年がゆっくりと椅子から立ち上がり、僕に向かって肩を揺すりながら近づいてきた。
 バスは走行中なので、足元がふらついている。さらにツッパリらしい歩き方を意識しているので、近づく途中足元がぐらつき、あやうくつり革に縋って、すっ転ぶのを回避した。
 あー、惜しい!
 あんな奴、盛大にすっ転んでしまえばいいのに……。
 近づいたのはパンチパーマを金髪に染め、蟀谷を青々と剃りあげた貧相な顔つきの三年生だった。
 ニヤニヤ笑いを顔に張り付かせ、奴は僕の耳元に唇を寄せた。
「お前、二年の明日辺って奴け?」
 僕は窓外に視線を固定させたまま、短く頷いた。
 死んだってこいつとは目を合わせたくない!
 うっかり視線を合わせたが最後、こいつは即座に因縁をつけてくるに違いない。
「お前、ちょっと調子に乗ってんじゃねえのけ?」
 三年生の言うことは、まるで理解できなかった。
 僕が調子に乗っているとは、どういうことだ?
 それにわざとらしい方言も気になる。
 前にも述べたが、真兼町を含む地域の放言は「だっぺ」語圏ではない。少なくとも真兼町の老人は、誰一人「だっぺ」を語尾に付けない。むしろ標準語に近い。
 僕の理解では「だっぺ」方言を使うと、粗暴で粗雑で、暴力的なキャラクターに見えることを狙っているのだろう。少なくともツッパリたちは、そう考えている。
「だっぺ」を使っていても、繊細で、暴力には縁のない人はいるはずだが、ツッパリたちはそう考えない。まったく下劣な差別意識丸出しだ。
 相変わらず下卑た笑いを表情に貼り付けたまま、金髪パンチ三年野郎は言葉を続けた。
「昨日、あの双子に話し掛けていたっぺよ。許嫁がいるっちゅうのに、はあー、あっきれた調子こいてんなあ!」
 それでか!
 僕の全身に震えが走った。
 昨日、僕が双子姉妹に話し掛け、大胆にもデートの約束をしたことにより、僕と朱美の婚約が消滅したとツッパリたちは判断したのだ!
 もう真兼家についてあれこれ考える必要はない。
 だから遠慮なく、僕を苛める好機が来たというわけだろう。
 すべてのツッパリ、ヤンキーは僕の敵となる。
 これからの学校生活は、どんな酷いことになるか想像するだけで暗澹となる。
 ちらっと横目で後部座席を見ると、三年生は全員、何かを期待したようなニヤニヤ笑いを浮かべていた。
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