上 下
28 / 103
第三章

無関心

しおりを挟む
 頭痛はさらに激しくなった。
 足を引きずるようにして校門を通り過ぎ、真兼高校本校舎を目指す。
 高校の校舎は大変前衛的なデザインで、とても高校の建物とは思えない。
 全体が平べったい皿のような形で、本校舎の背後には講堂と教員室などが付属する建物が繋がっている。そちらは二本の蒲鉾のような形の建物で、もし上空から見下ろせばSF映画「スター・トレック」に登場する宇宙船、エンタープライズ号のような形に見えるだろう。

 おっと! こんなことを口にすると即座に「オタク容疑」が掛けられ、要監視対象者として認定されてしまう。SFへの関心は「準オタク」としてツッパリ、ヤンキーから見られてしまうからだ。
 校舎入り口には、真兼高校の校章が飾られている。
 校章のデザインには、歪んだ形の真珠が採用されている。
 伝えられるところによれば、戦国時代近くの浜辺で、貝殻から歪んだ形の真珠が発見され、その真珠を当時の支配者である織田信長に献上したという。信長は献上品の真珠を大いに気に入り「傾{かぶ}き珠」と命名して珍重したと伝えられている。献上品の真珠は、本能寺の変で焼失して今は存在しない。が、それ以来真兼町のシンボルとして歪んだ真珠のデザインを採用しているということだ。
 ようやく僕の教室に辿り着いた。
 まったく難行苦行で、こんなことなら休むんだった……。
 しかし僕は何としても通学を続けなくてはならない。

 理由は二つある。
 一つには僕は平穏無事な高校生活を送りたいからだ。あまり学校を休んでいると、青少年健全──ああ、長ったらしい名称でいちいち記すのが面倒くさい。これから「突撃隊」と記すことにする──突撃隊に目をつけられる危険がある。
 もう一つの理由は、ともかく僕は高校を無事に卒業したいからだ。卒業さえすれば、僕は大学進学という理由で真兼町を大威張りで離れることが出来る。
 あと二年、我慢すれば僕は都会を目指し、真兼町をおさらばするのだ!

 それだったら家出すりゃいいだろうという声があるが、そんな馬鹿なことは一切考えにない。たった一人、家出して無事に生活できるかどうか、考えてみなくても明らかだ。
 だから僕は何としても通学しなくてならない。
 たとえひどい頭痛に悩まされ、体調は最低でも。
 教室の入り口に立つと、わあん、という騒音が僕を包み込む。教室全体で生徒たちの雑談が、まるで塊のように僕を襲った。

 騒音がぴたり、と止まった。
 全員が僕を注視ししている。
 教室にいる生徒は、男女半々で、皆一様に「気合い」の入った服装をしている。
 男は頭髪をリーゼントやオールバック、あるいはツルツルに剃りあげている。長い髪の男子生徒は蟀谷あたりを青々と剃り込みを入れている。
 女子は毒々しい化粧をして、大抵は髪の毛を赤、青、金色、緑色などに染めていた。制服も同様に様々な改造を施していた。
「なんだ明日辺か」という雰囲気になり、一気に教室中は弛緩した。
 再び教室中はざわざわとした私語に包まれ、僕は一歩一歩、足を引きずりながら自分の席を目指した。
 あと一歩、あと少し、もうちょっと……。
 ようやく僕は席に辿り着き、がっくりと全身の体力を振り絞ってドサリと座り込んだ。というより、ガックリとへたり込んでしまった。
 はっ、はっ、と息が荒い。額からは滝のように汗が迸っている。
 誰が見ても、今の僕の状態は普通じゃないと思うはずだ。多分、他の人間なら「大丈夫か?」と声をかけるところだが、僕には誰も声をかけない。
 内心、死んでしまえと思っているはずだ。
 それでいい。
 僕は誰の関心も惹きたくはない。
 他人が僕に関心を持つ時は「憎悪」か「嫌悪」以外はあり得ないからだ。無関心こそが、僕のもっとも願うところだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根上真気
キャラ文芸
4サイト10000PV達成!不登校の俺のもとに突然やって来たのは...未来から来た美少女アンドロイドだった!しかもコイツはある目的のため〔セクシープログラム〕と称して様々な色じかけを仕掛けてくる!だが俺はそれを我慢しなければならない!果たして俺は耐え続けられるのか?それとも手を出してしまうのか?これは思春期のセイなる戦い...!いざドタバタラブコメディの幕が切って落とされる!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...