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理想宮
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パレードが終わると査問会がギャンを待っていた。
「査問? おれにか」
はっ、とトラン中尉は背筋をのばした。
なんだろうとギャンは首をかしげた。
少佐になると軍令部で個室を与えられる。士官部屋でギャンはくつろいでいたのだが、突然査問委員会が開かれ、かれを招聘すると通達したのである。
ともかく出て見るか、とギャンは立ち上がった。トラン中尉が忠実な犬のようについてくる。ギャンはちょっと眉をひそめた。
「あんたはついてこなくていいよ。呼ばれていないんだろう?」
「しかし……」
何か言いかけるトランに手をふって追い払うと、ギャンは軍令部の通路を大股に歩き出した。途中で出会う帝国軍の将校は、ギャンを認めると一瞬気おされるような表情を浮かべる。軍帽を目深に被るギャンからは、一種異様な迫力がただよっているのだが、それが〝オーラ〟のせいであることはわからない。が、なにかただならないものを誰も感じるのだろう。
査問委員会の会場に着くと、衛兵が扉の両側に立っている。ギャンはその前に立ち名前を告げた。衛兵はうなずき、扉を開けた。
U字型の机にずらりと将軍級の士官が勢ぞろいしているのを見て、ギャンはやや緊張した。
「ギャン少佐かね?」
はっ、とギャンは背を伸ばした。質問されたこと以外は答えてはならない決まりである。
正面の、肩幅が広く恰幅の良い中将の階級をつけた男が両手を組み合わせた。
「当査問会はきみの昇進について質問したいと思ったのだ。それできみを呼んだのだが、ひとつ質問したい。なぜ昇進を断ったのかね?」
ギャンは少佐から大佐への昇進を断っていたのだ。打診があったのだが、ギャンは言下に断った。少佐になるのはひとつの目的達成であったが、それ以上の昇進はギャンの目的にはかなわないからだった。大佐に昇進すれば権力が得られるが、同時にさまざまな責任がのしかかってくる。これからいろいろ独自の行動をしなくてはならない今、面倒な責任など負えるものかというのがギャンの結論である。どう答えるか、とギャンは唇を舐めた。
「ぼくはまだ若い。こんな若さで大佐になった例がありますか?」
ギャンは将軍たちにとっておきの笑顔を見せた。若者特有の、無遠慮な笑い。明るく、まぶしいくらいだが、すこし軽薄な印象を与える笑顔。思惑は成功した。居並ぶ将軍たちの顔にやや安堵感が浮かんでいた。
「ぼくについている侍従のトラン中尉は二十も年上です。中尉一人を私淑させることさえできないぼくに、ベテランの将校がしたがうと思いますか? 無理ですよ。ぼくはこのままのほうがやりやすいのです」
ふむ……、と将軍たちは肩をすくめ顔を見合わせた。
「まあ昇進の話しはこれまでにしよう。もうひとつきみに聞きたいことがあるのだ。なんでもきみは首都の防衛のため、あらたな計画を提出したそうだが、その詳細について聞かせてもらいたい。王宮の改築がそれには含まれているが……」
「提出した書類に設計図が含まれていたはずですが……」
ギャンの言葉にかれらは思い出したように書類入れを取り出した。それらをめくり、ギャンが提出した設計図をひろげる。
「その設計図にありますように、王宮の尖塔、石壁などのデザインを変更したいのです。これにより〝魔素〟の集中をはかれます」
言葉を切ると、将軍の一人が、ギャンの言葉をつぶやいた。
「〝魔素〟?」
「テスラ博士の発見したものです。この空中には、〝魔素〟と呼ばれるものが漂っており、それを利用することによりさまざまな効果があらわれるのです。あの鉄人兵にもその原理が使われており、共和国軍との戦いに勝利したのもそのせいなのです。これからの戦いに〝魔素〟は重要な要素となります。くわしくはテスラ博士の報告をお読みください」
「〝魔素〟……。まさか魔法のことを言っているのかね? わが帝国軍に魔法が必要というのか?」
将軍たちは疑わしそうに言った。ギャンは首を横にふった。
「いいえ、そんな非科学的なことではありません! 確かな科学です。とにかくこれからの首都の防衛にこの計画は必要なのです」
ギャンは言葉の一言、一言にちからをこめ身を乗り出した。自然な仕草で帽子を取る。
はらりと金髪がたれ、額の第三の目があらわれた。
第三の目がぐっと見開かれた。
その場にいた全員がぽかんとうつろな目になった。
「いいですか……首都は危険なのです……魔法による攻撃を防衛するために……この計画は必要なのです……」
ギャンの声が将軍たちの耳にしみこむにつれ、かれらはまるで機械のようになんども頷いていた。
「そうだ……必要だ……」
「首都は魔法にたいして無力だ……」
「その計画を進めなくては……」
かれらはすっかりギャンによって催眠状態に陥っていた。
ギャンはにんまりと笑った。
成功だ!
かれらの後押しで、王宮の改造計画は進むだろう。そして王宮がシュヴァルの宮殿の拡大版となったあかつきには、増大した〝魔素〟を使ってギャン自身が首都を支配するのだ。
「査問? おれにか」
はっ、とトラン中尉は背筋をのばした。
なんだろうとギャンは首をかしげた。
少佐になると軍令部で個室を与えられる。士官部屋でギャンはくつろいでいたのだが、突然査問委員会が開かれ、かれを招聘すると通達したのである。
ともかく出て見るか、とギャンは立ち上がった。トラン中尉が忠実な犬のようについてくる。ギャンはちょっと眉をひそめた。
「あんたはついてこなくていいよ。呼ばれていないんだろう?」
「しかし……」
何か言いかけるトランに手をふって追い払うと、ギャンは軍令部の通路を大股に歩き出した。途中で出会う帝国軍の将校は、ギャンを認めると一瞬気おされるような表情を浮かべる。軍帽を目深に被るギャンからは、一種異様な迫力がただよっているのだが、それが〝オーラ〟のせいであることはわからない。が、なにかただならないものを誰も感じるのだろう。
査問委員会の会場に着くと、衛兵が扉の両側に立っている。ギャンはその前に立ち名前を告げた。衛兵はうなずき、扉を開けた。
U字型の机にずらりと将軍級の士官が勢ぞろいしているのを見て、ギャンはやや緊張した。
「ギャン少佐かね?」
はっ、とギャンは背を伸ばした。質問されたこと以外は答えてはならない決まりである。
正面の、肩幅が広く恰幅の良い中将の階級をつけた男が両手を組み合わせた。
「当査問会はきみの昇進について質問したいと思ったのだ。それできみを呼んだのだが、ひとつ質問したい。なぜ昇進を断ったのかね?」
ギャンは少佐から大佐への昇進を断っていたのだ。打診があったのだが、ギャンは言下に断った。少佐になるのはひとつの目的達成であったが、それ以上の昇進はギャンの目的にはかなわないからだった。大佐に昇進すれば権力が得られるが、同時にさまざまな責任がのしかかってくる。これからいろいろ独自の行動をしなくてはならない今、面倒な責任など負えるものかというのがギャンの結論である。どう答えるか、とギャンは唇を舐めた。
「ぼくはまだ若い。こんな若さで大佐になった例がありますか?」
ギャンは将軍たちにとっておきの笑顔を見せた。若者特有の、無遠慮な笑い。明るく、まぶしいくらいだが、すこし軽薄な印象を与える笑顔。思惑は成功した。居並ぶ将軍たちの顔にやや安堵感が浮かんでいた。
「ぼくについている侍従のトラン中尉は二十も年上です。中尉一人を私淑させることさえできないぼくに、ベテランの将校がしたがうと思いますか? 無理ですよ。ぼくはこのままのほうがやりやすいのです」
ふむ……、と将軍たちは肩をすくめ顔を見合わせた。
「まあ昇進の話しはこれまでにしよう。もうひとつきみに聞きたいことがあるのだ。なんでもきみは首都の防衛のため、あらたな計画を提出したそうだが、その詳細について聞かせてもらいたい。王宮の改築がそれには含まれているが……」
「提出した書類に設計図が含まれていたはずですが……」
ギャンの言葉にかれらは思い出したように書類入れを取り出した。それらをめくり、ギャンが提出した設計図をひろげる。
「その設計図にありますように、王宮の尖塔、石壁などのデザインを変更したいのです。これにより〝魔素〟の集中をはかれます」
言葉を切ると、将軍の一人が、ギャンの言葉をつぶやいた。
「〝魔素〟?」
「テスラ博士の発見したものです。この空中には、〝魔素〟と呼ばれるものが漂っており、それを利用することによりさまざまな効果があらわれるのです。あの鉄人兵にもその原理が使われており、共和国軍との戦いに勝利したのもそのせいなのです。これからの戦いに〝魔素〟は重要な要素となります。くわしくはテスラ博士の報告をお読みください」
「〝魔素〟……。まさか魔法のことを言っているのかね? わが帝国軍に魔法が必要というのか?」
将軍たちは疑わしそうに言った。ギャンは首を横にふった。
「いいえ、そんな非科学的なことではありません! 確かな科学です。とにかくこれからの首都の防衛にこの計画は必要なのです」
ギャンは言葉の一言、一言にちからをこめ身を乗り出した。自然な仕草で帽子を取る。
はらりと金髪がたれ、額の第三の目があらわれた。
第三の目がぐっと見開かれた。
その場にいた全員がぽかんとうつろな目になった。
「いいですか……首都は危険なのです……魔法による攻撃を防衛するために……この計画は必要なのです……」
ギャンの声が将軍たちの耳にしみこむにつれ、かれらはまるで機械のようになんども頷いていた。
「そうだ……必要だ……」
「首都は魔法にたいして無力だ……」
「その計画を進めなくては……」
かれらはすっかりギャンによって催眠状態に陥っていた。
ギャンはにんまりと笑った。
成功だ!
かれらの後押しで、王宮の改造計画は進むだろう。そして王宮がシュヴァルの宮殿の拡大版となったあかつきには、増大した〝魔素〟を使ってギャン自身が首都を支配するのだ。
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