206 / 279
理想宮
11
しおりを挟む
パックたちはニコラ博士のもとへ出かけた。
バベジ教授を訪れるため同行を求めるためである。
ニコラ博士の研究室のドアを開けたパックは驚きの声をあげた。
「サンディ!」
博士のとなりにサンディが座っていたのである。彼女はパックを認め、気弱な笑みを浮かべた。
「パック……」
「どうしたんだい。心配したんだぞ!」
「ご免なさい」
しおらしくサンディはうつむいた。
「あれからわしのところへ来てな、行くところがないそうなんじゃ」
ニコラ博士が説明した。うなずいたパックはサンディに話しかけた。
「ねえサンディ……きみ、皇帝陛下の……?」
はっ、とサンディは顔を上げた。
「聞いたの?」
うん、とうなずくパックにサンディはつと顔をそらせた。
「隠してて悪かったわ。そうよ、あたしは皇帝の娘。王宮から逃げ出して来たの」
「いったいどうして?」
「来月、あたし十五才になる。そうなると宮廷の慣例として結婚しなくてはならなくなるの。相手は友好国の公子か、あるいは有力な貴族の子弟、軍人相手も考えられる。でもあたしの希望はだれも聞かない。そんなのいや! 結婚はいつかしたいけど、だれかに決められるのはいやなの!」
「それでか……」
「パック、あたしいまは王宮に帰りたくない。ね、分かって。だからミリィを探す旅に一緒に連れて行って。きっと役に立つから」
「しかしなあ……」
パックは頭をかいた。
どうしようか、とニコラ博士を見る。博士はこれはおまえの問題だとばかりに眼鏡をわざとらしくハンカチで拭いていた。
ため息が出た。
「しょうがないなあ……」
ぱっ、とサンディの顔が明るくなる。
「じゃ、一緒に行っていいのね!」
きゃあ、と叫んでサンディはパックに抱きついた。
お、おいよせよ! と、パックは真っ赤になった。
ニコラ博士が口を挟んだ。
「それでお前たち、ミリィを探しに旅に出るのかね?」
「ええ、お金もたまったし……その前にバベジ教授に会わないと」
「バベジに?」
「エイダという……」
「あの思考機械か? あれになにか用があるのかね」
パックはギャンのことを話した。
話を聞き終わり、博士は眉を上げた。
「ギャン? あの跳ねかえりの少年か。首都に来ているのか……」
「しかも帝国軍に入っているんです」
「あいつはたしかパックより二才年上だったな。ということはまだ十五才。十七才にならないと軍に入ることは出来ないはずだが……それが少佐。うーむ、信じられん」
「そのギャンのことを知るため、エイダの話を聞くべきだと思うんです」
わかった、と博士は自分の膝を叩いた。
「それじゃ行こう。ついておいで」
さっさと立ち上がると、大学の通路に歩いていく。
あわててその後についていくパックは尋ねた。
「ちょっとまって……ムカデは?」
「その必要はない」
ニコラはにやりと笑った。
バベジ教授を訪れるため同行を求めるためである。
ニコラ博士の研究室のドアを開けたパックは驚きの声をあげた。
「サンディ!」
博士のとなりにサンディが座っていたのである。彼女はパックを認め、気弱な笑みを浮かべた。
「パック……」
「どうしたんだい。心配したんだぞ!」
「ご免なさい」
しおらしくサンディはうつむいた。
「あれからわしのところへ来てな、行くところがないそうなんじゃ」
ニコラ博士が説明した。うなずいたパックはサンディに話しかけた。
「ねえサンディ……きみ、皇帝陛下の……?」
はっ、とサンディは顔を上げた。
「聞いたの?」
うん、とうなずくパックにサンディはつと顔をそらせた。
「隠してて悪かったわ。そうよ、あたしは皇帝の娘。王宮から逃げ出して来たの」
「いったいどうして?」
「来月、あたし十五才になる。そうなると宮廷の慣例として結婚しなくてはならなくなるの。相手は友好国の公子か、あるいは有力な貴族の子弟、軍人相手も考えられる。でもあたしの希望はだれも聞かない。そんなのいや! 結婚はいつかしたいけど、だれかに決められるのはいやなの!」
「それでか……」
「パック、あたしいまは王宮に帰りたくない。ね、分かって。だからミリィを探す旅に一緒に連れて行って。きっと役に立つから」
「しかしなあ……」
パックは頭をかいた。
どうしようか、とニコラ博士を見る。博士はこれはおまえの問題だとばかりに眼鏡をわざとらしくハンカチで拭いていた。
ため息が出た。
「しょうがないなあ……」
ぱっ、とサンディの顔が明るくなる。
「じゃ、一緒に行っていいのね!」
きゃあ、と叫んでサンディはパックに抱きついた。
お、おいよせよ! と、パックは真っ赤になった。
ニコラ博士が口を挟んだ。
「それでお前たち、ミリィを探しに旅に出るのかね?」
「ええ、お金もたまったし……その前にバベジ教授に会わないと」
「バベジに?」
「エイダという……」
「あの思考機械か? あれになにか用があるのかね」
パックはギャンのことを話した。
話を聞き終わり、博士は眉を上げた。
「ギャン? あの跳ねかえりの少年か。首都に来ているのか……」
「しかも帝国軍に入っているんです」
「あいつはたしかパックより二才年上だったな。ということはまだ十五才。十七才にならないと軍に入ることは出来ないはずだが……それが少佐。うーむ、信じられん」
「そのギャンのことを知るため、エイダの話を聞くべきだと思うんです」
わかった、と博士は自分の膝を叩いた。
「それじゃ行こう。ついておいで」
さっさと立ち上がると、大学の通路に歩いていく。
あわててその後についていくパックは尋ねた。
「ちょっとまって……ムカデは?」
「その必要はない」
ニコラはにやりと笑った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる