60 / 279
準備
2
しおりを挟む
「待ってくれ、みんな! いきなり押しかけてきてそんなこと相談されても困る」
家の前に集まった村人に、ホルンは声をあげた。
ひとりが前へ進み、口を開いた。
「しかしこうなったら、あんたしかいないんだ。頼まれてくれよ。このままじゃ、サックが何をしでかすか……」
そうだそうだという同意の声に、ホルンは困ったように髭をしごいた。
ホルンは家の中をふりかえった。
キッチンでパックがひとり、食事をとっていた。もくもくとパンを口に運び、ミルクを飲む。村人たちの騒ぎには我関せずというところだ。ホルンの目がきらめいた。
かれは村人たちのほうへ顔をむけ、うなずいた。
「わかった、近くボーラン市に行って、話をしてみようじゃないか」
わっ、という喚声があがった。
ホルンは両手をあげ、騒ぎになろうとするのを押さえた。
「そういうわけだから皆さん、ここはひとつ家に帰って静かに待ってもらえないか?」
「あんたが引き受けてくれれば安心だ」
村人たちは愁眉を開き、笑みを浮かべつつ帰っていった。
ようやく家の前が静かになって、ホルンはほっとため息をついた。
家の中にもどり、パックの前にすわった。
「パック」
ん? と、パックは顔をあげた。
「なに、父さん」
「お前、家を出るつもりだろう?」
あわててパックは食べ物を飲み込んだ。
「なんだい、出し抜けに」
ホルンはにやっ、と笑った。
「隠さんでもわかる。お前のことだ、おれに黙って家を出て、ミリィを探しに行くつもりなんだろう」
「だからなんだい!」
パックは顔を赤らめ、食卓を平手でたたいた。
「焦るな! おれはお前がミリィを探しに行くのを邪魔しようというんじゃない。なにしろお山に登って、ご先祖の剣に触れてきたからな。お前は大人だ。おれがどうこう言って止めるわけにもいかん」
意外な成り行きにパックはきょとんとなった。
「だが黙って出て行って、あてもなくさ迷うわけにもいかんだろう? なにか探すあてがあるのか?」
言われてパックは黙った。
そう言われると弱い。
とにかく北へ向かって旅立つつもりだったからである。
「だからな、まずおれと一緒にボーラン市に行ってみないか?」
「ボーラン市?」
「そうだ、帝国の首都だ。人も集まるし、情報も集まる。北の方向へ向かったあの光を見ている人間も多いはずだ」
「そうか!」
パックの顔に喜色が浮かんだ。
「そういう人を探して聞けば……」
「そうだ、もっと詳しい情報が手に入るかもしれない。さっき村の人たちがおれにボーラン市に行って、サックのことについて調べてくれと頼んできた。いい機会だ。サックの事のついでに、ミリィの行方について手がかりが得られるかもしれん。
だからちょっと待て。おれの出発の用意ができるまで」
パックは判った、とうなずいた。
家の前に集まった村人に、ホルンは声をあげた。
ひとりが前へ進み、口を開いた。
「しかしこうなったら、あんたしかいないんだ。頼まれてくれよ。このままじゃ、サックが何をしでかすか……」
そうだそうだという同意の声に、ホルンは困ったように髭をしごいた。
ホルンは家の中をふりかえった。
キッチンでパックがひとり、食事をとっていた。もくもくとパンを口に運び、ミルクを飲む。村人たちの騒ぎには我関せずというところだ。ホルンの目がきらめいた。
かれは村人たちのほうへ顔をむけ、うなずいた。
「わかった、近くボーラン市に行って、話をしてみようじゃないか」
わっ、という喚声があがった。
ホルンは両手をあげ、騒ぎになろうとするのを押さえた。
「そういうわけだから皆さん、ここはひとつ家に帰って静かに待ってもらえないか?」
「あんたが引き受けてくれれば安心だ」
村人たちは愁眉を開き、笑みを浮かべつつ帰っていった。
ようやく家の前が静かになって、ホルンはほっとため息をついた。
家の中にもどり、パックの前にすわった。
「パック」
ん? と、パックは顔をあげた。
「なに、父さん」
「お前、家を出るつもりだろう?」
あわててパックは食べ物を飲み込んだ。
「なんだい、出し抜けに」
ホルンはにやっ、と笑った。
「隠さんでもわかる。お前のことだ、おれに黙って家を出て、ミリィを探しに行くつもりなんだろう」
「だからなんだい!」
パックは顔を赤らめ、食卓を平手でたたいた。
「焦るな! おれはお前がミリィを探しに行くのを邪魔しようというんじゃない。なにしろお山に登って、ご先祖の剣に触れてきたからな。お前は大人だ。おれがどうこう言って止めるわけにもいかん」
意外な成り行きにパックはきょとんとなった。
「だが黙って出て行って、あてもなくさ迷うわけにもいかんだろう? なにか探すあてがあるのか?」
言われてパックは黙った。
そう言われると弱い。
とにかく北へ向かって旅立つつもりだったからである。
「だからな、まずおれと一緒にボーラン市に行ってみないか?」
「ボーラン市?」
「そうだ、帝国の首都だ。人も集まるし、情報も集まる。北の方向へ向かったあの光を見ている人間も多いはずだ」
「そうか!」
パックの顔に喜色が浮かんだ。
「そういう人を探して聞けば……」
「そうだ、もっと詳しい情報が手に入るかもしれない。さっき村の人たちがおれにボーラン市に行って、サックのことについて調べてくれと頼んできた。いい機会だ。サックの事のついでに、ミリィの行方について手がかりが得られるかもしれん。
だからちょっと待て。おれの出発の用意ができるまで」
パックは判った、とうなずいた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる