蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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準備

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「待ってくれ、みんな! いきなり押しかけてきてそんなこと相談されても困る」
 家の前に集まった村人に、ホルンは声をあげた。
 ひとりが前へ進み、口を開いた。
「しかしこうなったら、あんたしかいないんだ。頼まれてくれよ。このままじゃ、サックが何をしでかすか……」
 そうだそうだという同意の声に、ホルンは困ったように髭をしごいた。
 ホルンは家の中をふりかえった。
 キッチンでパックがひとり、食事をとっていた。もくもくとパンを口に運び、ミルクを飲む。村人たちの騒ぎには我関せずというところだ。ホルンの目がきらめいた。
 かれは村人たちのほうへ顔をむけ、うなずいた。
「わかった、近くボーラン市に行って、話をしてみようじゃないか」
 わっ、という喚声があがった。
 ホルンは両手をあげ、騒ぎになろうとするのを押さえた。
「そういうわけだから皆さん、ここはひとつ家に帰って静かに待ってもらえないか?」
「あんたが引き受けてくれれば安心だ」
 村人たちは愁眉を開き、笑みを浮かべつつ帰っていった。
 ようやく家の前が静かになって、ホルンはほっとため息をついた。
 家の中にもどり、パックの前にすわった。
「パック」
 ん? と、パックは顔をあげた。
「なに、父さん」
「お前、家を出るつもりだろう?」
 あわててパックは食べ物を飲み込んだ。
「なんだい、出し抜けに」
 ホルンはにやっ、と笑った。
「隠さんでもわかる。お前のことだ、おれに黙って家を出て、ミリィを探しに行くつもりなんだろう」
「だからなんだい!」
 パックは顔を赤らめ、食卓を平手でたたいた。
「焦るな! おれはお前がミリィを探しに行くのを邪魔しようというんじゃない。なにしろお山に登って、ご先祖の剣に触れてきたからな。お前は大人だ。おれがどうこう言って止めるわけにもいかん」
 意外な成り行きにパックはきょとんとなった。
「だが黙って出て行って、あてもなくさ迷うわけにもいかんだろう? なにか探すあてがあるのか?」
 言われてパックは黙った。
 そう言われると弱い。
 とにかく北へ向かって旅立つつもりだったからである。
「だからな、まずおれと一緒にボーラン市に行ってみないか?」
「ボーラン市?」
「そうだ、帝国の首都だ。人も集まるし、情報も集まる。北の方向へ向かったあの光を見ている人間も多いはずだ」
「そうか!」
 パックの顔に喜色が浮かんだ。
「そういう人を探して聞けば……」
「そうだ、もっと詳しい情報が手に入るかもしれない。さっき村の人たちがおれにボーラン市に行って、サックのことについて調べてくれと頼んできた。いい機会だ。サックの事のついでに、ミリィの行方について手がかりが得られるかもしれん。
 だからちょっと待て。おれの出発の用意ができるまで」
 パックは判った、とうなずいた。
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