電脳ロスト・ワールド

万卜人

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不条理三兄弟

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┌──────────────────┐
│私立探偵 真葛玄之丞げんのじょう                        │
│失せ物、探し人、何でも請合います    │
└──────────────────┘
 男はデスクの表面に、トランプのカードを配るように、タバサとゲルダに名刺を投げて寄越した。
 名刺の名前を見て、タバサは客家二郎以外にも、日本人名を使うプレイヤーがいるんだと少し感心した。
 それでは、目の前の真葛玄之丞と名乗る男は、日本人なのだろうか? 大きな鼻と、彫りの深い顔立ちは、どことなくアメリカ人に見えるが。
 用意された三脚の椅子に、二郎を真ん中に左右にタバサとゲルダが座る。
「《ロスト・ワールド》とな? 本気なのか、二郎君」と、やや横を向き、葉巻をふかしながら玄之丞は流し目で二郎を見た。二郎は真面目な顔で頷く。
「そうだ。《ロスト・ワールド》に出かける約束は、忘れていないだろうね」
「忘れてはおらん! おらんが、吾輩は忙しいのだ! 今週も、ヨーロッパのさる公国から仕事の依頼があってね、出かけなくてはならん!」
 玄之丞はうそぶく。二郎は、すぐ反撃した。
「嘘つけ! あんたの腹は読めているぜ。臆病風に吹かれたのか?」
 ばん、と玄之丞はデスクを叩く。
「失礼千万! 無礼にもほどがある! 吾輩が臆病風とは! 取り消せ!」
 髪を振り乱し、玄之丞は両手をデスクについて、ぐいっと顔を突き出した。
 二郎は顎を上げ、「けっ」と短く笑う。
「取り消すよ。あんたが一緒に《ロスト・ワールド》に付き合うってならね!」
「ふうむ」と玄之丞は椅子に再び座りなおし、短くなった葉巻を灰皿に押しつけるようにして消した。もう一本、胸ポケットから取り出して、口に咥える。
 デスクの下からガス・バーナーを取り出し、「ぱんっ」と音を立てて点火すると、青い炎を葉巻に近づける。葉巻はバーナーの熱で一気に燃え上がった。
「あっちちちち!」
 燃え上がった葉巻を口から離し、玄之丞は悲鳴を上げた。転がったガス・バーナーの炎が絨毯に燃え上がり、あたり一面ぼぼぼっと瞬時に火の海になる。玄之丞は叫んだ。
「火事だ! 火事だ! 消火器を!」
「火事だって?」
 部屋の奥からドアを開け、もう一人の人物が姿を表した。
 ぎょろりとした大きな目にグレーの上下。頭にはなんとも形容のしようのない、妙な帽子を被っている。手には消火器を抱えていた。その場の惨禍を見てとり、男は消火器のホースを向けて消火液を噴出させる。あっという間に、火事は消し止められた。
 しかし噴出した消火液で、玄之丞は頭の上から爪先まで真っ白になってしまう。玄之丞を見て、男は溜息をついた。
「兄貴、葉巻に火を点けるときは、マッチで充分だといつも言っているだろう?」
 玄之丞から目を離し、男は二郎を見て驚きの色を見せた。
「客家二郎! 珍しい客人もいるもんだ」
「久しぶり、知里夫ちりお君」
 二郎は、にこやかな挨拶をする。
 知里夫と呼ばれた男は左右のタバサとゲルダに目をとめる。鋭い視線。油断のなさそうな、にたにた笑いが顔に浮かんだ。
 タバサは二郎に囁いた。
「今、兄貴って、あの人が言ったわね。ということは、兄弟?」
「そうさ。真葛三兄弟というのが、おれの連れて行きたい仲間なんだ」
 二郎はタバサに顔を向けず、囁き返した。
「三兄弟? それじゃ、もう一人いるの?」
「そうだ……おい、玄之丞。晴彦はどうしたね? 三人が揃ったところで仕事の話をしたいんだが」
 ようやく白い消火液を振り落とし、玄之丞は顔を上げた。
「晴彦! そう言えば、姿を見ないな。おい、知里夫。あいつはどこだ?」
「知らねえ」と知里夫は肩を竦める。
 玄之丞は「むっ」となる。
「こんなときに、あいつは……。おおい! 晴彦! どこにいる!」
 ぐおおおおっ……。
 まるで返事のように、鼾の音が聞こえてきた。玄之丞は、にっこりとなった。
「おるわい。この部屋のどこかに隠れておる! さあ、どこにいる?」
 にやりと笑いを浮かべ、玄之丞はぎろりと部屋の中を見渡した。
 すぐさま玄之丞の目が鋭く、部屋の隅にある洋箪笥に向かった。ぴょこぴょこと歩いていくと、耳を押し当てる。
 ばたんっ、と箪笥の扉を開くと、中からコートを纏った、もじゃもじゃの金髪の男がころりと転がり出る。ばたん、と腹這いになり、それでも「ごおおっ」と盛大に鼾を掻いている。
「晴彦! 寝てないで起きろ! こら!」
 玄之丞が靴の先で蹴るが、晴彦と呼ばれた男はまるで木偶の坊のように寝っ転がったまま鼾を掻きつづけた。玄之丞は頭をくしゃくしゃと猛烈な勢いで掻き毟った。
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