追憶のリコリス

のがみさんちのはろさん

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1章

1章 6話「友人宅」

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 数日が過ぎ、学園が休みの日が来た。
 ノアールは父のルーフスに持っていけと言われた有名な店焼きお菓子の詰め合わせを持たされ、母のヴィオラに可愛くしましょうねと言われて新しく買ってきた貴族御用達の仕立て屋の新作ワンピースを着せられ、髪の毛もしっかり時間をかけて編み込まれた。
 ただ友人の家に古い書物などを見せてもらいに行くだけなのにここまでしていく必要があるのだろうか。不思議に思いながら、ノアールは教えてもらった住所へ馬車を走らせた。

「それではお嬢様、後ほどお迎えに上がりますので」
「うん、ありがとう」

 御者に手を振り、ノアールはグリーゼオの家のドアをノックした。
 グリーゼオの家は住宅街から離れた、山の近くにあった。ノアールたちが暮らすこの街はこのフィグオ山の近くにあるミルガット国の西にある街、ライナ。
 山の近くは地震などの影響も大きく、あまり好んで住む人はいない。つまりグリーゼオの家の周りには全く住居がない。ノアールもこんな端の方まで来たのは初めてだった。

「いらっしゃい、ノア」
「こんにちは、ゼオ」

 ドアが開き、私服のグリーゼオが顔を出した。
 普段はきちっと制服を着ている彼だが、今はダボッとしたシャツを着ている。ラフな格好をしているのが新鮮で、ノアールは少し目を奪われた。
 それはグリーゼオにとっても同じだった。可愛いワンピース姿はもちろんだが、学園では一つにまとめて結ってるだけの彼女が今日に限ってサイドを編み込んで、後ろ髪を下ろしている。

「……あ、えっと……とりあえず上がって」
「あ、うん。お邪魔しまーす」

 グリーゼオの後ろについて、家の中に上がった。
 廊下の先を進んでリビングに通される。真正面に見える大きな窓。その向こうに見えるフィグオ山の景色にノアールは思わず息を飲んだ。まるで窓枠が額縁のようで、壁一面が大きな絵画を飾っているみたいだった。

「すげーだろ。この家、父さんが設計して建ててもらったんだよ」
「じゃあこの間取りにしたのも?」
「そう。なんか父さん、あの山が気に入ってるんだって」
「何かあるの?」
「さぁ? おれもその辺は詳しく知らない。でも定期的に山に入ってるみたいだな。今日も行ってるよ」
「そうなんだ。じゃあ今日は家に居らっしゃらないんだ」
「ああ。母さんも付いていってるから、今はおれだけ」
「なんだ。お父様にお菓子持たされたんだけど渡せないのかぁ」

 ノアールは手に持っていた紙袋をグリーゼオに手渡す。
 気を遣わせて悪いと言いながらグリーゼオはそれを受け取り、テーブルの上に置いた。

「じゃあ早速だけど父さんの部屋行くか?」
「うん、行く行く!」

 おいでと手招きするグリーゼオに、嬉しそうな顔を浮かべてノアールは付いていった。
 二回に続く階段の脇にはたくさんの本が積まれている。そこに置かれているものにも興味があったが、今は我慢しようと大人しく進んでいった。

 案内されたのは廊下の奥にある部屋だった。物で溢れているのか、山積みの本や何かが書かれた書類が隙間からはみ出して、ドアが閉まらなくなっている。

「悪いな、散らかってて。片付けようにも何が書かれてるのか分からないから変に手を出せなくてさ」
「確かに……難しそうなこといっぱい書いてあるね。何の研究だろう……」
「父さん、持ち帰ってきた物をその辺に置いてくだけで片付けようとしないんだよ。読み返してるのかどうかも分かんないし」
「えっと……どれ読んでいいの?」

 グリーゼオはもう慣れっこなのか、本や書類などの隙間に足を突っ込んで器用に進んでいくが、ノアールにはとてもじゃないがそんな怖いこと出来ない。

「ん? ああ、ここにあるもの何でも読んでいいって」
「え、なんでも⁉」
「うん。持って帰るのは駄目だけど、うちで読む分には良いって」
「えー……嬉しいけど……どこから手を付ければいいのか……」
「マジで適当でいいよ。目についたものから持ってけ。ついでに片付けもできるし」
「え、大丈夫なの?」
「ああ。今までは遠慮して手ェ出さなかったけど、人に読ませて問題ないんだったらおれが片付けても問題ないだろ。ついでに手伝ってくれよ」
「う、うん」

 グリーゼオは山になった本を適当に何冊か持って、廊下に出していった。
 隣が自分の部屋だから勝手に入っていいと言われ、ノアールは何冊か持ってグリーゼオの部屋に入る。

「……おお」

 散らかった部屋を見た後だからなのか、余計にグリーゼオの部屋が綺麗に見える。
 実際、しっかり片付けられていて清潔感という言葉がよく似合う。ノアールの部屋もメイドがいなかったら悲惨なことになっていただろう。普段全く掃除などをしない自分が少しだけ恥ずかしくなった。
 そんなことを思いながら、ノアールは中央に置かれた小さなテーブルに本を置き、ベッドを背もたれにしてパラパラと捲っていく。

 窓が少し空いているおかげか、心地よい風が頬を撫でてくる。隣で文句を言いながら片付けているのか小さく聞こえてくるグリーゼオの声にふふっと笑みを零しながら、一冊一冊じっくりと読んでいった。



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