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第36話 嫁成分の補充が必要です

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 数十分後。潮くんと何でもない会話をしていると、パソコンのモニターに着信の表示が出た。
 もう通話をかけてきたのか。あの緋色って子の足の速さも凄いけど、この世界にない物をもう理解したって言うのか。さすがエンジ様。
 俺は一呼吸おいて、通話のアイコンをクリックした。

「も、もしもし!」
『やぁ、さっきぶりだな。雨音殿』
「はい。パソコンの方はどうですか? 何か不具合などは……」
『いや、問題ない。それにしても凄いな、これは。君の眷属の子が持っていた板もそうだが、こんなよく分からない箱で君と話が出来るようになるとは』
「まぁ、色んな原理を無視した超パワーのおかげですけど……」

 エンジ様の後ろに緋色くんが見える。やっぱり彼はエンジ様の信頼が厚いんだろうな。
 でも異世界の科学文明を自慢してる時間はない。

「それで、本題なんですけど……」
『ああ。神殺しの少年だね。実は緋色を待っている間に人間達から妙な噂を聞いたんだ』
「噂ですか?」
『ここから遠くの北の国、セツガが一夜にして亡びたそうだ』
「国が!?」
『あくまで噂でその真相は分からぬが……事実であれば、その神殺しの件と何らかの関係があるかもしれぬ』

 確かに国が亡ぶということは、その土地の神も消えたということになる。国を見捨てて失踪したか、死んで消えてしまったかは分からないけど。
 でも俺みたいな小さな土地の神ならともかく、国の神様が消えるなんてよっぽどのことだ。人が神を見捨てたのか、神が人を見捨てたのか、どっちなんだろう。

「セツガという国のこと、エンジ様は何かご存じですか?」
『私も詳しいことは知らぬが、常に雪の降る地であったそうだ。きっとその土地を守る神が雪を司るものだったのだろうな』
「雪……寒さで生きていけなくなった、とかでしょうか」
『どうだろうな。土地神になるものが力の制御も出来ないとは思えぬが……』

 そうだよな。人間が生きていけなかったら自分だって信仰心を得られなくて力尽きてしまう。
 じゃあ、一体何で。

「調べる必要がありそうですね」
『ああ。私はこれから緋色に行かせようと思っておるが、君はどうする?』
「え?」
『君のところの眷属にも同行をしてもらおうと思っているのだが、どうだ』

 確かに気にはなるし、調べたい。
 でも、セツガの国ってメチャクチャ遠いんだよね。何日も潮くんと離れ離れなのは物凄くイヤ。寂しくて俺が死んじゃう。
 でも、こんな非常時に個人の感情を持ち出すのは良くない。神様として、それは駄目だ。

「潮くん。君はどうしたい?」
「え、僕ですか?」

 俺の後ろでずっと黙って話を聞いていた潮くんに訊いた。ここは本人の意見も大事だ。潮くんが嫌なら無理強いはさせたくないし、行くというなら止めない。

「…………そうですね。少しでも手掛かりが見つかればアマネ様のお役にも立てると思うので、僕も行きます」
「……わかった。それじゃあエンジ様、またそちらに潮を向かわせます。よろしいでしょうか?」
『勿論だ。君のところの眷属が共にいれば、あの板で彼らの状況も分かるのだろう?』
「ええ。潮くんの見ているものを共有できます」
『では、明日の早朝で良いか?』
「はい。では、明日」

 そう言って、エンジ様は通話を切った。
 セツガの国、か。そこであの子に繋がる何かが見つかればいいけど。
 でも、その前に。

「潮くんー!!」
「わっ、アマネ様!?」

 俺は勢いよく潮くんに抱き着いた。
 何日潮くんがいないか分からないんだもん。今のうちに充電しておかないと俺が耐えられない。

「また離れ離れになるなんて……早く解決させないと……俺が無理……」
「そうですね。そのために、僕も頑張ります」

 潮くんが俺の頭を撫でてくれる。
 ああ。優しい俺の嫁。

「……でも、その前に……」

 潮くんが俺の頬に手を添えて、そっと口付けをした。
 俺も同じことを思っていたよ。

「潮くんを、ちょうだい?」
「はい。僕も、アマネ様が欲しいです」


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