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第37話 この部屋だけ世界観おかしい

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 翌朝。朝日が昇るのと同時に俺は目を覚ました。
 腕の中にはスヤスヤと眠る潮くん。

 今日は潮くんと緋色くんでセツガという国に向かう。
 メッチャ遠いし、暫く離れ離れだと思うと寂しいけど、これも神殺し事件解決のためには仕方ないことだ。

「潮くん。そろそろ起きて準備しないと」
「……う、ん。アマネ様……」
「おはよう」
「おはようございます」

 起きて触れるだけのキスをする。
 正直、寂しいってこと以上に少し怖い。もしセツガの国で何かあったら。あの少年に会ってしまったら。もうしそうなっても、俺は助けてあげられない。ただ、見ていることしか出来ないんだ。

「……アマネ様?」
「え?」
「顔が、強張ってます」
「……うん。君に何かあったら、怖いなって」
「大丈夫ですよ。ずっとアマネ様と訓練してきたんです。それに、僕一人でもないんですから」
「そうだね。緋色くんはエンジ様の眷属だ。きっと俺が想像してる以上に強いんだろうな」

 じゃなかったら、エンジ様が彼を行かせようとはしないだろう。
 俺もエンジ様のようにしっかりしないと。潮くんを信じて、見送らないと駄目だ。

「きっと大丈夫。緋色くんに負けないくらい、潮くんも強い。暴走していたとはいえ、あの少年に傷を負わせたんだ。今回だって大丈夫だよ」
「はい!」
「何が起こるか分からないから、絶対に怪我しないでとは言えないけど……とにかく無事に戻ってくるんだよ」
「はい、アマネ様」

 潮くんの頭を撫でてやる。
 すると、パソコンが起動してエンジ様の着信を知らせてきた。

「おおっと。向こうも起きるの早いな……はい、もしもし」
『おはよう、雨音殿。準備の方は問題ないか?』
「ええ。私も潮も起きて準備しております。そちらは?」
『先ほど緋色がそちらに向かった。十分もせずに着くはずだ』
「わかりました。では、こちらに合流したらまた改めて連絡しますね」
『了解した。では、後ほど』

 それだけ言ってエンジ様が通話を切った。
 しっかり使いこなしてるな。よく見たらエンジ様のアイコン、緋色くんの顔になってた。何となく元々使ってた通話アプリと同じように簡単なプロフィールを設定する機能も付けちゃったけど、その辺の説明はしてなかったのに。
 神様って凄いんだな。

「潮くん。緋色くんがもう来るから、身支度を済ませちゃって」
「わかりました」
「で。今回はこっちのスマホ……小さい方を持っていって。使い方はタブレットと同じだから。で、今回はカメラを別に用意したんだ。これ通話を起動させたらこれを宙に浮かせて。君の前をずっと移動するように設定してあるから」
「は、はい」

 実はこっそり用意してた自立起動型の小型ドローンみたいなもの。これで潮くんの手を塞がずに済む。それにカメラの機能もちょっとだけ弄ったんだ。前世でずっと気になってた360度カメラ。これがあれば潮くんの背後もこっちで確認できる。
 いちいちカーソルで画面を動かす手間を考えて、モニターの数も増やしておいた。これで完璧だ。
 いやぁ、神様って素敵。前世では予算の都合で実現できなかった複数のモニターを活用して作業が出来る。

「もしかして、僕が眠った後も作業していたんですか?」
「ちょっとだけだよ。必要なものを用意しただけだから」
「なんか社の中が一気に無機物なもので埋め尽くされてしまいましたね」
「スーパーハッカーの部屋みたいだよね」
「薄荷?」
「いや、こっちの話」

 俺の社、どう見ても世界観がおかしいよね。他の人には見せられないや。文明が狂っちゃうもんね。



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