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第2話 童貞神様
しおりを挟む俺のファーストキスがまさか人工呼吸、しかも少年が相手になるとは思わなかった。
いや、人工呼吸ならノーカンかな。でもこの子、メッチャ美少年だしこれはこれでアリかな。
「…………んっ」
口から直接俺の力を送り込んでいくと、少年はピクっと反応した。
良かった。顔色も良くなってる。
この湖、俺の姿が見つからないようにってメチャクチャ深くなっているからあんな所まで落ちてきたら確実に途中で気を失ってる。というか死んじゃう。
苦しかっただろうな。ゴメンな、俺が弱かったせいで君をこんな目に遭わせてしまった。
「…………ん、ここ、は……?」
「気付いた?」
「……あなた、は……あれ、僕、なんで」
少年は勢いよく体を起こした。でもまだ目が覚めたばかりで酸欠状態だ。フラつく彼の体に上着をかけて、肩を支えた。
まだ若いな。見た目だけだと中学生くらいに見える。この世界に中学なんてないけど。
「ここは水神の湖。君が落ちてきたから助けちゃったんだけど……大丈夫だった?」
「…………え? たす、けた? 湖に、落ちた僕を?」
「うん。君が落ちてくるのを見てビックリしたよ」
思わず「親方! 空から女の子が!」みたいなことを言いたくなるシーンだった。女の子じゃなくて男の子だけど。
それに、この世界の子に言っても通じないネタだし。
というか、百年経っても元の世界のことを覚えてるものだな。
「あの……もしかして、貴方、いえ貴方様は……水神様、ですよね?」
「一応、そういう立場になるのかな。君は、トウセの村の子だよね?」
「はい。お救いくださってありがとうございました。ですが私は貴方様の贄となるために身を捧げたのです。どうか、この地に雨を降らせてください」
「雨、かぁ……そういえば、ここ暫く降ってなかったね。自然に降るのを待ってたんだけど、それじゃあ駄目だった?」
「ここ最近は異常なほど日照りが続いて、川の水も減りつつあると大人たちが申しておりました。このままでは田んぼも畑も枯れてしまいます」
「この世界にも猛暑ってあるんだね。そっか、困ったな……一応土地が枯れないようにしていたつもりだけど、俺の力もそこまで弱っていたのか……」
どうしよう。身を投げてまで俺に頼みに来てくれたのに、ゴメン無理って言って村に返すわけにもいかないよな。
さっき人間の姿に化けたのと、この子を助けるのになけなしの力を使いきっちゃったから、もう雨なんか一粒降らせられるかどうか。
「あの、水神様? 私のことを食べないのですか?」
「え?」
「私は贄です。贄を食らうことで神様は力を得るのでは……」
「あ、あーそっか。生贄ってそういうものか。でも、えー待って、食べるの? 君を? 俺が? パクって?」
「……え? え、えっと……私はそうなる覚悟でここに来たのですが……」
「いや、まぁ俺も今は龍だし、神様だし、そういうことしても許されるのかもしれないけど……でもさすがに気が進まないなぁ……だって人肉って、普通に無理だって。こんな可愛い子を殺せないし」
「か、かわ?」
どうせなら昔みたいに供物に果物とか食べ物を奉納してほしいんだけど、今はそれも不作なのか。どうしよう。
え、食べるの。食べなきゃダメなの。
食べる。食べる。待って。神様的な知識の中に食べるには別の意味もあるって教えてくれてる。
俺、元の世界でもそういう経験全くなかったから全然結びつかなかったけど、そういう方法でも力は得られるのか。
人間と交わうことでその者の信仰心と生命力を分けてもらえる。生命力と言っても命を奪う訳じゃない。勿論、俺の意思でそういうことも出来るけど、そんなことはしたくない。
交わう。つまり、セックス。
いや、でも待って。俺、神様だけど未経験だよ。童貞なんだよ。
「…………でも、四の五の言ってられないよね。村を助けるためだもんね……でも、そうなるとなぁ」
「あの? 神様?」
「………………えっと、君」
「は、はい」
「名前、教えてくれる?」
抱く抱かないの前に、まずは相手のことを知るところから始めないと。
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