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第3話 コミュ障にはつらいお願いです

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「僕の名前は潮《うしお》と申します」
「潮、くん。若そうだけど、歳は?」
「今年で十八になりました」
「え、ホント? もっと若いと思ってた。そっか、でも……それなら犯罪にはならないかな……いや、そもそも学生とかそういうのこの世界にはないし、俺はもう人間じゃないし、百歳超えてるし……年の差とか気にしてる場合じゃないし……」
「えっと、神様?」
「……いい加減覚悟を決めろ、俺……これは人助けだぞ……!」

 俺はバシッと両手で頬を叩いた。
 こういう優柔不断なところが駄目なんだよ。俺、神様なんだよ。自信持てよ。

「あ、あのね、潮くん。俺……あー、えっと」

 そういえば、俺ってこの世界で名前がなかったな。産まれた時からこの湖の神様で、概念みたいなものだから親もいないし。
 どうしようかな。まぁ自分で付けるのも恥ずかしいし、元の名前でもいいか。

「俺、雨音《あまね》って言うんだけど……」
「アマネ様、ですか。そういえば、神様のお名前を知る者はいらっしゃいませんでした。さすがは神様。美しいお名前です」
「そ、そう? 昔は女っぽくて好きじゃなかったし小学生の頃はいじめられたんだけど……」
「しょー、がくせい?」
「あ、いや、こっちの話。それでね、潮くん……本題に入りたいんだけど……」

 俺は一つ深呼吸した。
 なんかメチャクチャ緊張するけど、勇気降り絞れ、俺。世界を救う子供を助けて神様になったんだぞ。
 俺、やればできる子なんだぞ。

「あの、実は俺……人間の信仰心が減ったせいで力が弱まっているんだ」
「そ、そんな……僕達のせいで……」
「いや、別に責めてないんだ。神様なんて存在、信じない人の方が多いと思うし、仕方ないことだと思う。でも、俺も村の人を助けたい気持ちはある。だから、君に協力してほしいんだ」
「は、はい。勿論です! 僕に出来ることがあれば、何でも言ってください!」
「……っ、うん。えっと、その……っち、してほしい、んだけど……」
「はい?」

 大事なところが小声になってしまい、潮くんの耳には届かなかった。
 俺、子供じゃないのに恥ずかしがってるんじゃないよ。むしろ恥ずかしいと思うから駄目なんだよ。
 みんなやってんじゃん。むしろ俺の歳で未経験の方が駄目なんだよ。いや、駄目なこともないけど、もう少しで魔法使いになるところだったけど。
 てゆうか魔法使い飛び越えて神様になっちゃったけど。

「俺とエッチしてほしいんだ!!!」
「…………」

 思わず大声になってしまい、潮くんは目を丸くさせて驚いてる。
 そうだよね。ビックリするのも無理はない。いくら生贄に出されたとはいえ、見ず知らずの男に抱かれるなんて嫌だよね。しかも俺、経験ないから下手くそだと思うし。
 でも村を救いたい気持ちは潮くんも同じだと思うんだ。だから、この一回だけは悪い夢だったと思って我慢してほしい。

「…………あの」
「な、なに?」
「えっち、とは何でしょうか?」
「あ」

 そうですよね。アルファベットもないのに伝わるわけないですよね。

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