アデルの子

新子珠子

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第一章 静かな目覚め

38. 蜜月**

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 それからの数日間は、殆どの時間をレヴィルと一緒に過ごした。

 日中は色々な場所に出かけたり、別荘でゆっくりと過ごしたり、たくさんの時間を2人で楽しんだ。


 そして、




「ん…ティト…もう…っ」
「っうん…」

 毎晩、身体を重ね合って夜を過ごしていた。



 明日はリノが湖水にくる日だ。2人きりで過ごす最後の夜は、お互い日中から何となく気持ちが高まっていて、ディナーを済ませると早々に入浴し、寝室に入った。

 僕はレヴィルの手を握り、ゆっくりと腰を進める。

「…っ、…っ……そこ…っ」
「っここ?」
「…ん…」

 レヴィルが戸惑いがちに小さく頷く、ここ数日、毎晩セックスをしていたからか、レヴィルは少しずつ自分の好きな所を教えてくれるようになっていた。僕は彼が教えてくれた場所を擦るようにゆっくりと抽挿を始める。

「ぁ……っ……気持ち、いい…っ」
「うんっ…ここだね…」

 ゆったりとしたペースに安心しているのか、彼は少し頷くと、揺さぶられながらとろんとした表情で僕を見ていた。僕は少しだけ微笑み返して彼のペースに合わせて腰を動かす。彼の表情をちゃんと見て良い所に当てると、ふわりとフェロモンの香りが広がった。

「…気持ちいいね」
「ああ…っ」

 彼の額にキスを落とす。とん、とん、とリズムよく彼の中を突く度に、薄く嬌声が漏れた。

「んっ…、…っ……ティト、フェロモン…っ」
「…あ、うん」

 僕はレヴィルに引き寄せられて、彼に覆いかぶさるような体勢になる。彼はそのまま僕の首筋に顔を寄せて、すん、と僕の匂いを嗅いだ。僕は堪らなくてその体勢のまま、腰を動かす。

「ああっ…ん…っんん…」
「っ匂い…する?」

 レヴィルは僕の耳元に顔を寄せたまま、はぁ、と甘い息を吐いた。

「昨日より……少し…匂いが濃くなった…」
「本当に?」
「ん…っ、…っ…ああ」

 僕は少し笑って彼の中を擦る。レヴィルも薄く笑って僕の耳朶の裏に鼻先を突っ込み、キスを落とした。耳元にかかる吐息が温かくてぞわぞわと背筋に快感が走る。
 この数日の間でレヴィルは僕からフェロモンが少し出ている事に気付いたようで、よく最中に匂いを嗅いでいた。正常位になると必ず僕の首元に顔を寄せて匂いを嗅ぎたがる。

 僕は彼が好きにできるように身体を寄せたまま、彼の中を探った。

「はぁ……っん………あ、…あっ」

 ゆっくりと攻め立てられる感覚に浸る様にレヴィルから声が漏れる。
 レヴィルは性急に攻められるよりも、ゆっくりと感じるのが好きらしい。できるだけ彼のテンポに合わせて身体を探ると安心した様な気持ち良さそうな顔を見せてくれるのが堪らなかった。

 しばらくゆっくりと浅く出し入れをして甘い感覚を楽しんでいると、彼がそっと僕の首元から顔を離した。

「っレヴィル?」

 様子を伺う様に彼の顔を覗き込むと、彼はゆっくりと目を細める。

「っティト……もっと深くっ…挿れたいんだろう?」

 レヴィルは僕の腕に自分の腕を添えて、僅かに微笑む。彼はフェロモンに当てられているのか、どこか熱に浮かされた様な雰囲気だ。

「お前が…っしたい様にしていいよ…」
「っ…」

 僕はまだ童貞に毛が生えたようなものだ。優しくも淫らな表情でそんな事を言われたら一溜まりもなかった。自分の汗がぽたり、と落ちたのを合図に、僕はぐっと腰を引き、深く穿つ。

「っ……っんん……っあぁっ」
「……っ…っ…」

 急な動きにレヴィルは背を反らした。それと同時に彼の後ろがきゅうっと僕を締め付ける。舐めしゃぶる様なうねりにイッてしまいそうになって、突差に唇を噛む。お互いの波が過ぎるまで同じ体勢のまま、硬直したようになって、しばらくはあ、はあ、と荒い呼吸だけが響いた。

「……はぁ……も……動いて、いい」

 波が過ぎるとレヴィルは短く息を吐いて、身体の力を抜いた。

「奥……突いてくれ…」

 レヴィルは僕の首にゆるく手を置いた。何とか落ち着かせていた欲望があっという間に決壊しそうだった。
 甘える様に顎先にキスを落としてくれたのを合図に僕は彼の脚を開き直し、ぐっと腰を突き入れる。

「あっ…っ…っ……あ、あっ」
「レヴィルっ…」

 もう腰を動かすのを止められなくて、僕はレヴィルの肩を抱き、押さえつける様にして、律動を始める。弱い部分を擦りながら何度も奥に突き挿れるとレヴィルは甘い声しかあげなくなった。

「あっ……あっ、あ、…っ…あっ…んん…」
「っ……レヴィルの中…とろとろ…っ」

 レヴィルの中はいつもより濡れている様に思えた。律動する度にぬちゅ、ぬちゅ、と水音が響く。彼の中は熱くて僕を呑み込む様に蠢動していて、腰が溶けてしまいそうだった。

「すごく…濡れてるっ、僕の…フェロモンで反応して、くれたの…っ?」
「………っ、ん……そう、だよっ…」
「っ…嬉しい…っ、好きだ、レヴィル…っ」
「んん…っあ、あっ……ティト…っ」

 レヴィルは縋るように僕を引き寄せた。レヴィルのジュニパーとグレープフルーツの香りに別の香りが混ざる。これはおそらく僕のフェロモンの香りだ。お互いの香りが混ざるのが堪らなくて、僕は一心に腰を使いながらレヴィルの首元に顔を寄せた。レヴィルも僕の匂いを嗅いでいるのか、きゅうと強く抱きしめられる。
 身体の奥から熱がこみ上げる。日に日に射精感が強くなっていた。
 
「はぁっ…っ…ティ、トっ…っなか……なかに、欲しいっ」
「っ…っ……」

 フェロモンに侵されているのか、レヴィルはまだ出もしない魔力を僕に強請った。

 出したい、彼の中に。

 僕は強烈な欲望に駆られ、どちゅ、どちゅ、とあられもない音を立てながら彼を突き上げた。音がどんどんと遠ざかり、レヴィルしか見えなくなる。

「っ…………っ…っっ……っ…!」

 レヴィルはもうほとんど声も上げられないようだった。彼の中はとろとろに魔力が渦巻いていて、僕のものを待ちわびるように蠢く。それとは逆に彼の身体はガクガクと震えて、僕に縋る手には力は殆ど入っていなかった。

 早く、早く、早く、この人のすべてを僕のものにしたい。

 僕はその一心で彼の最奥に自身を突き入れた。

「っ…っ……ああっ……っ…っっ…っ!!」

 彼の身体がガタガタと震え、足先がピンと硬直する。きゅう、と彼の中が狭くなり、身体の熱が込み上げた。余りにも強い快感に意識が白む。

「……っ…っ…」
「っ………っ…っ」


 絶頂の波から降りられず、お互いしばらく声も出せなかった。
 何とか呼吸をすることを思い出して、短く、は、は、と息を吐くと、レヴィルも思い出したように息を吐きだした。

「…っはぁ………、あ……ぁ…」

 レヴィルはどこかぼう、としたまま、ゆっくりと僕を見る。

「ティト……いま…中に…出した、のか…」

 僕は何とか呼吸をしながら、ゆっくりと頭を動かした。

「ううん…出なかった……と思う…」
「……そうか…」

 日に日に射精感は強くなっているのだが、今日もやはり出さずにイッてしまった。
 僕は少し残念に思いながらも、レヴィルが落ち着いたのを見計らってゆっくりとペニスを引き抜く。

「…っ……ん…まだ…」

 彼は切なげに声を漏らし、僕の腰に緩く足を巻き付けた。
 レヴィルの肌は上気して、表情はあまりにも官能的だった。彼は少し苦しそうに眉を寄せたが、腰をゆっくりと動かして、抜けそうになっていた僕をまた納めてしまった。

「ぁ……んっ……」
「……っ」
「はぁ……っティト、もっと…お前の匂い嗅ぎたい…」
「…っ匂いだけ?」

 そう言うと、レヴィルは蕩ける様な甘い表情で微笑み、僕を抱き寄せた。

「もっと…お前が欲しい。寂しくしないでくれ」

 僕は引き寄せられるまま、彼にキスを落とした。僕たちはお互いが満たされるまで身体を重ねた。







 翌朝、僕たちは少し寝坊をしてしまった。慌てて礼拝をし、穏やかな笑顔で待っていてくれたベンに挨拶をして、明るいダイニングルームで朝食を取った。
 その後、テラスに出て、木陰のベンチに座り、緑を楽しみながらお茶を楽しむ。

「レヴィル、リノが来るのは午後の便でしたよね?」
「ああ、そうだ。」
「僕、駅まで迎えに行きたいです。」

 レヴィルは穏やかに微笑み、頷く。

「そうだな、それがいい。2人で迎えに行こう。」
「はい。」

 別荘から湖水の駅までは馬車で30分ほどかかる。リノを迎え入れるためにベンが馬車を出してくれる手はずになっていた。
 ベンにリノの迎えに行きたい事を伝えると、穏やかに礼をして、準備のために屋敷に戻っていった。テラスには僕とレヴィルだけになる。


 さわさわと木々が音を立て、爽やかな風が吹く。それがとても気持ちが良かった。

 レヴィルは僕をそっと引き寄せた。腰を抱かれ、身体が密着し、爽やかな香りが微かに香る。僕は顔に熱が集まるのを感じながら、ゆっくりと彼に身体を預けた。

「ティト」
「ん…?」
「この数日間お前とずっと一緒に過ごせて、…本当に楽しかった。」

 レヴィルは穏やかに口を開き、僕の方を向いて目を細めた。

「我がままに付き合ってくれてありがとう。」

 僕は慌てて首を振った。

「レヴィルの我がままに付き合った訳じゃないよ、僕も一緒に過ごしたかった。こちらこそ大切な時間をありがとう、すごく…本当に…すごく楽しかった。」

 本当にこの数日間は今までにないほど、レヴィルと一緒に時間を過ごす事が出来た。それは僕にとっても特別な時間になっていた。
 レヴィルは嬉しそうに頷いて、僕の額にキスを落とした。

「俺は…お前の事が好きだ、弟としてではなく、婚約者として……伴侶として…お前を愛している。」
「…僕も…レヴィルが好きです。愛しています。」

 彼は微笑み、ありがとうと言った。そして、そっと僕の手を取る。
 
「俺は…お前に好きになってもらえて本当に幸せだよ、頑張らなくても…そのままのお前を愛してる。きっとリノも同じ気持ちだ。」

 レヴィルはそっと僕の頬を撫でた。僕は甘える様に彼の手を取り、そっとキスを落とす。

「…リノにも同じ様な事を言ってもらいました。」
「ふふ、そうだろう?昔からあいつとは気が合うんだ。」

 レヴィルは可笑しそうに笑った。その笑顔は自然で、穏やかで、僕はそれだけでじわじわと幸せな気持ちになった。

「また、2人きりの時間を作ろう。今度はリノにも平等に。」
「うん、そうだね。」

 僕たちは爽やかな木々の下、そっと笑い合った。そして、何度も触れ合うように、甘える様にキスをして時間を過ごした。








 のどかな雰囲気の湖水の駅舎でリノを待つ。僕たちがホームへ着くと列車は既に到着していて駅員がパタパタと動き回っていた。どうやら降車準備をしているようだ。僕とレヴィルはホームの一等客車前まで進む。後ろからはジェイデンもついてきてくれていた。

 僕たちが客車前に到着するとちょうど扉が開く。しばらくするとトンと軽やかにリノと使用人が降りてきた。

「リノ!」

 僕は思わず彼の名前を呼ぶ。リノは少しびっくりしたようにこちらを振り向き、僕だと分かると優しく微笑んだ。
 僕はリノに駆け寄る。リノと何日も会わなかったのはここ数年ではなかった事だったので、なんだか新鮮だ。彼は旅路が楽なようにか、少しゆったりとした薄手のコットンジャケットを羽織っていた。袖を少しロールアップして、着丈が長いアイスグレーのジャケットをさらりと着こなす姿はなんだかとても綺麗でかっこいい。

「迎えに来てくれたんですか?」
「うん。」
「嬉しい、ありがとうございます。」

 リノは僕の髪をさらりと撫でた。

「久しぶりにティトの元気な笑顔を見ました。」
「そうかな?リノと会えたからだよ。」

 僕がそう言うと、リノは目を細めて僕を優しく抱きしめる。

「レヴィルとの時間は楽しかったですか?」
「…うん、すごく楽しかった。」
「ふふ、良かった。」

 彼の声はとても温かい。僕はなんだか安心してしまい彼に身体を預けて抱きしめ返す。

「リノ、無事に着いたな。」
「ええ、ありがとうございます。」

 僕が顔を上げ、そっと身体を離すとリノは僕の額にキスを落とした。そしてレヴィルと軽くハグをする。

「レヴィルも楽しかったですか?」

 リノがそう言うとレヴィルはきょとんとした顔をした後、穏やかに笑った。

「ああ、とても楽しかった。」
「良かった、また楽しかった話を聞かせてください。」

 リノはレヴィルの顔を見て満足そうに頷く。僕は思わずリノの手を握った。

「沢山あるよ、それにリノと一緒にしたい事もいくつも思いついたんだ。」
「本当ですか?」

 レヴィル、僕、リノと並び、後ろにはジェイデンが続く。リノは僕の話を楽しそうに聞いてくれた。
 時々レヴィルが補足を挟み、3人で会話をしながら駅舎を進む。こうして笑いながら3人で過ごすのは久しぶりだった。些細な事ではあるが、僕にはそれがとても幸せで堪らなかった。


 この年のバカンスは今までにないほど、沢山の時間を3人で過ごした。
 楽しい時間を沢山3人で過ごしたこの夏は、僕にとっては忘れられない大切な思い出になった。

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