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第一章 静かな目覚め
35. ホーム
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クーペルーベンの美しい景色を車窓で眺めながらを馬車で抜ける。僕たちが目指しているのはクーペルーベンの中心地を少し離れた場所だ。
僕は少し落ち着かない気持ちで車窓の景色を眺めていた。
「やっぱり…服、変じゃないかな…。」
僕がぽつりとそういうと、向かいに座っていたレヴィルが微笑む。
春前に仕立てていた服はもう丈が短くなってしまい、今日僕が来ている服は、つい最近仕立て上がったばかりの真新しい夏服だ。コバルトブルーのジャケットに、ペールグレーのベストとスラックスを合わせている。生地は柔らかなサマーウールでとても着心地は良い。着心地は。
レヴィルは僕の姿を上から下まで見て、頷いた。
「変じゃない、似合っているよ。」
「でも……子供っぽくない?」
僕がそう言うと、レヴィルの隣に座っていたリノがくすくすと笑う。
「とても似合っていて少しも子供っぽくありませんよ。」
「…それならいいんだけど…。」
僕は少し心配げに頷いた。
僕の服を仕立ててくれるテーラーは昔からずっと同じ人だ。僕たち3人は春夏、秋冬シーズン前になると丁寧に採寸をしてもらい、季節に合った服を仕立ててもらう。
テーラーは毎回それぞれに合った色味や生地を提案してくれる。僕はいつも、明るいグレートーンの柔らかな色調の提案が多かった。けれど僕の背丈が急に伸び、急遽駆けつけてくれたテーラーは僕の姿を見ると驚いたような様子を見せて、いつもとは全く違う色味の仕立てを提案した。興奮をしたような様子で提案する彼に押し切られて、結局いつもは着ないような色味のジャケットを何着か仕立てしまっていたのだった。今日来ているのもそのうちの1着だ。
「とても夏らしくて爽やかだ、似合っているよ。」
「ええ、本当に。テーラーが気合いが入っていたのも分かります。」
宥めるように2人が立て続けに褒めてくれて、なんだか申し訳なくなってしまう。僕は思わず笑って、ありがとうと頷いた。
今日から僕とレヴィルは湖水にバカンスへ向かう。
リノとはクーペルーベンの駅まで一緒だ。彼は僕たちを見送った後、そのまま王都に向かう予定だ。
「湖水に着いたら何をするか、決めたんですか?」
リノが微笑みながらそう聞いた。僕とレヴィルはきょとんと顔を合わせる。
「何も決めてない…かも。」
「帰ってきてからは、ゆっくり話す時間もなかったからな。」
「ふふ、そうですか。まあ、向こうに行ってからでも時間はたっぷりありますから、ゆっくり身体を休めてリフレッシュしてください。」
僕は小さく頷いた。
そして、ふと、やりたい事を思い出して顔を上げる。
「あ…僕、リノが湖水に来たら、3人で遠乗りをしたい…。」
2人が微笑む。
「それはいいですね、楽しみです。」
「ああ、そうだな。必ずしよう。」
2人の同意を得られた事に安心する。
馬車は河を越えて、美しいクーペルーベンの中心地へ進んでいた。
クーペルーベンのはずれにある美しい建物の前で馬車が止まる。ガラス張りの屋根が特徴的なまるで巨大な温室のような美しい駅舎だ。
ロータリーに馬車が止まり、御者がステップを用意してくれて馬車を降りる。今回は御者台には御者の他にレヴィルの従者も同乗していて、早速僕たちの荷物の荷下ろしに取り掛かってくれていた。その奥にはずっと馬に乗って前を先導してくれていたであろうジェイデンともう一人の使用人の姿もある。
湖水には僕とレヴィルの他に、ジェイデンとレヴィルの従者が同行してくれる。今回のバカンスは使用人に久しぶりの長期を取ってもらう事も大きな目的だが、どうしても身の回りの世話をしてくれる従者と僕の護衛であるジェイデンは、同行して貰わざるを得なかった。もう一人の使用人はリノと一緒に王都に同行してもらう予定だ。
僕たちが馬車を降りて支度ができる頃には、彼らはすっかり荷物をカートに積み込んでいた。従者が案内をしてくれ、僕たちは駅舎の中へと進む。
駅舎へ入るとアトリウムになっていて、抜けるような高さのガラス張りの屋根が美しい空間になっている。中央には美しいレリーフがあしらわれた階段状の噴水といくつかの大きな植物が置かれ、まさにクーペルーベンの玄関口といった印象だ。
僕は久しぶりに来た駅舎の美しさにわくわくしながら、前を進む従者の後を追う。僕たちは行き交う人々を避け、改札を抜けて通路を通って3番ホームへと進んだ。
「わ、もう列車が来てる。」
ホームにはもう僕たちが乗る予定の急行列車が止まっていて、出発前のガヤガヤとした雰囲気に包まれていた。大きな荷物を持ち車両を探している者、見送りの挨拶をしている者、列車へ荷物を乗せている者など様々な人がホームを行き交う。
「ティト様、こちらへ。」
「あ、うん、ありがとう。」
大勢の人が居るのを見てジェイデンがサッと前に出る。沢山の人がまだ得意ではない僕のために、出来るだけ人が少ない場所を通らせてくれた。
「ティト、大丈夫か?」
レヴィルが少し心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「平気。」
僕は軽く頷いた。出発に忙しい人々は僕たちをチラリと視界に入れる程度で、嫌な汗を掻くような視線は向けられない。沢山の人が居ると言うだけで、まだ身体は緊張してしまうが、なんとか大丈夫そうだった。そばにいたリノがそっと僕の背に手を置いてくれる。僕はリノの方を見て、少しだけ微笑んだ。
「三等客車は早く来ないと席がすぐ埋まってしまいますから、皆早くから来るんですよ。」
荷物カートを押した使用人がゆったりとした口調でそう言った。席に座れなかった人は長い旅路を立ち乗りで過ごさなくてはいけなくなるらしい。
使用人の言った通り、二等客車を通り過ぎると段々と人が少なくなり、一等客車に到着すると見送りをする何組かの客しかいなかった。
使用人は僕たちに礼をすると荷物の積み込みをしに、一等客車の乗務員の元へ向かっていった。
僕たちは一等客車の乗車口近くまで移動して立ち止まる。
「ここでしばらくお別れですね。」
リノが優しい声でそう言った。リノとはここから5日間ほど別行動だ。
「俺は先に列車に入っているよ。リノ、向こうで待っている。」
「ええ、レヴィル、ありがとうございます。また向こうで。」
レヴィルはリノと頬を合わせ挨拶をすると、従者と共に先に列車に乗った。何も言わないが、おそらく気を遣ってくれたのだろう。
僕の側に控えてくれていたジェイデンもそっと礼をして、荷物を乗せ込む使用人の方へ向かっていく。乗降口には僕とリノだけになった。
「ふふ、たった5日のお別れなのに、皆気を遣ってくれたみたい。」
リノは優しく微笑み、僕をぎゅっと抱きしめた。
「ティト…大丈夫?」
「…うん。」
リノの声が優しく響く。
あの日、僕が泣いてしまった事を、リノはレヴィルにもアズレトにも、誰にも言わなかった。
彼が大袈裟にしたり、僕を責めたりせず、いつも通り接してくれたお陰で、僕はここ数日でまた気持ちを落ち着ける事が出来ていた。
「ティト…僕の事を悪いなって思ったり、心を痛めて…泣いたりしちゃだめだよ。せっかくの湖水なんだから。」
「うん…。」
彼は僕にしか聞こえない声でそう囁いた。
「本当に…ありのままのティトでいいんだよ。頑張らないでいい…素直にレヴィルとの時間を楽しんで。」
「……ありがとう。」
僕は甘えるようにリノの肩口に顔を埋める。彼は優しく僕の髪を撫でた。
「僕…本当に……リノが大好きなんだ…。」
僕は自分自身に言うように小さな声でそう言った。
「うん、すごく嬉しい…ありがとう、ティト。」
僕が俯いて彼の首筋に顔を寄せると、リノは僕をぎゅっと抱き寄せる。
「…大丈夫だよ。大丈夫。」
リノは赤子をあやす様に僕の背をさする。
自分の心をしっかりと定められない僕を受け入れてくれるリノの優しさが、今はただありがたくて、そして申し訳なかった。
「僕が湖水に着いたら…楽しい事沢山しようね。」
「うん…。」
僕は頷く。
「僕…リノが湖水に来たら…一緒にゆっくり過ごしたい。」
「そうか、約束してたね、楽しみだな。」
「うん…。」
そっとリノの身体が離れる。彼は優しく微笑んで、もう一度僕の頬を撫でた。
「リノ…。」
「ん?」
「……キス…してもいい?」
僕は自信なくそう言った。
彼は目を見開いた後、困った様に笑う。
「もちろん。」
彼は笑って僕の首にそっと手を置いた。
「ティト、僕とここでキスをして列車に乗ったら、もう楽しい事だけを考えて欲しいな……できそう?」
僕は少し悩んだ後、小さく頷いた。
「…いい子。」
リノはそう言うと、優しく微笑んだ。そして、そっと引き寄せられて、唇を合わせる。それはとても優しいキスだった。
すぐに唇を離そうとしたリノの肩を引き寄せて、僕はもう一度角度を変えてキスをした。どれくらいの時間かは分からないが、僕がようやく唇を離すと、リノは恥ずかしそうに僕の肩に顔を寄せた。
「…人目があるから……。」
「あ…ごめん…。」
人目がある事をすっかり忘れていた僕は、そう指摘されてじわじわと顔が熱くなる。リノはそんな僕を見ると優しく目を細めた。
「レヴィルと楽しんでね、約束だよ。」
「…うん。」
ホームのベルが鳴り、ジェイデンと使用人が戻って来た。ジェイデンは僕たちに礼をして、さっと乗降口から乗り込む。僕もリノに手を取ってもらい、列車のタラップへ足をかけた。
「いってらっしゃい。」
「ありがとう、待ってるから。」
「うん。」
僕は身を乗り出して、もう一度リノの頬にキスをした。
「いってきます。」
リノは笑って頷いた。
駅員がやってきて乗降口のドアを閉める。僕はドアについた小さな窓から手を振る。
リノと使用人は手を振り返してくれた。列車の汽笛が鳴り、ガタンとゆっくりと動き始める。
僕はリノの姿が見えなくなるまで、ドアの窓から手を振り返した。
僕は少し落ち着かない気持ちで車窓の景色を眺めていた。
「やっぱり…服、変じゃないかな…。」
僕がぽつりとそういうと、向かいに座っていたレヴィルが微笑む。
春前に仕立てていた服はもう丈が短くなってしまい、今日僕が来ている服は、つい最近仕立て上がったばかりの真新しい夏服だ。コバルトブルーのジャケットに、ペールグレーのベストとスラックスを合わせている。生地は柔らかなサマーウールでとても着心地は良い。着心地は。
レヴィルは僕の姿を上から下まで見て、頷いた。
「変じゃない、似合っているよ。」
「でも……子供っぽくない?」
僕がそう言うと、レヴィルの隣に座っていたリノがくすくすと笑う。
「とても似合っていて少しも子供っぽくありませんよ。」
「…それならいいんだけど…。」
僕は少し心配げに頷いた。
僕の服を仕立ててくれるテーラーは昔からずっと同じ人だ。僕たち3人は春夏、秋冬シーズン前になると丁寧に採寸をしてもらい、季節に合った服を仕立ててもらう。
テーラーは毎回それぞれに合った色味や生地を提案してくれる。僕はいつも、明るいグレートーンの柔らかな色調の提案が多かった。けれど僕の背丈が急に伸び、急遽駆けつけてくれたテーラーは僕の姿を見ると驚いたような様子を見せて、いつもとは全く違う色味の仕立てを提案した。興奮をしたような様子で提案する彼に押し切られて、結局いつもは着ないような色味のジャケットを何着か仕立てしまっていたのだった。今日来ているのもそのうちの1着だ。
「とても夏らしくて爽やかだ、似合っているよ。」
「ええ、本当に。テーラーが気合いが入っていたのも分かります。」
宥めるように2人が立て続けに褒めてくれて、なんだか申し訳なくなってしまう。僕は思わず笑って、ありがとうと頷いた。
今日から僕とレヴィルは湖水にバカンスへ向かう。
リノとはクーペルーベンの駅まで一緒だ。彼は僕たちを見送った後、そのまま王都に向かう予定だ。
「湖水に着いたら何をするか、決めたんですか?」
リノが微笑みながらそう聞いた。僕とレヴィルはきょとんと顔を合わせる。
「何も決めてない…かも。」
「帰ってきてからは、ゆっくり話す時間もなかったからな。」
「ふふ、そうですか。まあ、向こうに行ってからでも時間はたっぷりありますから、ゆっくり身体を休めてリフレッシュしてください。」
僕は小さく頷いた。
そして、ふと、やりたい事を思い出して顔を上げる。
「あ…僕、リノが湖水に来たら、3人で遠乗りをしたい…。」
2人が微笑む。
「それはいいですね、楽しみです。」
「ああ、そうだな。必ずしよう。」
2人の同意を得られた事に安心する。
馬車は河を越えて、美しいクーペルーベンの中心地へ進んでいた。
クーペルーベンのはずれにある美しい建物の前で馬車が止まる。ガラス張りの屋根が特徴的なまるで巨大な温室のような美しい駅舎だ。
ロータリーに馬車が止まり、御者がステップを用意してくれて馬車を降りる。今回は御者台には御者の他にレヴィルの従者も同乗していて、早速僕たちの荷物の荷下ろしに取り掛かってくれていた。その奥にはずっと馬に乗って前を先導してくれていたであろうジェイデンともう一人の使用人の姿もある。
湖水には僕とレヴィルの他に、ジェイデンとレヴィルの従者が同行してくれる。今回のバカンスは使用人に久しぶりの長期を取ってもらう事も大きな目的だが、どうしても身の回りの世話をしてくれる従者と僕の護衛であるジェイデンは、同行して貰わざるを得なかった。もう一人の使用人はリノと一緒に王都に同行してもらう予定だ。
僕たちが馬車を降りて支度ができる頃には、彼らはすっかり荷物をカートに積み込んでいた。従者が案内をしてくれ、僕たちは駅舎の中へと進む。
駅舎へ入るとアトリウムになっていて、抜けるような高さのガラス張りの屋根が美しい空間になっている。中央には美しいレリーフがあしらわれた階段状の噴水といくつかの大きな植物が置かれ、まさにクーペルーベンの玄関口といった印象だ。
僕は久しぶりに来た駅舎の美しさにわくわくしながら、前を進む従者の後を追う。僕たちは行き交う人々を避け、改札を抜けて通路を通って3番ホームへと進んだ。
「わ、もう列車が来てる。」
ホームにはもう僕たちが乗る予定の急行列車が止まっていて、出発前のガヤガヤとした雰囲気に包まれていた。大きな荷物を持ち車両を探している者、見送りの挨拶をしている者、列車へ荷物を乗せている者など様々な人がホームを行き交う。
「ティト様、こちらへ。」
「あ、うん、ありがとう。」
大勢の人が居るのを見てジェイデンがサッと前に出る。沢山の人がまだ得意ではない僕のために、出来るだけ人が少ない場所を通らせてくれた。
「ティト、大丈夫か?」
レヴィルが少し心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「平気。」
僕は軽く頷いた。出発に忙しい人々は僕たちをチラリと視界に入れる程度で、嫌な汗を掻くような視線は向けられない。沢山の人が居ると言うだけで、まだ身体は緊張してしまうが、なんとか大丈夫そうだった。そばにいたリノがそっと僕の背に手を置いてくれる。僕はリノの方を見て、少しだけ微笑んだ。
「三等客車は早く来ないと席がすぐ埋まってしまいますから、皆早くから来るんですよ。」
荷物カートを押した使用人がゆったりとした口調でそう言った。席に座れなかった人は長い旅路を立ち乗りで過ごさなくてはいけなくなるらしい。
使用人の言った通り、二等客車を通り過ぎると段々と人が少なくなり、一等客車に到着すると見送りをする何組かの客しかいなかった。
使用人は僕たちに礼をすると荷物の積み込みをしに、一等客車の乗務員の元へ向かっていった。
僕たちは一等客車の乗車口近くまで移動して立ち止まる。
「ここでしばらくお別れですね。」
リノが優しい声でそう言った。リノとはここから5日間ほど別行動だ。
「俺は先に列車に入っているよ。リノ、向こうで待っている。」
「ええ、レヴィル、ありがとうございます。また向こうで。」
レヴィルはリノと頬を合わせ挨拶をすると、従者と共に先に列車に乗った。何も言わないが、おそらく気を遣ってくれたのだろう。
僕の側に控えてくれていたジェイデンもそっと礼をして、荷物を乗せ込む使用人の方へ向かっていく。乗降口には僕とリノだけになった。
「ふふ、たった5日のお別れなのに、皆気を遣ってくれたみたい。」
リノは優しく微笑み、僕をぎゅっと抱きしめた。
「ティト…大丈夫?」
「…うん。」
リノの声が優しく響く。
あの日、僕が泣いてしまった事を、リノはレヴィルにもアズレトにも、誰にも言わなかった。
彼が大袈裟にしたり、僕を責めたりせず、いつも通り接してくれたお陰で、僕はここ数日でまた気持ちを落ち着ける事が出来ていた。
「ティト…僕の事を悪いなって思ったり、心を痛めて…泣いたりしちゃだめだよ。せっかくの湖水なんだから。」
「うん…。」
彼は僕にしか聞こえない声でそう囁いた。
「本当に…ありのままのティトでいいんだよ。頑張らないでいい…素直にレヴィルとの時間を楽しんで。」
「……ありがとう。」
僕は甘えるようにリノの肩口に顔を埋める。彼は優しく僕の髪を撫でた。
「僕…本当に……リノが大好きなんだ…。」
僕は自分自身に言うように小さな声でそう言った。
「うん、すごく嬉しい…ありがとう、ティト。」
僕が俯いて彼の首筋に顔を寄せると、リノは僕をぎゅっと抱き寄せる。
「…大丈夫だよ。大丈夫。」
リノは赤子をあやす様に僕の背をさする。
自分の心をしっかりと定められない僕を受け入れてくれるリノの優しさが、今はただありがたくて、そして申し訳なかった。
「僕が湖水に着いたら…楽しい事沢山しようね。」
「うん…。」
僕は頷く。
「僕…リノが湖水に来たら…一緒にゆっくり過ごしたい。」
「そうか、約束してたね、楽しみだな。」
「うん…。」
そっとリノの身体が離れる。彼は優しく微笑んで、もう一度僕の頬を撫でた。
「リノ…。」
「ん?」
「……キス…してもいい?」
僕は自信なくそう言った。
彼は目を見開いた後、困った様に笑う。
「もちろん。」
彼は笑って僕の首にそっと手を置いた。
「ティト、僕とここでキスをして列車に乗ったら、もう楽しい事だけを考えて欲しいな……できそう?」
僕は少し悩んだ後、小さく頷いた。
「…いい子。」
リノはそう言うと、優しく微笑んだ。そして、そっと引き寄せられて、唇を合わせる。それはとても優しいキスだった。
すぐに唇を離そうとしたリノの肩を引き寄せて、僕はもう一度角度を変えてキスをした。どれくらいの時間かは分からないが、僕がようやく唇を離すと、リノは恥ずかしそうに僕の肩に顔を寄せた。
「…人目があるから……。」
「あ…ごめん…。」
人目がある事をすっかり忘れていた僕は、そう指摘されてじわじわと顔が熱くなる。リノはそんな僕を見ると優しく目を細めた。
「レヴィルと楽しんでね、約束だよ。」
「…うん。」
ホームのベルが鳴り、ジェイデンと使用人が戻って来た。ジェイデンは僕たちに礼をして、さっと乗降口から乗り込む。僕もリノに手を取ってもらい、列車のタラップへ足をかけた。
「いってらっしゃい。」
「ありがとう、待ってるから。」
「うん。」
僕は身を乗り出して、もう一度リノの頬にキスをした。
「いってきます。」
リノは笑って頷いた。
駅員がやってきて乗降口のドアを閉める。僕はドアについた小さな窓から手を振る。
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