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第15話(最終話)
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結界から救助した生存者は37名。
全員、病院で精密検査を受けたのち、身元の確認できた者から家族のもとに帰された。
衰弱が激しくしばらくは社会復帰が難しい者、白羽の矢にさらわれた後に家族が亡くなり身寄りのなくなった者には個別にフォローを行った。
そして生存者全員の救済をもって、役目を終えた第七係は解散となった。
瀬尾は警視庁を退職した。妻の故郷に墓を建て自分もそこで暮らすという。幸い地元県警から誘いがあり刑事を続けている。
和久井は念願の捜査一課への異動が叶った。多忙を極めるなかでも時間を見つけては白羽の犠牲になった遺族の心のケアに当たっている。
大吾は警察庁に引き抜かれた。高卒資格取得のため定時制高校に通学している菜摘の卒業を待って結婚するらしい。
薫子は少年犯罪ともう一度向き合いたいと、古巣の少年課へ復帰した。大吾の婚約を知った時は激しく落ち込み、健人は絡み酒にさんざん付き合わされた。ただ最近は彼氏ができたらしく不毛な呼び出しはなくなっている。
健人は捜査二課に転属された。大学生誘拐事件の合同捜査で、主任の園山が健人を気に入り、あれ以来なにかと目をかけてくれていた。第七係の解散が決定した時には、健人の処遇にまっさきに手を挙げてくれたらしい。厳しくも優しい上司にしごかれ、忙しいが充実した日々を送っている。
翌年5月、ようやくもぎ取った有休を使って、健人は京都を訪れていた。
かつて白羽の屋敷があった場所は、今では市民の憩いの公園となっていた。
家屋はなくなったが庭園はわずかに残され、池には錦鯉や亀が泳いでいる。
青い空と新緑のコントラストが美しい。思わず見とれてしまう。
「いいお天気になりましたね」
玉鬘が笑いかける。
公園の一角のあまり人が訪れない場所に、樹齢1000年を超える大銀杏の大木があった。
「凄い、こんなに大きくなったんですね」
惟光と時任がまだ幼かった頃、兄弟ふたりで植えた樹だ。そのときは膝の高さほどしかなかったのに、今でははるか見上げるほどになっていた。樹高は30メートル、幹周にいたっては12メートルを超えているそうだ。改めて千年という時の長さを感じる。
本当はもっと早く来たかったのだが、なかなか役所の許可が下りずこんな時期になってしまった。
健人はポケットから布包みを取り出した。結界から持ち帰った惟光の灰だ。
そっと包みをほどき、大銀杏の根元へ灰をまいていく。
「きっと惟光様も喜んでいらっしゃいます」
さらさらとこぼれる灰を一陣の風が巻き上げる。初夏の日差しをうけてきらきらと雪の結晶のように白く輝いた。
全員、病院で精密検査を受けたのち、身元の確認できた者から家族のもとに帰された。
衰弱が激しくしばらくは社会復帰が難しい者、白羽の矢にさらわれた後に家族が亡くなり身寄りのなくなった者には個別にフォローを行った。
そして生存者全員の救済をもって、役目を終えた第七係は解散となった。
瀬尾は警視庁を退職した。妻の故郷に墓を建て自分もそこで暮らすという。幸い地元県警から誘いがあり刑事を続けている。
和久井は念願の捜査一課への異動が叶った。多忙を極めるなかでも時間を見つけては白羽の犠牲になった遺族の心のケアに当たっている。
大吾は警察庁に引き抜かれた。高卒資格取得のため定時制高校に通学している菜摘の卒業を待って結婚するらしい。
薫子は少年犯罪ともう一度向き合いたいと、古巣の少年課へ復帰した。大吾の婚約を知った時は激しく落ち込み、健人は絡み酒にさんざん付き合わされた。ただ最近は彼氏ができたらしく不毛な呼び出しはなくなっている。
健人は捜査二課に転属された。大学生誘拐事件の合同捜査で、主任の園山が健人を気に入り、あれ以来なにかと目をかけてくれていた。第七係の解散が決定した時には、健人の処遇にまっさきに手を挙げてくれたらしい。厳しくも優しい上司にしごかれ、忙しいが充実した日々を送っている。
翌年5月、ようやくもぎ取った有休を使って、健人は京都を訪れていた。
かつて白羽の屋敷があった場所は、今では市民の憩いの公園となっていた。
家屋はなくなったが庭園はわずかに残され、池には錦鯉や亀が泳いでいる。
青い空と新緑のコントラストが美しい。思わず見とれてしまう。
「いいお天気になりましたね」
玉鬘が笑いかける。
公園の一角のあまり人が訪れない場所に、樹齢1000年を超える大銀杏の大木があった。
「凄い、こんなに大きくなったんですね」
惟光と時任がまだ幼かった頃、兄弟ふたりで植えた樹だ。そのときは膝の高さほどしかなかったのに、今でははるか見上げるほどになっていた。樹高は30メートル、幹周にいたっては12メートルを超えているそうだ。改めて千年という時の長さを感じる。
本当はもっと早く来たかったのだが、なかなか役所の許可が下りずこんな時期になってしまった。
健人はポケットから布包みを取り出した。結界から持ち帰った惟光の灰だ。
そっと包みをほどき、大銀杏の根元へ灰をまいていく。
「きっと惟光様も喜んでいらっしゃいます」
さらさらとこぼれる灰を一陣の風が巻き上げる。初夏の日差しをうけてきらきらと雪の結晶のように白く輝いた。
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