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第29話 マルスの過去
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入学して1か月が経過した。フォルモーント王立学院の授業は前世の記憶にある大学と似ている。クラス分けなどはなく、習得したい講義を選択することになる。私は少しでもローゼの力になりたいので、ほぼ一緒に抗議を受けることにしていた。
「リーリエさん、起きてください。水魔法の講義が終わりましたよ」
講義室の机で気持ちよくお昼寝しているところを優しくローゼが起こしてくれていた。
「あ!もう講義は終わってしまったのね。これから本気を出すつもりだったのに……」
私は悔しそうな顔をしてため息をつく。
「安心してください。私が大事なポイントはちゃんとノートに書き留めていますので、後で書き写してくださいね。リーリエさんは、放課後までゆっくりしてください」
「ありがとう、ローゼ。絶対に部活は守ってみせるわね」
私がスヤスヤと気持ちよく寝ていたのにはきちんとした理由がある。それは明け方まで部活の活動報告書を作成していたからである。なぜ、徹夜してまで活動報告書を作成していたかというと、事の発端は昨日に遡る。
『ドンドン・ドンドン』
昨日は部室でプリンの作り方をレクチャーした後に、突然思わぬ来訪者が訪れたのである。
「メロウ、誰か来たみたいだからドアを開けて」
「パクパク、パクパク」
メロウはプリンに夢中で何も聞こえない。
「ミーチェ、メロウの代わりにドアを開けて」
「パクパク、パクパク」
ミーチェもプリンに夢中で何も聞こえない。
「もう、2人共プリンに夢中で動いてくれないわ。ローゼは部屋に材料を取りに行っているし、私が出るしかないのね」
私は一旦洗い物を中断して扉を開けに行く。
『ガチャ』
「お待たせしました。料理研究部に入部希望で……」
私は扉を開けて目の前にいる人物を見た瞬間に時が止まったかのように呆然とした。
「生徒会長代理のリューゲだ。これから監査を始める」
扉を開けるとそこにはマルス・シュテルネンナハト(偽名リューゲ・アハトフンダート)がいた。ゲームでは、ローゼに好感を持ったマルスは女遊びを絶ち、素性を隠すのを辞めて第4王子マルスとして第1魔法研究部に入部する。そこでイーリスやフラムの指導下の元でメキメキと実力をつけることになる。しかしローゼと出会えなかったマルスは、第1魔法研究部には入部せず、変装をしたままリューゲとして学生生活を送り、兄であるシュバインが生徒会長を務める生徒会に入ったのである。
「監査?そんなこと聞いていないわ」
リューゲが訪れたことにも驚いたが、突然監査されることの二重の驚きを感じた。
「今年から新しく設立した部活には監査が入ることになったのだ。由緒あるフォルモーント王立学院へ入学したのなら、国に貢献できる部活動をする必要がある。もし、国に貢献できない部活動をしているようであれば、即刻廃部にするつもりだ。まぁ、ざっと目を通しただけでお前達が何をしているのかは理解できた。お前たちがやっていることは部活ではなくおままごとだ。それがどれほどの堕落した活動なのか理解をしているのか!即刻廃部を命じる」
マルスは部室の様子を見ることなく、考えてきたセリフのように流暢に廃部を言い渡す。
「ちょっと待ってください。それはあまりにも横暴です。私たちは国に貢献できる部活動をしています。料理研究部は、今までにはない美味しい料理を開発して、国中に広める活動をする部活です。美味しい料理を食べることは人々にとって幸せなことです。人々が幸せを感じることができれば国の発展にも繋がります」
私はローゼに言われたことをそのままリューゲに説明する。
「やかましい。お前の意見など聞いていない。廃部と言ったら廃部だ」
リューゲは全く聞く耳を持たない。
「嫌です。絶対に廃部はしません」
せっかく立ち上げた部活を簡単に潰させるわけにはいかない。
「俺は生徒会長の代理だぞ!逆らうとどうなるかわかっているのか」
リューゲは憎悪に満ちた汚い眼光で私を睨みつける。マルスはゲームでは、ローゼと共に力を合わせて魔王を倒す正義感の強いキャラに成長した。しかし、私が長話をして2人のイベントを壊してしまった為に、シュバインの手下として横暴に振る舞う下劣なキャラになってしまった。私は哀れなリューゲの姿を見て罪悪感が肩にのしかかる。ここでもまた、私の浅はかな行動によって人生が狂ってしまった人物がいた。
「ごめんなさい。全て私の浅はかな行動が原因です」
私は罪悪感に苛まれて謝罪した。
「ガハハハハハ。そうだ、すべてお前が悪いのだ」
リューゲは私が謝罪する姿を見て心が高揚してゲスい笑みを浮かべる。
マルスはもともと誠実で真面目な努力家であった。王家の人間は幼少期から英才教育を施され、将来は国を背負う重要な役職に就くことが運命づけられている。マルスも英才教育を受け、毎日たゆまぬ努力をする好少年であった。しかし、【鑑定の儀】の時、命運を分ける結果が訪れる。王族の血筋の家系は2属性持ちが通説となっていた。(シュバインは国王の子供ではないので当てはまらない)
シュバインは幼少期から自堕落な生活をして、英才教育を放棄した異端の子として腫れもの扱いだったがマルスは違う。マルスの努力は誰もが知っていた。しかし、【鑑定の儀】の結果はシュバインと同じで1属性であった。この事実に一番驚いたのはマルス本人である。この結果を家族は誰も責めることはしないし、いつも通りに接してくれた。それはマルスの努力を知っていたからである。でも、世間は違う。マルスはシュバインと同様に王妃の浮気相手の子供ではないかと噂が流れてしまう。1属性だったことへの絶望に加えて、世間のゲスい噂話が重なりマルスは精神的に病んでしまった。そんなマルスをゲスい道に誘い込んだのがシュバインであり、絶望のどん底へ落ちたマルスを傀儡するのは簡単だった。
根っからのゲスいシュバインと違い根は真面目で努力家のマルスは、王家の人間が1属性であることに酷い劣等感を感じていた。だから変装をして身分を隠してフォルモーント王立学院へ入学したのであった。
「リーリエさん、起きてください。水魔法の講義が終わりましたよ」
講義室の机で気持ちよくお昼寝しているところを優しくローゼが起こしてくれていた。
「あ!もう講義は終わってしまったのね。これから本気を出すつもりだったのに……」
私は悔しそうな顔をしてため息をつく。
「安心してください。私が大事なポイントはちゃんとノートに書き留めていますので、後で書き写してくださいね。リーリエさんは、放課後までゆっくりしてください」
「ありがとう、ローゼ。絶対に部活は守ってみせるわね」
私がスヤスヤと気持ちよく寝ていたのにはきちんとした理由がある。それは明け方まで部活の活動報告書を作成していたからである。なぜ、徹夜してまで活動報告書を作成していたかというと、事の発端は昨日に遡る。
『ドンドン・ドンドン』
昨日は部室でプリンの作り方をレクチャーした後に、突然思わぬ来訪者が訪れたのである。
「メロウ、誰か来たみたいだからドアを開けて」
「パクパク、パクパク」
メロウはプリンに夢中で何も聞こえない。
「ミーチェ、メロウの代わりにドアを開けて」
「パクパク、パクパク」
ミーチェもプリンに夢中で何も聞こえない。
「もう、2人共プリンに夢中で動いてくれないわ。ローゼは部屋に材料を取りに行っているし、私が出るしかないのね」
私は一旦洗い物を中断して扉を開けに行く。
『ガチャ』
「お待たせしました。料理研究部に入部希望で……」
私は扉を開けて目の前にいる人物を見た瞬間に時が止まったかのように呆然とした。
「生徒会長代理のリューゲだ。これから監査を始める」
扉を開けるとそこにはマルス・シュテルネンナハト(偽名リューゲ・アハトフンダート)がいた。ゲームでは、ローゼに好感を持ったマルスは女遊びを絶ち、素性を隠すのを辞めて第4王子マルスとして第1魔法研究部に入部する。そこでイーリスやフラムの指導下の元でメキメキと実力をつけることになる。しかしローゼと出会えなかったマルスは、第1魔法研究部には入部せず、変装をしたままリューゲとして学生生活を送り、兄であるシュバインが生徒会長を務める生徒会に入ったのである。
「監査?そんなこと聞いていないわ」
リューゲが訪れたことにも驚いたが、突然監査されることの二重の驚きを感じた。
「今年から新しく設立した部活には監査が入ることになったのだ。由緒あるフォルモーント王立学院へ入学したのなら、国に貢献できる部活動をする必要がある。もし、国に貢献できない部活動をしているようであれば、即刻廃部にするつもりだ。まぁ、ざっと目を通しただけでお前達が何をしているのかは理解できた。お前たちがやっていることは部活ではなくおままごとだ。それがどれほどの堕落した活動なのか理解をしているのか!即刻廃部を命じる」
マルスは部室の様子を見ることなく、考えてきたセリフのように流暢に廃部を言い渡す。
「ちょっと待ってください。それはあまりにも横暴です。私たちは国に貢献できる部活動をしています。料理研究部は、今までにはない美味しい料理を開発して、国中に広める活動をする部活です。美味しい料理を食べることは人々にとって幸せなことです。人々が幸せを感じることができれば国の発展にも繋がります」
私はローゼに言われたことをそのままリューゲに説明する。
「やかましい。お前の意見など聞いていない。廃部と言ったら廃部だ」
リューゲは全く聞く耳を持たない。
「嫌です。絶対に廃部はしません」
せっかく立ち上げた部活を簡単に潰させるわけにはいかない。
「俺は生徒会長の代理だぞ!逆らうとどうなるかわかっているのか」
リューゲは憎悪に満ちた汚い眼光で私を睨みつける。マルスはゲームでは、ローゼと共に力を合わせて魔王を倒す正義感の強いキャラに成長した。しかし、私が長話をして2人のイベントを壊してしまった為に、シュバインの手下として横暴に振る舞う下劣なキャラになってしまった。私は哀れなリューゲの姿を見て罪悪感が肩にのしかかる。ここでもまた、私の浅はかな行動によって人生が狂ってしまった人物がいた。
「ごめんなさい。全て私の浅はかな行動が原因です」
私は罪悪感に苛まれて謝罪した。
「ガハハハハハ。そうだ、すべてお前が悪いのだ」
リューゲは私が謝罪する姿を見て心が高揚してゲスい笑みを浮かべる。
マルスはもともと誠実で真面目な努力家であった。王家の人間は幼少期から英才教育を施され、将来は国を背負う重要な役職に就くことが運命づけられている。マルスも英才教育を受け、毎日たゆまぬ努力をする好少年であった。しかし、【鑑定の儀】の時、命運を分ける結果が訪れる。王族の血筋の家系は2属性持ちが通説となっていた。(シュバインは国王の子供ではないので当てはまらない)
シュバインは幼少期から自堕落な生活をして、英才教育を放棄した異端の子として腫れもの扱いだったがマルスは違う。マルスの努力は誰もが知っていた。しかし、【鑑定の儀】の結果はシュバインと同じで1属性であった。この事実に一番驚いたのはマルス本人である。この結果を家族は誰も責めることはしないし、いつも通りに接してくれた。それはマルスの努力を知っていたからである。でも、世間は違う。マルスはシュバインと同様に王妃の浮気相手の子供ではないかと噂が流れてしまう。1属性だったことへの絶望に加えて、世間のゲスい噂話が重なりマルスは精神的に病んでしまった。そんなマルスをゲスい道に誘い込んだのがシュバインであり、絶望のどん底へ落ちたマルスを傀儡するのは簡単だった。
根っからのゲスいシュバインと違い根は真面目で努力家のマルスは、王家の人間が1属性であることに酷い劣等感を感じていた。だから変装をして身分を隠してフォルモーント王立学院へ入学したのであった。
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