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第28話 その時フラムは・・・

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 フラムはシュバインから渡された紙きれを握りしめて、怪しい二等辺三角形の建物の前に立っていた。


 「……」


 フラムは占い館【フルーフ】へ入ることを戸惑っていた。


 「あのブタを信用しても大丈夫なのか……」


 フラムはシュバインのことを完全に信用することはできなかった。もしかすると騙されているのではないかと疑っていた。フラムは占い館【フルーフ】の扉の前を行ったり来たりして、踏ん切りがつかずに迷っていると、フラムを誘い込むように扉が自然と開く。そして、フラムの意志とは無関係に占い館【フルーフ】に吸い込まれていく。占い館【フルーフ】の中は薄暗くロウソクの明かりが1つ灯されていて、お香のような香りがフラムの鼻を刺激する。するとフラムは眩暈のように脳が揺れるような感覚に陥り気分が悪くなる。


 「お前がフラムブヒ。席に座れブヒ」


 老人のようなしゃがれた低い声と、どこかで聞き覚えのある独特の喋り方がフラムの耳元に届くと同時に、天上に備え付けられていた10本のロウソクで作られた不気味な照明器具に火が灯り、さきほどより視界が広くなった。頭が朦朧とする中フラムは辺りを見渡すと、朽ちた木で作られた今にも壊れそうな椅子と6角形のテーブルが視界に入る。そしてひどい猫背の姿勢で椅子に座り、黒のフード付きマントをまとい、フードで鼻のあたりまで顔を隠している怪しげな丸々と太った男性が座っていた。


 「どうして……俺の名前を知っているの……だ」


 声を出すのさえ苦痛なフラムだが、体をフラフラと酔っ払いのようにふらつかせて、吐き出すように声をあげる。


 「ワシは何でも知っているブヒ。今日お前がこの場所に来た理由もブヒ」


 男の表情は見えないが、口角が上がり笑みを浮かべているように感じた。しかし、その笑みは微笑むというよりもフラムをあざ笑っているようだった。


 「……」


 フラムは気分が悪く、もう声を出す気力も失っていた。


 「お前を辱めた相手に復讐をしたいかブヒ。ワシがその望みを叶えてやるブヒ」


 男はフラムの心を見抜いたように話しかける。


 「本当……なの……か」


 フラムは思考することさえままならない状態だったが、男の提案に気持ちが昂り極上の笑みを浮かべる。それほどフラムはメッサーとイーリスが邪魔な存在だと感じていた。


 「もちろんブヒ。そもそもお前は煉獄の魔法使いと呼ばれる天才魔法士ブヒ。メッサやイーリスとも互角に渡り合える力を秘めているはずブヒ。だが、まだ成長過程だブヒ。ワシはお前の成長を促す力を持っているブヒ。どうブヒ、もっと強くなってあの2人を蹂躙してみないかブヒ。そうすれば、ローゼが手に入るブヒ」


 フラムの頭の中は復讐心とローゼへの思いで埋め尽くされている。思考する意識は朦朧としているが、復讐心と嫉妬だけは敏感に反応する。


 「ローゼが……俺のモノに……」


 フラムは欲望に満ちた汚らしい笑みを浮かべて、這いずるように椅子に座る。


 「そうブヒ。圧倒的な力であの2人を倒すことが出来れば、ローゼはお前のことを見直して、お前のモノになることは間違いないブヒ。ブヒヒ、この水晶に手をかざすと良いブヒ。そうすればお前は大きな力を手にすることができるブヒ」


 フラムは危険な薬物を服用したかのように表情が歪になっていた。普段の冷静なフラムならば、水晶に手をかざすだけで大きな力を得ることなんてあり得ないと疑ったであろう。しかし、フラムの思考は完全に壊れていたので、迷うことなく喜んで水晶に手をかざす。
 テーブルの上には紫色の斑点模様の水晶が置かれていて、フラムが手をかざすと水晶から紫色の大きな手が飛び出してきてフラムの手を掴む。


 「おい……。これは……どういうこと……だ」


 フラムはか細い声で叫ぶが、大きな手はものすごい力でフラムを水晶の中へ引きずり込んでいく。


 「離……せ、離せ……」


 占い館【フルール】に入ってからのフラムの体調は明らかにおかしかった。怪しげな水晶など魔法を使えば簡単に破壊することができたのかもしれない。しかし、フラムは何もしなかったのではなく、何もできなかった。


 「誰か……誰か……助けて……くれ~」



 フラムは悲痛な叫び声を発するが、誰にも届くことはない。次第にフラムの体は水晶の中へ消えてしまった。


 「フラム、ワシは約束を破ったわけではないブヒ。この傀儡毒水晶に1か月間体を浸すとお前は今よりももっと強くなるブヒ。終焉の魔女様の計画には、イーリスとローゼの存在は必ず邪魔になるはずブヒ。お前は俺の傀儡となってあの2人を殺してもらうブヒ。ブヒィィィィィィ、ブヒィィィィィィ、ブヒィィィィィィ」


 不気味な汚い笑い声が占い館【フルーフ】に響いた。

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