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第五章
42.セドリックとジェラルドはやらかしました
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セドリックとジェラルドが来ないと噂する者が増えてきた頃⋯⋯。
「マジかよ!」
「うわぁ、素敵!」
セドリックの右手には白手袋、差し出した左手にはジェラルドの右手がそっと乗せられ⋯⋯少し俯き加減で、晴れやかな笑みを浮かべたジェラルドを、優雅な笑みでエスコートしたセドリックが現れた。
テール・コートの色はセドリックがロイヤルブルーでジェラルドはダークグリーンだが、ベストは2人とも淡い薄紫色で全く同じ刺繍が濃い紫と金色で左右対称に刺してある。
相手の色を使ったスカーフは、全く同じ結び方で、オフホワイトのトラウザーズから覗く靴も全く同じ。
幻影魔法なのだろう⋯⋯2人の周りには花びらが舞い散り、羽根の生えた小さな妖精達が杖を振って、光の粒を撒き散らしながら、学園長の前まで花道を作って行った。
「本物のBとLみたい⋯⋯ドキドキが⋯⋯」
「イケメンすぎ⋯⋯記録、急がなくちゃ⋯⋯」
「アイツらは、最後までやらかしてくれる。もう、最高! 笑っていい?」
その一言で、会場中が大爆笑の渦に包まれた。
結局、ジェラルドはエレーナのYESをもらえなかった。
『予想通りだ⋯⋯う、うぐっ』
『で、どうするんだ?』
エレーナがエスコートを断るだろうと覚悟していたジェラルドは、既に準備を整えていた⋯⋯断られなくてもやるつもりだったが。
それは『BとL』でびっくりさせよう大作戦。顔つきは違うが髪の色・身長・体格はほぼ同じ、セドリックとジェラルドは昔はかなり似ていたため⋯⋯。
『今でも、やればできる! と言うことで⋯⋯ジャジャーン』
ジェラルドが出してきた衣装を見たセドリックが吹き出した。
『うわぁ、マジか~、ほんとにやるの?』
『うふっ、ちゃんとエスコートして下さらないと⋯⋯お仕置きしちゃうかも~』
『うげぇ⋯⋯記念すべき謝恩パーティーでコメディとか、社交界で一生揶揄われそう。お前はエレーナを追いかけ回してるのを、全員に知られてるからいいだろうけど、俺にBとかLの噂が立ったらボコボコにするからな』
『あら、やあねぇ、責任ならちゃんととるわよ~』
『ぶふっ! ったく、いつまでやってんだよぉ、すっげえキモいが⋯⋯ウケる~』
「アイツら⋯⋯最後の最後まで⋯⋯ぶふっ」
学園長の前で大袈裟なボウ・アンド・スクレープを披露しているセドリックは、右足を引いて右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出している。
周りでお互いをつつきながら笑っていた生徒達も、ふざけて真似をしているが、鏡の前で特訓したセドリックには勝てそうにない。
その横では膝が床につきそうなほど深く腰を落とし、カーテシーをしているジェラルド。片足を後ろに引き膝を曲げ、上半身を真っ直ぐに保つのは、体幹が悲鳴をあげそうな姿勢だが、演技中のジェラルドは微笑みを忘れない。
女子生徒がヒソヒソと話をしては『あんな姿勢、絶対無理だわ』と笑い合っている。
「セドリックは吹っ切れたようだな」
「はい、元々考え込むと自ら穴を掘って落ちるタイプですから、どうなることかとハラハラしました」
「セドリックが2人分の慎重さと思慮深さ、ジェラルドが2人分の勇気と行動力⋯⋯悪戯心は2人共、2倍にして持ってるようですけど」
「相乗効果ってやつだな⋯⋯見ろ、奴等踊るつもりらしい」
音楽は流れているが、謝恩パーティーでダンスタイムは予定に入っていない。いないが、いまだに演技中の2人は⋯⋯。
ジェラルドに右手を差し出された学園長が首を傾げている横で、セドリックが学園長夫人に手を差し出していた。
「美しき方、わたくしに今宵一夜の夢をお許しください」
「きゃあ!」
セドリックの甘いセリフに女子生徒達が真っ赤な顔で叫び、誘われた学園長夫人まで真っ赤になっている。
「ど、どうすれば⋯⋯」
オロオロとしてセドリックの手と学園長を見比べる夫人だが、学園長はもっと動揺していた。
「学園長、わたくしと踊っていただけませんか? 学園最後の思い出を、貴方様と⋯⋯」
男がおじさんを誘っている光景だが、妙に似合いすぎて舞台の一幕にしか思えない。
どうなる、どうなる⋯⋯生徒達のワクワクが止まらない。教職員達は呆れたように苦笑いを浮かべ、保護者達は3種類に分かれていた。
双子の悪癖を知っている者は笑いを堪え、タチの悪い冗談だと思う者は眉間に皺を寄せ、ごく一部は『世紀のカミングアウトか!』と本気にしている気配がする。
チャンスを逃すまいと思ったのか、場を白けさせてはいけないと思ったのか⋯⋯腹を括った夫人がセドリックの手を取って、会場の中央に向かって歩きはじめた。
「奥様の叡智に生徒達が賞賛を贈っておりますわ。学園長もぜひ⋯⋯」
「いや~、しかしこれは⋯⋯なぁ」
パチパチと拍手が聞こえ、次第に数が増えていく。会場中の視線が集まり、にっちもさっちもいかなくなった学園長が⋯⋯ジェラルドの手をとりながら、顔を近づけてニヤリと笑った。
「足を踏んだら⋯⋯卒業を取り消して1年間こき使ってやる」
「望むところ」
年配の夫人との見事なダンスを披露したセドリックが、社交界でマダムキラーと呼ばれ、女性パートを見事に踊り切ったジェラルドは、ヘルマプロディートスと呼ばれるようになるとは思いもせず⋯⋯。
ヘルマプロディートスは、水浴びのさなかにニュンペーと一つに合体して「両性具有」「雌雄同体」となった美少年神⋯⋯閑話休題。
一番初めに拍手をはじめ、この舞台を煽ったのは⋯⋯もちろん、エリオット。
セドリックとジェラルドが卒業した後の学園は何故か少し味気ない。
最上級生となったエレーナとアリサは、相変わらず真面目に勉学に励み、たまに悲鳴を上げるローラは担任の元に駆けて行く。
「後半年で入試だよ~、絶対に絶対に間に合わないよお」
「解答用紙に、ちゃんと名前を書くのを忘れなければ大丈夫ですわ。地頭は悪くなさそうな気が致しますもの」
相変わらず心のままに意見を口にするアリサは、ますます勉強に力を入れつつ、以前より綺麗になってきた。
「推しは推しですから遠目に見るのも楽しいのですが、近くで見るのもまた新しい世界が開けますの。その為にも、負けてはいられませんわ」
誰に負けたくないのかは不明だが、楽しそうでなによりだと思う。
「それに、一度でいいので首席になってみたいとも思いますの。最終試験で主席になれば⋯⋯アレックス様がどんなお言葉を口にされるか⋯⋯推しの推しに勝ってしまったら⋯⋯ふふっ」
(ローラもアリサ様も、新学期がはじまってから、どんどんおかしく⋯⋯変わっていかれてる気がするわ。わたくしは⋯⋯来月、どうしようかしら)
10月も後半になった今、大きな悩みがないエレーナの小さな悩みは⋯⋯命日に墓参するかどうかだけ。
卒業後は、商会で事務員になろうと思っている。
(飛び抜けた特技があるわけではないから、過去に覚えた書類仕事や経理の知識でなら生活できると思うの)
攻撃用の魔法が全く使えないエレーナでは、魔導士では食べていけない。人と関わる仕事は不安の方が大きい。
(思いついたのは『旅がしてみたい』くらいしか⋯⋯仕事をはじめたら、お金を貯めてあちこち行ってみればいいわね)
ビルワーツ家から届いた慰謝料は、オルシーニ家の管財人に預けたままで手をつける気になれない。
慰謝料が届いたと聞いたエレーナは、その中から生活費を払いたいと言って、レイチェルに泣かれてしまった。それ以降、慰謝料の使い道など考えたことがないから。
一年間の期間限定で魔導塔に就職したジェラルドは、仕事帰りにエレーナに会いに来るのが日課で、夕食の席にも勝手に参加してはエリオットと喧嘩している。
ジェラルドはエレーナに会って、ただ雑談をして帰るだけ⋯⋯それが嬉しいような申し訳ないような、落ち着かない気分になる。
ジェラルドの卒業パーティーのエスコートをエレーナが断った後も、『待機中って事で、よろ~』と彼は呑気に笑っていたが、内心は違っていると知っている。
(宙ぶらりんな関係は良くない⋯⋯それは分かってるのだけど。ちゃんとお返事をしなくちゃって思うし、卒業パーティーだけを断るのではなくって⋯⋯でも、ジェラルドの世界からわたくしの存在が消えるのは⋯⋯)
断ってしまったら、ジェラルドとの距離は遠くなってしまう。ジェラルドがセレナやローラと関わっている時のように、揶揄っていてもどこか線を引いてる⋯⋯そんな風になるだろう。
センサーが反応したと言って会いにきてくれる事も、頭を撫でてくれる事も、心の澱を吐き出せるよう話しかけてくれる事もなくなる。
(はぁ、甘えてばかりいてはダメよね。迷惑をかけて、無駄な気を使わせてるなんて⋯⋯)
10月の末日、エレーナ達は王都の北にある小さな集落に遊びにきていた。
ここは遠い昔、他国から移住して来た移民達が作った村で、毎年不思議な祭りを開催していると言う。
「その国では11月が1年の始まりで、10月31日の夜は、別の世界との境界線があいまいになると信じられていたんだ。
悪霊や死霊がこの世界に迷い込み、親戚や親友などの良い霊もこの日は家に帰れる。だから、怖い仮装をして悪い死霊から身を隠し、火を燃やしてご馳走を楽しむんだ」
31日の夜、祭司たちが『かがり火』を焚き、作物と動物の犠牲を捧げるところから祭りが始まる。屠殺した牛の骨を炎の上に投げ込み、かがり火が燃え上がると村人たちは他のすべての火を消す。
かがり火だけが照らす村の中を、仮面をつけた子供達と大人達が巡り歩き、裕福な家々からケーキや食糧を得る。
『魂よ、魂よ、霊魂のケーキを。どうぞやさしい奥様方、霊魂のケーキを1つ下さいな』
11月1日の朝になると、各家庭は『かがり火』から火を家に持ち帰り、かまどの火を新しくつけて家を暖め、1年が始まるのだと言う。
「エレーナ様、最近なにかありましたの?」
「マジかよ!」
「うわぁ、素敵!」
セドリックの右手には白手袋、差し出した左手にはジェラルドの右手がそっと乗せられ⋯⋯少し俯き加減で、晴れやかな笑みを浮かべたジェラルドを、優雅な笑みでエスコートしたセドリックが現れた。
テール・コートの色はセドリックがロイヤルブルーでジェラルドはダークグリーンだが、ベストは2人とも淡い薄紫色で全く同じ刺繍が濃い紫と金色で左右対称に刺してある。
相手の色を使ったスカーフは、全く同じ結び方で、オフホワイトのトラウザーズから覗く靴も全く同じ。
幻影魔法なのだろう⋯⋯2人の周りには花びらが舞い散り、羽根の生えた小さな妖精達が杖を振って、光の粒を撒き散らしながら、学園長の前まで花道を作って行った。
「本物のBとLみたい⋯⋯ドキドキが⋯⋯」
「イケメンすぎ⋯⋯記録、急がなくちゃ⋯⋯」
「アイツらは、最後までやらかしてくれる。もう、最高! 笑っていい?」
その一言で、会場中が大爆笑の渦に包まれた。
結局、ジェラルドはエレーナのYESをもらえなかった。
『予想通りだ⋯⋯う、うぐっ』
『で、どうするんだ?』
エレーナがエスコートを断るだろうと覚悟していたジェラルドは、既に準備を整えていた⋯⋯断られなくてもやるつもりだったが。
それは『BとL』でびっくりさせよう大作戦。顔つきは違うが髪の色・身長・体格はほぼ同じ、セドリックとジェラルドは昔はかなり似ていたため⋯⋯。
『今でも、やればできる! と言うことで⋯⋯ジャジャーン』
ジェラルドが出してきた衣装を見たセドリックが吹き出した。
『うわぁ、マジか~、ほんとにやるの?』
『うふっ、ちゃんとエスコートして下さらないと⋯⋯お仕置きしちゃうかも~』
『うげぇ⋯⋯記念すべき謝恩パーティーでコメディとか、社交界で一生揶揄われそう。お前はエレーナを追いかけ回してるのを、全員に知られてるからいいだろうけど、俺にBとかLの噂が立ったらボコボコにするからな』
『あら、やあねぇ、責任ならちゃんととるわよ~』
『ぶふっ! ったく、いつまでやってんだよぉ、すっげえキモいが⋯⋯ウケる~』
「アイツら⋯⋯最後の最後まで⋯⋯ぶふっ」
学園長の前で大袈裟なボウ・アンド・スクレープを披露しているセドリックは、右足を引いて右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出している。
周りでお互いをつつきながら笑っていた生徒達も、ふざけて真似をしているが、鏡の前で特訓したセドリックには勝てそうにない。
その横では膝が床につきそうなほど深く腰を落とし、カーテシーをしているジェラルド。片足を後ろに引き膝を曲げ、上半身を真っ直ぐに保つのは、体幹が悲鳴をあげそうな姿勢だが、演技中のジェラルドは微笑みを忘れない。
女子生徒がヒソヒソと話をしては『あんな姿勢、絶対無理だわ』と笑い合っている。
「セドリックは吹っ切れたようだな」
「はい、元々考え込むと自ら穴を掘って落ちるタイプですから、どうなることかとハラハラしました」
「セドリックが2人分の慎重さと思慮深さ、ジェラルドが2人分の勇気と行動力⋯⋯悪戯心は2人共、2倍にして持ってるようですけど」
「相乗効果ってやつだな⋯⋯見ろ、奴等踊るつもりらしい」
音楽は流れているが、謝恩パーティーでダンスタイムは予定に入っていない。いないが、いまだに演技中の2人は⋯⋯。
ジェラルドに右手を差し出された学園長が首を傾げている横で、セドリックが学園長夫人に手を差し出していた。
「美しき方、わたくしに今宵一夜の夢をお許しください」
「きゃあ!」
セドリックの甘いセリフに女子生徒達が真っ赤な顔で叫び、誘われた学園長夫人まで真っ赤になっている。
「ど、どうすれば⋯⋯」
オロオロとしてセドリックの手と学園長を見比べる夫人だが、学園長はもっと動揺していた。
「学園長、わたくしと踊っていただけませんか? 学園最後の思い出を、貴方様と⋯⋯」
男がおじさんを誘っている光景だが、妙に似合いすぎて舞台の一幕にしか思えない。
どうなる、どうなる⋯⋯生徒達のワクワクが止まらない。教職員達は呆れたように苦笑いを浮かべ、保護者達は3種類に分かれていた。
双子の悪癖を知っている者は笑いを堪え、タチの悪い冗談だと思う者は眉間に皺を寄せ、ごく一部は『世紀のカミングアウトか!』と本気にしている気配がする。
チャンスを逃すまいと思ったのか、場を白けさせてはいけないと思ったのか⋯⋯腹を括った夫人がセドリックの手を取って、会場の中央に向かって歩きはじめた。
「奥様の叡智に生徒達が賞賛を贈っておりますわ。学園長もぜひ⋯⋯」
「いや~、しかしこれは⋯⋯なぁ」
パチパチと拍手が聞こえ、次第に数が増えていく。会場中の視線が集まり、にっちもさっちもいかなくなった学園長が⋯⋯ジェラルドの手をとりながら、顔を近づけてニヤリと笑った。
「足を踏んだら⋯⋯卒業を取り消して1年間こき使ってやる」
「望むところ」
年配の夫人との見事なダンスを披露したセドリックが、社交界でマダムキラーと呼ばれ、女性パートを見事に踊り切ったジェラルドは、ヘルマプロディートスと呼ばれるようになるとは思いもせず⋯⋯。
ヘルマプロディートスは、水浴びのさなかにニュンペーと一つに合体して「両性具有」「雌雄同体」となった美少年神⋯⋯閑話休題。
一番初めに拍手をはじめ、この舞台を煽ったのは⋯⋯もちろん、エリオット。
セドリックとジェラルドが卒業した後の学園は何故か少し味気ない。
最上級生となったエレーナとアリサは、相変わらず真面目に勉学に励み、たまに悲鳴を上げるローラは担任の元に駆けて行く。
「後半年で入試だよ~、絶対に絶対に間に合わないよお」
「解答用紙に、ちゃんと名前を書くのを忘れなければ大丈夫ですわ。地頭は悪くなさそうな気が致しますもの」
相変わらず心のままに意見を口にするアリサは、ますます勉強に力を入れつつ、以前より綺麗になってきた。
「推しは推しですから遠目に見るのも楽しいのですが、近くで見るのもまた新しい世界が開けますの。その為にも、負けてはいられませんわ」
誰に負けたくないのかは不明だが、楽しそうでなによりだと思う。
「それに、一度でいいので首席になってみたいとも思いますの。最終試験で主席になれば⋯⋯アレックス様がどんなお言葉を口にされるか⋯⋯推しの推しに勝ってしまったら⋯⋯ふふっ」
(ローラもアリサ様も、新学期がはじまってから、どんどんおかしく⋯⋯変わっていかれてる気がするわ。わたくしは⋯⋯来月、どうしようかしら)
10月も後半になった今、大きな悩みがないエレーナの小さな悩みは⋯⋯命日に墓参するかどうかだけ。
卒業後は、商会で事務員になろうと思っている。
(飛び抜けた特技があるわけではないから、過去に覚えた書類仕事や経理の知識でなら生活できると思うの)
攻撃用の魔法が全く使えないエレーナでは、魔導士では食べていけない。人と関わる仕事は不安の方が大きい。
(思いついたのは『旅がしてみたい』くらいしか⋯⋯仕事をはじめたら、お金を貯めてあちこち行ってみればいいわね)
ビルワーツ家から届いた慰謝料は、オルシーニ家の管財人に預けたままで手をつける気になれない。
慰謝料が届いたと聞いたエレーナは、その中から生活費を払いたいと言って、レイチェルに泣かれてしまった。それ以降、慰謝料の使い道など考えたことがないから。
一年間の期間限定で魔導塔に就職したジェラルドは、仕事帰りにエレーナに会いに来るのが日課で、夕食の席にも勝手に参加してはエリオットと喧嘩している。
ジェラルドはエレーナに会って、ただ雑談をして帰るだけ⋯⋯それが嬉しいような申し訳ないような、落ち着かない気分になる。
ジェラルドの卒業パーティーのエスコートをエレーナが断った後も、『待機中って事で、よろ~』と彼は呑気に笑っていたが、内心は違っていると知っている。
(宙ぶらりんな関係は良くない⋯⋯それは分かってるのだけど。ちゃんとお返事をしなくちゃって思うし、卒業パーティーだけを断るのではなくって⋯⋯でも、ジェラルドの世界からわたくしの存在が消えるのは⋯⋯)
断ってしまったら、ジェラルドとの距離は遠くなってしまう。ジェラルドがセレナやローラと関わっている時のように、揶揄っていてもどこか線を引いてる⋯⋯そんな風になるだろう。
センサーが反応したと言って会いにきてくれる事も、頭を撫でてくれる事も、心の澱を吐き出せるよう話しかけてくれる事もなくなる。
(はぁ、甘えてばかりいてはダメよね。迷惑をかけて、無駄な気を使わせてるなんて⋯⋯)
10月の末日、エレーナ達は王都の北にある小さな集落に遊びにきていた。
ここは遠い昔、他国から移住して来た移民達が作った村で、毎年不思議な祭りを開催していると言う。
「その国では11月が1年の始まりで、10月31日の夜は、別の世界との境界線があいまいになると信じられていたんだ。
悪霊や死霊がこの世界に迷い込み、親戚や親友などの良い霊もこの日は家に帰れる。だから、怖い仮装をして悪い死霊から身を隠し、火を燃やしてご馳走を楽しむんだ」
31日の夜、祭司たちが『かがり火』を焚き、作物と動物の犠牲を捧げるところから祭りが始まる。屠殺した牛の骨を炎の上に投げ込み、かがり火が燃え上がると村人たちは他のすべての火を消す。
かがり火だけが照らす村の中を、仮面をつけた子供達と大人達が巡り歩き、裕福な家々からケーキや食糧を得る。
『魂よ、魂よ、霊魂のケーキを。どうぞやさしい奥様方、霊魂のケーキを1つ下さいな』
11月1日の朝になると、各家庭は『かがり火』から火を家に持ち帰り、かまどの火を新しくつけて家を暖め、1年が始まるのだと言う。
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