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第五章
41.穴を掘って飛び込む男
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「「で? 吐けぇぇぇ」」
「うへぇ⋯⋯祖父ちゃんが、その⋯⋯次の国王選挙に、その⋯⋯セ、セドリックを推薦とか⋯⋯うわあーん、これ内緒だからぁぁ、絶対ぜーったい本人には言わないでぇぇぇ」
セドリック本人には言ってるけど?
「陛下が⋯⋯俺を⋯⋯俺の魔法を認めて下さってる? 嬉し⋯⋯迷惑千万じゃん。侯爵家の後継でさえ嫌なのに⋯⋯陛下にはもうワンクールは馬車馬のように働い⋯⋯国王やってもらわないと⋯⋯」
文句を言いながら、口元を手で隠したセドリックの耳が赤くなっていた。
陛下の我儘に耐えるなんて無理⋯⋯と呟いていたセドリックが、御者に声をかけられて馬車に乗り込んだ。
「後で⋯⋯」
「おう! エレーナを送るついでにローラも返品したら帰る」
セドリックは⋯⋯ジェラルドに勝ちたいとか、ジェラルドより上になりたいと思っていたわけではない。
ジェラルドとは物心ついてからずっと仲がいい。一緒に悪戯をして、一緒に怒られて。喧嘩をして仲直りして、おやつを取り替えっこして⋯⋯気が付けばいつも一緒にいた。
足りないところや苦手なところを補い合い、得意なところや自信のあるところは助け合い⋯⋯。
(一緒にいすぎて、俺の中で境界線が曖昧になってたのかもな)
セドリックの中にはジェラルドと別々の道を進む不安があったが、ジェラルドは何も気にすることなく、スイスイと前に進んでいるように見えた。
(ジェラルドは自分の道を選んだ⋯⋯俺は?)
どうするべきかは分かっているし、周りの希望も知っている。なんとなくそうなるんだろうと思い、セドリックはそれ以外の事を考えたことがなかった。
引かれたレールの上を歩くのが貴族として産まれた自分の定めで、周囲の期待の枠の中で生きる⋯⋯そう思ってたから、セドリックは驚いた。
『アルムヘイル王家を潰します⋯⋯』
ネグレクトされていたと知ったエリオットに助け出された⋯⋯ここまでは分かる。そのエレーナは、年齢にそぐわない知識を兼ね備えていると知っても、珍しい奴だと思ったくらい。
良いなとは思ったが、ジェラルドが本気で手を上げて、囲い込みに必死になっているのを見てすぐに諦めた。
(兄弟で取り合うのは変だから⋯⋯)
貴族として産まれ、色々あったが今も貴族として生きているエレーナが、4カ国を相手に戦うと言う。できるだけ人の手を借りず一人でやるのは、次のターゲットを作りたくないから。
『これは自分の選んだ道ですから』
目の前にあるレールを言われるがまま走るのが貴族⋯⋯その中で、堂々と新しい道を作っていくエレーナ。
気がつくと周りはみんな自分で道を選んでいた。
アレックスが選んだ結婚相手は、少し格下であまり評判の良くないアリサ⋯⋯彼女は貴族らしくない物言いで敵が多い。
セレナは親に相談もせず結婚相手を決めた⋯⋯一人娘がシェイラードへ嫁に行くと半泣きの両親。
ローラは大学への進学を決め、教師になると言い切った⋯⋯ルーナのように婚期が遅れそうだと心配する両親を無視して。
元々ミリアは勝手にアイザック王子との婚約を決めていたが⋯⋯。
ジェラルドはエレーナと共にいると決めた⋯⋯貴族でなくなっても構わないと言い切ったらしい。
(俺は⋯⋯周りの期待通りキャンベル侯爵家を継ぐのは、自分の選んだことなのか? それとも流されてるだけ?)
それまでは、セドリックの中に『自分の道を探す』と言う考えがなかったから、キャンベル侯爵家を継ぐのが自分の望みなのかさえ分からない。
魔女への弟子入り、学園のルールへの抵抗⋯⋯その程度しか思いつかなかった。しかも、やっているうちに劣等感に苛まれはじめた。
(道を選ぶとかやりたいことを見つけるとか⋯⋯俺にはできないのかも。俺なんかには)
ローラの一言でセドリックが癇癪を起こし⋯⋯その結果は⋯⋯昔と変わらないまっすぐなジェラルドがいて、気が抜けた。
子供のようにはしゃぎ、無条件の信頼を寄せてくれるジェラルドは変わったのではなく、いつも通り突っ走っているだけ。
『猪突猛進がジェラルドで謹言慎行がセドリックだな。ジェラルドは森に道を最速で作るが、セドリックは時間をかけて森を開拓できる。どちらも得難い才能だぞ』
(父上の言葉⋯⋯忘れてた。俺はただ『セドリック』を認めてもらいたかっただけ。自分で自分を認められるようになりたかったのか)
ローラが口を滑らせた祖父の言葉は嬉しかった。この国は最も強い魔導士が国王になるが、もちろんそれだけではない。性格や知識その他も大きく影響している。
(俺の努力を見てくれている人は沢山いる。焦る事はないんだ。ゆっくりと将来を考えていけばいい)
侯爵家を継ぐよりもやりたいことができたと言っても、両親は許してくれるだろう。父が継いでいる間に、親戚からキャンベル侯爵家を継ぎたいと思う者を探せばいいと言ってくれる⋯⋯今は、自信をもってそう言える。
(その頃には、セレナの子供が大きくなってるかもしれないし)
ジェラルドがエレーナと結婚できても⋯⋯できるかどうか怪しいが⋯⋯子供は作らないと言いそうな気がするが、時間は人の心を変えるから。
(それに⋯⋯みんな忘れてるみたいだけど、俺達にはビルワーツの血が流れてる。お祖母様はビルワーツ出身で、あのアメリア様の叔母なんだ。セレナと俺とジェラルド⋯⋯3人は4分の1、ビルワーツなんだってジェラルドに教えてやろうかな。
結婚祝いとかで⋯⋯)
学園を卒業して父の仕事を手伝いながら、魔女の弟子も続けていたセドリックが、キャンベル侯爵家を継ぐと決めるのは、まだまだ先のこと。
セドリックがエリオットの推薦で国王になったか? それはまだ、誰も知らない秘密。
そして⋯⋯セドリックとジェラルドの卒業式。
今回も堂々と保護者席に座るエリオットとレイチェルだが、職員達は諦めていたらしく、式次第に『国王祝辞』の文字はなかった。
「今年は堂々と座ってられるな」
どの口が言う⋯⋯誰もがそう思ったが、賢明な保護者達は何も言わず、愛想笑いを浮かべていた。
「今年の在校生代表はエレーナで、卒業生代表はセドリックか。シェイラードの奴が悔しがっておったな」
次席となったアイザック王子は呑気に笑っているが、使者としてやって来た第二王子派は、悔しそうな顔でセドリックを睨んでいる。
「セドリックはもちろん優秀ですが、アイザック王子殿下は帰国後のことをお考えになったのですわ。どこにいても目立たないのが一番だと仰っておられますから。
あまり大きな声で使者の方々を刺激しないで下さいね」」
卒業式とその後のパーティーの為に一時帰国したミリアは、卒業生達と談笑していたアイザック王子に手を振りながら、エリオットに釘を刺した。
涼やかな声で祝辞を述べるエレーナを見てエリオットが目の縁を赤くし、レイチェルはハンカチで目頭を押さえた。
「大きくなりましたわね。あの頃が嘘のように⋯⋯」
「ああ、立派になった。流石、俺たちの子だな」
エレーナの卒業式ではないのだが⋯⋯。
「ガリガリで目ばかり大きくて⋯⋯」
「所在なげな顔をしていることも多くて、見ていて悲しくなりましたもの」
「わたくしこそ、もっと早くに気付いてやるべきでした」
「ビルワーツの様子を気にかけておけば⋯⋯」
ラルフ、ライラ、リディア、アーロン⋯⋯順番に声をあげた4人も、セドリックとジェラルドよりエレーナに注目している。
去年はアレックスそっちのけでセレナに注目していた親族は、男の子には冷たいらしい。
ローラは⋯⋯男の子チーム疑惑。
アイザック王子から学園や生徒達への謝辞の時間も設けられ、シェイラードの使者も満足そう。
「忖度したのでしょうが、アイザックは『余計な事を』とご機嫌斜めでしたの」
ミリアの言葉にエリオット達が頷いた。アイザックは特別扱いが大嫌いで、ギリギリまで嫌だとゴネていたから。
『私は一生徒としてこの学園で学び、一生徒として卒業できるものと思っておりました。まさか、オーレリアが誇る魔法学園がこのような⋯⋯』
「使者の奴らは謝恩パーティーで思い知るだろう。アイザックは実に優雅に嫌味を言うからなあ」
「その辺りも、ミリアとよく似てますわ」
「あら、お祖母様⋯⋯わたくし耳が遠くなったみたいですわ。まだ若いはずですのに」
「そのテクニックをローラにレクチャーしてくれると助かる。どうも、ローラはルーナに似てきた気がするからな」
「ルーナはエリオットに似てますから、ローラもエリオット似と言うことかしら?」
ピシリと言い返すレイチェルの様子からして、ミリアはレイチェル似のよう。
さて、全員が注目する謝恩パーティー。セドリックは誰と入場するのか、ジェラルドはエレーナと参加するのか⋯⋯多くの目が会場の入り口に集まっていた。
謝恩パーティーは教職員への感謝を伝える事がメインだが、成人する卒業生達のプレ社交会の様相も呈している。
学園長をはじめ最上級生に関わった教職員は、この日ばかりは白衣やローブではなく、テール・コートとベストにトラウザーズと言う正装に身を包み、スカーフで個性を出している。
女性陣はクリノリン・スタイルやバッスル・スタイルのイヴニングドレスで、普段は厳しい教師も華やかで、上品に見える。
パーティーは既にはじまり、教職員達は保護者達と歓談したり、卒業生が担任に肩を叩かれていたり⋯⋯ほとんどの卒業生が集まっているように見えた。
アイザックは国から来た使者を無視してミリアとばかり話し、側近2人を困らせている。
セドリックとジェラルドが来ないと噂する者が増えてきた頃⋯⋯。
「マジかよ!」
「うへぇ⋯⋯祖父ちゃんが、その⋯⋯次の国王選挙に、その⋯⋯セ、セドリックを推薦とか⋯⋯うわあーん、これ内緒だからぁぁ、絶対ぜーったい本人には言わないでぇぇぇ」
セドリック本人には言ってるけど?
「陛下が⋯⋯俺を⋯⋯俺の魔法を認めて下さってる? 嬉し⋯⋯迷惑千万じゃん。侯爵家の後継でさえ嫌なのに⋯⋯陛下にはもうワンクールは馬車馬のように働い⋯⋯国王やってもらわないと⋯⋯」
文句を言いながら、口元を手で隠したセドリックの耳が赤くなっていた。
陛下の我儘に耐えるなんて無理⋯⋯と呟いていたセドリックが、御者に声をかけられて馬車に乗り込んだ。
「後で⋯⋯」
「おう! エレーナを送るついでにローラも返品したら帰る」
セドリックは⋯⋯ジェラルドに勝ちたいとか、ジェラルドより上になりたいと思っていたわけではない。
ジェラルドとは物心ついてからずっと仲がいい。一緒に悪戯をして、一緒に怒られて。喧嘩をして仲直りして、おやつを取り替えっこして⋯⋯気が付けばいつも一緒にいた。
足りないところや苦手なところを補い合い、得意なところや自信のあるところは助け合い⋯⋯。
(一緒にいすぎて、俺の中で境界線が曖昧になってたのかもな)
セドリックの中にはジェラルドと別々の道を進む不安があったが、ジェラルドは何も気にすることなく、スイスイと前に進んでいるように見えた。
(ジェラルドは自分の道を選んだ⋯⋯俺は?)
どうするべきかは分かっているし、周りの希望も知っている。なんとなくそうなるんだろうと思い、セドリックはそれ以外の事を考えたことがなかった。
引かれたレールの上を歩くのが貴族として産まれた自分の定めで、周囲の期待の枠の中で生きる⋯⋯そう思ってたから、セドリックは驚いた。
『アルムヘイル王家を潰します⋯⋯』
ネグレクトされていたと知ったエリオットに助け出された⋯⋯ここまでは分かる。そのエレーナは、年齢にそぐわない知識を兼ね備えていると知っても、珍しい奴だと思ったくらい。
良いなとは思ったが、ジェラルドが本気で手を上げて、囲い込みに必死になっているのを見てすぐに諦めた。
(兄弟で取り合うのは変だから⋯⋯)
貴族として産まれ、色々あったが今も貴族として生きているエレーナが、4カ国を相手に戦うと言う。できるだけ人の手を借りず一人でやるのは、次のターゲットを作りたくないから。
『これは自分の選んだ道ですから』
目の前にあるレールを言われるがまま走るのが貴族⋯⋯その中で、堂々と新しい道を作っていくエレーナ。
気がつくと周りはみんな自分で道を選んでいた。
アレックスが選んだ結婚相手は、少し格下であまり評判の良くないアリサ⋯⋯彼女は貴族らしくない物言いで敵が多い。
セレナは親に相談もせず結婚相手を決めた⋯⋯一人娘がシェイラードへ嫁に行くと半泣きの両親。
ローラは大学への進学を決め、教師になると言い切った⋯⋯ルーナのように婚期が遅れそうだと心配する両親を無視して。
元々ミリアは勝手にアイザック王子との婚約を決めていたが⋯⋯。
ジェラルドはエレーナと共にいると決めた⋯⋯貴族でなくなっても構わないと言い切ったらしい。
(俺は⋯⋯周りの期待通りキャンベル侯爵家を継ぐのは、自分の選んだことなのか? それとも流されてるだけ?)
それまでは、セドリックの中に『自分の道を探す』と言う考えがなかったから、キャンベル侯爵家を継ぐのが自分の望みなのかさえ分からない。
魔女への弟子入り、学園のルールへの抵抗⋯⋯その程度しか思いつかなかった。しかも、やっているうちに劣等感に苛まれはじめた。
(道を選ぶとかやりたいことを見つけるとか⋯⋯俺にはできないのかも。俺なんかには)
ローラの一言でセドリックが癇癪を起こし⋯⋯その結果は⋯⋯昔と変わらないまっすぐなジェラルドがいて、気が抜けた。
子供のようにはしゃぎ、無条件の信頼を寄せてくれるジェラルドは変わったのではなく、いつも通り突っ走っているだけ。
『猪突猛進がジェラルドで謹言慎行がセドリックだな。ジェラルドは森に道を最速で作るが、セドリックは時間をかけて森を開拓できる。どちらも得難い才能だぞ』
(父上の言葉⋯⋯忘れてた。俺はただ『セドリック』を認めてもらいたかっただけ。自分で自分を認められるようになりたかったのか)
ローラが口を滑らせた祖父の言葉は嬉しかった。この国は最も強い魔導士が国王になるが、もちろんそれだけではない。性格や知識その他も大きく影響している。
(俺の努力を見てくれている人は沢山いる。焦る事はないんだ。ゆっくりと将来を考えていけばいい)
侯爵家を継ぐよりもやりたいことができたと言っても、両親は許してくれるだろう。父が継いでいる間に、親戚からキャンベル侯爵家を継ぎたいと思う者を探せばいいと言ってくれる⋯⋯今は、自信をもってそう言える。
(その頃には、セレナの子供が大きくなってるかもしれないし)
ジェラルドがエレーナと結婚できても⋯⋯できるかどうか怪しいが⋯⋯子供は作らないと言いそうな気がするが、時間は人の心を変えるから。
(それに⋯⋯みんな忘れてるみたいだけど、俺達にはビルワーツの血が流れてる。お祖母様はビルワーツ出身で、あのアメリア様の叔母なんだ。セレナと俺とジェラルド⋯⋯3人は4分の1、ビルワーツなんだってジェラルドに教えてやろうかな。
結婚祝いとかで⋯⋯)
学園を卒業して父の仕事を手伝いながら、魔女の弟子も続けていたセドリックが、キャンベル侯爵家を継ぐと決めるのは、まだまだ先のこと。
セドリックがエリオットの推薦で国王になったか? それはまだ、誰も知らない秘密。
そして⋯⋯セドリックとジェラルドの卒業式。
今回も堂々と保護者席に座るエリオットとレイチェルだが、職員達は諦めていたらしく、式次第に『国王祝辞』の文字はなかった。
「今年は堂々と座ってられるな」
どの口が言う⋯⋯誰もがそう思ったが、賢明な保護者達は何も言わず、愛想笑いを浮かべていた。
「今年の在校生代表はエレーナで、卒業生代表はセドリックか。シェイラードの奴が悔しがっておったな」
次席となったアイザック王子は呑気に笑っているが、使者としてやって来た第二王子派は、悔しそうな顔でセドリックを睨んでいる。
「セドリックはもちろん優秀ですが、アイザック王子殿下は帰国後のことをお考えになったのですわ。どこにいても目立たないのが一番だと仰っておられますから。
あまり大きな声で使者の方々を刺激しないで下さいね」」
卒業式とその後のパーティーの為に一時帰国したミリアは、卒業生達と談笑していたアイザック王子に手を振りながら、エリオットに釘を刺した。
涼やかな声で祝辞を述べるエレーナを見てエリオットが目の縁を赤くし、レイチェルはハンカチで目頭を押さえた。
「大きくなりましたわね。あの頃が嘘のように⋯⋯」
「ああ、立派になった。流石、俺たちの子だな」
エレーナの卒業式ではないのだが⋯⋯。
「ガリガリで目ばかり大きくて⋯⋯」
「所在なげな顔をしていることも多くて、見ていて悲しくなりましたもの」
「わたくしこそ、もっと早くに気付いてやるべきでした」
「ビルワーツの様子を気にかけておけば⋯⋯」
ラルフ、ライラ、リディア、アーロン⋯⋯順番に声をあげた4人も、セドリックとジェラルドよりエレーナに注目している。
去年はアレックスそっちのけでセレナに注目していた親族は、男の子には冷たいらしい。
ローラは⋯⋯男の子チーム疑惑。
アイザック王子から学園や生徒達への謝辞の時間も設けられ、シェイラードの使者も満足そう。
「忖度したのでしょうが、アイザックは『余計な事を』とご機嫌斜めでしたの」
ミリアの言葉にエリオット達が頷いた。アイザックは特別扱いが大嫌いで、ギリギリまで嫌だとゴネていたから。
『私は一生徒としてこの学園で学び、一生徒として卒業できるものと思っておりました。まさか、オーレリアが誇る魔法学園がこのような⋯⋯』
「使者の奴らは謝恩パーティーで思い知るだろう。アイザックは実に優雅に嫌味を言うからなあ」
「その辺りも、ミリアとよく似てますわ」
「あら、お祖母様⋯⋯わたくし耳が遠くなったみたいですわ。まだ若いはずですのに」
「そのテクニックをローラにレクチャーしてくれると助かる。どうも、ローラはルーナに似てきた気がするからな」
「ルーナはエリオットに似てますから、ローラもエリオット似と言うことかしら?」
ピシリと言い返すレイチェルの様子からして、ミリアはレイチェル似のよう。
さて、全員が注目する謝恩パーティー。セドリックは誰と入場するのか、ジェラルドはエレーナと参加するのか⋯⋯多くの目が会場の入り口に集まっていた。
謝恩パーティーは教職員への感謝を伝える事がメインだが、成人する卒業生達のプレ社交会の様相も呈している。
学園長をはじめ最上級生に関わった教職員は、この日ばかりは白衣やローブではなく、テール・コートとベストにトラウザーズと言う正装に身を包み、スカーフで個性を出している。
女性陣はクリノリン・スタイルやバッスル・スタイルのイヴニングドレスで、普段は厳しい教師も華やかで、上品に見える。
パーティーは既にはじまり、教職員達は保護者達と歓談したり、卒業生が担任に肩を叩かれていたり⋯⋯ほとんどの卒業生が集まっているように見えた。
アイザックは国から来た使者を無視してミリアとばかり話し、側近2人を困らせている。
セドリックとジェラルドが来ないと噂する者が増えてきた頃⋯⋯。
「マジかよ!」
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