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第五章

39.弄ばれる男は蹴り上げられそうな不安がいっぱい

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「堪忍してくれよ~、男には秘密にしたい事がいっぱいあるんだからな~」

「おお、そこは心配ない。流石に自家発電中には部「わぁぁ! やめろぉぉ! なに、本当なんなの? 俺が何かした? 今日は色々と忙しいんだから~」」



「そうだねえ、途中までは上手くいっていたのに⋯⋯後半はガタガタ。セディが言ってたようにヘタレの恋愛初心者にありがちの失敗だね。褒めるとしたら、最後の辺り⋯⋯ちょっぴり頑張ってたじゃないか。
でも、先ずは雰囲気作りの練習からはじめた方が良さそうだねえ。なんと言っても『白の魔女』は難攻不落だからさ」

「前も聞いたんだけどさ、なんでエレーナの事を『白の魂』とか『白の魔女』って言うんだ? んで、いつの間にレイちゃんとセディセドリックって呼び合うほど、仲良くなったんだ?」

 レイちゃん&セディは横に置いといて⋯⋯セルビアスで『黎明の魔女』と会った時から気になっていた。呼び方そのものも気になるし、『黎明の魔女』が妙にエレーナを気にかけている事も気になる。

(魔女に気に入られるなんて、ロクなもんじゃねえからな。危険は排除するに限る⋯⋯なのに、なんも教えず纏わりついてるだけなんだよな~⋯⋯俺に)



「そうさねえ⋯⋯どうしようかねえ⋯⋯人間が認識できる色は赤色・緑色・青色の3つ。で、白色を作るためには3色全部が必要なのさ」

「ああ、俺達が光の3原色って言ってるやつだな。それは知ってる」

 赤・緑・青の3色を様々な割合で混ぜれば、いろんな色をつくることができると、学園の授業で習ったが、それがエレーナの呼び名とどう関係するのか。

「そうそう、間抜けな坊やのくせにお利口さんだねえ。後は自分で考えな、もう少しお利口になるかもだよ?」

「ああ、そういう事かぁ⋯⋯」

「おや、セディは正解に近づいたみたいだね。でも、ジェリージェラルド坊やに教えちゃダメだよ。自分で気付かなきゃ意味がないからさ」

 セディに次いでジェラルドにも『ジェリー』と言う愛称が付いていたと発覚。しかも何故かジェラルドだけ『坊や』のおまけ付き。

「もちろん。その方が面白そうだしね~」

「くそ! 意地悪ババアと腹黒が手を組みやがった⋯⋯」

(完全に舐められてる⋯⋯魔女ババアにもセドリックにも。言い返せるネタが見当たらね~⋯⋯)



 すべての色を反射し、反射された光が目の中に入った時に人は『白』と認識している。

 全ての光を反射すると物体は『白』に見えるが、光を百%反射する物体はない⋯⋯つまり、自然界には『完全なる白』は存在しない。

 因みに、全ての色を吸収し、反射される光がほとんどない時は『黒』と認識する。





 その日の夕食の席⋯⋯準国葬に参列したがとっとと帰っできたエリオットは、いつもと変わらない表情で席についていた。

「セドリックとジェラルド、お前らはいつまで居座るつもりだ? ここは簡易宿泊所でも、寮でもないんだからな。そろそろ家に帰れ。これは決定事項だ、国王として申しつけたからな」

 クラリス騒動から湧き上がった4カ国徹底撲滅計画が終わり、セドリックやジェラルドが王宮に住む理由はなくなったが、その後も素知らぬ顔で居座り続けていた双子は、慌てて目を逸らした。

「アイザック達は身辺警護の観点から、このまま王宮に留まることが決まったが、お前らは邪魔。さっさと帰れ⋯⋯特にジェラルドは危険だからな~。危なくていかん」

 ジェラルドがエレーナのそばにいたがっているのは知っているが、同じ王宮に住み着く理由にはならない。

 もちろん、ジェラルドの部屋に魔女が出入りしていることなどお見通し。なにが目的か⋯⋯監視していたエリオットは、痺れを切らした。

(魔女に気に入られてるのはジェラルドで、セドリックは興味津々ってとこだろう。狙いが分からんままなのは気に食わんが、何か起きる前に放り出してやる)

 ジェラルドの部屋に居座っている『黎明の魔女』を直接追い出しにかかるのは危険だが、ジェラルドを放り出せば⋯⋯双子ごと纏めて追い出す事に決めた。

(ジェラルドがいなくなっても『黎明の魔女』が出入りするなら、目的はエレーナって事になる。その時は魔女と全面対決だな)



 国王として⋯⋯と言われては文句は言えないし、おねだりも以ての外。

「今日中に荷物をまとめます」

「は~い(くそぉ、最強のカードを切りやがった!)」

「ジェラルド~、文句があれば聞くぞ~? 王宮の主で~、国王としてならな~」

「いえいえ、陛下に文句など、とんでもないです」

 翌日、実家に転移した双子と一緒に魔女もいなくなっていた。



 
 アレックスが卒業してから、エレーナはローラと2人で登校しているが、広々とした馬車の中は少し寒々しく感じる。

「なんか、アレックスがいないのに慣れないんだよね~。王宮に帰ってもいないしさ~」

 ローラはアレックスが領地に行ってから、少し元気がない。

「愚痴を聞いてくれる人がいないって、結構辛いもんだね。そうだ! 領地に呪いの手紙を送りつけてやろうかな~。そしたら、たまには顔を見せに来るかも」

 ローラが拗ねているのは、アレックスは婚約したアリサには手紙を送っているのに、ローラにはカード一枚届かないから。

(セドリックが言っていたアレね⋯⋯)

 本人は気付いていないが、ローラはかなりのブラコン。卒業パーティーでアレックスがカミングアウトしてから、大事なお兄様を取られて拗ねてるのが丸わかりの様子に、周りみんなが笑いを堪えている。

(それでもアリサ様に意地悪を言ったりしないのが、ローラの良いところだわ。それに⋯⋯)

 アレックスの代わりを、担任のケビン・トールスが務めはじめている気配がするらしい⋯⋯セドリックとジェラルド情報。

 薬学の教師で担任のトールスはルーナに片想い中だと思われていたが、ただ単に最新の医学情報や、開発中の薬について聞きたいだけだと判明した。

 なぜかと言うと、新薬の開発で長い間国を出ていたルーナが戻ってきた時、トールスには⋯⋯エリオットやラルフローラの父が妻を見た時のような⋯⋯砂糖を吐きたくなるような気配が感じられなかったから。そして、単なる『モテない君』認定された。

『先生ってルーナの事が好きなんじゃないの? 長~い片想い中だって有名だよ?』

『はあ? 俺がぁ!? ルーナに片想いしてるなら、俺はBとLの世界に行ってる事になるぞ?』

 ルーナはトールスにとって片想いの相手どころか、女性枠ですらないらしい。



 そのトールスはここ最近、ローラのゴリ押しか鼻薬を効かされ過ぎたのか⋯⋯休憩時間や放課後の大半で家庭教師状態にされている。

 ルーナの帰国予定や滞在中のスケジュールをリークするのと引き換えに、勉強を教えてもらうと言うかなりセコいやり方だが⋯⋯。

「だってだって、本職に聞くのが一番じゃん」

「そのついでに愚痴も聞かせてるだろ?」

「だってだって、担任だもん。生徒のメンタルケアってやつだよ~」

 トールスに『勉強を教えてくれてるついでに結婚しよっか』とローラから逆プロポーズするのは数年後。

 誤解されかねない破天荒なローラの台詞に、ラルフローラの父が泣き崩れた姿は、しっかりと記念に記録されている。

『ま、まさか勉強以外にも教えてたんじゃないだろうな?⋯⋯ううっ、トールスの野郎、こ、殺してやるぅぅぅ!』




 アメリアの死去から半年⋯⋯5年生になってからはずっと、昼食はエレーナ・ローラ・アリサの3人か、ジェラルドやアイザック達と合流するかのどちらか。

 セドリックは生徒会室で食事をしながら仕事を終わらせる。

『放課後は俺の時間だからな。用事があればそれまでに言ってくれ』

 今までは放課後に行っていた会議さえ、お昼休憩の間に済ませる徹底ぶりで、他の役員を振り回している。



「ねえねえ、そこまでして放課後の時間をキープしたがるのってなんで?」

「いや~、男には色々あるんだよな~」

 ローラの質問に答えたような答えてないような⋯⋯怪しい返答をしたジェラルドは、完全に目を泳がせている。

「⋯⋯んー、なになに、すっごーく怪しい」

(マズいな~、ローラは一度食いつくと別の餌を見せるまで離れねえんだよな~)

 セドリックは魔女の本を読み耽り、放課後と休日の全てを使って、特訓しているなど誰にも言えない。

 その殆どが知られていない魔法だったり、使えるものがいなくなった幻の魔法だったりするのだから。

(しかも、魔女に弟子入りするとか言い出しやがったし⋯⋯父上にバレたら、俺のケツがマジでヤバそう)

 元々はジェラルドにくっついて来たように思えていた『黎明の魔女』なだけに、家族からお前のせいだと責められそうな気がしてならない。

(今でも俺の部屋に入り浸っているし⋯⋯でも、王宮にいた頃から仲が良いのはセドリックだったぞ? あれ、おっかしいなあ~、俺の部屋にいる意味あるか? セドリックまで俺の部屋に入り浸って、2人で俺をディスって楽しんでるし)

 ローラのジト目を放置して、首を捻るジェラルドの百面相がかなり面白い。

「じゃあじやあ、帰る直前のセドリックに突撃しよう!」

 面倒事が起きる予感、百パーセント。





「で、馬車の前で待ってたわけだ。ふーん、兄として寂しいなあ、弟に捨てられた気分だよ。兄ちゃん、泣いていい?」

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