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第五章
40.セドリックVSジェラルド
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「で、馬車の前で待ってたわけだ。ふーん、兄として寂しいなあ、弟に捨てられた気分だよ。兄ちゃん、泣いていい?」
待っていたのはローラで、ジェラルドはローラに帰ろうと言い続けていたのだが⋯⋯。因みに、アリサは帰宅しエレーナは図書館にいる。
「30分くらい後に産まれたって聞いたし、今までセドリックが兄ちゃんとか言ったの聞いたことないし⋯⋯それに、相手はローラだぞ? 俺の抵抗が効くわけないじゃん」
「30分の違いを利用して責任をなすりつけたくせに。ローラの操縦くらい覚えてくれてもいいと思うよ?」
セドリックが言いたいのは『キャンベル侯爵家の後継』問題。以前から、セドリックが継ぐだろうと言う周りの雰囲気は知っていたが、ジェラルドに先手を打たれて決められたのが悔しい。
(ジェラルドが自由人すぎるから、セドリックの方がマシかもって思われてただけで、セドリックが良いって思われてるわけじゃない⋯⋯で、コイツはそう思われるように動いてる気配がする)
ジェラルドが真面目に試験を受けた時は、セドリックとそれほど変わらない成績、魔導士としての力も拮抗している。それなのにセドリックが生徒会長になったのは、ジェラルドがマイナスポイントを稼ぎすぎているから。
個人用の研究室を与えられるのは、学園から魔導士として評価された証の一つで、魔導塔への就職が決まったも同然。
魔法は好きだが研究一辺倒の魔導塔に入りたくないのは、セドリックとジェラルドの共通した考えで、セドリックは研究室の利用許可が出たが断った。
それに反して、ジェラルドは個人用の研究室を自由に利用して、魔導塔から使者が来ても無視か拒否している。
セドリックはジェラルドの研究室を散々利用している⋯⋯ジェラルドより利用しているが、魔導塔に対しては『俺は助手なんで』と言うスタンスを崩していない。
(自由な研究の時間と場所を確保しながら、堂々と魔導塔にNOと言い続ける⋯⋯ジェラルドみたいな強さが俺にはないから、陰に隠れて研究してる。ジェラルドやローラから腹黒だって言われるけど、本当は小心者なだけ)
そんな自分を変えたくて、セドリックは魔法の特訓を続けている。生徒会の仕事を放課後に回さないと断言したのも同じ理由。
『生徒会の仕事は朝と休憩時間のみ、放課後も休日も生徒会の仕事はしません。それでも良いと教員の方々と生徒全員が言うのなら、生徒会長を引き受けます。
我儘を言う俺以上に生徒会長に相応しい生徒は何人もいますから、別の生徒に打診するべきだと思います』
(それでも俺が生徒会長に決まったのは、他の奴らが嫌がったんだろうなあ)
「おーい、セドリック~、起きてるか~」
長々と考え込んでいたセドリックの肩をジェラルドが叩いた。
「ジェラルドじゃあるまいし、立ったまま寝たりしないから。で、ローラは何か用? 俺、忙しいんだけど」
「いや~、そう言われるとねえ⋯⋯セドリックがどうしてるのかなあって。家に帰ってから一度も会えてないなあって思ったから?」
「色々忙しくて。これからも忙しいから、会うのは難しいと思う。ローラだって勉強で忙しくなっただろ? それと同じかなぁ、多分だけど」
「そ、そっか⋯⋯最終学年になったら、卒業後の事とかがあるもんね。でもでも、セドリックはキャンベル侯爵家を継ぐんでしょ? それならそんなに変わ「勝手に決めないでくれ!? ローラは自分で教師になるって決めたんだろ? 俺だって自分の将来は自分で決める! 周りから勝手に押し付けられるのはうんざりなんだ!」」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかった。なんとなく、そうなのかなぁって勝手に思ってて」
「あぁ、俺もごめん。周りがみんなセドリックがキャンベルを継ぐと思ってるのは知ってるから。セレナが嫌だって言って、ジェラルドも逃げ出したから、俺しか残ってないからね」
「セドリック、それは違うからな! みんなお前が一番相応しいと思って「嘘つけ! エレーナと一緒にいたいから、キャンベルを継がずに済むように手を打ったんだろ!? で、他にいなくなったから、俺にお鉢が回ってきたんだ。俺には選択肢はないし、父上達にも選択肢がなかっただけだって知ってるからな!⋯⋯残り者だからって仕方ないって思われて『ありがたく』なんか思えるか! バカにするな!! お前は俺をなんだと思ってる、便利な駒か? 自分がいらないもんを押し付ける為の便利な道具かよ!?」
セドリックの本音を初めて知ったジェラルドは愕然とした。セドリックの方が優秀だと知っていたから、ごく自然に『後継者はセドリック』だと思っていた。セドリックもそれを知っているとばかり⋯⋯。
勉強や魔導士としての力には極端な違いはないかもしれないが、セドリックは冷静な判断力や計画を立て実行する能力が高い。家族として、兄弟として、仲間として⋯⋯セドリックほど安心して背中を預けられる奴も、上を任せられる奴もいないのに。
「俺みたいに直情的じゃなくて、勢いだけで突っ走らなくて、周りをよく見ていて、判断も的確で⋯⋯だから⋯⋯それが次期当主に相応しいって」
あのスラムでの1ヶ月で気がついた。一緒に悪戯してふざけてばかりいたが、すぐに突っ走るジェラルドと違って、早い段階から危険を予測して行動しはじめたセドリックは、リーダーに相応しい奴だと。
(セドリックが司令官で俺が突撃兵⋯⋯だからキャンベルを守れるのはお前だって思ったんだぞ!!)
「セドリックが残り者? 冗談じゃない! そんな台詞、絶対に許さないからな。巫山戯るなって言いたいのは俺の方だ!! 勝負しやがれ、てめえの腐った頭を叩き直してやる!!」
ジェラルドの青白い炎がセドリックに向かって飛んでいき、直撃を避けたセドリックの背後で、馬車が爆音を立てて弾けるように燃えはじめた。
「うわぁ! 何やってんですか!」
ジェラルドの炎を見た瞬間、転移で移動した御者が叫び声を上げた。呆然として立ち尽くしているローラを抱えて、距離を取った御者が、通信の魔道具を手にどこかへ連絡しはじめた。
ジェラルドの炎をセドリックの氷の盾が塞ぐ。セドリックが詠唱している間に、溶けた氷が地面に水溜りを作りはじめた。
《 Genius Loci vocare》
聞いたことのない言葉がセドリックの口から綴られ、背後に茶色い蛇が現れた。とぐろを巻いた巨体と大きく開けた口、金色の目はジェラルドを敵と認定し強い威圧を放っている。
《 restitutio 》
火煙が上がりプスプスと音を立てる馬車の残骸に蛇が巻きつき、シュルシュルと怪しい音を立てて空に向かって飛び上がる。
「凄え! 馬車が⋯⋯復元魔法か!?」
仕事を終えた蛇は小さくなり、主人に甘える猫のようにセドリックの足に巻き付いた。
《 confluens 》
金色の光の粒を撒き散らしながら、蛇の姿が薄れていくのを、ジェラルドは目を輝かせて見つめていた。
「凄え⋯⋯マジで凄えよ! やっぱセドリック、最強じゃん!! 見たか⋯⋯今の⋯⋯蛇がドーンで⋯⋯クルクルって⋯⋯んで、ぴょ~って⋯⋯あーもー、なんでセドリックってそんなすごいの隠してんの!?
もっかい、もう一回見せてくれ! んで、みんなに自慢しようぜ⋯⋯で、ぎゃーとか騒ぐ奴とかを追いかけ回「ジェラルドは興奮すると言葉がおかしくなる癖をなんとかしろ。はぁ、まるで子供のままじゃないか」
微動だにしない御者と半べそのローラに向かって、はしゃいで叫んでいたジェラルドが、セドリックの溜め息で振り返った。
「おー、なーんか久しぶりにセドリックを見た気がしたからさ~。ちょーっと興奮? あんな凄えの見せてくれるのは、いつだってセドリックだけだし⋯⋯つい、我を忘れた。
耳と尻尾を考えついた以来じゃね? 新作を考えてたとかぜんっぜん気付いてなくて、サプライズで頭が冷えた。いや、違う方向に燃えたな。うん。もう、最高! マジで魔法神認定だな!」
「⋯⋯はぁ、やっぱお前は、ジェリー坊やだな。腹を立ててたのに⋯⋯もういい、気が抜けた。今日は家に帰るから、ローラを送ったら帰って来い。種明かしして欲しければ、レイちゃんが教えてくれるかも」
「げっ! やっぱり、あのババアの本なのかよ~。『ぴよぴよ』には無理だとか言いやがって⋯⋯帰ったらセドリックの自慢して、『ざまあ』とか言ってやろうかな~」
「ディック、驚かせて悪かった。馬も馬車も元通りのはずだから、家まで頼めるかな?」
「はっ、はい! す、すぐに⋯⋯いや、ちょっと足が震えて、歩けるまでちょっとだけ待ってもらえたら⋯⋯」
驚きすぎて落としたらしい。御者の足元には、通信中の魔導具がチカチカと光を放っていた。
「凄すぎ⋯⋯やっぱりセドリックは天才で秀才で、めちゃめちゃカッコいい! 祖父ちゃんが狙っ⋯⋯あ! なんでもないですぅ⋯⋯ぴゅ~しゅ~ひゅ~」
ギリギリで立っている御者の腕をバンバン叩きながら叫んでいたローラが、殆どならない口笛を吹きながら目線を逸らした。
「「ローラー、ローラちゃーん、何を狙ってるって?」」
「やだやだ、こういう時にだけ双子臭出すのはやめれー!」
「「で?」」
「いや~、これは乙女の秘密みたいな?」
「誰が乙女だって? 真夜中にパジャマのまま『良いこと思いついた』とか言いながら、部屋に飛び込んでくる奴が?」
「人の皿にピーマンをこっそり移動して、トマトを盗む奴が?」
「トマトは美容に良いんだから。乙女には大事なの!」
「「で? 吐けぇぇぇ」」
待っていたのはローラで、ジェラルドはローラに帰ろうと言い続けていたのだが⋯⋯。因みに、アリサは帰宅しエレーナは図書館にいる。
「30分くらい後に産まれたって聞いたし、今までセドリックが兄ちゃんとか言ったの聞いたことないし⋯⋯それに、相手はローラだぞ? 俺の抵抗が効くわけないじゃん」
「30分の違いを利用して責任をなすりつけたくせに。ローラの操縦くらい覚えてくれてもいいと思うよ?」
セドリックが言いたいのは『キャンベル侯爵家の後継』問題。以前から、セドリックが継ぐだろうと言う周りの雰囲気は知っていたが、ジェラルドに先手を打たれて決められたのが悔しい。
(ジェラルドが自由人すぎるから、セドリックの方がマシかもって思われてただけで、セドリックが良いって思われてるわけじゃない⋯⋯で、コイツはそう思われるように動いてる気配がする)
ジェラルドが真面目に試験を受けた時は、セドリックとそれほど変わらない成績、魔導士としての力も拮抗している。それなのにセドリックが生徒会長になったのは、ジェラルドがマイナスポイントを稼ぎすぎているから。
個人用の研究室を与えられるのは、学園から魔導士として評価された証の一つで、魔導塔への就職が決まったも同然。
魔法は好きだが研究一辺倒の魔導塔に入りたくないのは、セドリックとジェラルドの共通した考えで、セドリックは研究室の利用許可が出たが断った。
それに反して、ジェラルドは個人用の研究室を自由に利用して、魔導塔から使者が来ても無視か拒否している。
セドリックはジェラルドの研究室を散々利用している⋯⋯ジェラルドより利用しているが、魔導塔に対しては『俺は助手なんで』と言うスタンスを崩していない。
(自由な研究の時間と場所を確保しながら、堂々と魔導塔にNOと言い続ける⋯⋯ジェラルドみたいな強さが俺にはないから、陰に隠れて研究してる。ジェラルドやローラから腹黒だって言われるけど、本当は小心者なだけ)
そんな自分を変えたくて、セドリックは魔法の特訓を続けている。生徒会の仕事を放課後に回さないと断言したのも同じ理由。
『生徒会の仕事は朝と休憩時間のみ、放課後も休日も生徒会の仕事はしません。それでも良いと教員の方々と生徒全員が言うのなら、生徒会長を引き受けます。
我儘を言う俺以上に生徒会長に相応しい生徒は何人もいますから、別の生徒に打診するべきだと思います』
(それでも俺が生徒会長に決まったのは、他の奴らが嫌がったんだろうなあ)
「おーい、セドリック~、起きてるか~」
長々と考え込んでいたセドリックの肩をジェラルドが叩いた。
「ジェラルドじゃあるまいし、立ったまま寝たりしないから。で、ローラは何か用? 俺、忙しいんだけど」
「いや~、そう言われるとねえ⋯⋯セドリックがどうしてるのかなあって。家に帰ってから一度も会えてないなあって思ったから?」
「色々忙しくて。これからも忙しいから、会うのは難しいと思う。ローラだって勉強で忙しくなっただろ? それと同じかなぁ、多分だけど」
「そ、そっか⋯⋯最終学年になったら、卒業後の事とかがあるもんね。でもでも、セドリックはキャンベル侯爵家を継ぐんでしょ? それならそんなに変わ「勝手に決めないでくれ!? ローラは自分で教師になるって決めたんだろ? 俺だって自分の将来は自分で決める! 周りから勝手に押し付けられるのはうんざりなんだ!」」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかった。なんとなく、そうなのかなぁって勝手に思ってて」
「あぁ、俺もごめん。周りがみんなセドリックがキャンベルを継ぐと思ってるのは知ってるから。セレナが嫌だって言って、ジェラルドも逃げ出したから、俺しか残ってないからね」
「セドリック、それは違うからな! みんなお前が一番相応しいと思って「嘘つけ! エレーナと一緒にいたいから、キャンベルを継がずに済むように手を打ったんだろ!? で、他にいなくなったから、俺にお鉢が回ってきたんだ。俺には選択肢はないし、父上達にも選択肢がなかっただけだって知ってるからな!⋯⋯残り者だからって仕方ないって思われて『ありがたく』なんか思えるか! バカにするな!! お前は俺をなんだと思ってる、便利な駒か? 自分がいらないもんを押し付ける為の便利な道具かよ!?」
セドリックの本音を初めて知ったジェラルドは愕然とした。セドリックの方が優秀だと知っていたから、ごく自然に『後継者はセドリック』だと思っていた。セドリックもそれを知っているとばかり⋯⋯。
勉強や魔導士としての力には極端な違いはないかもしれないが、セドリックは冷静な判断力や計画を立て実行する能力が高い。家族として、兄弟として、仲間として⋯⋯セドリックほど安心して背中を預けられる奴も、上を任せられる奴もいないのに。
「俺みたいに直情的じゃなくて、勢いだけで突っ走らなくて、周りをよく見ていて、判断も的確で⋯⋯だから⋯⋯それが次期当主に相応しいって」
あのスラムでの1ヶ月で気がついた。一緒に悪戯してふざけてばかりいたが、すぐに突っ走るジェラルドと違って、早い段階から危険を予測して行動しはじめたセドリックは、リーダーに相応しい奴だと。
(セドリックが司令官で俺が突撃兵⋯⋯だからキャンベルを守れるのはお前だって思ったんだぞ!!)
「セドリックが残り者? 冗談じゃない! そんな台詞、絶対に許さないからな。巫山戯るなって言いたいのは俺の方だ!! 勝負しやがれ、てめえの腐った頭を叩き直してやる!!」
ジェラルドの青白い炎がセドリックに向かって飛んでいき、直撃を避けたセドリックの背後で、馬車が爆音を立てて弾けるように燃えはじめた。
「うわぁ! 何やってんですか!」
ジェラルドの炎を見た瞬間、転移で移動した御者が叫び声を上げた。呆然として立ち尽くしているローラを抱えて、距離を取った御者が、通信の魔道具を手にどこかへ連絡しはじめた。
ジェラルドの炎をセドリックの氷の盾が塞ぐ。セドリックが詠唱している間に、溶けた氷が地面に水溜りを作りはじめた。
《 Genius Loci vocare》
聞いたことのない言葉がセドリックの口から綴られ、背後に茶色い蛇が現れた。とぐろを巻いた巨体と大きく開けた口、金色の目はジェラルドを敵と認定し強い威圧を放っている。
《 restitutio 》
火煙が上がりプスプスと音を立てる馬車の残骸に蛇が巻きつき、シュルシュルと怪しい音を立てて空に向かって飛び上がる。
「凄え! 馬車が⋯⋯復元魔法か!?」
仕事を終えた蛇は小さくなり、主人に甘える猫のようにセドリックの足に巻き付いた。
《 confluens 》
金色の光の粒を撒き散らしながら、蛇の姿が薄れていくのを、ジェラルドは目を輝かせて見つめていた。
「凄え⋯⋯マジで凄えよ! やっぱセドリック、最強じゃん!! 見たか⋯⋯今の⋯⋯蛇がドーンで⋯⋯クルクルって⋯⋯んで、ぴょ~って⋯⋯あーもー、なんでセドリックってそんなすごいの隠してんの!?
もっかい、もう一回見せてくれ! んで、みんなに自慢しようぜ⋯⋯で、ぎゃーとか騒ぐ奴とかを追いかけ回「ジェラルドは興奮すると言葉がおかしくなる癖をなんとかしろ。はぁ、まるで子供のままじゃないか」
微動だにしない御者と半べそのローラに向かって、はしゃいで叫んでいたジェラルドが、セドリックの溜め息で振り返った。
「おー、なーんか久しぶりにセドリックを見た気がしたからさ~。ちょーっと興奮? あんな凄えの見せてくれるのは、いつだってセドリックだけだし⋯⋯つい、我を忘れた。
耳と尻尾を考えついた以来じゃね? 新作を考えてたとかぜんっぜん気付いてなくて、サプライズで頭が冷えた。いや、違う方向に燃えたな。うん。もう、最高! マジで魔法神認定だな!」
「⋯⋯はぁ、やっぱお前は、ジェリー坊やだな。腹を立ててたのに⋯⋯もういい、気が抜けた。今日は家に帰るから、ローラを送ったら帰って来い。種明かしして欲しければ、レイちゃんが教えてくれるかも」
「げっ! やっぱり、あのババアの本なのかよ~。『ぴよぴよ』には無理だとか言いやがって⋯⋯帰ったらセドリックの自慢して、『ざまあ』とか言ってやろうかな~」
「ディック、驚かせて悪かった。馬も馬車も元通りのはずだから、家まで頼めるかな?」
「はっ、はい! す、すぐに⋯⋯いや、ちょっと足が震えて、歩けるまでちょっとだけ待ってもらえたら⋯⋯」
驚きすぎて落としたらしい。御者の足元には、通信中の魔導具がチカチカと光を放っていた。
「凄すぎ⋯⋯やっぱりセドリックは天才で秀才で、めちゃめちゃカッコいい! 祖父ちゃんが狙っ⋯⋯あ! なんでもないですぅ⋯⋯ぴゅ~しゅ~ひゅ~」
ギリギリで立っている御者の腕をバンバン叩きながら叫んでいたローラが、殆どならない口笛を吹きながら目線を逸らした。
「「ローラー、ローラちゃーん、何を狙ってるって?」」
「やだやだ、こういう時にだけ双子臭出すのはやめれー!」
「「で?」」
「いや~、これは乙女の秘密みたいな?」
「誰が乙女だって? 真夜中にパジャマのまま『良いこと思いついた』とか言いながら、部屋に飛び込んでくる奴が?」
「人の皿にピーマンをこっそり移動して、トマトを盗む奴が?」
「トマトは美容に良いんだから。乙女には大事なの!」
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