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第五章
29.一体何歳の『ひ・み・ちゅ』?
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「近寄っちゃダメだからね」
この魔女が例のおかしな魅了を教えたのかもしれない。魔法が使えなかったクラリスに属性を植え付け、不可解な魅了を使えるようにした魔女だとしたら、ジェラルドが近付くのは危険すぎる。
(ジェラルドが魅了にかかって敵になったら、わたくしでは勝てない。解除もできないんだから⋯⋯)
「問題ねえ、魔法の使えねえコイツは犯人なんかじゃないからな。鑑定には薬師って出た」
上位の魔導士なら鑑定されればすぐに気がつく。見破られるのが怖くて、鑑定できなかったエレーナは安堵の溜め息を吐いた。
「この人はセルビアスの魔女でポルファ。『戦禍の魔女』について聞こうとしてたの」
「あんたがこのバカ女の恋人かよ!? なら、なんとかしなさいよ、そのバカ女があたしの髪や顔を燃やすって脅してんだから!」
「さっきヘレネーを突き飛ばしたよな! チリチリじゃ甘すぎる、もっとガッツリ⋯⋯ヘレネーを傷つける奴は消し炭も残さず燃やしてやる!」
ジェラルドの手から一瞬で青白い炎が上がる。 色の温度は赤色が最も低く、黄色、白、青と高くなっていく。ジェラルドの出した炎の温度は想像するだけでも恐ろしい。
案の定、ポルファがガタガタと震えはじめた。
「あ、あたしはなんも知らない⋯⋯部屋を貸しただけで、部屋でなにをしたかなんて⋯⋯み、見てないから。あたしはなんも見てないんだ。
もうすぐ『戦禍の魔女』が帰ってくる。あいつの事を詮索したら、あんたらなんかすぐに殺されちまうんだからね!」
「おやおや、殺されるってのは物騒な話だねえ。『戦禍の魔女』が殺るのかい? それとも、あんたが殺るのかい? ショボい魔導具にさえ太刀打ちできないあんたが?」
突然、楽しげな声が聞こえてきた⋯⋯楽しそうなのに背筋が凍りつくような不思議な声。森の木々まで息を潜めたように、葉擦れの音がぴたりと止まった。
「誰だ! 俺の邪魔をする気なら、森ごと燃やしてやるぞ」
「血気盛んなのは良いけど、そこの魔女如きの為に森の生き物達を犠牲にする気かい?」
この俺が気配に気付けなかった⋯⋯余裕綽々のフリで威嚇したが、ジェラルドはかなり本気で焦っていた。
森の木々のせいで反響しているわけでもないのに、声がどこから響いているのか分からない。
(これほど上位の魔導士には会った事がねえ⋯⋯コイツはマジでヤバい。陛下が本気で腹を立てた時の百倍はマズい)
転移で逃げろと言ってもエレーナは聞かないはず⋯⋯ジェラルドは青い炎を維持したまま、じわりじわりとエレーナのそばに近付いていった。
「さて、姿を見せるから攻撃するんじゃないよ。あんた如きの攻撃なんぞ当たりゃしないが、魔女には魔女のルールがある。攻撃されたらやり返さなきゃならない⋯⋯天秤はいつだって水平に保たなきゃならないんでね」
(絶対に違う⋯⋯姿を見せない魔女の仕返しは何倍にもなって返ってきそうだぜ)
姿を見せないのは警戒しているからではなく、面白がっているだけ。鼠が猫をいたぶるよりもタチが悪い⋯⋯気まぐれな猫と違って、余裕のあるこの声の主からは逃げられそうな気がしないから。
姿を現した魔女は意外な事にかなり幼い見た目をしていた。
10歳にもなっていなさそうな小さな身体と、幼さの残る柔らかそうな頬。ふくふくとした子供らしい小さな手、その中にある糸巻き棒が妙に大きく見えた。
足先まで覆うほど長い青のローブと、白い猫革で縁取られた黒い子羊の帽子はよく似合っているが、パールのネックレスも、腰まわりの太いベルトにつけたポーチも子供には大きすぎる。
「あんたが『戦禍の魔女』か?」
「冗談をお言いでない、あたしをあんな頭の足りない魔女と勘違いするなんて。それだけで魔女の制裁を加えたくなっちまう。
あたしは探し物にやってきた『黎明の魔女』さ。原初の魔女で、面倒な役目を押し付けられてる可哀想な魔女さ。
あんた達の探し物はあたしのポケットの中。あんた達の知りたい事はあたしの頭ん中」
パチンと『黎明の魔女』が指を鳴らすと、ポルファの姿が消えた。
「あの女からあたしの事が広がったら面倒だから、さっきの女と門番の男の記憶は消しといた。あの女の罪は薬草の中に幻惑を引き起こす毒薬草を混ぜるくらい。この世界の奴らの中ではマシな方さ。
一人殺せば殺人者、百万殺せば英雄⋯⋯だっけねえ」
呆れたように首を振った魔女は、子供らしい顔に狡猾老獪な表情を浮かべた。
「あんた何歳だよ。子供フリしてても、経験豊富で悪賢そうな顔になってんぜ」
「はっはっは! これでも一応、女だからね。年なんて聞くもんじゃないよ。とっくの昔に数える指が足りなくなったからね」
「一体何人分の、何百人分の指がい⋯⋯」
魔女の顔つきが変わったのを見て、ジェラルドが言いかけた言葉を飲み込んだ。
(超ヤベェ⋯⋯マジで殺されるかと思った)
「あの、わたくし達はクラリスという娘に魔法属性をつけて、おかしな魅了魔法を使えるようにした魔女を探しています。何かご存知ありませんか?」
エレーナの見たところだと、目の前にいる『黎明の魔女』はジェラルドを気に入っているような気がする。
(このまま放っておくと、ジェラルドが揶揄われ続けて話が進まないわ)
「もちろん知ってるとも。そのせいであたしはこんなとこまで来たんだから。あれは『戦禍の魔女』の仕業、とっくに捕まえたから帰ろうと思ってたのに⋯⋯なんだか、面白そうなのが来たから」
以前、セドリックとジェラルドがこの地にマーキングしにきた時、『戦禍の魔女』を捕まえ終わった『黎明の魔女』は暇つぶしがてら、森の兎を追いかけていた。
『おや、なんだか面白そうなのが来たじゃないか。腹黒で怖がりな奴と無鉄砲で能天気な奴⋯⋯良く言や、慎重な奴と勇気のある奴。
魂同士が引き合って一緒に産まれたみたいだが、こうも見事に正反対で、こうも見事に揃ってる⋯⋯魂の色は⋯⋯ふむ、これも中々』
あちこちにを歩きながら、双子が口喧嘩をしているのも見ていて楽しいし、双子に流れている魔力が揺れる理由も気になって仕方ない。
そのうちに、腹黒が能天気を揶揄い、魔法を使って戦いはじめた。
腹黒は氷魔法が得意らしく森の中ではかなり有利だが、能天気は火魔法が好みのようで分が悪い。
『てっめえ! 手ェ出したら丸焦げにしてやるからな』
『いつまでもバブバブしてるからさ、いらないのかな~って』
『うるせえ、俺はな、ちょっとずつ距離を⋯⋯んで、なが~く続く関係をだなぁ』
『キモい! マジで気持ち悪い。俺が手を出すのが嫌なら、アレックスを応援しようかな~』
その騒ぎで、しばらくの間森から動物達が逃げ出していた。
双子はこの地に転移できるように、マーキングして帰ったらしいと気付いた魔女は、しばらく森で過ごす事にした。
『近々、やって来そうだし。気配を察知して飛んでくるよりも⋯⋯待ってるって方が楽しそうだ。どうやら白い魂の子がらみのようだし』
「えーっと、面白そうというのはセドリックとジェラルドですか?」
「そうそう。そこでナイトを気取ってるお子ちゃまと、臆病な兎みたいに隠れてる子の事さ。もちろん、白い魂の子もね」
臆病な兎⋯⋯セドリックが、渋々のように姿を現した。
「このまま見過ごしてくれるかなと思ったんですけど⋯⋯」
ジェラルドを信用しているが、得体の知れない魔法もどきは気になる。さりとて2人の『おでかけ』を邪魔したくない。
2人が転移した後、こっそりやって来たセドリックは、ジェラルドに見つからないように息を殺して見守っていた。
(エレーナには見つからない自信があるが、ジェラルドは目敏いからなぁ⋯⋯あ、大丈夫かも⋯⋯エレーナが心配すぎて、全然気付いてなさそう。やっぱ、あいつ間抜けだよ~)
「んな! セドリックはお留守番だろ!? アイザックの教育係じゃなかったのかよ」
「いや~、ミリアが遊びに来てるんだよね~。ラブラブを邪魔すると馬に蹴られるからさ~」
(セドリックがミリアを呼び寄せたのは間違いないわね。多分ジェラルドの事が心配だったんだわ)
「じゃあ、『白の魔女』に教えてあげようかねえ⋯⋯『戦禍の魔女』のやらかしを」
宙に浮いたまま器用に胡座をかいた『黎明の魔女』が、楽しそうに語りはじめた。
「エロイーズの指示に従って実行したのも『戦禍の魔女』に大金を払ったのも、もちろんクームラさ。『戦禍の魔女』は金をもらって禁術を試せるって大喜びさ。
やり切ったって言って、年甲斐もなくはしゃいでる隙をつかれて、魔女の大切な糸巻き棒と、あんた達が呪具と呼んでる品を盗まれた大間抜けだけどね。
あんた達3人なら魔導具みたいな物って言った方が、わかりやすかったかねえ。
魔女の禁術の一つに、『加害魔法』ってのがある。『マレフィキウム』とも言うけど⋯⋯ 兎に角、他者を害することに特化した魔法なのさ。
『戦禍の魔女』が使ったのはこの『加害魔法』からの進化系で、もちろん禁術。
人間は死体のポケットに手を突っ込んで金を盗むが、『戦禍の魔女』は死体の腹ん中から『力』を盗んだんだ。力には色々あるから、その時に必要な力を⋯⋯今回は魔法属性を盗んだわけさ。
貰う側の魂に相応しい魂から奪い取るんだ。ターニャのような欲望まみれの娘には、欲望まみれで死んだ奴を探さなきゃならない。
今回は魔女のやらかしだから、あたしが制裁しに来なきゃならなかったわけさ。魔女の後始末は魔女がつけるって、遠い昔から決まっててさ。面倒だよ、まったく。
ターニャはもうそんなに長くは生きられない。ターニャの命が尽きる頃には、魔女の天秤が精算をはじめる。つまり、禁術を使うよう指示した者達に跳ね返るんだ。
あたしがその時間を『白の魔女』にとって、一番いい時間合わせてあげよう。本当なら、ターニャの命はそれよりも早く消えるんだけど、少し伸ばすくらいなら簡単なことさ。
色々面倒をかけたお詫びってやつ。
クームラがなんでそんな事をやったかって? ターニャを使ってエレーナを誘き出す為に、エレーナを使ってアメリアを呼び出す為に⋯⋯エロイーズほど汚れ切った魂に似合うのを探そうとしたら、悪魔界にもいなさそうだねえ。人間ってのはこの世の何よりも怖い生き物だよ」
「なあ、なんでエレーナの事を『白の魔女』って呼ぶんだ?」
「ふふっ、ひ・み・ちゅ⋯⋯気が向いたら教えてやるさ。いつかね⋯⋯」
可愛らしい笑い声を残して『黎明の魔女』が消えた。
この魔女が例のおかしな魅了を教えたのかもしれない。魔法が使えなかったクラリスに属性を植え付け、不可解な魅了を使えるようにした魔女だとしたら、ジェラルドが近付くのは危険すぎる。
(ジェラルドが魅了にかかって敵になったら、わたくしでは勝てない。解除もできないんだから⋯⋯)
「問題ねえ、魔法の使えねえコイツは犯人なんかじゃないからな。鑑定には薬師って出た」
上位の魔導士なら鑑定されればすぐに気がつく。見破られるのが怖くて、鑑定できなかったエレーナは安堵の溜め息を吐いた。
「この人はセルビアスの魔女でポルファ。『戦禍の魔女』について聞こうとしてたの」
「あんたがこのバカ女の恋人かよ!? なら、なんとかしなさいよ、そのバカ女があたしの髪や顔を燃やすって脅してんだから!」
「さっきヘレネーを突き飛ばしたよな! チリチリじゃ甘すぎる、もっとガッツリ⋯⋯ヘレネーを傷つける奴は消し炭も残さず燃やしてやる!」
ジェラルドの手から一瞬で青白い炎が上がる。 色の温度は赤色が最も低く、黄色、白、青と高くなっていく。ジェラルドの出した炎の温度は想像するだけでも恐ろしい。
案の定、ポルファがガタガタと震えはじめた。
「あ、あたしはなんも知らない⋯⋯部屋を貸しただけで、部屋でなにをしたかなんて⋯⋯み、見てないから。あたしはなんも見てないんだ。
もうすぐ『戦禍の魔女』が帰ってくる。あいつの事を詮索したら、あんたらなんかすぐに殺されちまうんだからね!」
「おやおや、殺されるってのは物騒な話だねえ。『戦禍の魔女』が殺るのかい? それとも、あんたが殺るのかい? ショボい魔導具にさえ太刀打ちできないあんたが?」
突然、楽しげな声が聞こえてきた⋯⋯楽しそうなのに背筋が凍りつくような不思議な声。森の木々まで息を潜めたように、葉擦れの音がぴたりと止まった。
「誰だ! 俺の邪魔をする気なら、森ごと燃やしてやるぞ」
「血気盛んなのは良いけど、そこの魔女如きの為に森の生き物達を犠牲にする気かい?」
この俺が気配に気付けなかった⋯⋯余裕綽々のフリで威嚇したが、ジェラルドはかなり本気で焦っていた。
森の木々のせいで反響しているわけでもないのに、声がどこから響いているのか分からない。
(これほど上位の魔導士には会った事がねえ⋯⋯コイツはマジでヤバい。陛下が本気で腹を立てた時の百倍はマズい)
転移で逃げろと言ってもエレーナは聞かないはず⋯⋯ジェラルドは青い炎を維持したまま、じわりじわりとエレーナのそばに近付いていった。
「さて、姿を見せるから攻撃するんじゃないよ。あんた如きの攻撃なんぞ当たりゃしないが、魔女には魔女のルールがある。攻撃されたらやり返さなきゃならない⋯⋯天秤はいつだって水平に保たなきゃならないんでね」
(絶対に違う⋯⋯姿を見せない魔女の仕返しは何倍にもなって返ってきそうだぜ)
姿を見せないのは警戒しているからではなく、面白がっているだけ。鼠が猫をいたぶるよりもタチが悪い⋯⋯気まぐれな猫と違って、余裕のあるこの声の主からは逃げられそうな気がしないから。
姿を現した魔女は意外な事にかなり幼い見た目をしていた。
10歳にもなっていなさそうな小さな身体と、幼さの残る柔らかそうな頬。ふくふくとした子供らしい小さな手、その中にある糸巻き棒が妙に大きく見えた。
足先まで覆うほど長い青のローブと、白い猫革で縁取られた黒い子羊の帽子はよく似合っているが、パールのネックレスも、腰まわりの太いベルトにつけたポーチも子供には大きすぎる。
「あんたが『戦禍の魔女』か?」
「冗談をお言いでない、あたしをあんな頭の足りない魔女と勘違いするなんて。それだけで魔女の制裁を加えたくなっちまう。
あたしは探し物にやってきた『黎明の魔女』さ。原初の魔女で、面倒な役目を押し付けられてる可哀想な魔女さ。
あんた達の探し物はあたしのポケットの中。あんた達の知りたい事はあたしの頭ん中」
パチンと『黎明の魔女』が指を鳴らすと、ポルファの姿が消えた。
「あの女からあたしの事が広がったら面倒だから、さっきの女と門番の男の記憶は消しといた。あの女の罪は薬草の中に幻惑を引き起こす毒薬草を混ぜるくらい。この世界の奴らの中ではマシな方さ。
一人殺せば殺人者、百万殺せば英雄⋯⋯だっけねえ」
呆れたように首を振った魔女は、子供らしい顔に狡猾老獪な表情を浮かべた。
「あんた何歳だよ。子供フリしてても、経験豊富で悪賢そうな顔になってんぜ」
「はっはっは! これでも一応、女だからね。年なんて聞くもんじゃないよ。とっくの昔に数える指が足りなくなったからね」
「一体何人分の、何百人分の指がい⋯⋯」
魔女の顔つきが変わったのを見て、ジェラルドが言いかけた言葉を飲み込んだ。
(超ヤベェ⋯⋯マジで殺されるかと思った)
「あの、わたくし達はクラリスという娘に魔法属性をつけて、おかしな魅了魔法を使えるようにした魔女を探しています。何かご存知ありませんか?」
エレーナの見たところだと、目の前にいる『黎明の魔女』はジェラルドを気に入っているような気がする。
(このまま放っておくと、ジェラルドが揶揄われ続けて話が進まないわ)
「もちろん知ってるとも。そのせいであたしはこんなとこまで来たんだから。あれは『戦禍の魔女』の仕業、とっくに捕まえたから帰ろうと思ってたのに⋯⋯なんだか、面白そうなのが来たから」
以前、セドリックとジェラルドがこの地にマーキングしにきた時、『戦禍の魔女』を捕まえ終わった『黎明の魔女』は暇つぶしがてら、森の兎を追いかけていた。
『おや、なんだか面白そうなのが来たじゃないか。腹黒で怖がりな奴と無鉄砲で能天気な奴⋯⋯良く言や、慎重な奴と勇気のある奴。
魂同士が引き合って一緒に産まれたみたいだが、こうも見事に正反対で、こうも見事に揃ってる⋯⋯魂の色は⋯⋯ふむ、これも中々』
あちこちにを歩きながら、双子が口喧嘩をしているのも見ていて楽しいし、双子に流れている魔力が揺れる理由も気になって仕方ない。
そのうちに、腹黒が能天気を揶揄い、魔法を使って戦いはじめた。
腹黒は氷魔法が得意らしく森の中ではかなり有利だが、能天気は火魔法が好みのようで分が悪い。
『てっめえ! 手ェ出したら丸焦げにしてやるからな』
『いつまでもバブバブしてるからさ、いらないのかな~って』
『うるせえ、俺はな、ちょっとずつ距離を⋯⋯んで、なが~く続く関係をだなぁ』
『キモい! マジで気持ち悪い。俺が手を出すのが嫌なら、アレックスを応援しようかな~』
その騒ぎで、しばらくの間森から動物達が逃げ出していた。
双子はこの地に転移できるように、マーキングして帰ったらしいと気付いた魔女は、しばらく森で過ごす事にした。
『近々、やって来そうだし。気配を察知して飛んでくるよりも⋯⋯待ってるって方が楽しそうだ。どうやら白い魂の子がらみのようだし』
「えーっと、面白そうというのはセドリックとジェラルドですか?」
「そうそう。そこでナイトを気取ってるお子ちゃまと、臆病な兎みたいに隠れてる子の事さ。もちろん、白い魂の子もね」
臆病な兎⋯⋯セドリックが、渋々のように姿を現した。
「このまま見過ごしてくれるかなと思ったんですけど⋯⋯」
ジェラルドを信用しているが、得体の知れない魔法もどきは気になる。さりとて2人の『おでかけ』を邪魔したくない。
2人が転移した後、こっそりやって来たセドリックは、ジェラルドに見つからないように息を殺して見守っていた。
(エレーナには見つからない自信があるが、ジェラルドは目敏いからなぁ⋯⋯あ、大丈夫かも⋯⋯エレーナが心配すぎて、全然気付いてなさそう。やっぱ、あいつ間抜けだよ~)
「んな! セドリックはお留守番だろ!? アイザックの教育係じゃなかったのかよ」
「いや~、ミリアが遊びに来てるんだよね~。ラブラブを邪魔すると馬に蹴られるからさ~」
(セドリックがミリアを呼び寄せたのは間違いないわね。多分ジェラルドの事が心配だったんだわ)
「じゃあ、『白の魔女』に教えてあげようかねえ⋯⋯『戦禍の魔女』のやらかしを」
宙に浮いたまま器用に胡座をかいた『黎明の魔女』が、楽しそうに語りはじめた。
「エロイーズの指示に従って実行したのも『戦禍の魔女』に大金を払ったのも、もちろんクームラさ。『戦禍の魔女』は金をもらって禁術を試せるって大喜びさ。
やり切ったって言って、年甲斐もなくはしゃいでる隙をつかれて、魔女の大切な糸巻き棒と、あんた達が呪具と呼んでる品を盗まれた大間抜けだけどね。
あんた達3人なら魔導具みたいな物って言った方が、わかりやすかったかねえ。
魔女の禁術の一つに、『加害魔法』ってのがある。『マレフィキウム』とも言うけど⋯⋯ 兎に角、他者を害することに特化した魔法なのさ。
『戦禍の魔女』が使ったのはこの『加害魔法』からの進化系で、もちろん禁術。
人間は死体のポケットに手を突っ込んで金を盗むが、『戦禍の魔女』は死体の腹ん中から『力』を盗んだんだ。力には色々あるから、その時に必要な力を⋯⋯今回は魔法属性を盗んだわけさ。
貰う側の魂に相応しい魂から奪い取るんだ。ターニャのような欲望まみれの娘には、欲望まみれで死んだ奴を探さなきゃならない。
今回は魔女のやらかしだから、あたしが制裁しに来なきゃならなかったわけさ。魔女の後始末は魔女がつけるって、遠い昔から決まっててさ。面倒だよ、まったく。
ターニャはもうそんなに長くは生きられない。ターニャの命が尽きる頃には、魔女の天秤が精算をはじめる。つまり、禁術を使うよう指示した者達に跳ね返るんだ。
あたしがその時間を『白の魔女』にとって、一番いい時間合わせてあげよう。本当なら、ターニャの命はそれよりも早く消えるんだけど、少し伸ばすくらいなら簡単なことさ。
色々面倒をかけたお詫びってやつ。
クームラがなんでそんな事をやったかって? ターニャを使ってエレーナを誘き出す為に、エレーナを使ってアメリアを呼び出す為に⋯⋯エロイーズほど汚れ切った魂に似合うのを探そうとしたら、悪魔界にもいなさそうだねえ。人間ってのはこの世の何よりも怖い生き物だよ」
「なあ、なんでエレーナの事を『白の魔女』って呼ぶんだ?」
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可愛らしい笑い声を残して『黎明の魔女』が消えた。
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