上 下
83 / 135
第四章

00.エレーナの過去 3 ループ前

しおりを挟む
 学園の最終学年が半分終わった頃に国王が逝去し、戴冠式の隅っこに埋もれるような結婚式が終わった。

 惨めだと思う心の余裕も憐憫に浸る時間もない、心を閉ざして仕事人形になるだけの日々。仕事は増える一方だが、学園を無理矢理退学させられたせいで、ほんの少し時間の余裕ができた。

(この時間があれば資料集めの時間が⋯⋯)

(次の予算会議では、陛下が3ヶ月後に行かれる隣国の建⋯⋯)



『仕事をしている間は生かしておいてやる』

 エドワードの言った言葉の意味など理解できない。生きたいと思ったことなどなく、死にたいのかどうかを考える暇がないだけ。

(仕事をしなくては⋯⋯間に合わなくなる。会議がはじまるまでに後10分しかないわ)

 睡眠時間は2時間もあればラッキーな方で、目の下のクマと死人のような顔色を隠すために、会議の前は白粉を厚く塗る。

「今日も派手です事」

「そんな事をすれば美しくなると思ってるのかしら」

 短い期間で入れ替わるエドワードの愛人にかかる費用は増えるばかりで、予算会議ではエレーナが吊し上げを喰らう。

「王妃に少しでも魅力があればねえ」

「アレでは愛人が必要になっても仕方ありませんな」





「我が国の側妃制度を復活させる。準備して議会を納得させておけ」

「畏まりました」

 側妃は国庫から正式に予算が割り当てられると気付いたエドワードの猿知恵だが、愛人にかかっている費用も既に国庫から捻出しているのだから、何も変わらないなど考えもしない。

 かつてこの国にあった側妃制度では、政務には携わらせないと定められていた。

『側妃は後継を産むために存在し、王妃の権限を脅かしてはならない』

(これ以上捻出できるものなどないわ⋯⋯それならば)






「散々愛人のための費用を国庫から捻出させているにも関わらず、側妃制度を復活させる意味は!?」

「これ以上の散財を許すのですか!? なら、王妃は何のためにいるんだ」

「王が側妃を望まれるのは王妃としての資質に問題があるからだ! その責任をどうとってくださるのか、この場でご返答いただきたい!」


「皆様の仰る通り⋯⋯わたくしには王妃としての能力も資質も品格もなく、歴史あるアルムヘイルの王妃として失格です。
アルムヘイル現王妃として提言いたします。陛下のお心を安んじ、後継者を授かる為には側妃制度の復活は急務であり、必要不可欠であると判断いたしました。
側妃にかかる費用の一部は王妃用の予算から捻出し、王妃権限の一部を側妃に譲渡します。議長代理・外交・各大臣や貴族との折衝の全てを一任致します。
王妃用予算の大半がとある案件に流用されています。その流用分を側妃用の予算の一部と致します」

「責任逃れだ!」

「責任とは何をもって言われるのか、発言するならば堂々と立ち上がり、名を名乗りなさい。皆が王妃としてわたくしは不適格であると言い続け、わたくしはそれを認めただけの事。無能な王妃から国王代理・議長代理・大臣職代行の仕事を外し、資質不足の王妃に相応しい立場に戻るのみ。
外交は過去も現在も国王陛下が愛人と呼ばれる女性を同行しておられ、それが側妃に変わるだけで何の支障もありません。各大臣との折衝は国王陛下の政務とアルムヘイル国法に定められています。貴族との折衝は各大臣の職務であることは周知の事実です。
側妃へ一任するのが不適切であるならば、国法に基づきそれぞれの担当部署へ戻すのが良いでしょう。
わたくしは現王妃権限として、側妃制度の復活を認めます。
側妃候補は既に国王陛下が選定済みとのこと。候補者名の開示を国王陛下に願い、次の議会にて決定なされますように」

(初めて意見を口にした気がするけれどこれで良かったのだと思う。エドワード陛下が認めた側妃が王妃の代わりとなる。わたくしは元々不要⋯⋯仕事のできない役立たずと言われながら、仕事だけをさせられてきたけれど、無能に仕事を任せていたから国が混迷するばかりだったのかも。
さて、エドワード陛下はこの後どうされるのかしら。暴言も暴力も慣れているから、怖いものがないみたい)


 その数日後、エドワードは側妃候補の肩を抱いてやって来た。

 何を言っているのか聞こえないが、エレーナをバルコニーから突き落としたのは最近愛人になったばかりのソフィー・グレンジャー。

 元平民で子爵家の庶子と言われているが、本当は子爵の愛人のひとり。側妃候補の筆頭で、既に部屋をもらっている。

 子供が産まれたら鑑定をしなくては、また『托卵』されているかも⋯⋯アルムヘイルは『托卵』されるのが得意技だから、例え子爵の子が産まれても王太子になれるだろう。



 エドワードがバルコニーから下を覗き、落ちていくエレーナを見ながら笑っているのがはっきりと見えた。

(そうか、わたくしはこうなる事を知っていたのかも⋯⋯ようやく終われる。二度とここには戻らないわ)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!! 男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。 そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢! そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。 どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの? ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます! しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、 物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど…… 2022.4.7 予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン) 《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます! とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。 ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。 よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

〖完結〗私は誰からも愛されないと思っていました…

藍川みいな
恋愛
クーバー公爵の一人娘として生まれたティナは、母を亡くした後に父セルドアと後妻ロザリア、その連れ子のイライザに使用人のように扱われていた。 唯一の味方は使用人のミルダだけ。 そんなある日、いきなり嫁ぐように言われたティナ。相手は年の離れた男爵。 それでもこの邸を離れられるならと、ティナはボーメン男爵に嫁いだ。 ティナを急いで嫁がせたのには理由があった。だが、ティナを嫁がせた事により、クーバー家は破滅する。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 11話で完結になります。 ※8話は残酷な表現があるので、R15になってます。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
 婚約者である王太子からの突然の断罪!  それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。  しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。  味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。 「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」  エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。  そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。 「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」  義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

【完結】婚約破棄されたので、全力で応援することにしました。ふふっ、幸せになってくださいね。~真実の愛を貫く代償~

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

処理中です...