75 / 135
第四章
37.離籍に向けて先ずは一人目
しおりを挟む
ニールと対面するのは途轍もなく怖い。ニールが到着してこの部屋にやって来た時、平静を保つ自信がないエレーナは、気を逸らす為に部屋にいる人達に意識を集中した。
(怖くても逃げられない時は、その時が来るまで考えないのが一番。来る可能性があるって知ってさえいれば大丈夫)
ループ前から馴染んでいるこの方法は、エレーナの心をいつも守ってくれた。
授業が終わるまでは王宮で会う予定の人達の事は考えない。予習や復習の時間を減らす為に授業に集中し、王宮でやるべき仕事だけを頭に思い浮かべる。
人を傷付けるのは、人にしかできない。
それに気付いてからは『誰の仕事か』ではなく『どの部署の仕事か』だけを考えるようになり、心はかなり楽になった。個人を思い浮かべない、仕事や役職に特定の誰かのイメージを載せない⋯⋯それができれば怖さは格段に減ってくれて、仕事に集中できる。そのお陰で、より多くの仕事を短時間でこなせるようになっていった。
会う可能性があると思っても、会うまでは心に浮かべずにいるのが一番いい。そして会った時に『ああ、やっぱりね』と思う心の準備だけをしておけばいい。
ループ前のエレーナの周りには、傷つける時しかこちらを向かない人ばかりだったから。
(モートンさんはエリオット様と同じくらいのご年齢だけど、ジョーンズの隣の男性はもっと若いみたい⋯⋯ここにいるのだから法律に詳しいとか? それなら法務大臣かその補佐官って感じね。侯爵家の元使用人ならどんな仕事を⋯⋯)
「ニールとエレーナが仲が良いねえ。誰が何を言ったのか詳しくは知らないが、エレーナには聞いたのか?」
ソファの背にもたれ腕を組んだエリオットは、目を眇めてジョーンズを見遣り口を歪めた。
「エレーナ様は⋯⋯先日エレーナ様からお話を伺いましたが、まだ幼く状況をご理解されていないと判断しました。ルーナ様からその時のお話を耳にされ、このような⋯⋯離籍などと言うお話をしておられるのだと承知しておりますが、僅か5歳の幼女の言葉を鵜呑みにするのは、些か問題があると言わざるを得ません」
「幼女の戯言ねえ。エレーナは随分と明確な説明をしていたと聞いているが?」
「先程ご挨拶をされた時にも、年齢にそぐわない立派なご様子でしたわ。見た目の年齢に誤魔化され、目が曇っているとしか思えないわね」
「大人ばかりの中で育っておられ、家庭教師も侯爵家令嬢に相応しい教育をしておりますので、大人びて見えるのでしょう。報告書にあるかなり不快な内容を踏まえて考えますと、エレーナ様の言葉通りに受け取るのは危険だと思われます」
「幼少期の貴族の令嬢が大人の中で暮らすなどごく普通の事ですわ。どなたの報告を信じて判断しているのか⋯⋯ジョーンズに報告している者の言葉が信じられる根拠はあるのかしら? まさか、『大人だから』などとは言わないわよね」
ニールの名前を出した頃から少し落ち着いた様子だったジョーンズの顔が真っ青になってきた。恐らく『報告書』を書いたのが誰だったのか、思い出したのだろう。
(今更思い出したなんて⋯⋯宰相がこの有様では、この国は本当に危ないのではないかしら)
「ジョーンズがブラッツの報告書を鵜呑みにしているのは知っています。ジョーンズにはそれ以外の情報源がないらしいと言う事も。ブラッツが家政婦長の権限を利用し、長年に渡り侯爵家の予算を着服していた事実を掴み、多数の証拠を押さえてあります。
証拠品の数々はジョーンズの甥で侯爵家現執事のジェイクの確認済みであり、彼に預け保管させております。ジェイクには別件で仕事の指示をしておりますが、わたくしの言葉を疑うのであれば早急に呼び戻しましょう」
「ジェイクには執事としての大切な仕事があるのです。私に一言もなく、勝手に仕事を頼まれたと仰るのですか!?」
「わたくしは今はまだビルワーツ侯爵家令嬢です。侯爵家にとって必要だと考え、使用人に仕事の指示を出すのに問題があるとは思えません。しかも、元執事にお伺いを立てろと言い募るなど、愚かにも程があります」
「しかし、ジェイクはまだ執事としての経験が浅「控えなさい! そのジェイクに執事という役職を与えたのはアメリア様です。そしてジョーンズはその決定に対し、異を唱えなかったとも聞いています。ジェイクを半人前だと蔑むのならば、彼を執事に任命したアメリア様を蔑む事になります」
ニールが何を言い出すのか想像もつかないが、彼の味方を潰しておくのは役に立つはず。
「ジョーンズはこの数年の間に、何度ニール様と会ったのですか? その時、わたくしの話が出ましたか? わたくしとは一面識もないのは間違いないと断言できます。もし会ったり話をしたと言うのなら、どんな話をしたのか言いなさい。その時わたくしがどんな服を着てどんな様子だったのか、エリオット様達の前で話しなさい」
エレーナの記憶にある限り、ジョーンズに会ったのは今日が2回目。アメリアは月に1回ないし2回帰って来ているようだったが、ジョーンズが帰って来たと聞いた事はない。
(ジョーンズは忙しくて宮殿に篭っているとジェイクが言っていたしね)
「わたくしは部屋と図書室以外に行った事はなく、ジョーンズがわたくしと会ったと言うならば、そのどちらかしかあり得ません」
「確かに⋯⋯お会いした事はなかったように思いますが」
「ブラッツの話はアメリア様やジョーンズにとっては、都合が良かったのでしょう? 侯爵家に産まれたのが、役に立たないどころか危険の火種になりかねない『女の子』でしたから。
我儘で癇癪持ちなら部屋に閉じ込めていても、誰にも文句は言われない。都合が悪くなれば『ブラッツを信じていた、騙された』と言える。そう考えて放置してきたからこそ、ブラッツが牢に収容されても、言葉を信じていると言い続けるしかない。
ニール様がわたくしと仲が良かったと言い続ければ誤魔化せるとでも? 父親が見守っていたのだから、放置していたわけではないと言えるから?
戦さを恐れて逃げ出した挙句、愛人と庶子を作りアメリア様に権利の全てを奪われたニール様が、愛人や庶子と過ごす時間を削ってわたくしに会いに来ると、本気で思っているのですか?
今もまだニール様を探しているのなら、愛人の家に行けば見つかるでしょう。1日の殆どをそこで過ごしておられると使用人達が話していましたから。
目の前に数人の子供を並べたら、ニール様にはどの子がエレーナか分からないと断言します。急いで似た年頃の子供を集めて来なさい。会ったことがないと言うわたくしの言葉が信用できなくとも、どれが我が子か分からないと言われれば信じるしかありませんから」
ループ前、ニールに初めて会った時に言われた言葉を覚えている。
『こいつがエレーナ? 貧相なガキだな』
(だから、ニール様はわたくしの顔が分からないはず。わたくしもループ前の記憶がなければ分からないもの)
「そこまで断言されるのですか。同じ敷地内に住んでおられるのに⋯⋯ニール様とお会いした事がないなんて。血の繋がった親子なのに⋯⋯」
「先日も言いましたが、アメリア様とも会ったことがありません。
使用人達がわざわざ教えに来てくれましたから、お帰りになられた時のご様子だけはいくつか知っています。とても楽しそうにしておられたとか、優しいお言葉をかけていただいたとか。アクセサリーや小物をいただいたとか。
その時必ず使用人達が言うのです⋯⋯私達にはこんなに優しい方なのにねえ。エレーナ様の事なんてカケラも気にしておられなかったもの。あのご様子では、エレーナ様なんて生きてても死んでても、気にされないんじゃないかしら。産まれてすぐから『ガッカリ』だなんて言われたんですものねえ。
屋敷に戻られたアメリア様のお声をお聞きした事は一度しかありません」
心を閉ざしておけば何も響かないから『わたしはいし』だと心の中で言い続けていた。
「一度だけアメリア様のお声をお聞きした時、はっきり仰っておられました⋯⋯わたくしが死んだら『やっと家族に会えたね、良かったね』って言って笑顔で見送ってと。それ以外にも、『わたくしの家族はお父様とお母様だけ』だとも仰っておられました。
お屋敷に戻って来られた時でさえ、一度も顔を見ようと思われなかったアメリア様や、愛人宅に入り浸るニール様が、わたくしに対してほんの少しでも関心があったなど誰も信じませんし、勿論わたくしも信じていません」
ジョーンズの顔が青から白に変わっていき、隣に座る男は目を見開いたまま、瞬きすら忘れている。
「お二人がそのような言動をしておられるのですから、使用人達はそれに相応しい対応をしてきたのです。わたくしの予算を全て使い込み、ありもしないわたくしの粗相で破損した物とやらの費用を請求し、ごくたまに野菜のかけらが浮かんでいるスープに虫やゴミを入れ、カビだらけのパンをご丁寧に踏み潰す。食事を運び忘れても『まだ生きてた』と言い、部屋から出たのを見られたら、怒鳴り声が響き渡り僅かな食事さえ届かなくなる。
家庭教師は平然と鞭を振い、血を流しても熱が出ていても誰もが見て見ないふりをする。クローゼットやドレッサーには高価なドレスや貴金属が並び、わたくしを嘲りながら使用人達が品定めに来る。わたくしが触って良いものは数枚の薄汚れたチュニックだけ。破れれば繕い、擦り切れたシーツを使って当て布にする。
週に一度の部屋の掃除さえ、死んでくれれば仕事が減るのにと言われ、食事を作り忘れた調理人は死んでも別に構わないと言っていたそうです。
使用人達をそのように増長させたのは、紛れもなく当主ご夫妻です。アメリア様とニール様の言動が原因でないと言うならば、誰にも罪はない。虐待ではなくビルワーツ侯爵家の流儀なだけならば、それを甘んじて受け入れようとしないわたくしに非があります」
(怖くても逃げられない時は、その時が来るまで考えないのが一番。来る可能性があるって知ってさえいれば大丈夫)
ループ前から馴染んでいるこの方法は、エレーナの心をいつも守ってくれた。
授業が終わるまでは王宮で会う予定の人達の事は考えない。予習や復習の時間を減らす為に授業に集中し、王宮でやるべき仕事だけを頭に思い浮かべる。
人を傷付けるのは、人にしかできない。
それに気付いてからは『誰の仕事か』ではなく『どの部署の仕事か』だけを考えるようになり、心はかなり楽になった。個人を思い浮かべない、仕事や役職に特定の誰かのイメージを載せない⋯⋯それができれば怖さは格段に減ってくれて、仕事に集中できる。そのお陰で、より多くの仕事を短時間でこなせるようになっていった。
会う可能性があると思っても、会うまでは心に浮かべずにいるのが一番いい。そして会った時に『ああ、やっぱりね』と思う心の準備だけをしておけばいい。
ループ前のエレーナの周りには、傷つける時しかこちらを向かない人ばかりだったから。
(モートンさんはエリオット様と同じくらいのご年齢だけど、ジョーンズの隣の男性はもっと若いみたい⋯⋯ここにいるのだから法律に詳しいとか? それなら法務大臣かその補佐官って感じね。侯爵家の元使用人ならどんな仕事を⋯⋯)
「ニールとエレーナが仲が良いねえ。誰が何を言ったのか詳しくは知らないが、エレーナには聞いたのか?」
ソファの背にもたれ腕を組んだエリオットは、目を眇めてジョーンズを見遣り口を歪めた。
「エレーナ様は⋯⋯先日エレーナ様からお話を伺いましたが、まだ幼く状況をご理解されていないと判断しました。ルーナ様からその時のお話を耳にされ、このような⋯⋯離籍などと言うお話をしておられるのだと承知しておりますが、僅か5歳の幼女の言葉を鵜呑みにするのは、些か問題があると言わざるを得ません」
「幼女の戯言ねえ。エレーナは随分と明確な説明をしていたと聞いているが?」
「先程ご挨拶をされた時にも、年齢にそぐわない立派なご様子でしたわ。見た目の年齢に誤魔化され、目が曇っているとしか思えないわね」
「大人ばかりの中で育っておられ、家庭教師も侯爵家令嬢に相応しい教育をしておりますので、大人びて見えるのでしょう。報告書にあるかなり不快な内容を踏まえて考えますと、エレーナ様の言葉通りに受け取るのは危険だと思われます」
「幼少期の貴族の令嬢が大人の中で暮らすなどごく普通の事ですわ。どなたの報告を信じて判断しているのか⋯⋯ジョーンズに報告している者の言葉が信じられる根拠はあるのかしら? まさか、『大人だから』などとは言わないわよね」
ニールの名前を出した頃から少し落ち着いた様子だったジョーンズの顔が真っ青になってきた。恐らく『報告書』を書いたのが誰だったのか、思い出したのだろう。
(今更思い出したなんて⋯⋯宰相がこの有様では、この国は本当に危ないのではないかしら)
「ジョーンズがブラッツの報告書を鵜呑みにしているのは知っています。ジョーンズにはそれ以外の情報源がないらしいと言う事も。ブラッツが家政婦長の権限を利用し、長年に渡り侯爵家の予算を着服していた事実を掴み、多数の証拠を押さえてあります。
証拠品の数々はジョーンズの甥で侯爵家現執事のジェイクの確認済みであり、彼に預け保管させております。ジェイクには別件で仕事の指示をしておりますが、わたくしの言葉を疑うのであれば早急に呼び戻しましょう」
「ジェイクには執事としての大切な仕事があるのです。私に一言もなく、勝手に仕事を頼まれたと仰るのですか!?」
「わたくしは今はまだビルワーツ侯爵家令嬢です。侯爵家にとって必要だと考え、使用人に仕事の指示を出すのに問題があるとは思えません。しかも、元執事にお伺いを立てろと言い募るなど、愚かにも程があります」
「しかし、ジェイクはまだ執事としての経験が浅「控えなさい! そのジェイクに執事という役職を与えたのはアメリア様です。そしてジョーンズはその決定に対し、異を唱えなかったとも聞いています。ジェイクを半人前だと蔑むのならば、彼を執事に任命したアメリア様を蔑む事になります」
ニールが何を言い出すのか想像もつかないが、彼の味方を潰しておくのは役に立つはず。
「ジョーンズはこの数年の間に、何度ニール様と会ったのですか? その時、わたくしの話が出ましたか? わたくしとは一面識もないのは間違いないと断言できます。もし会ったり話をしたと言うのなら、どんな話をしたのか言いなさい。その時わたくしがどんな服を着てどんな様子だったのか、エリオット様達の前で話しなさい」
エレーナの記憶にある限り、ジョーンズに会ったのは今日が2回目。アメリアは月に1回ないし2回帰って来ているようだったが、ジョーンズが帰って来たと聞いた事はない。
(ジョーンズは忙しくて宮殿に篭っているとジェイクが言っていたしね)
「わたくしは部屋と図書室以外に行った事はなく、ジョーンズがわたくしと会ったと言うならば、そのどちらかしかあり得ません」
「確かに⋯⋯お会いした事はなかったように思いますが」
「ブラッツの話はアメリア様やジョーンズにとっては、都合が良かったのでしょう? 侯爵家に産まれたのが、役に立たないどころか危険の火種になりかねない『女の子』でしたから。
我儘で癇癪持ちなら部屋に閉じ込めていても、誰にも文句は言われない。都合が悪くなれば『ブラッツを信じていた、騙された』と言える。そう考えて放置してきたからこそ、ブラッツが牢に収容されても、言葉を信じていると言い続けるしかない。
ニール様がわたくしと仲が良かったと言い続ければ誤魔化せるとでも? 父親が見守っていたのだから、放置していたわけではないと言えるから?
戦さを恐れて逃げ出した挙句、愛人と庶子を作りアメリア様に権利の全てを奪われたニール様が、愛人や庶子と過ごす時間を削ってわたくしに会いに来ると、本気で思っているのですか?
今もまだニール様を探しているのなら、愛人の家に行けば見つかるでしょう。1日の殆どをそこで過ごしておられると使用人達が話していましたから。
目の前に数人の子供を並べたら、ニール様にはどの子がエレーナか分からないと断言します。急いで似た年頃の子供を集めて来なさい。会ったことがないと言うわたくしの言葉が信用できなくとも、どれが我が子か分からないと言われれば信じるしかありませんから」
ループ前、ニールに初めて会った時に言われた言葉を覚えている。
『こいつがエレーナ? 貧相なガキだな』
(だから、ニール様はわたくしの顔が分からないはず。わたくしもループ前の記憶がなければ分からないもの)
「そこまで断言されるのですか。同じ敷地内に住んでおられるのに⋯⋯ニール様とお会いした事がないなんて。血の繋がった親子なのに⋯⋯」
「先日も言いましたが、アメリア様とも会ったことがありません。
使用人達がわざわざ教えに来てくれましたから、お帰りになられた時のご様子だけはいくつか知っています。とても楽しそうにしておられたとか、優しいお言葉をかけていただいたとか。アクセサリーや小物をいただいたとか。
その時必ず使用人達が言うのです⋯⋯私達にはこんなに優しい方なのにねえ。エレーナ様の事なんてカケラも気にしておられなかったもの。あのご様子では、エレーナ様なんて生きてても死んでても、気にされないんじゃないかしら。産まれてすぐから『ガッカリ』だなんて言われたんですものねえ。
屋敷に戻られたアメリア様のお声をお聞きした事は一度しかありません」
心を閉ざしておけば何も響かないから『わたしはいし』だと心の中で言い続けていた。
「一度だけアメリア様のお声をお聞きした時、はっきり仰っておられました⋯⋯わたくしが死んだら『やっと家族に会えたね、良かったね』って言って笑顔で見送ってと。それ以外にも、『わたくしの家族はお父様とお母様だけ』だとも仰っておられました。
お屋敷に戻って来られた時でさえ、一度も顔を見ようと思われなかったアメリア様や、愛人宅に入り浸るニール様が、わたくしに対してほんの少しでも関心があったなど誰も信じませんし、勿論わたくしも信じていません」
ジョーンズの顔が青から白に変わっていき、隣に座る男は目を見開いたまま、瞬きすら忘れている。
「お二人がそのような言動をしておられるのですから、使用人達はそれに相応しい対応をしてきたのです。わたくしの予算を全て使い込み、ありもしないわたくしの粗相で破損した物とやらの費用を請求し、ごくたまに野菜のかけらが浮かんでいるスープに虫やゴミを入れ、カビだらけのパンをご丁寧に踏み潰す。食事を運び忘れても『まだ生きてた』と言い、部屋から出たのを見られたら、怒鳴り声が響き渡り僅かな食事さえ届かなくなる。
家庭教師は平然と鞭を振い、血を流しても熱が出ていても誰もが見て見ないふりをする。クローゼットやドレッサーには高価なドレスや貴金属が並び、わたくしを嘲りながら使用人達が品定めに来る。わたくしが触って良いものは数枚の薄汚れたチュニックだけ。破れれば繕い、擦り切れたシーツを使って当て布にする。
週に一度の部屋の掃除さえ、死んでくれれば仕事が減るのにと言われ、食事を作り忘れた調理人は死んでも別に構わないと言っていたそうです。
使用人達をそのように増長させたのは、紛れもなく当主ご夫妻です。アメリア様とニール様の言動が原因でないと言うならば、誰にも罪はない。虐待ではなくビルワーツ侯爵家の流儀なだけならば、それを甘んじて受け入れようとしないわたくしに非があります」
9
お気に入りに追加
1,087
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」
「私が愛しているのは君だけだ……」
「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」
背後には幼馴染……どうして???
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?
ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。
しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。
約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。
未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。
運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。
「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」
ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。
「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」
彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。
しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる