58 / 135
第四章
20.5歳の身体には徹夜は無理でした
しおりを挟む
「ヤバそうな国の名前が出てたから、販売先は難しそうだよね。
正直にいうとさ、アタシとしてはどこで何を買おうがその後奴らがそれをどうしようが、どうでもいいって気持ちもあるんだよね。
エレーナに対する予算は奴らが好き勝手してて、本人は贅沢どころか物は持ってないし、癇癪なんて起こしてないから物を壊してない⋯⋯これが証明できればいいと思ってる。
で、エレーナに対して申し訳ない気持ちがあるなら慰謝料払うとか財産分与するとかしろって。後のことはエレーナには関係ないからさ、エレーナを巻き込まず侯爵家で解決すりゃいいじゃんって」
ルーナの正論にジェイクが小さく頷いた。使用人の不正を解明するのは屋敷の主人や筆頭使用人の仕事であり、たった一人の後継者だとしても5歳の娘を巻き込むのは間違っている。
問題は侯爵家には今、最終判断を下す権利を持つ者がいない事。当主であるアメリアは意識不明で、夫のニールは権利を剥奪されている上に横領の主犯格の可能性大。
残るエレーナは(見た目年齢と周りの認識は)幼児に分類される未成年。
「管財人が指定されていないか確認する必要があるわ」
ジェイクが使用人解雇などの権限を持っていると言っても、司法への連絡を含めて最終決定するには問題が大きすぎる。
「ある程度状況が掴めたら、使用人達に質問書を渡して、雇用期間中に自身が行った不正や罪に問われる可能性のある行為を書き出してもらうの。
弁護士立ち会いでジェイクに面接をしてもらい、その内容に虚偽や漏れがないと宣誓させてサインをもらう。その後は退職も継続勤務も自由だけど、常に居場所を明らかにし、侯爵家・弁護士・司法機関から呼び出しがあった場合、速やかに呼び出しに応じる。拒否した場合は罪に問われる。
ジェイクには信用できる上級使用人を見つけてもらわないといけないけど、時間稼ぎできるんじゃないかしら」
以前侯爵家に勤めていた使用人は期待できないが、彼らの伝手を頼ることはできるかもしれない。
(1通目の遺言状には、元執事のジョーンズ・ハーヴィーと弁護士のピーター・グライムズを管財人及び遺言執行者に指定しておられたわ。ジェイクから声をかければピーター・グライムズ弁護士は手伝ってくれるかも。ジョーンズさんはアメリア様の事があるから、今は無理だと思うけど⋯⋯)
アメリアの落馬事故について犯罪の共犯扱いされたばかりの今、この名前を口にするのはかなり勇気がいる。
「多分だけど⋯⋯アメリア様が信頼している弁護士はいると思うの。侯爵家の問題をアメリア様が信頼している弁護士に相談するのは、問題ないんじゃないかしら」
「では、ピーター・グライムズ弁護士に相談してみます。彼には領地の問題で何度も助けてもらってますし、アメリア様とジョーンズから紹介された弁護士ですから」
(意外と簡単に名前が出てきた⋯⋯)
エレーナはほっと胸を撫で下ろした途端、一気に身体がだるくなった気がした。
「えーっと、今度は私の番ね。販売方法なんだけど、荷札から推測すると⋯⋯ミセス・ブラッツ達は荷物の中に別の荷札を入れて、アルムヘイルの個人か会社に商品を一旦配送してる。
荷物を受け取った人は、中に入っている荷札を使って荷物を送るの。そうする事でアメリア様達が取引を禁止している国へ荷物を堂々と送れるわ」
「でも、アルムヘイルは⋯⋯ああ、そうか! 皆さんアルムヘイルに実家がありますね」
「ええその通りよ、実家や友人との交流を禁止するのは流石にできないから⋯⋯、
『共通の趣味を持っている友人と荷物のやり取りをしてる』
『向こうには中々帰れないから、特産品を送ってあげてる』
とかって言われたら、誰も疑わないわ。
ただ、侯爵家の過去を知っているニール様が、何故取引先の一つにセルビアスを選ばれたのかが気になるの⋯⋯。侯爵家の前当主夫妻が⋯⋯ほら、えっと⋯⋯亡くなられたあの騒動に関わっていたと⋯⋯ご存知なはずなのにね⋯⋯うん」
疲れすぎて頭が回らないのかもしれない。あくびを堪えながら一気に説明したエレーナの身体がゆらゆらと揺れはじめた。
「うわぁ、気付かなくて申し訳ありません。まだ5歳でいらっしゃるのに、徹夜は難しいですよね」
「ほら、ベッドに行かなくちゃ。エレーナと話してるとつい子供だって事を忘れちゃうんだよね」
ジェイクに抱えられてベッドに運ばれた時には、エレーナの意識は夢の中を漂っていた。
広い図書館の中は薄暗く、大好きな古い本の匂いがエレーナを包み込んだ。
いつもよりひどく痛む背中に眉を顰めながら、図書室の左奥に向かって歩いて行くと、見知った顔の女子生徒の集団が歩いてくるのが見えた。慌てて道の端に避けて少し頭を下げ、ゆっくりと細く息を吐いた。
『チッ! 邪魔よ』
すれ違いざまエレーナの二の腕に鉄扇を叩きつけた後、友人達と顔を見合わせて大笑いをして図書室を出ていった。
静かになった図書室の中に、嘲笑と嫌悪の気配を感じるのはいつもの事。並んでいる各国の歴史書から目的の本を見つけ、一番隅の席に座った。他の本より少し傷んだその本はエレーナのお気に入りだが、他の人は痛めつけるため以外で手に取ることはない。
本の表紙に描かれているのは、この国で最も嫌われている国にあるビルワーツ侯爵家の紋章。
(ふう、疲れた⋯⋯)
この3日ほとんど寝ていないが、今日は運の良いことにエドワードが公務と称して学園を休んでいた。
(授業のノートは写したし、エドワード様の課題も生徒会の仕事も終わらせたし⋯⋯自習の時間があって助かった)
休み時間の全てを使ってこの後、王宮で行う政務の下準備も終わらせている。
(15分ある⋯⋯王宮に行く前に⋯⋯)
本を開くと見慣れた絵姿が描かれている。落書きをされて元の顔もドレスも分からなくなっているが、エレーナの頭の中には残っている。
プラチナブロンドで鮮やかな青い目の美しい女性がティアラを被り、金で縁取られた白いローブを身につけて堂々と立っている。
(お母様⋯⋯)
エレーナが5歳の時に亡くなった、一度も会った事がない母親は、絵姿の中でもエレーナの頭の中でも動かないが、確かにそこにいる。
(お母様が生きておられたら、わたくしは違う人生になっていたかしら? いつかはわたくしのことを迎えにきて下さったかしら。お声をかけてくださる日は来たのかしら⋯⋯)
自分でもあり得ないと分かっているが、ごくたまに夢を見たくなる⋯⋯。
(女でも良いよって、仕方ないものねって許してくださったかな⋯⋯)
「夢⋯⋯ループ前は⋯⋯そうか、ループ前のエレーナは『お母様に会いたかった』って思ってたわ」
夢に出てきた本が母を知る唯一の手掛かりで、ほんのわずかな時間を見つけては、何度も何度も読み返した。破られたりいたずら書きをされたりで、卒業する頃には読める箇所は少なくなっていったが。
ループ前のエレーナにあったのは、逃げ場のない辛い現実と永遠に終わらない地獄のような未来だけ。『母が生きていたら違っていたかも』と言う台詞は、疲れ果てた心に幻想を生み出した後、諦念を呼び起こす魔法の呪文だった。
空が朝焼けに染まり少しずつ明るくなっていき、薄いカーテンを通して部屋が明るくなってきた。
(起きなくちゃ。昨日の夜⋯⋯どうやってベッドに入ったのか覚えてないなんて⋯⋯きっとルーナ様達に迷惑かけたわね)
ルーナが着替えさせてくれたのか、昨日着ていたデイドレスではなく見慣れたチュニックに変わっていた。
いつものように髪を手櫛で梳かしてリボンで結び、ベッドによじ登ってシーツや上掛けを整えた。
今日の予定を組み立てながらカーテンを開けて、ドレッサー代わりのカクテルキャビネットの裏に手を突っ込んで、2冊のノートを取り出した。
(今日の夢の内容は書きたくない⋯⋯それよりもこのノートを隠す方法を見つけなくちゃ。できれば何が入っているか人から見えなくて、いつでも持っていられる方法があれば⋯⋯)
いつここを出ることになるか分からない。着の身着のままでもルーナは助けてくれると言うが、記憶が薄れないうちにと書き留めたこのノートは、ループ前にエレーナがいたと言う唯一の証。高価な宝石や金貨の方が将来の糧になると知っていても、エレーナにとってはこのノートの方が価値がある。
(歴史からも人の記憶からも消えた時間だけど、あの時のエレーナは確かに生きていたんだもの)
ノートを手に『《収納》方法かぁ⋯⋯』と考えていると⋯⋯。
「え? ええっ! ノートが! 消えた⋯⋯ノ、ノートはどこ?」
手のひらを上に向けて『ノートが』と呟くとポンっと音がしたかの如く、手のひらの上にノートが現れた。
「きゃあぁぁ! な、な、なに⋯⋯ノートが消えて、出てきた⋯⋯ま、魔法?」
バサリと音を立てて落ちたノートを恐々と見つめながら、エレーナは顔を引き攣らせた。
エレーナの曽祖父母は魔法が使えたと言うが、祖父母も母親も使えなかったと聞いている。
(隔世遺伝とか? まさかね⋯⋯でも確かに、消えて現れたの)
床に落ちたノートを見つめて首を傾げ⋯⋯。
(わたくしがループしたのは間違いない。となると、他にも不思議があってもおかしくないかも⋯⋯もう一度試してみれば⋯⋯)
ノートを拾い上げてじっと見つめたが⋯⋯何も起きない。
「お片付け? 収納⋯⋯ポン⋯⋯うわぁ、消えた⋯⋯ノート⋯⋯ポン⋯⋯本当にできたわ。どこに入ってるのか分からないのが不安だけど、やっぱり魔法よね」
その後、ルーナが来るまで色々な物を入れたり出したり試してみた結果、触れている物ならなんでも入った。
(ベッドまで入るなんて⋯⋯魔法って便利だわ。この魔法でお仕事を見つけられるかしら)
正直にいうとさ、アタシとしてはどこで何を買おうがその後奴らがそれをどうしようが、どうでもいいって気持ちもあるんだよね。
エレーナに対する予算は奴らが好き勝手してて、本人は贅沢どころか物は持ってないし、癇癪なんて起こしてないから物を壊してない⋯⋯これが証明できればいいと思ってる。
で、エレーナに対して申し訳ない気持ちがあるなら慰謝料払うとか財産分与するとかしろって。後のことはエレーナには関係ないからさ、エレーナを巻き込まず侯爵家で解決すりゃいいじゃんって」
ルーナの正論にジェイクが小さく頷いた。使用人の不正を解明するのは屋敷の主人や筆頭使用人の仕事であり、たった一人の後継者だとしても5歳の娘を巻き込むのは間違っている。
問題は侯爵家には今、最終判断を下す権利を持つ者がいない事。当主であるアメリアは意識不明で、夫のニールは権利を剥奪されている上に横領の主犯格の可能性大。
残るエレーナは(見た目年齢と周りの認識は)幼児に分類される未成年。
「管財人が指定されていないか確認する必要があるわ」
ジェイクが使用人解雇などの権限を持っていると言っても、司法への連絡を含めて最終決定するには問題が大きすぎる。
「ある程度状況が掴めたら、使用人達に質問書を渡して、雇用期間中に自身が行った不正や罪に問われる可能性のある行為を書き出してもらうの。
弁護士立ち会いでジェイクに面接をしてもらい、その内容に虚偽や漏れがないと宣誓させてサインをもらう。その後は退職も継続勤務も自由だけど、常に居場所を明らかにし、侯爵家・弁護士・司法機関から呼び出しがあった場合、速やかに呼び出しに応じる。拒否した場合は罪に問われる。
ジェイクには信用できる上級使用人を見つけてもらわないといけないけど、時間稼ぎできるんじゃないかしら」
以前侯爵家に勤めていた使用人は期待できないが、彼らの伝手を頼ることはできるかもしれない。
(1通目の遺言状には、元執事のジョーンズ・ハーヴィーと弁護士のピーター・グライムズを管財人及び遺言執行者に指定しておられたわ。ジェイクから声をかければピーター・グライムズ弁護士は手伝ってくれるかも。ジョーンズさんはアメリア様の事があるから、今は無理だと思うけど⋯⋯)
アメリアの落馬事故について犯罪の共犯扱いされたばかりの今、この名前を口にするのはかなり勇気がいる。
「多分だけど⋯⋯アメリア様が信頼している弁護士はいると思うの。侯爵家の問題をアメリア様が信頼している弁護士に相談するのは、問題ないんじゃないかしら」
「では、ピーター・グライムズ弁護士に相談してみます。彼には領地の問題で何度も助けてもらってますし、アメリア様とジョーンズから紹介された弁護士ですから」
(意外と簡単に名前が出てきた⋯⋯)
エレーナはほっと胸を撫で下ろした途端、一気に身体がだるくなった気がした。
「えーっと、今度は私の番ね。販売方法なんだけど、荷札から推測すると⋯⋯ミセス・ブラッツ達は荷物の中に別の荷札を入れて、アルムヘイルの個人か会社に商品を一旦配送してる。
荷物を受け取った人は、中に入っている荷札を使って荷物を送るの。そうする事でアメリア様達が取引を禁止している国へ荷物を堂々と送れるわ」
「でも、アルムヘイルは⋯⋯ああ、そうか! 皆さんアルムヘイルに実家がありますね」
「ええその通りよ、実家や友人との交流を禁止するのは流石にできないから⋯⋯、
『共通の趣味を持っている友人と荷物のやり取りをしてる』
『向こうには中々帰れないから、特産品を送ってあげてる』
とかって言われたら、誰も疑わないわ。
ただ、侯爵家の過去を知っているニール様が、何故取引先の一つにセルビアスを選ばれたのかが気になるの⋯⋯。侯爵家の前当主夫妻が⋯⋯ほら、えっと⋯⋯亡くなられたあの騒動に関わっていたと⋯⋯ご存知なはずなのにね⋯⋯うん」
疲れすぎて頭が回らないのかもしれない。あくびを堪えながら一気に説明したエレーナの身体がゆらゆらと揺れはじめた。
「うわぁ、気付かなくて申し訳ありません。まだ5歳でいらっしゃるのに、徹夜は難しいですよね」
「ほら、ベッドに行かなくちゃ。エレーナと話してるとつい子供だって事を忘れちゃうんだよね」
ジェイクに抱えられてベッドに運ばれた時には、エレーナの意識は夢の中を漂っていた。
広い図書館の中は薄暗く、大好きな古い本の匂いがエレーナを包み込んだ。
いつもよりひどく痛む背中に眉を顰めながら、図書室の左奥に向かって歩いて行くと、見知った顔の女子生徒の集団が歩いてくるのが見えた。慌てて道の端に避けて少し頭を下げ、ゆっくりと細く息を吐いた。
『チッ! 邪魔よ』
すれ違いざまエレーナの二の腕に鉄扇を叩きつけた後、友人達と顔を見合わせて大笑いをして図書室を出ていった。
静かになった図書室の中に、嘲笑と嫌悪の気配を感じるのはいつもの事。並んでいる各国の歴史書から目的の本を見つけ、一番隅の席に座った。他の本より少し傷んだその本はエレーナのお気に入りだが、他の人は痛めつけるため以外で手に取ることはない。
本の表紙に描かれているのは、この国で最も嫌われている国にあるビルワーツ侯爵家の紋章。
(ふう、疲れた⋯⋯)
この3日ほとんど寝ていないが、今日は運の良いことにエドワードが公務と称して学園を休んでいた。
(授業のノートは写したし、エドワード様の課題も生徒会の仕事も終わらせたし⋯⋯自習の時間があって助かった)
休み時間の全てを使ってこの後、王宮で行う政務の下準備も終わらせている。
(15分ある⋯⋯王宮に行く前に⋯⋯)
本を開くと見慣れた絵姿が描かれている。落書きをされて元の顔もドレスも分からなくなっているが、エレーナの頭の中には残っている。
プラチナブロンドで鮮やかな青い目の美しい女性がティアラを被り、金で縁取られた白いローブを身につけて堂々と立っている。
(お母様⋯⋯)
エレーナが5歳の時に亡くなった、一度も会った事がない母親は、絵姿の中でもエレーナの頭の中でも動かないが、確かにそこにいる。
(お母様が生きておられたら、わたくしは違う人生になっていたかしら? いつかはわたくしのことを迎えにきて下さったかしら。お声をかけてくださる日は来たのかしら⋯⋯)
自分でもあり得ないと分かっているが、ごくたまに夢を見たくなる⋯⋯。
(女でも良いよって、仕方ないものねって許してくださったかな⋯⋯)
「夢⋯⋯ループ前は⋯⋯そうか、ループ前のエレーナは『お母様に会いたかった』って思ってたわ」
夢に出てきた本が母を知る唯一の手掛かりで、ほんのわずかな時間を見つけては、何度も何度も読み返した。破られたりいたずら書きをされたりで、卒業する頃には読める箇所は少なくなっていったが。
ループ前のエレーナにあったのは、逃げ場のない辛い現実と永遠に終わらない地獄のような未来だけ。『母が生きていたら違っていたかも』と言う台詞は、疲れ果てた心に幻想を生み出した後、諦念を呼び起こす魔法の呪文だった。
空が朝焼けに染まり少しずつ明るくなっていき、薄いカーテンを通して部屋が明るくなってきた。
(起きなくちゃ。昨日の夜⋯⋯どうやってベッドに入ったのか覚えてないなんて⋯⋯きっとルーナ様達に迷惑かけたわね)
ルーナが着替えさせてくれたのか、昨日着ていたデイドレスではなく見慣れたチュニックに変わっていた。
いつものように髪を手櫛で梳かしてリボンで結び、ベッドによじ登ってシーツや上掛けを整えた。
今日の予定を組み立てながらカーテンを開けて、ドレッサー代わりのカクテルキャビネットの裏に手を突っ込んで、2冊のノートを取り出した。
(今日の夢の内容は書きたくない⋯⋯それよりもこのノートを隠す方法を見つけなくちゃ。できれば何が入っているか人から見えなくて、いつでも持っていられる方法があれば⋯⋯)
いつここを出ることになるか分からない。着の身着のままでもルーナは助けてくれると言うが、記憶が薄れないうちにと書き留めたこのノートは、ループ前にエレーナがいたと言う唯一の証。高価な宝石や金貨の方が将来の糧になると知っていても、エレーナにとってはこのノートの方が価値がある。
(歴史からも人の記憶からも消えた時間だけど、あの時のエレーナは確かに生きていたんだもの)
ノートを手に『《収納》方法かぁ⋯⋯』と考えていると⋯⋯。
「え? ええっ! ノートが! 消えた⋯⋯ノ、ノートはどこ?」
手のひらを上に向けて『ノートが』と呟くとポンっと音がしたかの如く、手のひらの上にノートが現れた。
「きゃあぁぁ! な、な、なに⋯⋯ノートが消えて、出てきた⋯⋯ま、魔法?」
バサリと音を立てて落ちたノートを恐々と見つめながら、エレーナは顔を引き攣らせた。
エレーナの曽祖父母は魔法が使えたと言うが、祖父母も母親も使えなかったと聞いている。
(隔世遺伝とか? まさかね⋯⋯でも確かに、消えて現れたの)
床に落ちたノートを見つめて首を傾げ⋯⋯。
(わたくしがループしたのは間違いない。となると、他にも不思議があってもおかしくないかも⋯⋯もう一度試してみれば⋯⋯)
ノートを拾い上げてじっと見つめたが⋯⋯何も起きない。
「お片付け? 収納⋯⋯ポン⋯⋯うわぁ、消えた⋯⋯ノート⋯⋯ポン⋯⋯本当にできたわ。どこに入ってるのか分からないのが不安だけど、やっぱり魔法よね」
その後、ルーナが来るまで色々な物を入れたり出したり試してみた結果、触れている物ならなんでも入った。
(ベッドまで入るなんて⋯⋯魔法って便利だわ。この魔法でお仕事を見つけられるかしら)
11
お気に入りに追加
1,087
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」
「私が愛しているのは君だけだ……」
「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」
背後には幼馴染……どうして???
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?
ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。
しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。
約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。
未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。
運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。
「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」
ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。
「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」
彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。
しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる