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第四章

15.喋る喋るよ、ルーナは喋る

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「エレーナちゃんってさ、腹黒ジジイジョーンズの大事な大事な大事な、超絶大事なアメリア様の命の恩人じゃなかったっけ?
馬具の腹帯だっけ、あれに傷をつけられてたのを腹黒ジジイジョーンズ達が見つけたのってエレーナちゃんの話があったからっしょ?
つまり、それを見つけれたのってエレーナちゃんのお陰だよね?
その割に随分と酷いことばっか言ってたよね~。あれ、完全に脅しだね。
教えてくれてありがとうとか言ったの聞いてないし、人の話を真面に聞かずに文句言ってるし。
『アメリア様が猫』って騒いだ時は笑いそうになったもん。これが宰相で大丈夫か、この国ってヤバくないかって。
エレーナちゃんを牢に入れるなら、アタシが腹黒ジジイジョーンズを訴えるからね。ここであんたが言った事とやった事をぜーんぶメモっといたし、記憶力に自信あるし?
各国に有名な侯爵家で幼児虐待ってだけでも大騒ぎだけどさ、親とか使用人だけじゃなくて国の高級官僚も威圧と恐喝だもん。ヤバいじゃ済まないよね~。
オーレリアとの関係もどうなることやら⋯⋯あっ、アタシ、オーレリアの現国王の娘だから、ちゃーんとチクるからね。父ちゃんもアタシと一緒で子供好きだからな~、どうなるのかな~。
ぶっちゃけ、この国の安定ってオーレリア頼りなとこあんじゃん。なのに『俺ら頑張ってんだから、ガキのことなんざしらねえ』『ストレスはガキで解消するぜ~』とかやってるって、どこ? どっち方向に向けて頑張ってんの?
あー、アメリア様の口癖、思い出したかも。『国と国民を守るために全てを賭ける』だっけ? 娘が国民の一人に入ってない人だとは超ビックリ~。
あんたら絶対おかしいって。んで、何がおかしいか分かってないのがヤバすぎる。アメリア様がご両親をあんな形で殺されたのは可哀想だけどさ、そのせいでアメリア様も周りのあんたらもおかしくなってる。
早く気付かないと修正できなくなるからね。まあ、既に手遅れかもって気もするけどさ。
エレーナちゃん、アタシと一緒にオーレリアに行かない? あっちはここよりちょびっとマシだよ?
あっちにもアメリア様大好きさんはいるけど、アメリア教は広がってないからね~。あっ、アタシは1年前から臨時でここに来てただけだからさ、教祖様アメリアに染まってないの。心配しないでね~」


「ルーナ殿、勝手な事を申されては困ります。エレーナ様はアメリア様の大切な一人娘で、侯爵家の後継者でございます。勝手にオーレリアに連れて行くなど許される事ではありません。
それに、今回の事をオーレリア国王に報告するなど、守秘義務違反にあたります!」

 言いたい事を言い切りテーブルの上からノートや羽ペンを片付けていたルーナは、ジョーンズの言葉を聞きながら、林檎を一切れ口に放り込んだ。

「うーん、輸送の問題かなあ、せっかくの林檎が⋯⋯モグモグ⋯⋯やっぱり時間停止の魔法じゃないとかな。
あっ、事故のことなら報告しないから大丈夫! んでも、幼児虐待は守秘義務関係ないからさ。エレーナちゃんを抱えた時、血の匂いがしたんだよね~。この年で月のものが来てるはずないしさ、傷から出血してるのは間違いないじゃん。
デイドレスの下に麻布巻いてるっしょ? 手触りでバレバレだったからね」

「ま、まさかそんな! いえ、全く気付いておりませんでした。今後はこのようなことがないよう、細心の注意を払うとお約束致します」

 ジョーンズが慌てているのは、エレーナへの虐待が事実だと認定され、オーレリアに知られてしまう事。

(子供を放置していたと勘違いされれば、オーレリアとの協力体制が⋯⋯)

「つーまーりー! 保護対象なの、それも緊急を要するやつ。アタシには医師として児童を保護する権利があるからね。エレーナちゃんは、保護者に監護させることが不適当であると認める児童ってやつだから、連れて帰る。
だって、うちの父ちゃんとアタシはエレーナちゃんの親戚だから、保護者になる資格あるからね!」

「日々の生活に不便がないよう大勢の優秀な使用人を雇っておりましたし、怪我は⋯⋯恐らく特定の誰かがやっていたのではないかと。それさえ解決すれば、何の問題もなく暮らしていただけるようになりますので、ご心配には及びません」

(アメリア様がお目覚めになられなければ、エレーナ様がレイモンド様達の血を引く唯一のお方になる! アメリア様だって、別の子供を作る時間がないのに、きっと寂しがられるはず⋯⋯。
他国へ行かせるなど絶対に阻止しなければ!)

「えー、この国には安心して任せられる人なんて、いなさそうじゃん。アメリア様とニール様はネグレクトの主犯格で、他にエレーナちゃんと関わってる奴らは使用人だけっしょ? 腹黒ジジイジョーンズみたいに、この子の母ちゃんは俺達の大事大事だから、この子もこれからは大事にするから~とかって嘘ついても、他人は保護者になる資格ないからね~」

 テーブルに肘をついて顎を乗せたルーナは凍りつくような目でジョーンズを見ながら、ジョーンズの抵抗や願いをことごとく却下していった。

「嘘ではなく、アメリア様も私達もエレーナ様は大切な方だと思っております!」

「そっ? んじゃ、アメリア様かニール様がそれを証明できたら保護者に返り咲けるかもね。今んとこ可能性はかけらもないけど。だって、今の状況で『大切にしてるのに!』って力説してたじゃん。もう、完全ギルティだよ。信用ゼロ! 期待値マイナス!」

「エ、エレーナ様! あなた様からも何とか仰って下さい! このままではこの国を出ていかなくてはならないのですよ!? お母様とも引き離され、寄辺よるべない身の上となられても宜しいのですか!?」

「⋯⋯」

 口を利かないと言ったエレーナはジョーンズに顔さえ向けず、物思いに耽っていた。

(この場合どうすればいいのかしら? 屋敷に戻ってもロクなことにならないのは分かってるけど⋯⋯他国で知らない人に囲まれてやっていけるかしら。でも、これはチャンスかもしれないし)

 このまま留まればジェイクと新しい家政婦長が取り仕切る屋敷とあの使用人達。家政婦長が変わったくらいで真面な暮らしになるだろうか。

 死んでも構わないと言っていた料理長や、顔を見るたびに『嫌われてるくせに』と悪態をつき、幽霊扱いしてきたメイド達。頑張ると言っていたが頼りないジェイク。

(うん、無理! 屋敷に帰ればループ前のように、ニール様が母屋にやってこられるかもしれない。後3年先なら、どこかの下働きになれる可能性があるもの)

 貧しい平民の子供は口減しを兼ねて、8歳から職人や商会の下働きに出る者もいるので、ルーナが保証人になってくれるなら、孤児院や女子修道院以外の道が開ける。



「さてと、この後借りてる部屋に戻って荷物を片付けたらすぐに出発できるんだけど、エレーナちゃんはどうする?」

「ルーナ様、わたくしは廃籍を待ち、何も持たない一平民となる予定でございますので、年齢から考え孤児院か女子修道院を探す予定でおりました。ですが、この国で暮らすのは些か不安も多く、オーレリアで探す間だけでも、お世話になることは可能でしょうか?」

「うん、可能可能! 全然問題ないからね。んで、その間に色々考えれば良いんだからね。それにさ、うちの子になれば良いじゃん。今なら廃籍待つより簡単に手続きできるしね」

 保護者が悪質な虐待で監督不可となれば、親戚の家に養子になるのは簡単に認められる。公国の評判にも関わるので、アメリアが表立って抗議する事はあり得ないだろう。

(籍を抜くだけでなく他家の養子になれば、ニール様に利用される未来がなくなる? そうなればどれほど嬉しいか⋯⋯落とし穴が待ってるのかもしれないけど、この国ともビルワーツ侯爵家ともアルムヘイルとも縁が切れるかも)

「ビルワーツ侯爵家に関わる全てと縁が切れるのであれば、これほど嬉しい事はございません」

 ビルワーツの鉱山を狙い多くの者が悪事を企み、多くの血が流れてきた。

 各国から狙われ続けているビルワーツ侯爵家の資産を欲しがらないのが、たった一人の後継者だと言うのはかなり皮肉な話だろう。

「エレーナ様! お待ち下さい、私の話をお聞きください。一時の気の迷いで事を進めてはなりません。ビルワーツの資産がどれほど価値があるか! エレーナ様は今現在、その全てを受け継ぐと決まっておられるのです!
今後についてはジェイクもおりますし、新しい家政婦長もすぐに屋「うっさいなあ、ジジイは黙ってろ! 荷物は⋯⋯なんか持ってきたいものある? 今の王様って⋯⋯うちの父ちゃんね、あのヒゲ爺さんはエレーナちゃんの親戚だからさ。
必要な物はうちの父ちゃんに買わせればいいから。多分間違いなく、大喜びで買いまくると思う」」

 エレーナを説得しようとしているジョーンズの言葉をぶった斬り、ルーナがどんどん話を進めていく。

 あっという間に決まったエレーナの引越しに茫然自失だったジェイクが『廃籍・養子』と聞いて慌てはじめた。

「エレーナ様、俺はエレーナ様に忠誠を誓いました! 屋敷で二度と辛い思いをさせないと約束致します。どうかこのまま俺と一緒に屋敷にお戻り下さい! お願いします」

 エレーナの前に回り込み膝をついて目線を合わせたジェイクが、エレーナの両手を掴んだ。

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